コンスタンツ通信

ボーデン湖岸の町コンスタンツに滞在していた社会学者です。帰国のためブログは終了しました。

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ドイツの学校制度

ドイツの学校制度はとても複雑だ。何度聞いてもなかなかピンと来ない。小学校から大学まで、ほぼ一直線に標準化されている日本の制度とは大きく異なる。

もっとも戦前は日本の学校制度はかなり複雑だった。中学校だの高等小学校だの師範学校、大学予科、実業学校、その他に陸海軍の学校もあったから、その路線は決して単一ではなかった。戦後の占領政策の中で、日本の学校制度はアメリカ化され、今のような標準化された単線的な制度になったのである。

ドイツの学校制度を理解する場合、日本での学校の概念を参照にして理解しようとするとうまく行かない。先週、ドイツ語会話の授業でドイツの学校制度の話になったとき、先生が面白いことを言った。

自分はこれまで何とか英語でドイツの制度を仕組みを説明しようとしてきたが、どうやら翻訳不能らしいということがわかった。これはドイツの文化として言いようがない。ドイツの学校の概念で丸ごと理解する以外にない。そう先生が言ったのである。つまり「これはアメリカのハイスクールに相当するもの」などというような説明ができないというのである。

ちなみに英語の“high school”をドイツ語に直訳した“Hochschule”とはかなり意味が違う。

では、どういうものなのか。下が、簡略化した見取り図である。

イメージ 1

黒い部分は卒業資格を意味している。一番上が「アビトゥア」で終わっているが、この先は大学、高等学校へと連なる。

先ず6歳から初等教育に入る。これを「基礎学校(グルントシューレ)Grundschule」と言う(グレーの部分)。日本の小学校にあたるもので、義務化されている。ここまでは分かりやすい。ただ、その期間は4年間だけで、その後三つのルートに分かれる。ここからが「ドイツ的」である。

一つはハウプトシューレ(Hauptschule)、もう一つは「レアールシューレ(Realschule)」、そしてもう一つが「ギムナジウム(Gynnasium)」である。(その他に、三つを総合した「ゲザムトシューレ(Gesamtschule)」というのもある。)

この中で「ギムナジウム」は比較的分かりやすい(上の図の緑の部分)。主として大学に進学するルートで、戦前の旧制高校がこれを模倣したといわれている。これが8年間。それから先が高等教育に入り、大学、技術高等学校(Fachhochschule)、神学高等学校、教育高等学校(教員の養成)などがある。これを総称して「高等学校(Hochschule)」と言うそうだが、最近は「高等学校」を「大学」に置き換え、例えば「技術大学(Fachuniversita"t)などと呼ぶようになっているそうだ。

大学あるいは高等学校への入学資格を「アビトゥア」という。これは全国一律に行う国家試験である。卒業試験だから、日本の大学入試とはちょっと性格が違うだろう。

ハウプトシューレとレアールシューレは、職業教育に向けた学校である。ハウプトシューレは5年間で、主として手作業的な職業(上の図の黄色の部分)。レアールシューレは6年間で秘書や販売員、銀行員などのホワイトカラー的職業に向けた学校だそうである(赤の部分)。ハウプトシューレを卒業すると、だいたいすぐに職業訓練に入る。しかしレアールシューレの卒業生は職業学校に通いながら実際の現場でも職業訓練を受けるようになる。

これを見ると分かるように、グルントシューレが終わった9歳か10歳のときにコースの振り分けで、その人間の一生が決まってしまうのである。ハウプトシューレに行くかギムナジウムに行くかは、その後の人生にとって大きな違いになる。グルントシューレの教員が、生徒の成績をもとにして振り分けるのだという。(もっとも、色々と途中でのコースの乗り換えの方法もあるようで、どのように乗り換えたのかもまた、後の人生に大きくかかわるようだが、そのあたりはよく分からない。)

今、この仕組みが、あまりに早くに子供の一生を決めてしまうということで、批判の対象になっているらしい。その背後にはまた、ドイツの学校制度全体の性格が最近急速に変化してきたことがあるだろう。

というのは、つい20年位前までは、ハウプトシューレに行って職人になった人は、自分の仕事に誇りをもつ「よき市民」であったという。つまり、三つのコースの振り分けが、決してその人間としての価値や尊厳の「上下」を決めるものではなかったということだろう。しかし最近は、ハウプトシューレ、レアールシューレ、ギムナジウムという三つのルートが、「勝ち組/負け組み」的な捉えられ方をされるようになてきたという。そうなると、ハウプトシューレに行った学生は、やる気を喪失してしまうであろう。

また、早期にルートが決定されてしまっているため、子供の努力と言うよりは親の収入や家庭環境が大きくものをいう。親の世代の階層格差が、子供の代に継承されるだけでなく、さらに拡大されてしまうのである。

とりわけ最近頻繁に取り上げられるのは、ハウプトシューレにおける移民家庭出身の子どもの割合の多さである。特にトルコだとかアフガニスタンだとか、中東・アジアなどからの移民・難民の子供がハウプトシューレに集中する。

言葉も充分でなく、親も学校での勉強と言うものについての理解がない場合、グルントシューレでの成績が悪くなってしまうのは、充分に理解できる。しかもグルントシューレでの三つのコースへの振り分けにあたって、親が教員に与える影響力が無視できないものになる。その点で、やはり移民出身の家庭の子どもは不利になるのである。

かつて、このドイツの学校制度は、職能的コーポラティズムとでも呼べるような社会のあり方とうまくマッチしていたのだろう。しかしいまや、これが社会の格差を助長する機能を果たすようになってしまった。

また、変化する社会の要求に対する適応が遅くなる。近年ドイツでは、IT技術者の不足が騒がれているが、それもこのような伝統的な学校制度の硬直性から来るものだろう。

またドイツの大学でも、日本のようにドイツ文学の卒業生がIT関連に就職するなどということはあまりない。大学の勉強もまた、職業と繋げられているのである。

今ドイツの学校制度は、標準化の方向に改革が考えられているようだが、なかなか実現していくのは難しいであろう。まず大学が、ここ数年のあいだ、ヨーロッパ標準にあわせるために大きく改革された。これを「ボローニャプロセス」と呼んでいる。ボローニャはヨーロッパで最初に大学が建てられた町だ。

しかし、このボローニャプロセスに伴う改革に対し、現在大学生から大きな声が上がっていることは、このブログでも以前紹介した。

考えれば考えるほど、気の遠くなりそうに困難な問題が横たわっている。

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2012/3/5(月) 午前 11:54 [ ゆうき ]

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2012/3/5(月) 午前 11:55 [ ゆうき ]

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