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初嵐―3

父にごちそうさまを言って、楓は二階の自室に戻り、
ベッドにドサッと身体を投げ出した。
 
読みかけの漫画を最後まで読み終え、
今度は腹ばいになってゲーム機を手に取る。
オンラインで繋がった、見知らぬ仲間と一緒にモンスターを狩り、
皮をはいだり繋げたりをひたすら繰り返す。
 
「いて、いててて、」
 
身じろいだ時に腰がひどく痛んで、
1時間近くも同じ姿勢でいたことに気がついた。
楓は戦線から脱すると、ゲーム機のスイッチを切って枕もとにポンと放り、
ぎくしゃく歩いて机に向かった。
 
高三の夏休みは、授業の課題だけでなく、
補講の課題まで追加されていてなかなかに忙しい。
楓は英語の長文に取り掛かってみるものの、
身が入らない様子ですぐに本を閉じ、再びベッドに身を横たえた。
頭の下で組んだ手を枕にし、天井を見つめる。
自然と溜息がこぼれた。
 
 
一年生の時からたびたび進路調査があり、
この時期には皆とっくに自分の進む道を決めているのに、
実は楓は進学するか家業に入るかいまだ迷っていた。
 
 
楓は生まれ育ったこの家が大好きで、
手入れの為に入る大工の作業を、子どもの頃から見るのが楽しみだった。
古民家を直せる大工は、今では数も少ない。
年老いた気難しげな職人は、
それでも目を輝かせながらいろいろ問いかける少年に、
和らげた表情でいちいち答えてやっていたものだった。
 
 
そうやっていつしか古い建築物に興味を持った楓は、
高校では郷土歴史部というなにやら年寄り臭い部活に入ったのだが、
民俗文化や歴史の背景には人々の生き生きとした生活が思い浮かばれて、
歴史を紐解くようなロマンを感じていた。
 
この家や家業を継ぐことは不満ではないが、
これらのことを大学でもっと専門的に学んだり、
国内海外のいろんな建築物を見て回ってみたいとか、
その先にはもっと違った世界があるのではないかと、
青年らしい夢を見る自分もいるのは確かなのだ。
 
 
それに加えて、自分にはまだ誰にも言っていない秘密がある。
いや、言えないというべきか。
親友の健一にも知られたくない秘密が・・・。
 
 
つづく
 
 

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初嵐―2

楓の家は、小さいながらも旅館を経営している。
代々伝わる古民家を活かし、素朴で温かなもてなしをすると評判だ。
木の温もりを感じさせる部屋と地元の新鮮な食材を使った料理で、
癒しの里の旅館と言われて人気がある。
季節を問わず客が出入りし、リピーターも多い。
 
その食材の野菜が、健一の家が作ったものだ。
省農薬有機栽培の手をかけた野菜は素材自体にうまみがあって、
楓の父の調理がそれを際立たせている。
父親同士も幼馴染の親友で、
自分たちでも自らをベストコンビと呼んでいる。
そして普段の話しぶりでは、
自分たちの息子も同じようになると思っているようだ。
 
 
 
裏口の上がり框をあがり、磨きこまれた廊下を進む。
身体に含まれた外の熱気は、
足裏から冷んやり艶やかな木板を通して放たれる。
廊下の途中、帳場になっている和室の障子を少し開けて、
伝票の束と格闘している母の美由紀に声を掛けた。
 
「ただいま。」
「あ、おかえり。暑かっただろ?調理場行って素麺おあがり。
 スイカも冷えてるよ。」
「また素麺〜?」
「今日のは中華風にアレンジしてあって、けっこういけたよ。」
 
調理場は父の仕事で、まかないも父が作る。
楓の場合、おふくろの味で育ったというより、
オヤジの味で育ったといえる。
もしこの旅館の跡を継ぐとなれば、
自分が調理場に立たないといけないのかなと思うけれど、
実はまだ殆ど手伝ったことはない。
本当に覚悟ができていれば、
もっと自分から進んで手伝うのだろうけれど。
 
「健ちゃんが後で芋持ってくるって。」
「あっそう。
 健ちゃんち、土がいいからサトイモめっちゃ美味しいよね。
 ・・・・コロッケもいいかも!
 あっち行ったらお父さんにそう言っといて!」
「わかった。」
 
 
 
母からの伝言を携えて、楓は廊下の奥へと進んだ。
突き当たりを左に曲がると、そこから先が旅館になる。
その境目が調理場だ。
 
「お父さん、ただいま。
 後で健ちゃんがサトイモ持ってくるんだけど、
 お母さんがコロッケはどうかって。」
「コロッケか・・・。ベーコン混ぜるかな・・・。
 あぁ、昼飯食うか?」
「うん、着替えてくる。」
「おう。」
 
