お母さんの卵焼き
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先日、実家からお米が届いた。
お米と一緒に入ってきたのは、プラスチックケースに入った惣菜とビールと感缶詰だった。 僕はその日の夜、お酒を飲みながら、そのプラスチックに入った卵焼きと秋刀魚の煮物を食べた。 高校に通っていたときは冷凍食品メインのおかずの弁当だったが、妹も僕も大学を卒業して社会に出て、実家に帰らない日々が続くごとに、そんな小料理を送るようになった。
薄給の今の仕事をしながら宮城に住んでもう1年以上経つ。
アルバイト掛け持ちのほうが確実に僕より高収入になれる現実に身震いし、今年に入り転職活動を続けている。 やりがいもなく、単調な日々。取引先の人とは仲良くなっても、それ以上は楽しみはない。
イラつく上司、湿った日常。くだらない恋愛劇。 全てが灰色の日々。 それを変えようと、今はせっせと履歴書を書いている。 気がつけば、今の会社に入社して、3人以上の同僚が退職。 現実に気がつかない馬鹿な上司の元で働く自分は、とても惨めに思える。 今の会社の人と働くことが惨めでならない。 希望などない。 そんな中の実家の荷物は、心温まるものである。 けれど、いいこともある。
最近は友人のつてでB’zのライブに行ったり、新しい出会いもあったりした。 反面、仲良くしていた人が惜しくも転勤により大崎を去っていく現実もあり。 それでも、おととい電話が来てある事務職の書類選考が通過し、来週面接にこぎつけたところもある。 そんな話をしたら、母親が祖母とだしあった現金を3万円振り込んでくれた。
「いいかげん、スーツを買え。そんなスーツじゃ、面接に受からない」 ここ数年、スーツを買っていない。 足元はほつれて、スーツの生地はクリーニングの繰り返しでもうだめになっていた。 今の会社に入り、心なしのボーナスでも期待したが、現実はボーナスどころか会社全体の赤字を抑えるために、全社員の給与10パーセントカットにまで踏み切る。
上司の「頼む」の判子を付くしかなすすべはない。 去年の話で、今は解消されたが、その紙切れは今も社長の懐にあり、いつでも発動できる効果を持つ。 そんななか、今日は久しぶりに振り込まれたその現金でスーツを買った。 1万五千円でリクルートスーツ。 接客してくれた店員の笑顔は、その昔、不動産をやっていたころの自分の笑顔に似ている。 「今日も売上げが上がった」 「今日も契約が上がった」 あの頃のがむしゃらな僕の顔に似ていた。 名刺をもらうと、肩書きは「主任」だった。 「ねぇ、年収いくら」 そんな惨めな質問を心の中でしていた。 よほどお金が足りないんだろうね、僕は。 次の面接をチャンスとして確実につかみたい。
僕はその面接のために、来週は一日、なにがなんでも仮病を使い休む。 僕の未来をよくするための一歩であり、就業中に転職活動とか、そんな生半可な気持ちではない。
もう決めなきゃならない。
その先に描く未来は果てしなく今より確実に明るくなる。 そんな思いを描きながら、一日が過ぎ、今日、またお酒を飲みながら、お母さんから教えてもらったその卵焼きのコツをもとに、自分でも作ってみた。
めんつゆにつけて食べている。
お母さんの卵焼きにはまだまだかもしれないが、自分なりにはよく焼けたと思う。
いつか、卵焼きでは返せないけれど、何らかの形で親孝行をしようと思う。
その為にも、いい流れできているのチャンス。
今は逃すわけにもいかない。
明日、すそ上げされた新品のリクルートスーツを引き取りに行く。
戦いは身だしなみと、後は僕の会社に対する思い。 そして何よりも「希望」を元に頑張りたい。
ふと、寒い風が吹く。
もう、秋がそばにいる。 就職も恋も気が付けば時間が経って消えていた。
そんなことがないようにしたい。 就職も恋も同時進行で、チャンスを自分の手につかんでいきたい。 |





