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経済はだれにでも分析できる。そして、国内の政策や世界の外交・安全保障・軍事も経済を通してその真偽を見抜ける。
2017.2.18 10:00
【田村秀男のお金は知っている】ドル安の誘惑に弱いトランプ政権にモノ申せ 最悪の場合、株式など証券は暴落…市場はパニック

米国の対外資産とドル相場
 10日の日米首脳会談の結果、日本側は麻生太郎副首相兼財務相、米側はマイク・ペンス副大統領が代表となって包括的な経済対話を始める。トランプ大統領がこだわる為替協議は別途、麻生財務相とムニューチン財務相の間で行われる。(夕刊フジ)

 これで、円高・ドル安に向けた米側からの政治圧力を分散できるとの見方が多いが、油断は禁物だ。トランプ政権に限らず、米国の権力者はドル安の誘惑に弱いのだ。なぜか。

 グラフは、主要国通貨に対するドルの実効相場の前年比変動率で、正の値はドル安、負はドル高を示す。それを米国の海外金融資産のドル換算額の年間増減額と対比させている。一目瞭然、ドル安時には海外資産は押し上げられ、ドル高時は逆に振れる。2008年9月のリーマン・ショック前は10%のドル安となり、海外資産は4兆ドル(約4兆5300億円)以上膨らんだ。リーマンが起きた直後は、10%以上のドル高となり、海外資産は3・7兆ドルも減った。

 海外資産は長期的にみると、米企業などの対外投資の増減次第だが、短期的に大きい変動要因はドル相場である。現地資産のドル評価額はドル安・現地通貨高で増える一方で、ドル高・現地通貨安とともに減る。米国は世界最大の借金大国であると同時に最大の対外投資国である。その海外資産はリーマン前で21兆ドル(約2381兆円)超、16年9月時点で25兆ドル弱に上る。現時点でドルが他通貨に比べて10%下がれば2・5兆ドル弱、海外資産がかさ上げされる計算になる。

 モノ・サービス合計の米貿易収支赤字は年間で5000億ドル程度だが、2%ドル安になればその赤字分は楽々とチャラにできるわけだ。ドル安にすればするほど、米国の海外資産から外国の対米資産を差し引いた米国の純負債は減る。それこそが基軸通貨ドルを持つ覇権国の特権であり、いざとなればドル安政策に走る。

 トランプ大統領が貿易不均衡を騒ぎ立てて、中国、日本、ドイツなど主要な貿易赤字相手国の「為替操作」を非難し、各国通貨の対ドル相場の切り上げを求める動機はこれでよくわかるだろう。米国の対外貿易赤字の半分以上を占める中国は別格だ。中国は長い間、当局の為替市場管理と介入によって人民元の対ドル相場を安くして輸出を増やす一方で、米国など外国企業の生産拠点を移させ、雇用を奪ってきた。トランプ政権が中国を目の敵にするのも無理はない。
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 だが、一本調子のドル安は米金融市場に波乱を生む。ドル安が進むとみれば、投資家は対米投資を縮小するか、ドル資産を売却する。となると、米国の株式や国債などの証券相場は下落し、金利は上昇する。最悪の場合、株式など証券は暴落し、市場はパニックに陥り、世界の市場を揺るがす。リーマン・ショックはその代表例だ。

 日米の包括的な経済協議で、麻生財務相はトランプ政権の目先の米国利益だけを追うドル安志向にブレーキをしっかりとかけるしかない。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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【田村秀男の経済から世界を読む】為替安定が最大の焦点 ドル安なら「米国第一」は不発
2017.2.14 06:16

ドル安なら「米国第一」は不発

 日米両国は10日の首脳会談の結果、包括的な日米経済協議の開始で合意した。為替問題が最大の焦点になるが、目指すべきは円・ドル相場の安定だ。ドル安は米金融市場を不安定にし、日本の対米投融資を困難にし、「米国第一主義」は不発に終わるだろう。

 日米首脳会談を間近に控えたある日の午前3時、トランプ大統領は側近のフリン大統領補佐官に電話して「強いドルと弱いドルと、経済にとってどっちがいいんだ?」と聞いたという(米ニュースサイトの「ハフィントンポスト」10日午前の発信記事から)。真偽は不明だが、大統領の迷いは十分あり得る。
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 グラフは1985年9月のプラザ合意以来の主要国通貨に対するドルの実効相場と貿易赤字の推移である。87年10月の史上最大規模のニューヨーク株価大暴落(ブラックマンデー)、2008年9月のリーマン・ショック。いずれもドル安の最中だ。債務国米国は海外からの資金流入に依存している。ドル安におびえる投資家は何かのきっかけで、一斉に米金融市場から逃げ出す。

