富塚文太郎の診断録

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

想定:ユーロ圏離脱の時

 来る6月17日に行われるギリシャの再選挙で、緊縮政策(EU&IMFによる支援の条件)に反対の急進左派連合(SYRIZA)が第1党となって新連立政府を組織するとの可能性が小さくないので、その結果、ギリシャがユーロ圏からの離脱を余儀なくされる(SYRIZAは緊縮に反対してもユーロ圏に留まり得ると主張しているが、そうはいかない)との見通しが増大している。
 もちろん、こうしたギリシャのユーロ圏からの離脱(最近ではGrexit、グレグジットすなわちGreeceのExitと言われる《ロイター21日》)は確実とは言えないが、すでに「ユーロ圏当局者はギリシャのユーロ圏離脱に備え、ユーロ圏各国が個別に対応策を用意する必要があるとの認識で一致した」(ロイター、23日)ほか、各国、各国銀行・企業もそれぞれにそうした対策を進めているようだ。

 こうしたGrexit対策を用意しているとして報じられた動きには、以上のほかに次のようなものがある。
 「ドイツ連銀は23日、ギリシャのユーロ圏離脱による影響はかなり大きいものの『対応することは可能』との見解を示した」(ロイター、23日)。「ベルギーのレインデルス副首相は25日、中央銀行や企業がギリシャのユーロ離脱に備えていないとすれば、大きな誤りだとの認識を示した」(同、25日)。「イタリアのグリリ経済次官は24日、ギリシャのユーロ圏離脱回避を目指しているものの、その可能性に備える必要があるとの見解を示した」(同、24日)。フィンランドの「ウルピライネン財務相は、『危機の様々な局面で、フィンランドは異なった道や計画について評価してきた』と指摘(同)。「ユーロを導入していないスウェーデンでも…ノーマン金融市場担当相は24日、ギリシャがユーロを離脱した場合に備え、万全の体制をとっていると説明し、当局間で緊密に連絡を取り合っていることを明らかにした」(同)。 

 Grexitがヨーロッパ以外に与える影響については、それがギリシャのみならず、ヨーロッパと世界経済に混乱をもたらすとの見方もあるが(日本では強い)、米国セントルイス地区連銀のブラート総裁は、「欧米に深刻な打撃を与えずにギリシャはユーロ圏から離脱できる」と23日に次のように語った。「私はギリシャが(ユーロ圏を)離脱できると思っている。欧州や米国に大きな打撃を与えずに適切な方法で対処することが可能だ。…また欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏の銀行システムを支える決意を示しており、米経済に対するリスクは一部のアナリストが考えるよりも小さいと指摘」した(ロイター、24日)。
 これに対し、ジョンズ・ホプキンス大学「先進国国際研究センター」のMarios Efthymiopoulos客員講師は、「大混乱になる。銀行は破綻し、国有化を余儀なくされる。支払はクーポン券でしかできなくなる。ギリシャには(紙幣)印刷機が1台だけあるが、アテネの美術館が所蔵しており、もう使えない」と話した(同、21日)。

 この「ギリシャには(紙幣)印刷機が1台だけ…」と言う話は素人だましの(本人もだまされている?)バカバカしい解説だが、ギリシャがユーロ圏から離脱した時に新通貨をどう調達するかは最大の問題だ。仮に新通貨単位を「新ドラクマ」としよう(しかし「ギリシャ・ユーロ」と呼んだって差し支えない)。
 この新ドラクマ紙幣と補助通貨は極秘裏に国外で製造、準備することも可能だ。問題は現在のギリシャの政府あるいは中央銀行はそれを準備できない、また恐らく準備の必要を感じていないだろう、ということだ。また、次に成立可能性があるSYRIZA中心のギリシャ新政権は、緊縮に反対しつつユーロに残留できるとの幻想を持っているから、新政権としてすぐにこうした準備に着手することにはならないであろう。
 これ以外に考え得る準備としては、ギリシャの中央銀行が極秘かつ非公式にユーロ圏の中央銀行とそうした用意を進めることである。もちろん、それには関連諸国の財務当局の同意と協力が必要なのはいうまでもない。

 このような事前準備が整う前にユーロからの離脱が起きたとすると、新ドラクマ紙幣(これまでのように中央銀行券と呼ぶだろう)が本格的に流通するまでの過渡期には、ある程度の混乱が起きることは避けられないと思われる。
 ところで問題は、ギリシャが新ドラクマを通貨の新単位とした場合に、物価や賃金あるいは債権・債務はどう表示されるか、新ドラクマの為替相場はどうなるか、である。
 私はギリシャがユーロ圏から離脱しても、同国の「価格(賃金等を含む)の単位」は当分はユーロ建て(ユーロでの表示)のままであろうと予想する。そして為替の基準相場を新しく例えば1ユーロ=1.5ドラクマと設定する(まったく仮の話)が、その変動は自由にしておく。ドラクマとユーロ以外の外貨(ドルなど)との為替相場は当然対ユーロの相場から決まってくることになる。
 
