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 前回、天然放射能と人工放射能の違いについて、人工的な放射能環境においてのみホットパーティクルが形成可能であること、また、この点を除いて本質的な違いはないことを述べた。ここでは、ホットパーティクルが形成され得る条件について、比放射能ー存在度(濃度)図を用いて天然と人工の放射能環境を具体的に比較し、まとめとしたい。

自己遮蔽効果
 先ず、前回にもふれた「自己遮蔽効果」について、改めて注意を喚起したい。近年、劣化ウラン(DU)の生物学的影響を評価するための一連の動物(マウス)実験が、米軍主導のもとに行われてきたが、そこでは、ミリメートルサイズのDUペレットが用いられた。


 この実験で用いられた直径1mm、長さ2 mmの円筒形DUペレットの全放射能は、比重を20とすると、およそ1380 Bqとなる(注1。このうちα壊変は590 Bqを占めるが、α線の飛程はDU中では12μm程にすぎないので、この飛程よりも深い内部で生まれたα線は、ペレットの外へ抜け出ることができず、実質的には放射されないことになる。

 概算すると、放射壊変によって生み出されたα線の中で、実際にその外部へ放射されるのは全体のおよそ3%の18 Bq相当にすぎないことがわかる。生み出された全てのα線が放射されるためには、粒子の直径がその物質中でのα線の飛程より小さくなければならない(図1参照)。β線についても同じことがあてはまる。米軍の実験は、この点で大きな誤魔化しがある(注2)

イメージ 1










図1 「自己遮蔽効果」を示す模式図。
  大きな塊の放射性物質(図の灰色)の内部で生み出された粒子線(α線やβ線)は、図中の円の半径で示した飛程より遠くへは届かないので、この円が物質からはみ出している一部の方位領域へしか放射されない(下段の円)。たとえ物質表面から放たれたものでも、その半分しか放射されない(上段の円)。


 サイズさえ大きければ天然の物質でも大きな放射能を有することになるが、その危険性という点では限界があるのである。ホットパーティクルの危険性の本質は、それが微粒子であることにもよる。一方、大きな放射能を有する微粒子が形成可能であるためには、核種の比放射能(単位質量あたりの放射能、ここではBq/g)が大きいことと、その存在度(濃度)が高いことの両方が必要になる。また、ホットパーティクルという概念が生まれた趣旨に照らして言えば、その危険性が、少なくとも一ヶ月程度は持続する性質のものでなければならない。

比放射能ー存在度図
 図2は、横軸に比放射能(Bq/g)の常用対数値、縦軸に存在度(重量濃度:ppm)の常用対数値をとったグラフである。縦軸は濃度なので、このグラフの目盛では6(100万ppm=100%)が上限になる。この座標系では、右側ほど比放射能が大きく、上側ほど存在度が大きいので、右上ほど放射能が大きいということになる。また、右側ほど半減期が小さく、短寿命である。

 ここに、平均地殻中の種々の放射性核種、閃ウラン鉱の全放射性核種を合わせた値、前回の記事で紹介した、海水中、およびアスベスト禍による悪性中皮腫患者の肺組織に形成されたフェリチン中のRa-226、使用済み原発燃料の核分裂停止5日後と1年後に含まれる放射性核種の値をプロットした(注3)

イメージ 2


図2 比放射能ー存在度図。
   天然および使用済み原発燃料に含まれる種々の放射性核種の比放射能(Bq/g)と存在度(ppmで表した重量濃度)の関係を示している。説明は本文を参照。

 平均地殻中の放射性核種としては、U-238、U-235、Th-232、および K-40が重要である。このうち、K-40は、カリウム同位体全体の0.012%(1万分の1)にすぎず、しかも、常に安定同位体のカリウムとともに挙動する。このため、カリウムは平均地殻中に豊富に存在するが、比放射能は最も小さな値となる。一方、残りの三種は、それぞれの壊変系列に属する中間娘核種が永続平衡に達して、右下方向へ連なる同一放射能の一つの直線上に配列している。