 「弱いドル」は米国の金融経済(ウォールストリート)にとってはまずいが、自動車など主要産業界(メインストリート)は歓迎する。「強いドル」はその逆だ。米貿易赤字は一般的なドル相場の強弱とは連動しないが、人民元問題は別格だ。中国当局は人民元安に誘導し、対米輸出を急増させる。一方で、ゴールドマン・サックスなど米金融資本を取り込んで、巨額の対米黒字の一部を米国債購入に充当し、ゴールドマン出身者が要職を占める米政権の不満をかわしてきた。

 トランプ氏が中国の為替操作を激しく非難するのは無理もないが、財務長官や国家経済会議など政権の経済政策中枢は、やはりゴールドマン出身者が陣取る。そんな具合でトランプ大統領はスタッフの意見を受け入れた。安倍晋三首相との会談の前日には、中国の習近平国家主席と「非常に温かい会話」(トランプ氏)を行い、為替については中国との間で「公平な土俵をつくる」(同)ことで一致したという。

 トランプ政権の政策は金融と産業の双方重視路線だ。日本の対米投資、融資による自動車など主要産業の雇用増進の意義は大きい。しかし、米側が強引にドル安・円高の方向に持っていこうとすれば、日本側は損失を被るので、この対米協調は機能しない。ドル・円の安定への米側のコミットメントが日本の対米協力成否の鍵を握る。

 他方、トランプ政権は性急な対中報復関税を避けるものの、人民元の切り上げを含む為替条項を迫ると予想される。その際、北京は日本を巻き込もうと、米側をたきつける可能性がある。北京は自国産業の対日競争力を意識し、円安・元高を嫌う。昨年前半には円高に仕向けようと日本国債を爆買いした。安倍政権は油断することなく、日米の枠組みを米中為替交渉と完全に切り離すよう、トランプ政権にくぎを刺すべきだ。(産経新聞特別記者)

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2017.2.11 10:00
http://www.sankei.com/premium/news/170211/prm1702110012-n1.html【田村秀男のお金は知っている】トランプ政権にちらつく「第2のプラザ合意」 ドル安誘導の先に自滅の道
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主要通貨の対ドル相場(2010年=100)
 トランプ米政権の通商政策は、たけり狂ったガンマンのようだ。辺り構わず打ちまくり、円相場まで標的にする。そこで米国の一部でちらつくのは、第2の「プラザ合意」との考え方だ。(夕刊フジ)

 プラザ合意では、米日独英仏の5カ国の財務相・中央銀行総裁が1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルに集まり、ドル安誘導の国際協調をうたった。ドル安・円高が一挙に進み、1ドル=240円程度だった相場は1年間で150円台まで上昇した。

 余談だが、トランプ氏にはプラザホテルと日本に苦い記憶がある。氏は88年に同ホテルを買収(後に売却)したが、資金繰りに窮した揚げ句、日本企業に出資を求めたが、すげなく断られたのだ。

 トランプ氏の為替への執着ぶりはすさまじい。日本の円やドイツのユーロについても低めに誘導していると非難する。まぎれもない為替操作を行っているのは中国だし、米国の対中貿易赤字は全体の5割弱を占め、日本、ドイツに対する赤字の5倍以上に上るのだが、トランプ氏は円、ユーロと人民元を同列にしてやり玉に挙げる。

 このまま、トランプ政権は日本、ドイツ、中国を巻き込んで、各国通貨に対するドル安誘導、即ち第2のプラザ合意を仕掛けかねないとの見方が出るのも無理はない。高関税によって輸入をブロックする保護貿易主義は世界貿易機関(WTO)違反として国際社会ばかりでなく、米国内でも批判にさらされ、立ち往生しかねない。

 その点、通貨合意なら「自由貿易を守るため」との言い訳もできる。プラザ合意当時の「通貨マフィア」の遺伝子を受け継ぐ財務省国際派官僚には魅力のあるプランかもしれないが、ばかげている。歴史の示すところ、プラザ合意こそは産業国家日本の衰退を招いた元凶である。

 米国にとってはどうか。グラフを見よう。プラザ合意後、ドルは急落傾向に歯止めがかからなくなった。あわてた日米欧は87年2月、パリのルーブル宮殿でドル相場の固定を取り決めたが、半年も経たないうちに失敗し、同10月19日には史上最大規模のニューヨーク株価暴落に見舞われた。「ブラックマンデー」である。

