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経済はだれにでも分析できる。そして、国内の政策や世界の外交・安全保障・軍事も経済を通してその真偽を見抜ける。
2017.3.18 18:00
【田村秀男のお金は知っている】トランプ政権の圧力で円高に転じるのか? 現行水準周辺でふらふらする公算も大きいが…


日米の実質金利差と円相場の推移
 3月は年度末で企業収益や株価に影響する円の対ドル相場が気がかりだ。トランプ米政権の円高圧力は相場に影響するのか。(夕刊フジ)

 拙論が為替相場動向を見る場合、重視するのは米国の実質金利から日本のそれを差し引いた日米の実質金利差である。
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 グラフは円の対ドル相場と並列させている。昨年秋の米大統領選前からの円安・ドル高基調が昨年末で止み、円相場はこのところ1ドル=115円前後に落ち着いている。実質金利は日米それぞれの10年もの国債利回りと2通りの消費者物価上昇率の差を計算した。

 2通りの物価とは、食料品を除いた「コア指数」と、食料品およびエネルギー関連を除いた「コアコア指数」である。一目瞭然、コア指数ベースの実質金利差は米大統領選前には円相場とかなり強く連動してきた。金利差が拡大すれば円安、縮小すれば円高という具合である。ところが、エネルギー価格を除外したコアコア指数ベースの実質金利差と円ドル相場の相関度はかなり弱い。

 そこで、コア物価・ベースの実質金利差に焦点を合わせてみたが、昨年秋以降はそれまでとは一転して円相場は逆に振れている。実質金利はその通貨建て資産の価格とみなされ、市場では通常、実質金利が高い通貨が買われる。今年に入って実質金利差がゼロにまで縮小したが、このままだと円高・ドル安局面にいつ入ってもおかしくないし、今の円・ドル水準は「異例」ということになる。

 この要因の一つは、トランプ効果だ。インフラ投資、大型減税など従来の政権が背を向けてきた景気刺激策に踏み出すというトランプ政権への期待がドル買いにつながった。そのトランプ政策が実現するかどうかは議会審議待ち、ということで市場は売り買いの方向を決めかねている。

 石油などエネルギー価格動向も見逃せない。実質金利差が物価指数のコアとコアコアで大きく違ってくるのは、米国のエネルギー価格の変動幅が日本よりかなり大きいためだ。今年1月の米エネルギー物価は前年同期比で10%強上昇しているのに、日本は1%弱のマイナスである。エネルギー価格を決定づける原油価格はここに来て下がり始めた。原油生産過剰が顕在化しつつあり、下落傾向が長引く可能性もある。

 石油価格下落に米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げも重なると、米実質金利が上昇し、日本との金利差が拡大し、ドル高・円安に振れる。

 4月には先の日米首脳会談で決まった日米の経済対話が始まる予定で、日銀や財務省は神経質になっている。金融緩和と円安が同時進行すれば、かねてより「円安誘導」批判を繰り返してきたトランプ大統領をさらに刺激する。

 さて円高か、円安のどちらに向かうか。結局、それぞれの要因が打ち消し合うので、現行水準周辺でここしばらくの間、ふらふらする公算大だが、米議会、FRB、原油価格、日米対話の4大要因を注視するしかない。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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2017.3.11 10:00
【田村秀男のお金は知っている】「媚中」メディアが盛り立てる全人代の経済無策 打つ手に窮し、習氏を「核心」と連呼


人民元の資金量と対ドル相場
 中国の全国人民代表大会(全人代)が北京で開かれている。全人代の正体は共産党中央が前年12月までに決めた経済政策を国家の政策に変えるためのダミー組織なのだが、「国会に相当」と注釈して日本の議会と同一視する朝日新聞や日経新聞などメディアの「媚中」ぶりにはあきれる。(夕刊フジ)

 それはさておき、全人代報告を注意深く見れば、習近平政権は米トランプ政権の対中強硬策になすすべもなく自壊しかねない-という中国経済の様相が浮かび上がる。
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 グラフは、人民元の対ドル相場と中国人民銀行の外貨資産(外貨準備)の人民元発行残高に対する比率の推移である。2015年8月以降、人民元相場と同時並行して外貨資産比率が急速に落ち込んでいる。

 補足説明すると、人民元は「管理変動相場制」と称される。建前は当局が毎日の対ドル基準レートを設定し、基準値の上下2%までに変動幅を許容する方式だが、大半の場合は0・5%以内に抑えるよう、当局が外国為替市場に介入している。その結果、極めて小刻みで、なだらかな元安誘導に成功している。