 天然で最も高い放射能値は、閃ウラン鉱の、ウラン系列とアクチニウム系列の全ての核種を合算して示した値である(図の左上の青四角)。その中のウランだけをプロットすると、使用済み核燃料のウランとほぼ同じ位置(左側の赤丸)になる。

 使用済み原発燃料に含まれる放射性核種は、天然の放射性核種の比放射能の範囲に含まれるが、半減期が2時間未満のものは核分裂停止後5日を過ぎるとほとんど消滅する。同様に、半減期が6日未満のものは1年後にはほとんど消滅する。

 これらの核種は、天然でも人工でもいろいろな条件において濃縮・凝縮したり、希釈・拡散したりするが、すくなくとも天然核種は、それらの取り得る値には限界があると考えて良い。特に短寿命核種は、天然の条件でおこる元素の移動速度に限りがあることから、濃縮や拡散のおこる範囲も限られてくると考えて良い。図3には、自然環境下で実現可能な天然核種の範囲と、ホットパーティクルの材料となり得る範囲を示している。

イメージ 3


図3 比放射能ー存在度図中、自然環境下で天然核種が取り得る領域とホットパーティクルの材料となり得る領域を示した図。

 天然で最も濃縮されたウランは閃ウラン鉱(UO2)として存在している。ウラン系列の中〜短寿命核種の天然における存在度の上限は、閃ウラン鉱中のウランの放射壊変によって生み出される平衡濃度と考えて良い。閃ウラン鉱が分解され、ウランから隔離されると、それらの核種は放射壊変によって減少するとともに、平均地殻物質によって希釈される。全体として、天然の環境では、平均地殻の濃度を中心としてプラスマイナス6桁(100万倍、および100万分の1)の範囲のものになるであろう。実際、この範囲を超える物質は、おそらく知られていない。

 一方、人工核種については、例えば原発のメルトダウン事故によって低沸点の核種が蒸発し、その後凝固することによって、元の使用済み燃料中より高い濃度にまで濃縮された粒子が生成され得る。ホットパーティクルの一部は、このようにして生成されるのであろう。図に示したホットパーティクルの材料となり得る範囲の下限(左下の境界輪郭線)は、1ナノグラムの粒子の放射能がおよそ0.001 Bqとなる濃度とした。また、半減期が5日以上の範囲に限定した。

 図3に明らかなように、天然の環境では、ホットパーティクルは生まれ得ない。この点が、天然放射能と人工放射能の決定的な違いであり、ホットパーティクルは、生命にとっては未知の物質と考えて良い。また、天然の放射能と人工の放射能のこれ以外の差異は、おそらく何もないのではないかと思う。

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注1)DUのウラン同位体の存在度を、U-238を99.75%、U-235を0.25%、U-234を0.0027%とし、また、ウラン系列のTh-234とPa-234、およびアクチニウム系列のTh-231が放射平衡に達しているとして、それらのベクレルを合算したもの。

注2)他にも、寿命の短いマウスを用いて寿命の長い人間の発がん影響を評価するすることはできないとの批判もある。

注3)使用済み核燃料に含まれる放射性核種の存在度については、平成23年6月に原子力災害対策本部が公表した東電原発事故による放射性元素の放出量についての表にリストされている核種を中心に、核分裂収率などから計算した。前提として、Wikipediaの「放射性廃棄物」のページの以下の記述にある条件を採用した。

3%濃縮ウラン燃料 1t が燃える前の組成はウラン238が 970kg、ウラン235が 30kg であるが、燃焼後は、ウラン238が 950kg、ウラン235が 10kg、プルトニウム 10kg、生成物 30kg となる。
生成物 30kg の内訳は、下記の通り。
白金族2kg、
短半減期核分裂生成物 SLFP 26kg(ストロンチウム (Sr)、セシウム (Cs)など高発熱量は 10kg、即ガラス固化できる低発熱量は 16kg)
長半減期核分裂生成物 LLFP(ヨウ素など半減期7000年前後のもの)1.2kg
マイナーアクチノイド (MA) 0.6kg(ウランやプルトニウムに近いアメリシウム (Am) やネプツニウム (Np) やキュリウム (Cm))

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