 そうすると、ギリシャでは価格の単位がユーロ建てで、流通する新通貨の単位はドラクマという状態が起きる。その場合、市民は商品を購入してどれだけのドラクマを支払うかは、新ドラクマ対ユーロの相場で決まることになる(計算が面倒だが)。
 では、上記のような状況の下で、その新ドラクマ紙幣が不足しているとすればどうするかである。この場合には、市民保有の従来のユーロ(銀行への預金を含む)はそのままではギリシャ国内では通用不能とした上で(国外への持ち出しを禁止する)、中央銀行(及びその代理店で)でそのユーロ紙幣に証紙(注)を貼ったものを新ドラクマとして認証するのが一方法であろう。この「仮」新ドラクマ紙幣がどれだけの価値を持つかは新ドラクマの為替相場によって決まることになる。
 過渡期における流通通貨としては、このほか外貨やドラクマ建ての代用通貨(小切手など)が使用されるだろう。

 (注)第2次大戦後の1946年に日本で通貨の円から「新円」への切り替えが行われた場合(ただし通用価値には変更は行われなかった)には、それまでの預金は封鎖(自由には引き出せないようにする)した上、毎月、一定限度までは新円での引き出しを認め、また現に流通していた円通貨は、日本銀行等でそれに証紙を貼って新円紙幣とみなした。

 価格の単位と流通する通貨の単位とが異なることは、歴史上にもいくつかの例がある。例えば英国の植民地だった時代(17世紀)の米国がそうであった。アーサー・ナスバウムは次のように述べている(『ドルの歴史』、コロンビア大学出版部、1957年。浜崎敬治訳、法政大学出版局、1967年)。
 当時、「植民地開拓者は金銭の計算をポンド・シリング・ペンス建てでおこなう習慣をもっていたので、財貨にしても用役にしても、英貨の単位で評価された」。他方で、米国の「植民地時代の初期においては、西欧の文明社会のどこよりも、少ない通貨量しか流通していなかったらしい。…植民地開拓者たちがイギリスからたずさえてきたわずかばかりの貨幣は、イギリス本国からの輸入のためにたちまち費消されてしまった。そのため、開拓者たちは物々交換に依存することになったのである」(訳書p.1)。
 そうした物々交換の中から、州により穀物、タバコ、貝殻数珠などが物品貨幣(商品貨幣)となった(訳書、p.2〜5)。

 しかし、「植民地はしだいに外国正貨を手に入れて通用させることに成功した」(同、p.6)。
 そして、スペイン領西インド諸島などから輸入したスペイン銀貨が、「増加をたどる正貨流通の中でまもなく優位を占めるにいたった」(同、p.7)。「その基準単位はリアルで、…もっとも一般的な貨種はペソと呼ばれ、8リアルの価値を有した。…英語国では、ペソは“piece of eight”とか『ドル』とかよばれるようになった」(同、p.7)。
 「スペイン貨幣だけがアメリカ植民地に出現した正貨ではなかった。すでに金鉱が発見されていたポルトガル領ブラジルから金も流入した。またフランス金貨やベニス金貨も植民地に入ってきた。…にもかかわらず、スペイン・ドルの占める特殊の地歩には影響がなかった。…ここに貨幣の分野におけるイギリス植民地からの離脱がはじまった」(同、p.8)。  
 他方で、「ポンド・シリング・ペンスで数える開拓者の慣習はいぜんとして存続した。…そこで、ドルとイギリスの貨幣単位との間の法定比率を定める必要があった」(同)。

 上記で述べられている時期以降の「ドルの歴史」についてはここでは省略するが、要は、英領植民地時代の米国では、通貨不足の時代、そして価格の単位はポンド、通貨の単位はドルという時代があったことを知っておく必要がある、ということだ。
 このような貨幣史上の例は、今日かりにギリシャがユーロ圏を離脱して新貨幣(例えば新ドラクマ)を導入した場合に、その新ドラクマの発行・流通の量が十分でない過渡期のケース・スタディとして参考になるであろう。ギリシャが通貨をユーロから新通貨へ移行させる場合、以上で例示したようなもろもろの方法、手段での対応によって、根本的な障害は起きないだろうことを確認しておきたい。

 もちろん、ギリシャがユーロ圏を離脱した場合の問題は以上につきるものではなく、とくにユーロ建てのギリシャの従来の対外債務(国家及び民間の)返済の一層の困難化(その影響は債権国側にもはね返る)、新通貨の対ユーロ相場下落に伴うインフレーションなどの難しい問題がある。しかし、それらはギリシャ国民が結果として選択したことであるからいたし方がないという以外にはない。だが、当「診断録」が繰り返し述べているように、ギリシャがユーロ圏を離脱してもそれでユーロそのものが崩壊、消滅することはないであろう。(終り)