 
 
二階の自室で着替えて戻ると、
父の雄介が素麺を盛った皿を出してくれた。
冷やし中華のように、キュウリや薄焼き卵の千切りが
彩りよく飾られている。
 
「このタレかけて食べな。」
「中華風なんだって?」
「そう、ちょっとピリ辛で。ピータンがポイントだな。」
「ふぅ〜ん、」
 
土に埋められ熟成して黒く光るアヒルの卵が、
粗く刻まれて天辺に鎮座している。
楓は一瞬ためらったあと、思い切ってそれを口に入れた。
とろりとした味わいとコクが、
さっぱりした素麺に深みを加えていて、なかなかの相性だと思った。
 
 
古い旅館を変わらず維持して行くことと、
目新しい料理を創作していくこと。
毎日新しい客との出逢い・・・。
両親はこの仕事のことを、刺激的で気持ちが若返ると言っている。
 
 
つづく
 
 
 
冬に夏の話を書くのもなんですが・・・^^;
 
さて1話で出てきた健一クン、たぶん幼馴染の親友で終わるはず。
ホントのカップリングの相手は、もう少し先に出てくる予定ですw
楓の弟も出てきます。
嗚呼、男祭り・・・・ww
 

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初嵐―1

予告からはや1週間・・・
なぜアップできなかったかというと、
題名が決まらなかったからー!!
みなさん初回からお話の内容にぴったりの題名をつけて
アップしていらっしゃいますが、スゴイww
私もまぁ、だいたいお話のあらすじというか、方向性を考えて、
それに準じた題名をつけるのですが、
題名や人名をつけるのは苦手・・・
 
初嵐とは、秋の季語で、初秋に吹く強い風という意味です。
初秋といっても旧暦なので、8月のことですが。
主人公の楓(かえで)がアイデンティティーを確立させるまでの、
自分や周りの人との関わりを表した・・・表すつもりで^^;(これから書く)
 
では、少しずつ、日がとびとびになるかと思いますが、
よろしくお願いします。
完結を目指して・・・あわわわ
 


       『初嵐』
 
早坂楓(はやさか かえで)の自転車が、
アスファルトの砂粒をちりちり踏んで進んでいく。
 
 
夏の日差しはキラキラと彼の髪を輝かせ、
風は汗のにじむ額を撫でながら、
漆黒の前髪をさらさら揺らして過ぎる。
午前中の部活を終えて帰宅途中の真昼、
黒いアスファルトの向こうには、かげろうが立って揺れている。
しかし都心から3時間あまりの片田舎の町、
道の両側は緑の稲穂の波が広がっていて、
その上を渡る風は意外と涼やかだ。
 
 
「楓!かーえーで〜〜!」
 
大声で呼びながら、自転車のハンドルから離した片手を
振って向かってくるのは、楓の同級生の大野健一だ。
幼馴染でもある。
 
「声でかいよ、恥ずかしい。」
 
文句口調だけれど、それでも彼の大ぶりなジェスチャーを楓が笑う。
 
「健ちゃん今から部活?」
「おう、今日はキャベツの種まきだったからさぁ。」
 
健一の家は農家である。
息子は貴重な労働力。農繁期には有無を言わさず手伝いに駆り出される。
 
「あはは。健ちゃんちの野菜、うちでは好評なんだからさ、
 がんばってよ。」
「まぁな。うちは大量生産狙ってむやみに肥料やるトコとは違うから。」
「健ちゃんちのなら俺、ニンジン食べられるもん。」
「だろ?あのニンジンはな、・・って俺、急いでるっちゅーの!
 じゃな!あ、後でお前んち芋持って行くから!」
 
自転車の前かごには、アルファベットで学校名と
バスケットクラブと書かれた大きなエナメルバッグが放りこまれている。
健一は慌ててペダルを踏み込んで、楓の横を通り過ぎていった。
賑やかしい豆台風が去った後、再びのどかな田園風景の静けさが戻る。
楓は少しの間そこにとどまって健一を見送ったあと、
再びゆっくりと自転車を前へこぎ出した。
 
 つづく
 
 

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おひさしぶりぶり〜

寒くなりましたな。
最後の投稿は夏だった・・・
みなさんお変わりありませんか?
 
私は相変わらずの毎日です。
仕事は楽しいけど、いつもフルに頭を使ってるせいか、
最近仕事してる夢ばかり見ます。(´д`;
なんかずっと仕事してるみたいやんか・・・。
しかも夢で働いても無給やぞー
 
こんなんではアカン。
ということで、新作を書いてみようかと思ってw
去年の夏のお題で思い浮かんだものを
書かずに放置してたお話です。
 
といってもまだワード開いてポチポチってしたとこなので、
アップまでもうしばらくかかるかと思います。
完結できたらいいなー(そこか!)
 