 歴代の共産党政権が腐心してきたのは、元の対ドル相場の安定である。中国人一般はそもそも自国の紙幣を信用せず、金(きん)か、ドルに換えたがる。そこで北京は「人民元乱発」の印象を世間に与えないように、元資金発行を流入するドルに合わせてきた。人民銀行が指定する交換レートで市中銀行からドルを買い上げ、発行した人民元を供給するという仕組みである。

 08年9月のリーマン・ショック後、米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和政策をとってドルを大量発行すると、ドル発行増額相当のドルを買い上げた。その結果、人民銀行の外貨資産(外貨準備)の対元資金発行残高比率は100%、つまり元はドルに完全に裏付けされていた。

 ところが、15年夏から資金の対外流出が激しくなり、人民銀行は元暴落を阻止するために外貨資産を取り崩さざるをえなくなった。

 従来の元発行・ドル資産連動制を維持しようとすれば、元発行量を大幅に縮小せざるをえない。すると、市場へのカネの供給が急激に細って、強烈な金融引き締めが経済を襲い、不動産市況は崩壊、過剰生産に苦しむ国有企業は破綻し、大不況になる。

 そこで、党中央は人民元を外貨資産から切り離して大量発行して、市中銀行の融資増加率を2桁台に維持し、実質経済成長率目標を6・5%前後に設定した。融資は異常に膨張した企業や地方政府の債務増を招く。現預金量は融資増加率と同水準で膨れ上がる。企業も個人も当局規制の抜け穴を通じて元を売り、海外に資金を持ち出す。外準はすでに対外負債を大幅に下回り、実質ゼロ以下だ。

 最も都合のよい解決策は輸出の増強による外貨獲得だが、トランプ政権は対中貿易制裁関税という棍棒(こんぼう)を手にしている。打つ手に窮した全人代は、ひたすら習近平主席を「核心」と連呼するしかないようだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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【田村秀男の経済から世界を読む】習近平党政権はトランプ米強硬策に耐えられるか
2017.3.6 13:00

 中国共産党案を国家政策として承認するための全国人民代表大会(全人代)が5日、開幕した。タイミングを合わせるかのように、トランプ米政権は矢継ぎ早に通商と軍事の両面で対中強硬策を繰り出した。習近平党政権は耐えられるか。
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 ◆中国鉄鋼に制裁課税

 2月末、米商務長官に就任したウィルバー・ロス氏は中国を「最も保護主義的」と名指しし、「準備が出来次第、対中具体策を発表する」と言明。トランプ大統領は国防費の前年度比10%増額方針を議会に提示した。

 3月1日にホワイトハウスは、世界貿易機関(WTO)ルールに束縛されずに米通商法報復条項(301条)を発動する「2017年大統領の通商政策」を発表し、3日には中国の鉄鋼製品への制裁課税を決めた。これらは大統領直属の国家通商会議(NTC)のピーター・ナバロ委員長が作成中の通商・通貨と軍事一体の対中強硬策の前触れだ。

 習政権は軍事支出の増額を打ち出すが、軍拡予算を裏付ける経済力に不安を抱える。経済成長率目標は6.5%前後に落ち込む一方で、国内総生産(GDP)の10%近くの資金が海外に流出している。

 思い起こすのは1980年代のレーガン政権の対ソ連強硬策である。レーガン大統領はアフガニスタン侵攻など対外膨張政策を展開するソ連に対抗し、戦略防衛構想(通称「スターウォーズ」)を打ち出すと同時に、高金利・ドル高政策をとって石油価格を数年間で3分の1に急落させた。国家収入をエネルギー輸出に頼るソ連は軍拡競争に耐えられず弱体化し、90年代初めに崩壊した。

 トランプ政権もまた、中国の弱点を確実に衝いてくる。貿易面での制裁が対米輸出に打撃を与えるばかりではない。米株高と連邦準備制度理事会(FRB)による利上げは中国からの資本逃避を促す。

 ◆実質は対外債務国

 中国人民銀行は人民元防衛のために外貨準備を取り崩す。3兆ドル弱の外準は中国の対外負債4.7兆ドルを大きく下回り、実質的には対外債務国だ。アジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導し、全アジアを北京の影響下に置こうとするもくろみは危うい。

