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経済はだれにでも分析できる。そして、国内の政策や世界の外交・安全保障・軍事も経済を通してその真偽を見抜ける。
2016.11.19 10:00
【田村秀男のお金は知っている】トランプ相場 待ち受ける危ういシナリオ 米金利高、ドル高は景気を冷やす
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米株価金利と大統領選
 米国の株式市場はまさに「トランプ相場」である。株価は上昇、ドル高にはずみがついた。そのおかげで日本も株高だ。熱狂は持続するだろうか。(夕刊フジ)

 グラフを見よう。まず起きたのが「ヒラリー相場」である。オバマ政権第1期の国務長官を務めたヒラリー・クリントン民主党候補に対し、米連邦捜査局(FBI)が私的電子メールを通じて国家機密を漏らしたとする疑惑について、7月5日、訴追しないと発表した。共和党のトランプ候補に対し、世論調査で優位に立つクリントン氏最大のアキレス腱が不問に付されるというので、株価は急騰した。クリントン政策はオバマ政権の継承というわけで、穏やかながら回復軌道にある景気の先行きを見通せるからだ。

 対照的に、トランプ氏は保護貿易主義や移民排斥の主張を繰り返し、民主、共和の両党の主流派が進めてきたグローバリズムを逆流させようとするので、市場は警戒した。

 ヒラリー相場は9月になると陰りを見せる。トランプ候補の支持率が上昇しはじめ、9月半ば過ぎにはほとんど差がなくなった。株価は下落、上がりかけてもまた下がる状態が10月になっても続いた。

 追い討ちをかけたのが、10月28日のコミーFBI長官によるクリントン氏への再捜査開始声明である。これでヒラリー相場は完全に終わった。両候補の支持率は再び接近した。投票日直前の11月6日、クリントン氏の私用メール問題で捜査を再開した件について、訴追しないという7月の結論は変わらないと、改めて表明した。8日の大統領選直前の世論調査では「クリントン優位」と米メディア大多数が報じたが、予想は完全に外れた。

 株価のほうはFBIの最終結論を待たずに、クリントン候補に見切りを付けトランプ相場へとカジを切っていた。11月4日を底に、あとは一本調子で上昇していく。

 困窮化する白人中間層など有権者の多くは、トランプ候補の女性に関する数々の乱暴な発言にこだわらず、現状打破の期待をトランプ氏に寄せていた。世論動向を背景に、実利重視の市場のほうは積極的な財政出動など経済政策を直視する。株価とトランプ支持が連動するようになったのだ。

 クリントン氏は選挙後、FBIの再捜査が敗因とぼやいたようだが、代わり映えのしない政策しか出せなかった。

 もう一度グラフを見てほしい。長期金利(10年もの米国債利回り)が急騰している。財政出動による景気刺激とインフレ効果を市場が評価しているからだ。金利高、株高がドル高を呼ぶ。おのずと円安・日本株高になる。日銀緩和の効能がなくなった日本には朗報のように見えるが、危うい。米金利高、ドル高は本来景気を冷やす。

 トランプ政権が来年1月20日に発足する頃に、米国の輸出が打撃を受け、景気回復に水が差されているようなら、トランプ新大統領は日本などに対し、何を言い出すかわからない。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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http://www.sankei.com/premium/news/161113/prm1611130022-n1.html
2016.11.13 08:00
【田村秀男の日曜経済講座】トランプ勝利の背景を考える 行き詰まった米国型株主資本主義
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 米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利した。共和、民主両党の主流派が推進してきたグローバリズムへの「ノー」に米国民の多くが唱和した。底流には米国型資本主義モデルの行き詰まりがある。日本は表面的な「トランプショック」に惑わされず、米国モデル追随路線を見直す機会にすべきだ。

 トランプ氏は職を奪う自由貿易協定の破棄や移民排斥を訴えた。米国の格差拡大、白人中間層の困窮化から来る不満をすくい上げた。かと言って、モノ、カネ、ヒトの国境をなくしていくグローバリズムを逆流させる動因はそうした国民感情ばかりではない。多数とは言えないにしても、これまでグローバル化を担ってきた主流派の中にもトランプ氏を推す勢力が存在する。でなければ、トランプ氏は全米的な支持を得られるはずはなかったはずだ。

