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この『かたみ歌』は直木賞受賞作『花まんま』に感銘を受け読んだものですが、期待を裏切らず素晴らしかった。 『花まんま』より良かったのでは。
『花まんま』は通天閣が見える大阪下町が舞台でしたが、『かたみ歌』は東京の下町で町内に異界と繋がっているという覚智寺もある「アカシア商店街」が舞台の7編の短編集。時代は昭和40年前後で<アカシアの雨がやむとき><いいじゃないの幸せならば><圭子の夢は夜ひらく>といった歌が街に流れていた時代。芥川龍之介似で一見気難しそうだが話せば気さくなおじさんの古本屋の主人が狂言回しの形式で全編に登場し、その正体も最終編で明らかになると言う洒落た趣向も魅力的です。
全7編が<不思議な話>で濃淡は異なるがホラーティストになっており中には不気味にしてぞくぞくする話もありますが、単なる奇矯な怪談噺でなくノスタルジック、シュール、心温まるものと独特な朱川ワールドが展開する多彩な味の短編集です。
「紫陽花のころ」
主人が強盗殺人にあったラーメン屋の様子を電信柱の陰で窺っていた若い男の正体が、知的障害者の娘もいる遺族を守るために現われた亡き主人の幽霊であったという切なくも哀しい話。
「夏の落し文」
ランドセル姿の小学生の恰好で現われ、商店街の方々に死の予告のビラを貼り身体の弱い少年をあの世に拉致しようと執拗に迫る魔物に抗して身代わりとなって弟を守る優しい兄の話。痺れる兄弟愛。無気味さ横溢。
「栞(しおり)の恋」
古本に挟んだ栞にメッセージを託した酒屋の娘邦子の恋が、特攻隊として若くして玉砕した著者との時空を超えた交流として花開いた美しい奇跡的なメルヘン。
「おんなごころ」
飲んだくれの役立たずの夫が死んだが、夫が毎夜尋ねて来て一緒に親子水入らずの夕食の歓談をするとの幻想に捉われ、四十九日過ぎた日幼い娘を道連れに縊死した母親の他人には分からない女ごころを描いた哀切きわまりない話。
「ひかり猫」
マンガ家志望で独学中の若者がアパートで体験した人魂ならぬ猫霊との不思議な交流。青白くピンポン玉ぐらいの大きさの猫霊(ねこだま)が生猫のような仕種をし若者とじゃれあうシーンは愛らしく愛猫家にはタマラナイ。化け猫はおどろおどろしいがこの「猫霊(ねこだま)」はシュールでファンタジックな味わいの話。
「朱鷺(とき)色の兆(しるし)」
中古レコード屋の主人の学生時代の回想。ピンク色(朱鷺色)のバンダナ、ハンドバッグ、マフラー等の持ち主に死の前兆を見てしまう超能力を持った若者が自分に死の予兆が来ないか恐れてノイローゼ状態になって苦しむ怪奇な話。
「枯れ葉の天使」
古本屋の主人には若き日に才能ある詩人で前途洋々であった妻の進路を封殺し死に追いやったという哀しい過去があった。彼は亡き妻に会えるかと朝夕、あの世と繋がっているという覚智寺に日参していた。そんな彼の所へ「おばさんから伝言を頼まれた」と言う幼女が現われる。彼女は「おんなごころ」で母親に道連れにされて死んだ女の子であった。金子みすずの悲話を想起させる物語。
朱川湊人氏の作品の魅力にすっかり嵌まってしまった私です。次は『都市伝説セピア』を読んでみたいと思っています。
参考 『花まんま』
http://blogs.yahoo.co.jp/saitou602002/60990280.html
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