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G8:米の過激な反独感情

 G8(主要8ヵ国)首脳会議が5月18,19の両日、米国メリーランド州のキャンプ・デービッドで開かれ、世界の経済と政治についての「キャンプ・デービッド宣言」を発表し、経済については「財政健全化と経済成長の両立を追求する方針で一致」(日経、20日)したことは各紙が報じた通りである。これは、これまで主として財政緊縮を重視してきたヨーロッパとくにユーロ圏の最近の経済政策のあり方(中でもドイツの主張)を修正するもので、成長の重視を掲げて5月6日の大統領選挙で当選を果たしたオランド仏新大統領の主張及び11月の大統領選を控えたオバマ米大統領の意向を取り入れたものであることは明らかだ。
 ところが、このG8の内容を伝えたNYTimesの報道(Web版、19日)を見て驚いた。まず大見出しが「世界の指導者、緊縮ではなく成長を促す(urge growth, not austerity)」と伝えて財政緊縮を事実上で否定したことだ。そして、「メルケル独首相の画一的な緊縮強調のアプローチをヨーロッパそしてなおさら米国は容認できないとの主張について、オバマ大統領ははじめて広い支持を得た」として、同紙が言う「緊縮ではなく成長を」という今回のG8の合意がオバマ主導であり、その勝利であったと強調した。これは事実歪曲によるまことに露骨なオバマ選挙キャンペーンだというべきある。

 念のため、キャンプ・デービッド宣言の関連部分を見ておこう(G8情報センター・ホームページによる)。同宣言は「世界経済」の項の冒頭で次のように述べている。
 「われわれの責務は成長と雇用を促進することである。世界経済には回復の見込みはあるが、いちじるしい逆風も続いている。このような背景において、われわれは経済を強化・再活性化し、財政的ストレスと闘う上で必要なあらゆる方策をとることを確約する。ただし適切な方策は各国で同じではないことを認識する。われわれはヨーロッパで行われている議論、すなわち財政の強化(構造的ベースで評価した)を実行するとの固い約束を維持しながらいかに成長を生み出すか、との議論を歓迎する(以下略)」。
 これで見れば、今回のG8は「財政健全化と経済成長の両立」で合意したのであり、NYTimesが報じたように「緊縮ではなく成長を」促したものでないことは明らかだ。 

 このようなNYTimesの報道は、同紙が言及しているオバマ大統領の國際経済担当首席補佐官マイク・フロマン氏の説明にもとづくもののようだが、とくに看過できないのは次のような同紙のコメントである。
 「これ(G8の宣言)は過去2年にわたり行われてきた成長対緊縮の闘いの最終決着ではない。ドイツは次のように主張してきた。すなわち、ヨーロッパの通貨同盟の将来に疑問が投げかけられる中、ヨーロッパ諸国は不況下でも支出の削減により財政問題に対処すべきだと。批判者の言によれば、この政策は失業の増大を引き起こし、ギリシャを破産の瀬戸際に追い込み、スペインとイタリーの危機をより深刻にしたものだ」。ただし、「G8で首脳たちは、国家の財政赤字と取り組むべきだと認めることで、メルケル首相の緊縮堅持の立場をしぶしぶ認めた」。
 このコメントは、ギリシャなどユーロ圏の国々の財政危機とそれへの対策としての緊縮政策の影響の関係を逆にとらえ、ドイツなどの主張・政策がヨーロッパの危機を生み出したと言わんばかりである。

 もちろん、それぞれの政策をどう評価するかは論者の自由だが、上記のようなコメントは、“ギリシャの危機はEUとくにドイツの政策と要求によってもたらされたものだ”と主張しているギリシャの緊縮政策反対派(その代表格は同国の急進左翼連合)に対し、それを鼓舞するような誤ったメッセージを送り、来る6月7日の再選挙での緊縮反対派の立場を強める可能性がある。
 もし、緊縮反対派が再選挙で勝利して、ギリシャへの援助資金(EUとIMFからの)受取の条件となっている同国の緊縮政策を拒否することになれば、援助側は資金提供を打ち切らざるを得ないだろうし、そうなれば、ギリシャは破産してユーロ圏にとどまることが不可能になるであろう。そのことは、「われわれは、ギリシャが同国が行った約束を守りつつユーロ圏にとどまることの利益を確認する」とのキャンプ・デービッド宣言を裏切る結果となるだろう。

 さらにこのNYTimesの記事は、キャンプ・デービッドでの会議の模様について、「緊張した会合の中で、あたかも世界と対立しているのはメルケル夫人であるかのように時どき見えた」と描写している。また、米国の代表的な総合情報サービス会社のBloombergも、G8で「ドイツは一段と孤立を強めている」と伝えた(20日)。 
 G8の中でドイツが孤立しているように見えるのは、ある意味で当然である。なぜなら、参加8ヵ国のうち多数を占める米英仏伊日の5ヵ国は財政赤字と国家債務累積に陥っており、比較的健全な財政を維持しているのは、ドイツのほかはカナダとロシアだけだからだ。このうちカナダは伝統的に米国寄りであり、ロシアは産油国として、また新興4大国(いわゆるBRICs)の一つとして、ある意味で他のG7(先進国首脳会議のもともとのメンバー)の議論の局外に立っているからだ。 
  
