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経済はだれにでも分析できる。そして、国内の政策や世界の外交・安全保障・軍事も経済を通してその真偽を見抜ける。
2017.1.8 16:00
【田村秀男の日曜経済講座】日本のメディア・学界の緊縮財政派もいい加減に目覚めたらどうか? 米国「シムズ理論」に学べ


 20日には米国でトランプ政権がスタートし、共和党主流派が否定してきた拡張型財政政策を導入する。同じ頃、日本では来年度政府予算案を審議する通常国会が召集される。日経新聞などメディアや学界の多数派は財務官僚に同調し、まるで念仏を唱えるかのように緊縮財政に固執するが、米国ではデフレ圧力のもとでは財政赤字が有効という財政論「シムズ理論」(後で詳述)が主流になりつつある。日本の“主流派”もいい加減、目覚めたらどうか。

 財政均衡は緊縮財政ではなく、経済成長によってこそ達成される。ゼロ成長では財政収支が悪化する。グラフは中央および地方政府と、公的年金や健康保険などの「社会保障基金」で構成される一般政府の資金収支(マイナスが資金不足)の名目国内総生産(GDP)比と名目GDPの推移である。一般政府の資金収支は国家財政の健全度を表すプライマリーバランス(国債関連費を除く財政の基礎的収支)とほぼ一致しており、その不足のGDP比が小さくなるほど財政は健全化するとみなされる。平成20年前半にはマイナス1・5%台まで改善したが、同年9月のリーマン・ショック後はマイナス9・3%台まで悪化した。

 アベノミクスが本格的に始まって以来、改善速度はめざましく、昨年9月にはマイナス2・2%台まで上昇した。グラフで一目瞭然、名目GDPの伸びとの相関度合いは極めて高い。名目GDPという経済のパイが大きくなるにつれて、財政が健全化している様子がわかる。

 理由は簡単だ。経済成長すれば、その分、税収が増える。成長率がさほど高くなくても、異次元金融緩和を受けた円安で法人税収が増えるし、株高に伴う資産効果で公的年金などの資金収支がよくなる。26年度の消費税率引き上げ後は名目成長率がゼロ%台に落ち込んだまま推移している。その結果、28年度の税収は減少に転じ、資金収支の改善に悪影響が出そうだ。

 円安・株高は増税や財政の緊縮によるマイナス効果をかなり小さくするのだが、円高・株安になると負の効果は増幅されるリスクが生じる。

 いまのところ、トランプ効果に伴う円安と株高で日本の財政収支も恩恵を受けそうだが、しょせんは投機相場である。わずか140字以内のツィッターで強烈なメッセージを繰り出すトランプ氏が米産業界の不満を背に受けて「円安はけしからん」とでも言い出せば、マーケットでは逆風が渦巻きかねない。なおさら、内需を着実に高める財政が鍵になる。

 ここで、冒頭で引き合いに出した「シムズ理論」を説明しよう。米プリンストン大のC・シムズ教授は、日本の消費税増税後のデフレ圧力を念頭に、金融緩和を生かすためには財政支出拡大が必要と論じている。日銀はマイナス金利政策を続けているが、マイナス金利は政府の金利負担を減らす代わりに、家計など民間の金利所得を減らす。収益の減少を恐れる銀行は融資を渋るので、デフレ不況になる。それを回避するためには、政府が財政赤字にこだわらず財政支出を拡大すべきで、消費税率引き上げは脱デフレを達成した後に繰り延べるべきだという理論である。

 シムズ教授は伝統的なケインズ理論ではなく、市場原理を重視する「新古典派」と呼ばれる学派に属し、データ分析に基づく実証を重んじている。新古典派が多数を占める米国学界への影響力は大きく、内閣官房参与の浜田宏一米エール大学名誉教授によると多くの経済学者が同調しつつある。浜田参与は2月初め、シムズ教授を日本に招く予定だ。
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 来年度政府予算案はどう評価すべきか。日経は一般会計が97兆4547億円で過去最大だとみなし、「薄氷の財政健全化」「アベノミクスに綻(ほころ)び」(昨年12月23日付朝刊)と批判する。だが、拡張型はあくまでも当初予算比であり、2、3次の補正を経た今年度予算に対しては2・7兆円余り減る緊縮型である。

