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ある夏の暑い日、稽古が終わって寮に戻るとその人は言いました。
「今日はソーメンが食べたい」
かなり大きな箱にソーメンがいっぱいつまったやつを、芦原先生が「寮に持って行け」
ということでいただきました。
「ソーメンを入れる器が無いですよ」というと、あれがあるよ、と先輩が指差した方向にあったのは
ガラス製の金魚鉢。
「冗談でしょ」と言うと、その人はさらっと「洗えばいい」
普通の金魚鉢ならまだしも…。
その金魚鉢には約2ヶ月前にだれかが縁日でもらってきた金魚が数匹泳いでいました。
それを世話する寮生などいるはずが無く、間も無く金魚君たちは予想通りあの世へ行ってしまいました。
その後、金魚君たちは約2ヶ月の間、玄関の靴箱の上に放置され、金魚鉢の中からヘドロのような異臭を
放っていました。誰もがその存在を自分の脳裏から消し去ろうとしていました。
顔を近づけると、「ウオェー」。それをソーメンの器にするなどという発想はだれにも浮かばなかったん
ですね。その人はどこへその中身を捨ててきたのかは不明です。
それを洗って、「これでいけるやろ」と自慢げに言っていたことと、「誰にも言うなよ」
と言われたことはいまだに忘れられない。
その後、稽古を終えた寮生が帰ってきて、その器に入れられたソーメンを見て、「美味そうですね」。
絶対バレルと思ったんやけど、だれも気づく様子が無い。それどころかみんなが「美味い」と言ってバク
バク食べていたのが脳裏から放れない。
でもその人も美味い、といいながら一緒に食べている様子を見ていると、自分もチャレンジしてみようと
勇気を出して食べてみたら、臭くなくてこれが美味しかった。
いい経験をさせてもらったけれども、繊細さのかけらもない先輩の凄さを、改めて知った一日でした。
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