 
寒くなってきたので、猫が膝から退きません。
しかも私の腕を抱え込んで枕にしてる。
字が打てないよぅ〜キャッキャウフフ
 
ではまた近いうちに!!
サラバ!!
 
 

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処方箋は二人旅!―25(最終話) ―猫ドクシリーズ―

翌朝、二宮がフロントでチェックアウトをしている間、
浅井は中庭を眺めながら思わず腰をとんとん叩いた。
二人旅で見つけたものは、暖かくて、そしてとても大事なもので、
おまけに二人をいつもより燃えあがらせた。
夕べ浅井は二宮の胸の中で、何度も愛の言葉を放ちながら、
愛する男の精を受けたのだった。
 
「あ〜〜、だるい・・・。しかも筋肉痛だ・・・。」
 
その時は夢中で追い求めるのだけれど、
翌日それが実はひどく肉体に負荷を掛けていたのだと思い知る。
嬉しい痛みだけれど。
 
「浅井様、これからお立ちどすか?」
 
通りかかった仲居の石川が浅井に気付いて声を掛けた。
 
「この度は当館をご利用いただき、おおきにありがとうございます。
 京の旅はいかがどしたか?」
「あ、いろいろお世話になりました。
 京都には得るものがいっぱいあって、来て良かったです。
 この旅館もとても気に入りましたし。」
「それはよろしおした。・・・あら、お腰がお痛みどすか?」
 
腰に手をあてたまま話す浅井に、石川が心配そうに聞く。
 
「お布団が合わしまへんどしたんやろか・・・、あ。」
 
石川は自問自答で疑問を解決したように、納得顔になった。
 
「え?ええっと、僕は普段デスクワークだから、
 久し振りによく歩いた、ので、」
 
浅井が額に汗を滲ませてしどろもどろになるのを見て、
石川はころころと鈴の音のような笑い声をあげた。
 
「旅先ではついつい、なんでも過ぎてしまいますのん、ようわかります。
 けど、それだけようさん(たくさん)楽しんでいただけたんなら
 私どもは嬉しおす。
 是非また京都へお越しやして、当館をご利用しとおくれやす。ふふ、」
「は、はい、また是非。」
 
夏でもないのに額の汗をぬぐっていると、会計を済ませた二宮が来た。
 
「お待たせ!あ、石川さん、いろいろお世話になりました。
 いい旅館で、俺達大満足です。」
「おおきに、ありがとうございます。
 また是非お二人でおいでくださいませ。」
 
石川や、フロントの仲居達ににこやかに見送られ、
二人は旅館をあとにした。
 
 
 
予約している午後一番の新幹線にはまだ早いが、
浅井の足元があまり覚束ないので、
京都駅近くの東福寺をゆっくり散策し、早めの昼食をゆっくりとって、
二人は車中の人となった。
最新式の新幹線が、静かに滑り出すように出発する。
ホームの『京都』の表示が、次々後ろへと飛び始め、
やがてホームの端も窓の後ろへと消えていった。
 
「楽しかった?」
 
二宮が浅井に尋ねる。言わずと知れたことだけれど。
 
「うん。とても。」
 
浅井が窓から二宮の方へ顔を向けて微笑み、頷いた。
 
「ひなとクー、どうしてるかな。早く会いたいな。」
「あいつら、学さんをママと思ってるから、寂しがってるかもな。」
「あ、猫にお土産買うの忘れちゃった!」
 
旅は楽しいけれど、帰路についたとたん家が恋しく思えるのもたしか。
浅井がさっそく留守番をさせている猫の心配をするのを、
二宮は笑ってこたえる。
 
「猫は京都なんてわかんねぇし、
 学さんが帰ってくればそれでいいんじゃね?」
「僕がじゃなくて、僕たちが、だろ?」
 
浅井はうふふと笑い返して二宮の手にそっと自分の手を重ねた。
 
「旅行、楽しかった。ありがとう、恭介。」
「おう、またどっか行こうな。」
 
その後二人はやっぱり行きと同じく夢の中。
だって寝不足な上にいっぱい運動したのだから。
 
 
 
 
後日浅井がひまわり診療所で、
南禅寺を勧めてくれた事務の凛久さんを始めとする看護師たちに、
「彼女」との二人旅の報告を迫られ大汗をかいたのは、言うまでも無い。
ふふふ・・・
 
 
           おわり
 
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