 その尻拭いをさせられたのが日本である。日銀は超金融緩和政策を続けて株や不動産のバブルを膨らませた。バブル崩壊後は「空白の20年」であり、いまだに脱けきれない。

 全般的なドル安誘導は、米国はおろか世界の経済を壊しかねない。世界最大の債務国である米国は、外部からの巨額の資金流入が不可欠なのだ。ドル安は資金流出要因であり、金融市場不安につながる。対外債務規模がまだ低かった80年代後半でも、ブラックマンデーが起きた。

 それでも為替合意をしたければ、中国との間だけでやればよい。中国だけなら世界への影響は限られる。中国は人民元相場を当局が全面的に管理している。人民元の大幅な押し上げは切り下げと同様、極めて容易なはずだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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【iコラム】「日米通商摩擦」再来はない トランプ政権、対中強硬策の後ろ盾に
2017.2.8 06:15
 トランプ米大統領は矢継ぎ早に保護貿易主義的な通商政策を打ち出している。日本もその標的にされ、政府や産業界を当惑させているのだが、果たして1980年代のような日米通商摩擦が再来するのだろうか。筆者の答えはノーだ。

 世界最大の債務国である米国が保護貿易主義のもとに、経済成長率の底上げ、雇用増進を達成しようというのは無理である。保護主義は金利高、ドル高を呼び、産業競争力も雇用も損なわれる。ただ、資本流入さえ確保できれば、金利の高騰、急激なドル高は避けられるかもしれない。

 気になるのは中国の出方である。中国向けに報復関税をかけて米中貿易戦争という事態になれば、北京のほうは対抗手段として米国債の売却など米金融市場からの資金引き揚げに打って出る可能性がかなりある。何しろ、中国は日本と並ぶ最大の米国債保有国である。リーマン・ショック当時のブッシュ政権とその後のオバマ政権は北京に米国債買い増しを要請していた。

 オバマ政権1期目のヒラリー・クリントン国務長官は米国債買い増しを北京に約束してもらう代わりに、中国の人権侵害批判を避けたし、オバマ政権は以来、中国の対米黒字やそれとともに進行する中国の軍拡に対し、黙認を通してきた。それほど、巨額の貿易黒字と外貨をバックにする中国の資金力に対し、ウォール街は弱く、ウォール街出身者が要職を占めるオバマ政権は弱腰にならざるを得なかった。

 そのオバマ路線と決別するのがトランプ政権である。これに対して、習近平政権の方は、対米投資の上積みや輸入増という実利を餌にしてトランプ政権を懐柔しようとするだろうが、トランプ政権の対中強硬路線は揺るぎないようだ。

 その路線は通商チームのウィルバー・ロス商務長官、ホワイトハウス直結の国家通商会議代表のピーター・ナバロ氏に限らない。レックス・ティラーソン国務長官、さらに2月初旬に来日したジェームズ・マティス国防長官と、外交・軍事両面でも一貫しており、通商チームと一体になっている。

 それにトランプ政権が対中関係での金融の弱みはいまのところ、あまり感じられない。中国からの資本逃避が激しく、それらの資金の多くはウォール街に流入しているからだ。しかし、それがいつまでも続くとはかぎらないところに、ウォール街の不安が漂う。

 そこで、頼りにせざるを得ないのは日本である。日本は産業界と金融界合計で600兆円以上の余剰資金を持つ。公的年金基金の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は世界最大の200兆円もの年金資産を運用している。

 これらの資金の1割でも米国に投じられると、米金融市場は安定するし、金利高騰は避けられる。トランプ政権は安心して対中強硬策をとれるようになるだろう。

 日本は対米通商摩擦を恐れる必要はない。トランプ政権は安倍政権の協力を何よりも必要にしているからだ。その折衝役を務めるのは知日派のロス商務長官になるはずだ。

 10日に予定される日米首脳会談で、安倍晋三首相は日米共通の通商・安全保障戦略目標が中国であることを確認したうえで、日本の対米金融協調の意義を説くべきだ。ほこりまみれの「日米通商摩擦」なぞに気をとられる場合ではない。(産経新聞特別記者 田村秀男)