 米国型資本主義には今や、トランプ氏のような異端者、劇薬の固まりのような人物の手を借りなければ、打破できないほどの閉塞(へいそく)感が漂っている。

 グラフは世界の対米投資動向と株主資本利益率の推移を示す。米国型資本主義モデルとは、世界最大の債務国米国が日本をはじめとする外部からの資本をニューヨーク・ウォール街に引き寄せることで成り立つ。そのための枠組みはグローバルな金融自由化ばかりではない。株主利益を最優先する企業統治という仕掛けとグローバリゼーションは一体化している。

 金融市場の投資尺度は企業財務のうち、株主の持ち分とされる「純資産」、すなわち株主資本に対する利益率である。利益率を高める経営者にはストックオプションなど高額の報酬が約束される半面で、一般の従業員は絶えずリストラの対象にされ、給与は低く抑えられる。そんな金融主導モデルが全産業を覆ってきた。

 このビジネス・モデルはグローバリズムを推進した1990年代の民主党ビル・クリントン政権と2001年発足の共和党ジョージ・W・ブッシュ政権のもとで大成功を収めた。1994年には国内総生産(GDP)の4%余りだった外国資本流入は07年には16%近くまで上昇する間、ウォール街は沸き立った。世界の余剰資金は住宅市場に流れ込んで住宅相場をつり上げた。住宅の担保価値上昇を受けて、低所得者にも住宅ローンが提供された。多くの家計は値上がり益をあてに借り入れ、消費に励み、景気を押し上げた。日本、中国など世界各国は対米輸出で潤った。

 住宅の値下がりとともに、この借金バブルが崩壊したのが2008年9月のリーマンショックである。以降、米国への資本流入は不安定になり、縮小する傾向が続く。並行する形で、株主資本利益率が変調をきたした。上昇しかけても息切れし、低落する傾向にある。海外資金吸収は細り、そのGDP比は4%を切った。そして実体経済のほうは賃金の低迷、貧困層の拡大、中間層の消滅危機という具合だ。米国流株主資本主義の衰退と言うべきか。

 米国のエスタブリッシュメント(支配層)の観点からしても、金融主導のグローバリズムを墨守することには躊躇(ちゅうちょ)せざるをえなかっただろう。トランプ氏はヒラリー・クリントン氏がウォール街とつるんでいると非難したが、実はそれほどの緊密さはなかったはずだ。

 来るトランプ政権は反グローバリズムを試みるしかないが、グローバリズムの代案が否定形で済まされるはずはない。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)以外の選択肢は一方的な報復に走る2国間交渉主義しかないが、世界の自由貿易秩序を破壊し、米国にとってはもろ刃の剣だ。安直なのはドル安路線だが、外国資本依存の米金融市場をますます弱体化させるだろう。最大の対米債権国として、日本はトランプ氏に毅然(きぜん)としてモノ申すべきだ。

 もっと気になるのは、米国型株主資本主義モデルをお手本とする日本の経済界の追随路線だ。グラフが示すように、日本産業界の株主資本利益率はたしかに米国をしのぐのだが、実体経済への恩恵にならないどころか、むしろ成長の妨げになっている。

 賃金の上昇を抑えて、株主資本の一部である利益剰余金を膨らませても、国内はデフレ圧力が高まる。デフレの下では円高になりがちなので、たとえTPPを推進しても国内産業が自由化利益を得るとはかぎらない。米国型モデルの不発ぶりは本家ばかりでないことをこの際認識し、日本型を追求すべきではないか。(編集委員)

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2016.11.13 12:16
【書評】産経新聞特別記者・田村秀男が読む『住友銀行秘史』國重惇史著 「イトマン事件」に端を発するバブル崩壊、慢性デフレの泥沼「空白の20年」の序章描く


『住友銀行秘史』國重惇史著
 住友銀行(現在の三井住友銀行)がおよそ5000億円もの損失を被った「イトマン事件」はバブル経済のピーク時に起き、バブル崩壊の序章となった。本書が明らかにする数々の事実、ジグソーパズルの一片一片をつなぎあわせてみる。そして、なぜ日本経済の「空白の20年」が起き、いまなお脱却できないのか、という謎と向き合える。