 ドイツの有力紙FAZ(フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング)は今回のG8について次のように報じている。「メルケル首相は次の点を明確に主張した。すなわち、重い債務負担を負っているG8諸国は、2008年の金融危機の時とは異なり、いまや古典的な景気振興策で問題に対処する可能性をまったく持ち合わせていない」(同紙Web版、19日)。 
 ここでいう「古典的な景気振興策」とは、いうまでもなく、ケインズ主義的な赤字財政(国の支出増加と減税など)による景気刺激策のことである。このメルケル首相の主張は、ではその代りに何をするかという点を別とすれば、完全に正しい。現に財政赤字を敢えてしても景気刺激を行っているG8メンバー国は日本だけで、これは大震災・原発災害からの復興という特殊事情と、国債の90%以上が国内で保有されているという日本特有の財政事情によるものだ。

 ユーロ圏内の政策として、財政再建策とともに成長政策を重視すべきだと主張しているオランド新仏大統領も、これまでのところ、この点での説得的な具体的政策を提示していない。オバマ大統領も、G8の「会合参加者からの報告によると、景気に対する人為的な刺激策はないだろうと述べた」(FAZ、同上)。
 では、なぜG8でオバマ氏は「成長と雇用」を強調したのか。それは、米国内向けの選挙用宣伝という側面を別とすれば、結局、“ヨーロッパ諸国は現在のような厳しい財政緊縮政策をゆるめて、それが成長に与えるマイナスをもっと小さくすべきだ”ということにつきるのではないか。そうしたことを実行する余地はあると思うが、そうするとそうしたで、今度はまた米国系の格付け会社や投機的ファンドが“財政悪化懸念”を叫び立てて重債務国に襲いかかる恐れがある。
 結局、「G8の声明は、緊縮、成長の促進、構造的改革の3和音(Dreiklang)を強調したに過ぎない」(同上)。

 フランスの有力紙ル・モンド(Le Monde)は、G8に関しても、独仏の立場の相違とその調整に大きな関心があったようだ。すなわち、「オバマ氏は土曜日(19日)の早くに、片やメルケル独首相、片やマリオ・モンティ伊新代表とオランド仏代表の両者を同時に満足させるように、成長の追求と財政赤字に対する闘いは相伴うべきだと確認した」。
 「しかしメルケル夫人は土曜日の夜にキャンプ・デービッドでオバマ氏と一対一で会った際、この問題についてパリとベルリンの間には対立がないと否定した」(同紙Web版、19日)。

 以上のようなドイツ紙とフランス紙の報道ぶりを比較すると、今回のG8を米国(オバマ大統領)とドイツ(メルケル首相)の対立・闘いの一コマとして、しかもオバマ氏の勝利として書き立てたNYTinesの報道(米政府高官のブリーフィングの影響もあるが)の異常さが際立つ。そこに、米国と明確に異なった経済政策を追求するドイツ(ヨーロッパの経済中心国)に対する米国の強い不満と、いまや世界経済でのリーダーシップをとれなくなった米国自身へのいらだちを見てとることが出来るだろう。(終り)

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株安vs年率4%成長

 このところ日本の株価(日経平均)はギリシャの政治危機を主な材料に低下傾向をたどっており、週末5月18日の日経平均終値は8611.31円で、前日比−265.28円(−2.99%)という本年最大の下落を演じ、年初来高値(3月27日、10,255.15円)から16.0%の下落となった。ところが、他方で、5月17日発表の2012年1〜3月のGDP速報によると、この期のGDPの実質成長率(季節調整済、前期比)は+1.0%、年率換算で+4.1%という高い増加率で、これでGDPは2011年7〜9月期以来、3四半期連続のプラスとなった。これを同じ1〜3月期の年率換算成長率が米国は2%、ユーロ圏は0.1%だったのに比べると、日本経済のパーフォーマンスの良さが目立つ。
 日本の高い成長率は、主として3.11大震災・原発災害からの復興需要にもとづく日本独自の成長要因によるもので、いわば世界的な成長鈍化の趨勢に“抗して”実現されたものである。これに対して株価の低落は、欧州の信用不安と世界的な成長鈍化に対する世界市場の反応をほぼそのまま、というよりむしろ過剰に写したもので、そこに日本独自の成長傾向はほとんど反映されていない。