 景気が思わしくない場合、安倍晋三政権は補正を組む腹積もりのようだが、あわてて一過性の補正に走るのは、あまり誇れない日本のお家芸だ。当初予算からきちんと計画して、インフラ、教育、防衛、子育てに政府資金を投入する方が家計も企業も将来に対する確信が生まれ、消費や設備投資・雇用を刺激するはずなのに、景気情勢の後を追う財政出動で、財務官僚のやりくりに依存する。

 財政主導で日米が足並みをそろえる。従来の考え方、枠組みを超える米国の財政新潮流から学ぶべきではないか。 (編集委員)

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【田村秀男のお金は知っている】経済界に欠ける「日本第一」主義 トランプ氏「米国第一」主義の意味合い


米デトロイトで米国への巨額投資を打ち出したトヨタの豊田章男社長=9日(ロイター)
 2017年はトランプ米政権の発足により、自由市場経済への通念が大きく変わろうとしている。投資は利益の最大化を求める企業の自主判断にまかせるという建前が崩れ、政治がビジネス活動に口を出しても当たり前の時代になってきた。(夕刊フジ)

 トランプ次期大統領が繰り出す短文の「つぶやき」(ツイッター)の威力はすさまじい。フォード・モーター、キャタピラーなどの米大手企業はメキシコ投資計画が批判されると、ただちに撤回を表明した。ツイッター爆弾はトヨタ自動車の頭上でも炸裂(さくれつ)し、豊田章男社長はさっそく米国での記者会見で、今後5年間で米国に100億ドル(約1兆1600億円)を投資すると釈明する具合である。

 米国が自由主義の本家を自認するなら、「政治はビジネスに介入するべきではない」との猛烈な反発が起きるはずなのに、気配はほとんどない。米国がそんなざまだからトヨタが慌てるのは無理もないが、メキシコ投資は予定通り実行するとも断言し、グローバル企業のスジを通すところは、称揚されるべきか。

 それでも重視すべきは、トランプ氏の「米国第一」主義の意味合いである。そのフレーズを「本国第一」と言い換えて、日本に適用すれば「日本第一」となる。それを安倍晋三首相が唱え、経団連メンバー企業に「対中投資をやめて日本に投資せよ」と言えばどうなるだろうか。中国市場からの撤退を考えている企業はともかく、これからも追加投資を計画している自動車大手などには馬耳東風だろうし、新自由主義思想を米国留学で身に付けた経済産業省などの官僚たちも「総理、それはダメです」と抑えにかかるだろう。

 だが、ビジネスで本国を最優先するという考え方は、米国に劣らず日本にとっても喫緊の課題のはずである。アベノミクスでいくら円安・株高に誘導しても、企業が高収益をあげても、国内の賃金・雇用に回らず、企業の内部留保が膨らむ。日銀が毎年80兆円の資金を金融機関に供給しても、その大半は日銀当座預金に滞留し、融資に回らない。これらの資金はどこに行くかと見てみると、米国など海外での企業合併・買収(M&A)であり、銀行の対中国向け大型融資だったりする。

 その結果、国内経済はデフレ圧力が慢性化している。経団連となると、賃上げを渋ると同時にデフレをもたらす緊縮財政を安倍政権に迫る一方だ。経済再生を担う意欲と責任感があるのだろうか、疑問だ。

 企業の自由は無論、尊重すべきだ。しかし、わが国の産業界は本国軽視、海外優先にあまりにも偏重してはいないかと思う。トランプ次期政権の場合、覇権国米国の経済が弱体化することへの焦燥がある。経済力を背景に軍事力を膨張させる中国の脅威をトランプ氏のアドバイザーたちが感じ取っていることがある。残念ながら、そんな危機感は同盟国日本にない。政治の口先介入を拒むなら、経済界は自主的に「日本第一」を意思決定要因に加えるべきではないか。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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2017.1.7 10:00
【田村秀男のお金は知っている】日本にも矛先向けかねない…トランプ政権見習い緊縮財政転換を