 ハイライトは、巨額の乱脈融資の実態を最初に暴露した平成2年9月16日付の日本経済新聞朝刊記事をめぐる魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもの暗闘の部分だ。当時、日経のデスクとして同特報を紙面化した評者(田村)にとっては、単なる読み物では済まない。

 著者の國重氏は住銀の出血を止めようと必死だった。監督官庁の大蔵省(現財務省)への内部告発レター送付に加え、日経の大塚将司記者をはじめとする一部全国紙の有力記者へ直に情報を漏らす。闇社会の紳士たちにからめとられた住銀首脳陣にイトマンとの腐れ縁を断ち切らせるためだが、新聞には「社会の公器」としての自負がある。

 ところが、日経は第一報の4日後の1面続報で巨大融資問題の沈静化につとめた。その「マッチポンプ」ぶりに、著者はあぜんとさせられた様子だ。問題の矮小(わいしょう)化を狙う巨大銀行首脳に毅然(きぜん)と向かわない経済ジャーナリズムの性(さが)とも言うべきか。

 評者自体、内心忸怩(じくじ)たる思いが蘇(よみがえ)る。第一報を全文掲載したものの、編集幹部の承諾手続きを必要としない中面段物という地味な扱いがやっとだった。1面トップ記事で押し切っていれば、各紙は一斉に後追いし、バブル融資の全貌はことごとく日に照らし出されたかもしれないのだ。

 國重氏も挫折を味わう。イトマンへの会社更生法による透明度の高い処理を懸命になって献策したが、銀行行政の不手際を恐れる大蔵官僚と信用不安に脅(おび)える住銀首脳によって潰された。続いてバブルがあちこちで破裂し始めた。

 銀行の不良債権処理は遅れに遅れ、新規融資を渋り経済にカネが回らない。日本は際限のない慢性デフレの泥沼にはまりこんだのだ。(講談社・1800円+税)

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米大統領にトランプ氏 続く旋風 グローバリズム逆流 日本は商機へ変えよ
2016.11.10 06:22
米大統領にトランプ氏 日本は商機へ変えよ

 米大統領選は大方の事前予想を覆して共和党トランプ氏の勝利が確実になった。

 新政権は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の撤回など、グローバリゼーションの巻き戻しに取り組むだろうが、たじろぐことはない。日本にとってはビジネス・チャンスととらえる発想こそが必要だ。

低い利益率への不安

 今回の米大統領選がこれまでと異なるのは、景気との関連が希薄な点だ。緩やかに景気は回復したが、製造業などの実質賃金は上がらず、不満を持った階層が保護貿易と排外主義を叫ぶトランプ氏に共鳴した。

 グローバリズムとは金融市場が示す基準に企業が従うことだ。国境を越えて移動する巨額の資金を引きつけるためには、企業が資産を刈り込み、労働コストを抑えて利益率を上げ、株主に利益還元する。

 米国流自体のパフォーマンスはどうか。日米の税引き前経常利益に対する総資本と株主資本の比率を比較してみた。米国の利益率は2008年9月のリーマン・ショック後めざましく回復したあと、いずれも下降線をたどっている。対照的に日本は13年以降、総資本、株主資本の利益率とも上昇を続けている。水準はいずれも日本が米国を上回っている。

 13年に始まったアベノミクスの成果とも言えそうだが、実質経済成長率は日本が0%前後で低迷しているのに対し、米国は2%前後である。資本の利益率の不振からすれば、米国の金融主導型グローバル・モデルは落ち目である。それこそが、米エスタブリッシュメント(支配階層)のTPPに対する消極姿勢を生んでいる背景だろう。

 米資本は自由化、グローバリゼーションで実際に勝てるかどうか、不安なのだ。来年1月に発足する新政権は従来型グローバリズムに背を向けると同時に、代案を用意するだろう。その中身は不明だが、多国間協定に代わり、2国間主義が主流になるだろう。
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攻勢投資で存在感を

