最高の純愛小説に…
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きのう、文庫本の書棚を整理していたら、懐かしい懐かしい本に再会できた。藤本成吉の『若き日の悩み』という小説だ。 藤本成吉といっても、今では知る人もほとんどいないだろうが、私がこの本を買った頃にもあまりポピュラーではなかった。それでも買う気になったのは、若き日の私にはその題名から恋愛小説への期待があったからなのだろう。 その期待に違わず、恋愛における切なさや苦しさがこれ以上はないと思われるほどに深く、リアルに描かれていた。作者の筆の運びはまだ熟達を経ていない、時に未熟さをも感じさせる20歳の頃の作だが、それだけに純愛というものの清らかさ、初々しさ、そして一途さがそのまま胸に迫ってきた。 この純愛の向かうところがどうなったのか、私はもう何も思い出せないが、作者自身とおぼしき主人公が、海岸近くのホテルの一室で独り恋人のことを思うシーンだけは今も鮮明に残っている。暗闇のなかに寄せては返す波の音が胸をかきむしるように聴こえてくるのだが、その波の音のように、主人公の胸の内が… 今はもう、このような純愛小説を書ける作家はいないだろうし、この小説が再刊されることもないだろう。それだけに、この作品にめぐりあえた自分の青春期が、比類ない幸運であったと思い返している。
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