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一般会計の緊縮度
 年が明け、20日には米トランプ政権がスタートする。これまでのところ、トランプ政策への期待から米株高、円安・ドル高が進行し、アベノミクスへの追い風になっているが、投機的な市場には必ず揺れ戻しがくる。トランプ氏は大統領就任後もわずか140字のツイッターを活用すると言明しているが、例えば突如「円安はけしからん」とつぶやくだけで、為替相場は反転しかねない。トランプ氏は中国を「為替操作国」として非難し、中国からの輸入製品に対して45%の報復関税をかけると息巻いてきたが、日本からの対米輸出が急増するようだと日本にも矛先を向けかねない。(夕刊フジ)

 こうしたリスクが消えない以上、日本としてトランプ相場頼みを避け、内需主導型成長を目指すのは当然だし、安倍晋三政権がそうした路線を明確にすればトランプ政権との緊密な関係を築けるだろう。その鍵は、財政政策にある。

 トランプ政権は共和党保守本流の伝統的な緊縮財政に背を向け、財政赤字にこだわらずインフラ投資による財政支出拡大をめざしている。安倍政権は昨年秋の大型補正により、財政重視を打ちだしたが、与党への財務省の影響力は根強く、緊縮財政路線を廃棄できないでいる。従来の発想、枠組みに縛られないトランプ流に比べると、日本伝統のやり方は景気が下降してあわてて補正を行うという一貫性のなさだ。

 大型補正予算を組むゆとりがあるなら、当初予算からきちんと計画して、インフラ、教育、防衛、子育てに政府資金を投入するほうがはるかに効果的だろうに、そうしない。中長期的な財政資金の投入を継続することを鮮明にすれば、家計も企業も将来に対する確信が生まれ、消費や設備投資・雇用を刺激するはずなのに、いつも追い込まれてからの財政出動で、しかも一過性である。そこで予算をやりくりするのがエリート財務官僚というわけだが、弱々しい成果しか挙げられない。

 グラフは一般会計の前年比の推移である。緊縮度は予算総額の前年比増減額から税収増減額を差し引いて算出した。税収が増えても、財政支出を通じて民間に還元しないと、民間の所得が奪われる。安倍政権はアベノミクスを本格的に作動させた2013年度、緊縮度はゼロに近かったが、14年度には消費税増税と歳出削減の超大型緊縮財政に踏み切った。15年度も緊縮を続け、16年度も当初予算でさらに緊縮を継続。すると消費は不振に陥ったままで、物価は下落し、デフレ局面に舞い戻った。税収も減り始めた。そこで2、3次の補正予算を組んだ結果、拡張型に転じた。

 ところが、17年度当初予算はトランプ効果による円安・株高の陰に隠れて目立たないが、補正後の16年度予算に比べてかなりの緊縮になっている。円高、株安に反転しようものなら、またもやあわてて補正という図式がみえみえだ。これほどの経済大国でありながら、事なかれ主義の官僚の采配に国家予算が委ねられる先進国はほかにあるのだろうか。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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【田村秀男のお金は知っている】自滅の道に踏み出した中国経済 トランプ氏きっかけに資金流出が大幅加速、人民元の下落も止まらず
2016.12.24
高騰する中国の市場金利と人民元安
 中国共産党は1972年2月のニクソン大統領(当時)以来、歴代米大統領に対して台湾を中国の一部とみなす原則を一貫して認めさせてきた。トランプ次期米大統領は「それに縛られない」と明言する。習近平国家主席・党総書記の面子(メンツ)はまるつぶれである。(夕刊フジ)
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 北京は何か報復行動をとるかとみていたら、19日にフィリピン沖の南シナ海で米軍の調査用無人潜水機を奪取した。20日には米軍に返還したが、時間をかけて潜水機のデータを調べ上げた。露骨な国際法違反である。粗野でぞんざいなふるまいを見せつけることが、相手の面子をつぶすと考えるところは、魯迅の『阿Q正伝』そのものだ。

 中国はみかけのうえでは国内総生産(GDP)や対外純資産規模で世界第2位の経済超大国でも、中身は悪弊にまみれている。慢心すれば必ず失敗する。人民元の国際化を例にとろう。

 昨年11月には習政権の執念が実り、国際通貨基金(IMF)が元をSDR(特別引き出し権)構成通貨として認定させた。限定的ながら金融市場の規制を緩和し、人民元の金融取引を部分自由化した。同時に中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)を創立し、国際通貨元を世界に誇示しようとした。