 日本の1〜3月期(2012年Q1=第1四半期)のGDP実質成長率1.0%(年率換算前)に対し、GDP構成の各項目の動向を見ると、民間最終支出は+1.1%、政府消費は+0.7%、公的固定資本形成(政府投資)は+5.4で、民間消費と政府支出(固定投資と消費)がGDPの伸びを主導したことは明らかだ。これに対し、民間住宅建設は−1.6%、民間企業設備投資は−1.6%で、これらはGDPの足を引っ張った。また、いわゆる外需すなわち純輸出(輸出ー輸入)は+0.1%でほぼ横ばいだった。
 2012年Q1のGDPが判明した結果、2011年度(11年4月〜12年3月)の年間GDPが明らかになったが、それによると11年度の実質成長率はマイナス0.0%とほぼ横ばいで、10年度の+3.2%から大きく落ち込んだ。これはいうまでもなく大震災と原発災害(電力不足化を含む)とタイ大洪水の影響を強く受けたためである。しかし、四半期の推移では、11年1〜3月期の−2.0%(年率換算前)、4〜6月期の−0.3%から、上述のように7〜9月期以降はプラスに転じた。
 なお、11年度の名目成長率(時価による計算)は−1.9で実質の1.0%(同) を下回るデフレ状態だったのに対し、12年Q1は一期だけではあるが実質、名目ともにGDP成長率は+1.0%だった。

 世界的な信用不安とその影響を受けた成長の鈍化(新興国を含む)の中で日本がいわば独り景気回復を遂げてきた結果、日本の輸出は減少し(世界需要の鈍化による)、輸入は増加した(日本の景気回復による)。2011年度(11年4月〜12年3月)の輸出は前年比−3.7%(10年度は+14.9%)、輸入は+11.6%(同+16.0%)だった。
 これに対し、リーマン・ショックの影響を強く受けた2009年度には、輸出は−17.1%、輸入は−25.2%で輸出入共に大幅に減少したのだった(輸出は08年度にも−16.4%)。これは、世界同時不況に日本も巻き込まれたためで、それと2011年度の輸出入動向とは根本的に異なっている。
 その結果、11年度の貿易収支は4兆4101億円の赤字で、10年度の5兆3321億円の黒字から10兆円近くも悪化した。こうした貿易収支の赤字に日本経済が耐えられたのは、日本が巨額の外貨準備を保有している(2010年度末には1兆1160億ドル、11年度末には1兆2887億ドル)(注)からであり、かつての高度成長期には貿易赤字に対して引き締め政策で対処しなければならなかったことと根本的に異なる。

 (注)2011年度の貿易収支が大幅赤字だったのにもかかわらず、年度間を通じて外貨準備が増えたのは、主として、異常な円高に対して政府(財務省)による円高阻止のためのドル買いの介入操作が行われたためである。

 11年度の輸出入の動向を主要地域別に見ると次の通りであった。まず輸出。対米国は−0.8%(10年度は+11.3%)、対EUは−3.6%(同+9.5%)、対アジアは−5.4%(+17.1%)、そのうち対中国は−6.9%(+18.5%)だった。最近の日本の最大の輸出市場である中国及び同国を含むアジア向けの輸出が最大の落ち込みを示したことにとくに注目したい。これは、中国そしてアジアがヨーロッパの信用不安と景気悪化の影響を受けたこと、及び中国などでのインフレ対策により成長が鈍化したことの結果である。
 それにしても、このような激しい対中国、対アジアの輸出減少に日本経済が耐えられたことは驚きであると言っても過言ではないだろう。 

 次に輸入の主要地域別動向を見よう。対米国は+2.3%(10年度は+5.3%)、対EUは+10.8%(+5.0%)、対アジアは+9.0%(+18.2%)、対中国は+6.8% (+17.4%)で、どの地域からも輸入は増えているが、とくに対EUでは同地域からの輸入増加率が前年度より高まっていることが注目される。
 対EUの輸入増加率が11年度に高まったのには、ユーロ相場の下落の影響(為替下落によるEU側の競争力の改善)が含まれていると推定できる。逆に、対米国、対アジアの輸入の伸びが鈍化したことには、ドル相場下落による円ベース輸入額の減少が影響したものと推定する(暫定的な仮説)。

 11年度の輸出入を品目別に見ると、輸出では金属加工機械の増加率(27.0%)と半導体等電子部品(−14.7%)及び自動車(−14.7%)の減少率が目立つ。
 輸入では、原粗油(+21.9%)、液化天然ガス(52.2%)、石油製品(+37.3%)の高い増加率が特徴。これは、いうまでもなく、原発の停止に伴う電力供給減を補うためと、国際的な原油高の影響である。
 品目別輸入の主要地域別を見ると、米国からの穀物類(+19.3%)及び石炭(+90.6%)、EUからの医薬品(+21.9%)及び自動車(+24.8%)、アジアからの石油製品(+68.8%)及び原粗油(+124.7%)、中国からの通信機(+32.3%)、電算機類(+8.2%)、衣類・同付属品(+5.5%)などの増加が主なところだ。

 以上のように、大震災・原発災害以後の日本は、それからの復興需要を主要な成長要因として経済を回復させ、成長を鈍化させた欧州、米国、アジア(中国を含む)への輸出を減らし、それら地域からの輸入を増やすことで、世界経済を下支えする役割を果たしたと言える。しかし、そのことは、日本経済への相対的評価の高まりによる円高をもたらして、その面から、あり得たはずのより高い成長を相殺することにもなった。
 このような最近の世界経済における日本の役割は、かならずしも国際的には認識されていないし、日本の株式市場によっても評価されていない。もっとも、はじめに述べたように、どの国の株式相場もかなりストレートに世界の株式市場の動きを写しやすいが、その上、日本の市場関係者の思考法が多分に単なる世界市場追随型で、日本の市場としての独自判断を十分には出来ないことも影響していると思われる。