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2017.1.29 08:00
【田村秀男の日曜経済講座】中国との「戦い」辞さないトランプ政権 成否の鍵は日本の対米協調
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 トランプ米政権が始動するや否や、口撃の矛先が日本車にも向けられたが、慌てることはない。事実関係を説明すれば済む。新政権の最大の標的は中国であり、通商・安全保障一体の対中強硬策を繰り出そうとしている。この「戦い」の成否の鍵を握るのは日本の対米協調である。

 「米国第一」政策には、なぜ中国について通商と安保が不可分なのか。グラフは中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年以降の米国の対中貿易赤字と中国の軍事支出である。グローバルな貿易自由化の恩恵を受けた中国は対米貿易黒字を15年までに4・4倍増やしたのに対し、日本は1倍にも満たない。トヨタ自動車など日本の製造業が米国での現地生産を増強してきたからだ。

 目を引くのは7・7倍にも上る中国の軍事支出の膨張だ。08年のリーマン・ショックの後は、中国の軍事費は対米貿易黒字の約5割相当だ。中国は貿易で稼いだドルを旧ソ連製の空母など、武器購入予算に充当する。人民解放軍のサイバー部隊によるハッカー攻撃が米国や日本を標的にしているが、そのハイテク技術の多くは米国製だ。

 外貨の源泉はもちろん対米貿易に限らない。リーマン後は不動産ブームを演出し、海外からの投資資金を呼び込んできた。中国人民銀行は外国為替市場を管理して人民元相場をドルに対して固定し、その交換レートに基づいて流入外貨をことごとく買い上げ、外貨準備を積み上げてきた。

 軍事支出の膨張は、14年までは外準の急増と軌を一つにしている。15年からは海外への資本流出が激しくなり、外準は縮小しているが、貿易黒字総額は年間6千億ドル前後(対米は約3500億ドル)と高水準を保っている。

 こうした分析から、こと中国については通商と軍事は切り離せないと拙論は本欄などで以前から指摘してきたが、トランプ政権はまさにそこに焦点を合わせている。

 鍵となる人物は、新設される「国家通商会議」のトップに任命されている経済学者のピーター・ナバロ氏だ。英エコノミスト誌は1月21日号で「米国導く対中強硬派、ナバロ氏」という題名で特集記事を組んだ。ナバロ氏は自ら監督した13年製作のドキュメンタリー映画“Death By China”(「中国による死」)の冒頭で、「中国製」と刻まれたナイフが米国本土を刺し血が流れるというアニメ映像を流し、トランプ氏から称賛された。

 「米中もし戦わば」の題名で昨年11月に邦訳された著書(原本は15年11月刊)では、「中国のWTO加盟により米国経済は壊滅的な打撃を受けた」「米国による経済的関与が中国の軍事力の源泉になっている」と断じている。

 トランプ氏は、大統領選中に提唱した中国への45%の報復関税適用には直ちには踏み切らない。北京と話し合う構えだが、北京の「一つの中国」路線を逆手に取って通貨と通商での譲歩を引き出す。

 「一つの中国」論は台湾ばかりか、南シナ海の諸島や尖閣諸島(沖縄県石垣市)まで中国のものだという論理である。次期米国務長官のレックス・ティラーソン氏は、南シナ海で中国が造成した人工島への同国のアクセスを認めないと言明、トランプ氏もティラーソン氏を支持している。

 政経分離の従来の対中政策は廃棄される。上記の国家通商会議はホワイトハウス内に設置され、関係閣僚やスタッフの陣容が整えば、通商問題を外交、軍事、金融に関連付けて対中戦略を練るだろう。米メディアでは、「米中対立、実際の戦争に発展するリスク」(1月18日付ウォールストリート・ジャーナル)を指摘するほど、対立激化の様相だ。軍事面で制約のある日本はどう対応すべきか。

 トランプ政権の対中警戒論を共有し、全面的に協調するかどうかだ。例えば、ワシントンの強硬策に対抗して、北京が米国債売りを仕掛けてくるようだと、米金融市場は不安定になる恐れがある。その場合、カネ余りの日本は対米投資でカバーできる。共産党中央が人民元を管理し、国際通貨に仕立て上げ、それを武器に東アジア全域を中国の影響下に置こうとする習近平政権の野望にも、日米は結束して対抗しなければならない。

 安倍晋三政権はこの際、トランプ政権の国家通商会議に倣った政治主導の横断的チームを設置してはどうか。通商は経済産業省、安全保障・外交は外務省、通貨・金融は財務省といったのでは官僚任せの事なかれ主義に終始しかねず、米国との対話は細分化された特定の分野に限定されてしまうだろう。(編集委員)

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