 グラフは、中国からの資金流出と米株価の推移である。昨年秋からの米株価の上昇は「トランプ・ラリー」と呼ばれる。トランプ氏のインフラ投資、法人税減税路線の先取りによるとの見方だが、実際には中国の逃避マネーによって押し上げられた株価が飛躍したようだ。中国からの資金流出額は昨年12月には2895億ドル(昨年10〜12月の合計額)と、半年前の1508億ドル(昨年4〜6月の合計額)から約2倍に膨らんだ。この間に米株価は1200ドル弱上昇した。トランプ政権は図らずも中国のマネーパワーを吸い取っている。

 北京は資金流出や人民元暴落阻止に向け、旅行者による海外での「爆買い」禁止などを打ち出しているが、小手先では対応仕切れない。金融を引き締めると国内景気が持たない。逆に、銀行融資を急増させて不動産相場の下支えや地方政府のインフラ投資の後押しに躍起になっているが、結果は地方政府や企業債務の膨張、すなわち人民元マネーバブルであり、暴落不安がつきまとう。習近平党総書記(国家主席)は全人代でどんな答えを示すだろうか。(産経新聞特別記者)

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2017.3.4 10:00
【田村秀男のお金は知っている】膨張続ける中国マネーバブル 年間100兆円規模の資金流出


中国と日米欧の現預金総額 2016年末
 中国人団体客による「爆買い」ブームは去ったが、富裕層は個人ベースで来日している。所は東京都心の某老舗の鰻屋さん。お隣のテーブルに座った中国人の若いカップルは最高額の1人前1万数千円のセットを注文。横目で見ると、何とキャビアが来た。中国のお客さんは値段が高くないと満足しないので、「黒いダイヤ」をセットメニューに盛り込んだとか。(夕刊フジ)
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 そういえば、1980年代末、バブル経済ピークの日本でも、カネに糸目をつけず飲み食いする御仁もいた。さて、中国のマネー・バブルはどうなのか。

 グラフは日本、米国、中国と欧州連合(EU)の現預金総額である。中国のそれは2600兆円を超え、958兆円の日本はもとより、中国より国内総生産(GDP)規模がはるかに大きい米欧をも圧している。

 1人当たりの現預金で見ると、人口13億人以上の中国は日本より少ないのだが、約1割超とみられる中間層以上に限定すると、世帯当たりの現預金は平均で2000万円程度あっても不思議ではない。実際に、知り合いの上海市民に聞くと、預金レベルは2000万円以上、マンションを2軒持つのが普通だという。

 そのマネーパワーが今、海外を席巻している。大いに飲食や観光で散財してくれるのは結構だが、不動産投資となると各地の景色を中華色に染めかねない。中国人による不動産の爆買いが進む豪州では町並みの景観保全のために、自治体政府が建築審査基準を厳格に適用しようと四苦八苦している。

 日本でも、産経新聞で適宜連載の「異聞 北の大地」が報じるように、中国人投資家が札束にモノを言わせて北海道各地を買い占めている。国土交通省は規制どころか、外国人による不動産買いを円滑にするためのガイドラインを作成している(2月26日付産経朝刊)。まとまった頭金をポンと用意する中国人旅行者目当てに、永住権がなくても外国人向けに住宅ローンを提供できるよう内規を変えた大手都市銀行もある。

 そこで気になるのは、チャイナマネーの膨張ぶりだ。2016年末の前年比増加率は11・3%で、日本は4%に過ぎない。中国本土は不動産市況の悪化や経済成長の減速が目立つが、カネだけは従来通り2ケタ台で伸び続けている。

 中国人民銀行はもともと外貨準備(外準)増加額に合わせて人民元を発行していたが、14年からは外準と切り離した。外準の裏付けのないカネがどんどん増え、中国からは年間100兆円規模の資金流出が起きている。それでも人民元が紙切れにならないのは、当局が外準を取り崩して人民元相場を買い支えているからだ。

 日本や米国が中国のマネーパワーを封じ込めたいなら、変動相場制に移行させるしかない。市場原理にまかせると人民元相場は暴落しかねず、対外投資はやむはずだ。だが、トランプ大統領だって、中国企業の対米投資を大歓迎するのだから、先が思いやられる。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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2017.2.26 08:00
【田村秀男の日曜経済講座】虚妄の米ドル安路線 「貿易赤字削減」は偽情報だ


 トランプ米大統領は経済・通商の閣僚・スタッフの陣容が固まり次第、主要貿易赤字相手国の通貨に対してドル安攻勢を仕掛けそうだ。為替市場に当局が介入、管理している中国や韓国などと、完全に自由な変動相場制の日本を混同するのは論外だが、その前にトランプ政権に物申すことがある。ドル安で貿易不均衡を解決できるという見方は虚妄であると。