 こんご2012年度中にも日本経済が11年度以降の回復と成長を持続できるかどうかは、世界経済の動向とその影響及び電力供給の動向にもよるが、やはり政府支出が引き続き増加するかどうかに大きく依存するだろう。その点で、公債特例法案が今国会中に成立して、2012年度の政府予算(予算としては成立済み)が執行できるかどうかが極めて重要である。この予算には公共事業関係費が復興費を含めて5兆3022億円(前年度比3279億円、6.6%の増加)計上されており、この執行が復興を主な要因とする12年度の日本経済を大きく左右することは確かである。
 その意味でも、政局の帰趨いかんが重要である。(終り)

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再選挙後のギリシャは?

 5月6日のギリシャ総選挙後における連立政府組織の試み(憲法にもとづき、第1党から第3党までが順次連立工作をする)は14日までにことごとく失敗に終わり、今度はパプリアス大統領の呼びかけによる「国民統一政府」樹立のための全政党(極右政党をのぞく)の代表 による最終協議が15日午後2時(日本時間午後8時)から始まった。しかし、これは議会開会日(17日)までの“最後の努力”という形式的なものとなる可能性が大きく、おそらくこの協議もまとまらずに再選挙となる(投票日は6月17日が有力)ことはほぼ確実である(ロイターは15日22:35に、この連立協議が不調に終わったとの大統領報道官の発表を伝えた)。

 では、その再選挙の結果はどのようになるのだろうか。総選挙後の世論調査によると、総選挙で第2党となった緊縮政策反対の急進左翼連合(SYRIZA、得票率16.8%、獲得議席数52)が支持率23.8%でトップとなった。総選挙で第1党(得票率18.9%)だった新民主主義党(ND)は20.3%で第2位にとどまった。しかも、「浮動票を除外し、実際の選挙結果と比較可能な数字にした場合、SYRIZAは再選挙で27.7%の票を得て勝利することになる」(ロイター、11日)。ところが他方で、調査会社カバ・リサーチの世論調査によると、回答者の78%はギリシャのユーロ圏残留を支持している(Bloomberg、12日)。
 すなわち、ギリシャ国民の多数は一方で緊縮政策(対ギリシャ援助に際してのEUなどによる条件)に反対しつつ、他方で同国のユーロ圏残留を希望していることになる。これは明らかに矛盾した要求である。

 私は前回の当「診断録」(5月11日号)で次のように予想した。すなわち、再選挙が行われた場合には、「総選挙で単純に緊縮政策推進の旧連立与党に鉄槌を下したギリシャ国民も、その結果起き得ることの重大さ(対ギリシャ援助の中止、ギリシャの国家破産の現実化、ギリシャのユーロ圏からの離脱)を冷静に考えて、5月総選挙とは異なる投票行動をとる可能性がある」と。だが、上記のような世論調査結果を見ると、私の予想は甘かったかも知れない。つまり、どうやら多数のギリシャ国民は、緊縮政策に反対する党が中心となる連立政府が成立しても、なおかつギリシャはユーロ圏にとどまり得ると考えているようなのだ。
 New York Times も次のように報じている。「ギリシャ国民の多くは次のように主張している―ユーロ圏に留まることと、過酷な財政均衡化措置(ヨーロッパがギリシャの支払い能力維持のために供与する資金の代償として要求している)を拒否することは両立し得ると」(同紙Web版、13日)。 

 こうした“両立可能路線”は急進左翼連合SYRIZAの主張で、同党は「ギリシャがユーロ圏に留まることと、賃金の引き上げ、公的部門での解雇の中止、ギリシャ債務返済の履行拒否などを約束している」(New York Times 同上)。そのような主張によって、同党は総選挙後には国民の支持を一層広げているわけだ。
 そのような考えを支持する国民の一人、Giorgos Liatos は次のように語っている。「彼ら(EUの当局者ー引用者加筆)はこけおどしをかけている(bluffing)。もしわれわれがユーロ圏から出れば、それがどれだけヨーロッパに高価につくかを知るべきだ」。またVasilis Nikolopoulos(56才のタクシー運転手)は、「破産した国(ギリシャのことー加筆)から、ヨーロッパはどれだけのカネを取り戻し得るのか。彼らはその要求をゆるめざるを得ないだろう」と主張している(同上)。要するに、これらのギリシャ国民は、“ヨーロッパはギリシャを破産させることはできないし、したがって救援せざるを得ないだろう”と読んでいるのである。

