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この連載の初回にも取り上げたが、今一度触れたい。ベネズエラにあるアブレウ博士が創設したナショナル・ユースオーケストラ(NYO)である。
オーケストラで貧民層の子供達を善良な市民に育成する活動を30年間実践してきた博士は、彼等の才能を引き出し質の高い音楽家に育成することにも熱心だ。全国からオーディションを経て選ばれた子供達は首都カラカスに移り、NYOのメンバーとなる。ユースオーケストラを運営する財団(国が大半を出資、年間予算約10億円)が子供達の生活費を賄う。
14歳から23歳までの団員で構成されるNYOはベルリン・フィルやウイーン・フィルの団員達から定期的な指導を受け、志の高い演奏家に育っていく。幾度か欧米の演奏旅行を経験し、ヨーロッパの国際コンクールで優勝した指揮者やベルリン・フィルに最年少で入団した弦楽器奏者を輩出した。昨年カラカスでこの指揮者によるラヴェルの難曲を聴く機会があったが、実に音楽性の高い緻密な演奏をしていた。博士はユースオーケストラの概念を大きく変えたと思う。
音楽関係者が博士に注目するのは、「音楽は不幸を希望に変える」という彼の信条が国の援助で見事に結実されているからだと思う。アバド、ラトル、ドミンゴら、共演した数多のスターも感激を隠さない。アブレウ博士をサポートしているベネズエラは世界で最も優れた音楽先進国と言えるかもしれない。音楽の犯罪抑止力に関心を持つ私も博士から多くを学びたい。
最終回にあたり、執筆の機会を与えて下さった新聞社、助言を頂いた読者の皆様や友人達、慣れない仕事を励ましてくれた妻ひろみに感謝したい。
(佐藤正治=梶本音楽事務所取締役)
2006年3月14日付東京新聞
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