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四十九日が過ぎたのでと、あの三十歳で亡くなった患者の妻が挨拶に訪れた。
ごく近い将来に夫を見送らなければならないとわかったばかりのあの時の、心細げな表情は消えて、
僅かひと月半の間に顔つきは力強さを感じさせる。
まだ3歳の子どもの、父親の役をも背負う決心をした母親の顔である。
「その後、いかがですか?
お疲れで体調を崩したりはなさいませんでしたか?」
浅井は秘書がテーブルに運んできたコーヒーを、
どうぞと勧めながら彼女を気遣った。
母親の隣に、少し緊張気味に座る女の子にはジュースを勧めて笑いかけると、
浅井のたおやかな微笑みに女の子は
恥ずかしそうに母親に身体をくっつけて微笑み返した。
「四十九日まではいろいろやることがあって、あっという間で・・・。
寝込んでるどころか、ゆっくり考える暇もありませんでした。
まだ、主人がどこか長期の出張にでも行ってるみたいな気がして・・・。」
「そうですね・・・。
死というものを受け入れるには、ずいぶん時間がかかるものです。
悲しみや怒りが、ときどき波のように押し寄せてくると思いますが、
それを受け入れて自分の中に落としていく行程は、
一人では辛いことも多いと思います。
こちらでは引き続きカウンセリングもできますから、
あまり一人で抱え込まないでくださいね。」
「ありがとうございます。
今まで主人だけでなく、私にもいろいろサポートしていただいて助かりました。」
「いえ、それがホスピスの意義ですから。
看護する側もね、身体だけじゃなく気持ちまで疲れては、
いい看護ができませんからね。」
頭を下げる彼女に、浅井は彼特有のしっとりと落ち着いた優しげな声で答える。
「それに・・・。
僕はホスピスの担当医としては、まだまだ駆け出しで至らないんですが・・・。
ここでは、最後まで自分らしく生きようとする患者さん達の姿に、
僕もずいぶん励まされたり勉強させていただいてます。
ここで働くことができて良かった・・です。」
浅井の噛み締めるような言葉を聞いて、
彼女は悲しげな中にもどこか誇らしげな表情を浮かべた。
「夫のお通夜やお葬式では、多くの方が泣きながら別れを惜しんでくださいました。
夫がどんなにみなさんに慕われていたかがよくわかりました。
お金とか、権威とか、そんな関わりじゃない、
夫そのものを失う悲しみで涙を流してくださったんです。
そんな、とても清らかな涙は、
言い換えれば夫の人生そのものだったんだなって・・・思いました。
夫は人としてとても良い人生を送れたんだって・・・。」
彼女が夫の生を振り返って出した答えに、
浅井は真剣な顔で頷いた。
「夫の優しさや真面目さは、周りの人を暖かな気持ちにしただろうし、
仕事や生き方では次に繋げるべきことをきちんと伝えてたんだろうって思います。
そういう、生きる上で何が大事なのかを、私は夫に教わりました。
とても短い間でしたが、夫と出逢うことができて、とても幸せでした・・・。
あの・・・、僭越だとは思いますが・・・、
先生もそういう生き方をなさってると思います。
どうぞこれからも、私達のような患者さんや家族の皆さんを支えて差し上げてください。」
浅井は彼女を見て、死は人々に、
自分に問い掛けるチャンスを与え、成長させてくれるのだと思った。
もちろん彼女だけでなく、自分もそれに関わって、一つ成長できたように思う。
また、死を目前にした当事者にもそれは当てはまるだろう。
死は生を考えるためにある。
より良く生きるためにあるのだ・・・。
帰り際、女の子はドアのところでにこにこしながらバイバイと小さく手を振った。
この子もまた、大きくなるにつれて、
父親のこと、命の事を考えながら成長していくのだろう。
今はまだほとんど理解もできずに無邪気に笑っているが。
母親は娘の手をしっかり繋ぎ、
最後まで感情の揺れを見せることなく帰っていった。
しかし、その後事務作業に戻った浅井が、
書棚のファイルを取る為にデスクを離れたとき、
ふと窓の外の様子を目にして胸を打たれ立ち尽くした。
窓からは、いつだったか死の後には何も無いと嘆いた老女が、
車椅子で佇んでいたプラタナスが見える。
その前を通りかかった先ほどの母子がふいに立ち止まると、
母親の方がしゃがみ込んでしまった。
何事かと浅井が目を凝らして見ると、彼女の肩が震えている。
浅井は、はっとした顔をすると、下唇を噛み締めて視線を床に落とした。
思い出したのだ。
彼女の夫が入院中、病室で何度か聞いた。
あのプラタナスが芽吹く頃に、娘が幼稚園に入園する。
それまでがんばりましょうと言い合っていたのを。
死は無だ。
全てがそこで終わってしまう。
それは揺るぎない事実。
しかし・・・・。
浅井が顔を上げた時、その母親も顔を上げ、
娘の小さな身体をぎゅっと抱き締めると、
ゆっくりと立ち上がって、また並んで歩き始めた。
人は生きる。
誰も見えないところで、人知れぬ涙を流しても、
やはり人は生きるのだ。
彼女の夫が死をもって教えてくれたように、
特別なことではないけれど、一番大事な生き方を目指して。
つづく
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死(命)を目の前にすると、お金や権力なんか、
安物のプラスチックの玩具ほどの重さにしか感じませんでした。
金ぴかでカラカラと音がするようなヤツね。
(あ、今はお金大好きーーww)
命は重いって、世間ではもう使い古された言葉が
全くその通りだったことに驚き、
それ以外に言いようがないことに愕然としました。
そして、お金より心が大切なんて陳腐とさえ思える言葉が、
真実であることに気付かされたのでした!
さて、お話もいよいよ最後なんて言いながらまだ終わらなかったのですが、
最後に恒例のエチといくかなぁ〜〜
どうしよう。
書いてみないとわかりませんが!!
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