 たしかに、ユーロ圏指導者の中にも対ギリシャ援助の条件を緩和してもよいとの発言をする者があり、そうしたこともギリシャ内反緊縮政策派を勢いづけている可能性がある。例えばユーロ圏財務相会議のユンケル議長(ルクセンブルグ首相)は、「ギリシャの財政・経済改革の期限を1年延ばすなど、1740億ユーロの対ギリシャ援助の条件について議論することは排除しない」と語っている(Financial Times Web版、14日)。
 しかし、14日に開かれたEU財務相会議は、「ギリシャがEUなどの支援の前提である財政赤字削減や構造改革を履行する必要があるとの認識を確認」、ユンケル議長も会議後の記者会見で、「ギリシャのユーロ離脱を会合では議論していないと強調し、ユーロ圏にとどまって財政再建策を実行するようギリシャに求めた」(日経ほか、15日夕刊)。要するに、緊縮政策による財政再建と、それによるギリシャのユ−ロ圏残留というユーロ圏とEUの基本方針には変わりはないのだ。

 ツィプラス急進左翼連合党首などの“ギリシャは緊縮政策を拒否するがユーロ圏に残留する”という考え方は、EU(具体的にはユーロ圏とIMF)は対ギリシャ援助を無条件かつ無制限に続けられる、との空想的仮定にもとづいている。だがそうした資金援助は、被援助国がその財政を再建して自力で必要な資金を市場で調達できる見込みがある場合にのみ実行可能であることは常識である。また、資金を提供するのはユーロ圏の個々の国(最大の資金提供国はドイツ)あるいはIMF加盟の有力国(対ギリシャ援助での最大の資金提供国は日本)であり、そうした援助資金の供与は供与国の負担となること、したがってそれには限度があることも自明の理である。
 
 ドイツのショイブレ財務相は、14日のユーロ圏財務相会議の前に、「ギリシャ国民が何十年にもわたる怠慢(neglect)の結果に苦しみ耐え(suffer)なければならないことには議論の余地がない」と突き放している(Financial Times 同上)。
 また、あけすけな発言で知られるオーストリーのマリア・フェクター財務相は、「ギリシャはおそらくEUから脱退しなければならないだろう。なぜなら法的にはEUから脱退することなしにはユーロ圏を離脱できないからだ。そして、将来あらためてEUとユーロ圏への再加盟を希望すべきなのだ。その際にはわれわれはギリシャがそもそもメンバー国となり得るかどうかをもっと厳密に(同国が当初加盟した時と比べて)審査すべきだろう」と述べている(同上)。

 以上のような状況なので、ギリシャが16日までに連立政府を組織できずに再選挙(6月中旬)へ突入し、その選挙で最近の世論調査通りに急進左翼連合が第1党となり、ツィプラス同党党首を首班とする反緊縮政策推進の連立政府が成立すれば、その結果は次のように進まざるを得ないだろう。 すなわち、ギリシャ新政府による緊縮政策の大幅修正→EUとINFによる資金援助の中止→ギリシャ政府の資金難と政府による各種支出・支払(国債償還を含む)の延期さらには停止→ギリシャ政府による自前の通貨発行が必要に→法貨(法定貨幣)としてのユーロの放棄と自国通貨(例えばユーロ導入時までと同様のドラクマ)の発行(為替レートは大幅切り下げを伴う)であろう。
 このような過程は、おそらくギリシャ国民にいまの緊縮政策下よりもさらに大きい苦難をもたらす可能性があるし、政治的混乱をもたらすことだろう。

 通貨の切り替えは、過去における多くの国での同様の経験(第2次大戦後、激化するインフレへの対策として実施された1946年2月における日本の旧円から新円への切り替えもその一例)と同じように、複雑な手続きと対策を必要とする。また、為替レートの切り下げと輸入物価の高騰(逆に輸出は促進されるが)はインフレを招く可能性をも孕む。
 これに関し、ドイツの有力誌「シュピーゲル」は、「ギリシャにとってユーロからの離脱が最善の選択肢かも知れない」と論じている(ロイター、14日)。すなわち同誌論説は次のように述べている。「我が社のエディターはこれまで、ギリシャのユーロ残留を支持してきた。しかし、先の総選挙以降は意見を変えた。…ギリシャは通貨統合に参加できるほど成熟しておらず、…改革を通じて財政を健全化する試みは失敗した。…ユーロからの離脱だけが、長期的に自立するチャンスを彼らに与えることになる」と(同上)。 要するに、ユーロから離脱した時に、苦難はあっても、ギリシャはようやく自らの足で立つようになるだろう、というわけである。
 