 ところが、昨年8月に人民元レートを切り下げると、資本が逃げ出した。当局が規制しようにもどうにも止まらない。

 この11月までの12カ月合計の資金純流出額は約1兆ドル(約118兆円)、このうち当局の監視の目を潜った資本逃避は約5000億ドルに上ると米欧系金融機関のアナリストたちは分析している。

 特徴は、11月8日の米大統領選後の11月9日を機に、資金流出が大幅に加速していることだ。当選したトランプ氏が減税とインフラ投資という財政出動を通じて、景気を大いに刺激すると期待されるために米国株が急上昇し、中国に限らず世界の資金がニューヨーク・ウォール街に吸引される。

 中国に対して強硬姿勢をとるトランプ氏にチャイナマネーがおびき寄せられ、トランプ政策に貢献するとは、習政権はここでも面目なしだが、もっと困ることがある。

 グラフを見よう。米大統領選後、元安と市場金利上昇にはずみがついた。いずれも資金流出による。中国人民銀行は元暴落を避けるために外貨準備を取り崩し、ドルを売って元を買い上げるが、それでも元売り圧力はものすごく、元の下落に歯止めをかけられない。商業銀行の手元には元資金が不足するので、短期市場金利である銀行間金利が高騰する。すると、金融引き締め効果となって、莫大(ばくだい)な過剰設備を抱える国有企業を苦しめる。地方政府も不動産の過剰在庫を減らせない。企業や地方政府の債務負担、裏返すと銀行の不良債権は膨らむ一方だ。

 トランプ政権発足を目前に、中国は経済で自滅の道に踏み出した。経済超大国としての要件を満たしていないのに、対外膨張を図ろうとしたからだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)

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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161220-00000067-san-bus_all

米国第一主義、トランプ氏が「沈む中国」を踏み台に なだれこむ巨額資金

産経新聞 12/20(火) 7:55配信
 米国金融市場のトランプ・ブームのおかげで日本も株高・円安だが、いつまで続くか。見逃せないのは国際金融市場を動かす潮流の大変化だ。中国から巨額の資金が逃げ出し、米市場へとなだれこむ。米国第一主義のトランプ氏が「沈む中国」を踏み台にしている。

 論より証拠。中国からの純資金流出(流出と流入の差額)と米株価の推移をグラフでみると、その連動ぶりは米大統領選前から際立っている。中国からの資金流出規模は膨らみ続け、この11月までの12カ月合計で1兆ドルに及ぶ。

 流出には、中国企業による米欧企業買収や旅行者の「爆買い」も含まれるが、米欧のアナリストの多くは、当局の取り締まりをくぐり抜けた資本逃避が5千億ドルに上ると推計している。資金流出は外国為替市場での元売りを伴い、元相場を暴落させかねない。中国人民銀行は外貨準備を取り崩して元を買い支えている。

 逃避資金の大半はドル資産となって香港、ケイマン諸島など租税回避地(タックスヘイブン)に移る。最終的にはドル金融の総本山、ニューヨーク・ウォール街を潤す。債務国米国は、年間で約1兆ドルの外部資金流入を必要としているが、その多くは中国発の逃避資金で賄われる。

 トランプ氏は中国の通商、通貨や南シナ海への軍事進出などについて厳しく批判し、従来の米政権が踏襲してきた「一つの中国」容認路線に束縛されないと強気に出る。背景には、一方的な中国からの巨額資金奔流がある。2009年の政権発足当初、米国債購入を北京に頼み込んで以来、北京に軟弱姿勢で一貫してきたオバマ政権とはわけが違う。

 トランプ氏は、議会多数を占める与党共和党主流派とは金融規制の撤廃で一致している。ウォール街の盟主ゴールドマン・サックス出身の財務長官らが規制緩和を担い、外部資金の流入の障害をなくす。利上げも加わる。外部からの資金流入は今後さらに加速する。

 他方で、中国からの資金流出は習近平政権による規制強化にもかかわらず衰えるメドはない。中国は依然として巨大な過剰設備と不動産の過剰在庫を抱えており、上海などでは不動産バブルの崩壊不安が漂う。通商、通貨、南シナ海問題など米中間の緊張が高まろうとも、「トランプ相場」はチャイナリスクによって、支えられるだろう。(編集委員・田村秀男)

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