 日本はどう対応すべきか。安倍晋三政権はTPPを日本再生の一環として位置づけし、米新政権と議会に批准を求めてきた。トランプ新政権は応じないどころか、日本の円安を牽制(けんせい)し、「円安誘導」のクレームを付けて対日報復をちらつかせかねない。今後約2カ月間の新政権への移行期の間の日米対話が重要になる。

 日本企業はどうか。株主重視の米国モデルに追随し、米国を追い越したのだが、株主資本の多くは利益準備金で占められる。設備投資や賃金・雇用に資金を回さずに、利益をため込んでいる。12年末から今年6月末にかけての株主資本(純資産)増加額は114兆円、このうち利益剰余金は90兆円にも上る。

 リーディング企業はいいかげん、国内重視の積極投資攻勢に転じてはどうか。米国型をこれ以上、墨守したところで、円安・外需頼みでは行き詰まる。国内投資で雇用改善を実現し、日本型モデルを確立し、米国に対して日本の存在感を高めるときだ。(産経新聞特別記者)

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【お金は知っている】米政治空白に乗じる中国に気をつけろ 安倍政権しっかり対米工作すべき
11.11
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 米大統領選は共和党のトランプ候補の勝利で終わった。従来の外交・安全保障路線に「ノー」を唱える新政権の登場で、当面の間、米対外政策に空白を生みかねない。それに乗じるのは中国である。北朝鮮情勢をみよう。

 北の9月9日の5回目の核実験に対し、国連安保理は制裁強化に向け、動き出したはずなのに、2カ月経っても何も決まらない。レームダック同然のオバマ政権は無力だ。大統領選では外交政策そっちのけの泥仕合が続いた。その間隙をついてきたのは中国だ。

 これまで対北朝鮮国連制裁決議に応じたのも見せかけで、実際には北向けにせっせと軍事転用可能な物資の輸出を増やす一方で、北からの禁制品輸入品を増やして北の外貨稼ぎに協力してきた。グラフは中国からの石油製品と鉄鋼製品の対北輸出量の推移である。安保理制裁があろうと、北が核実験を繰り返そうとも、ほぼ一貫して増えている。とりわけ、習近平氏が共産党総書記に就任した2012年以降の急増ぶりが目立つ。

 重油、ガソリンなど石油製品、鉄鋼製品を確保できなくなると、北朝鮮軍は無力化するのだが、北京は民生用だと言い張って対北供給を増やしてきた。その証拠はほかならぬ、中国税関当局の統計データで、月初めに核実験があったことし9月の中国からの石油製品と鉄鋼製品輸出量は13年2月の3回目の核実験後に比べいずれも3・9倍と急増している。

 習政権の後ろ盾のおかげで、北はカネもエネルギーも武器材料の確保に不自由しない。北京は金正恩氏をもてあまし、その首のすげ替えを狙っていると見る向きもあるが、経済データをみれば根も葉もないフィクションに過ぎない。

 今年1月の4回目核実験を受けた、3月の国連安全保障理事会による対北制裁決議2270号によって、北からの輸入が禁じられているはずだが、8月の鉄鉱石の輸入が2・7倍以上に増え、石炭は48%増だ。

 北京は制裁決議の抜け穴をまんまと利用している。制裁決議をよく読むと、ただし書きがあり、北の輸出収入資金の用途が核やミサイル開発など軍事ではなく、民生向けであれば、制裁対象にはならないという。カネに色はないのだから、中国が支払うカネが民生に限定されるはずはないのだが、中国はそれを盾に白昼堂々と禁制品を輸入している。

 石炭、鉄鉱石などの輸入のみならず、中国は対北投資、北朝鮮企業の中国内での活動などで北の外貨稼ぎに協力している。このことは米国務省も国連事務局も掌握しているはずなのだが、ワシントンはアクションをとらなかった。

 「中国は米国が1歩後ろに引けば、必ず2歩出てくる」とは、これまでの共和党幹部の一貫した対中観だ。国内優先をうたうトランプ氏がそうした意見に耳を傾けるかどうか、不確かだ。安倍晋三政権は米政権移行期間のうちに、しっかりと対米工作すべきだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)

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