 まずはグラフのドルの主要通貨に対する実効平均相場と米貿易赤字の前年比増減率に注目しよう。ドル相場はプラスがドル安、マイナスがドル高で、貿易赤字はゼロ軸から上方が赤字減を表す。一目瞭然、ドル安時で貿易赤字が減るケースはまれで、ドル安期間の大半で赤字が増えた。

 貿易不均衡の幅を動かす主因はドル相場ではなく、景気である。2002年から07年にかけて赤字が大幅に増えたのは、米国の住宅バブルに伴って輸入が急増したためであり、07年のバブル崩落、08年9月のリーマン・ショックを機に内需が大きく減退すると、輸入が急落して赤字が一挙に縮小した。こうした事実は米政財界や米メディアにはわかりそうなものだが、拙論が知る限り、「貿易赤字とドル相場は無縁」との言説は聞こえてこない。

 経済学上は、好況時には消費が増えて貯蓄が減り、投資に貯蓄が追いつかない。この貯蓄不足分が貿易赤字に相当すると説明できるが、いかにもわかりにくい。

 結局、「ドル安=貿易赤字縮小」「ドル高=赤字拡大」とする考え方が、わが物顔に横行する。トランプ流に言えば、それこそ恐るべき虚偽(フェイク)情報なのだが、トランプ氏自身は真実だと信じているようだ。

 それにしても、なぜドル安は米指導層をひき付けるのか。答えはグラフの米対外資産増減率にある。

 米国は世界最大の対外債務国であると同時に最大の対外資産国で、海外資産規模は昨年9月時点で約25兆ドルに上る。海外資産は米企業などの対外投資によって増減するのだが、それより大きい変動要因はドル相場である。

 現地資産のドル評価額はドル安・現地通貨高で増え、ドル高・現地通貨安で減る。ドルが他通貨に比べて10%下がれば2兆5千億ドル弱、海外資産が膨らむ。モノとサービスの合計の米貿易赤字は年間で5千億ドル程度で、2%ドル安になればその赤字分は楽々とチャラにできるわけだ。

 ドルは基軸通貨なので、世界のどの国の資産でも何の障害もなくドルに換算できる。半面、外国企業の在米資産はもちろんドルだ。ドル安にすればするほど、米国の海外資産から外国の対米資産を差し引いた米国の純負債は減る。

 歴代の米大統領はそんな基軸通貨の特権を活用する誘惑に駆られ、ドル安政策に踏み出した。

 米国が純債務国に転落しかけた1985年9月、「強いドル」を標榜(ひょうぼう)していたはずのレーガン政権は日本、西ドイツなどを巻き込んでドル安誘導のためのプラザ合意を演出した。90年代前半のクリントン政権は「日本たたき」のため円高・ドル安誘導政策にのめり込んだ。2001年発足のジョージ・W・ブッシュ政権は住宅市場刺激策と合わせてドル安路線をとった。

 だが、一本調子のドル安は恐るべき災厄を招く。1987年10月の史上最大規模のニューヨーク株価暴落、そしてリーマン・ショックが代表例だ。97年のアジア通貨危機はクリントン政権が95年にドル高路線に切り替えたのに、東南アジアや韓国が適応に失敗したからだ。

 さしあたり、痛い目に遭わないとしても、債務国米国の金融界はドル安には不安を感じるはずだ。ニューヨーク・ウォール街は世界の投資家から資金を集めて国内に回すばかりでなく、世界に再配分して荒稼ぎする。海外の投資家はドル安で莫大(ばくだい)な為替差損を被りかねないのだから、ワシントンがドル安容認路線をとるなら、対米投資に腰が引ける。顧客がそうならウォール街のためにもならない。

 4月には、先の首脳会談で合意した包括的な日米経済対話が始まる。トランプ大統領は、選挙公約通りインフラ投資や大型減税に踏み切るためには、世界最大の純債権国日本からの投融資に頼らざるを得ない。したがって、円安批判を自粛するかもしれないが、まだまだ先は長い。上記の通り、ドル安の誘惑はトランプ氏にもつきまとう。

 安倍晋三政権はトランプ政権に対し、「弱いドル」は米貿易不均衡是正ばかりでなく「米国第一主義」を損なうと警告すべきだ。

(編集委員)

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