 私も結論としてはこのシュピーゲル誌の所論に賛成である。むしろ、ギリシャは危機の深化を待たずに、もっと早くにユーロからの離脱、独自通貨への復帰と自前の金融・為替政策の回復を図るべきだったと考える。今となっても、ギリシャはギリギリ追い込まれる前に、できるだけ早くそれを決断すべきだと思う(実際には難しそうだが)
 では、ギリシャのユーロからの離脱はユーロの崩壊をもたらすかといえば、過渡的な混乱はあるとしても、それはむしろユーロ圏の病根の一つを除去することによって、長期的にはその安定化に資すると考える(「診断録」5月7日号)。また、ギリシャのユーロからの離脱は、ソブリン危機に悩む他のユーロ加盟国のユーロ離脱を誘発するのではないか、との見方もあるようだが、それらの国の国民は、むしろギリシャを他山の石としてユーロ圏残留に向けて努力するだろうと思う。そうはならずに、仮にユーロ圏離脱の国が増えても、それでユーロ圏とユーロが崩壊するわけではない。

 ユーロ圏の国の信用危機は、ユーロの為替相場の下落(円の対ユーロ高)を通じて日本経済にも苦痛をもたらすが、ユーロの下落はユーロ圏に貿易改善効果をもたらすことで、それら諸国の財政緊縮策がもたらすデフレ効果をわずかでも緩和する。そう考えて、ユーロ圏以外の国は、ユーロ安の下でも経済成長を確保できる政策を用意、推進すべきであろう。(終り)

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ギリシャの連立政府

 5月6日のギリシャの総選挙で、これまで大連立を組織していた2大政党(PASOKとNDー後述)が大敗北を喫した結果、同国は連立政府の組み直しの必要に迫られているが、マスコミ報道でおわかりのようにその組閣工作が難航している。この新連立政府組織が失敗に終われば6月中旬には再選挙が行われる。
 こうして、ギリシャは国家破産の危機に加え、大変な政治危機に陥りそうであるが、可能な限り連立政府を組織して安定政権を作ろうとする同国の政治手法には、日本としては大いに学ぶべき点があると思う。

 ここで、今回の総選挙の結果の各党の獲得議席数をまとめておく(その結果を前回の総選挙の結果と比較。前回→今回の順。ギリシャ内務省5月8日の発表、Wikipediaによる)。なお、選挙結果の第1党には50議席が加えられるので、今回の第1党NDの総選挙での実質獲得議席は合計から50を減じて評価する必要がある。
 �ND新民主主義党(82→108)、�SYRIZA急進左翼連合(13→52)、�PASOK全ギリシャ社会主義運動(160→41)、�ANEL独立ギリシャ人(0→33)、�KKEギリシャ共産党(21→26)、�XA黄金の夜明け(0→21)、�民主的左翼(0→19)、�LAOS正統民衆集会(15→0)、その他の党派(0→0)

 以上、どの政党も単独では全議席(300)の過半数(151)に達しないので連立政府を組織せざるを得ない。その際のやり方は、憲法の規定で、まず第1党から連立協議のイニシアティブをとり、その連立工作が失敗すれば次は第2党が、それが失敗すれば第3党が連立工作にあたる。以上のすべてが不成功に終った場合には、1ヵ月以内にやり直しの総選挙が行われる。
 現実のギリシャでは、すでに第1党、第2党の連立工作が不成功に終り、目下は第3党のPASOKが連立のための協議を各党と始めたところだが、これも成算に乏しく、結局、再選挙に行き着く公算が極めて大きい。このうちNDとPASOKだけがEU(欧州連合)及びIMFからの資金援助と、その条件としての同国の厳しい緊縮政策を支持、推進してきたのだが、この2党による大連立が不可能になった(両党併せての議席数は149)結果、対ギリシャ援助の履行と緊縮政策の継続が危機に陥ったわけだ。

 そこで、おそらくギリシャの運命は来たるべき再選挙の行方にかかることになる。その際、5月の総選挙で単純に緊縮政策推進の旧連立与党に鉄槌を下したギリシャ国民も、その結果起き得ることの重大さ(対ギリシャ援助の中止、ギリシャの国家破産の現実化、ギリシャのユーロ圏からの離脱)を冷静に考えて、5月総選挙とは異なる投票行動をとる可能性がある。
 その意味で、連立政府の組織を義務づけているギリシャの政治ルールと、それが不成功に終った場合の再選挙というやり方は、日本としても大いに参考にできる事であると思う。

 日本では、衆参両院でいわゆる「ねじれ」現象が起きても、真剣に連立政府(連立与党が両院で多数をとれるような)を組織する努力を行ってこなかった(とくに2009年の参院選後)。そのことが“なにも決められない政治”の基本的な原因になってきている(当「診断録」2011年6月25日号その他参照)。その点で、いまは第1党の民主党の責任は重いが、自民、公明以下の野党もそうした連立の重要性と必要性を理解していない(少なくともそれに相応しい行動をしていない)点で、やはり批判をまぬがれない。
 日本では、現行制度運用の工夫と努力、改良が行われずに、短絡的かつ単細胞的な参院廃止論(大阪維新の会などによる)が持ち出されるありさまで、その意味で、日本の政党は議会制の運用に習熟していないと言っても過言ではない。

 日本の政治家も国民も、ギリシャの財政危機について論じ、憂え、そして慨嘆し、そこから教訓を引き出すだけではなく、併せてギリシャ政治の智恵から学ぶべきであろう。(終り)

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