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コンタクト 静かなるマービン教授

 
 
 
  「しっかりしてくださいよ。マービン教授…」
 
 BRAのカウンターでぐったりとのびてしまったマービン教授に、
 助手のスタインが心配そうに言った。
 
 
 あの日、SETIの国立電波天文台で受信した宇宙からの謎の電波は、
 その後、数週間を費やし解析を行なったにも関わらず成果をみなかった。
 
 当初、マービン教授は研究員達が行った分析結果に異論を唱えた。
  「君たちは、ёを見てこれが単なる電波としか思わんのかね」
 エネルギールームで昼食をとる研究員達を前に、
 マービン教授が質問を投げかけた。
 研究員達は誰となく顔を見合わせ黙り込んでしまったが、
 しばらくして、その中のエリート研究員が滑舌よく口を開いた。
  「今回の宇宙電波の解析は
   最新の分析機器を用いて行なわれました」
  「それは分かっておる」
  「はい。で、解析にはあらゆる大学の協力も得まして
   様々な角度からの分析を行った結果、
   その… ёは単なる宇宙乱気流の突然変異だという
   結果におさまった次第であります教授」
 そういうと、エリート研究員はメガネをクイッと上げて見せた。
 
 それは、説明するまでもなく既に各メディアからも発表されていたことだったし、
 当初は宇宙人の襲来予告だと大騒ぎした政治家達も
 今では国会の議題として取り上げることもなくなっていたのだった。
 しかし、マービン教授の考えは違っていた。
  「わしは断じてそうは思わん。
   幼い頃、あの丘で初めて聞いたあの電波。
   わしの人生に希望を与えてくれたあの電波。
   それが… ただの宇宙乱気流だったじゃと?
   そんな話をわしに信用しろじゃと…?」
 そういって、マービン教授は両手でダンッと、テーブルをたたきつけた。
 その音で、周りのテーブルで昼食をとっていた研究員達は皆振り返り、
 驚きではない、蔑みに似た表情でマービン教授を見やった。
  「あの教授もしつこいな」
  「なんか電波の研究に人生をかけてたそうだ」
  「まじぃ?どんなにさみしい教授なんだよ」
 そんな声が、あちこちのテーブルから耳うちされ、
 しわくちゃに握り締めた純白クロスの上に、マービン教授の涙が落ちていった。
 
 
 ***
 
 
  「… 教授! 起きてくださいよ教授!」
 助手のスタインの手が、マービン教授の上体をゆすった。
  「ああ… ゆらさないでくれるかねぇ… スタイン君」
 ピクリとも動かずに言った。
  「教授。こんなになるまで一体どうされたんですか」
 スタインが問うたが返事はなかった。
 だが、SETIの研究室に電話をかけて迎えを呼んだマスターの男が、
 スタインを手招きでカウンターの奥へと誘った。
 マスターは、しばらくマービン教授を眺めてから口を開いた。
  「事情は聞いてないのかい?」
  「ええ… 電話を頂いて駆けつけて見て驚いています」
 スタインがいうと、マスターは、ふぅーと息をついてからこう言った。
  「実はだね… 彼の奥さん、去年の年末に用事があるとかで
   実家に帰る途中に行方不明になってしまったというんだよ」
  「ああ… ええ。 それは私も聞いていました。
   ええと… 教授の奥さんは確か宇宙人でしたよね。
   私は見たことはないんですけど」
  「そう。 だから年末の惑星間飛行機に乗って
   生まれ故郷の星に飛び立ったらしいのだけど
   太陽系を出る際に偶然飛んできた小惑星に接触して
   乗客の宇宙人は宇宙空間に放り出されてしまったらしいんだ」
 ええ…。とスタインが相槌を打つ。
  「それでだね。乗客はみんな宇宙人だったから、
   我々人間とは違って宇宙空間の中でも生き延びることが出来る。
   だから、地球からの救援が到着した際には怪我人を出すことなく
   全ての宇宙人乗客を救出したとニュースでは言っていたんだ」
 ええ、ええ、そうでしたね。とスタインは言う。
  「でも… 実際には50名の乗客のうち、
   救出されて地球に帰還した者は49名だったというんだ」
  「ええっ!? …と言う事はもしかして…」
 沈黙の中、マスターとスタインは目を合わせた。
  「そう。 その1名がマービン教授の奥さんらしいんだ」
 二人はそっとマービン教授に視線をやった。
 普段、酒など嗜む程度にしか口にしない教授だったが、
 そのような事情があったと知って、無理もないことだとスタインは思った。
  「まぁ、週に一度はこんな風に動けなくなるまで一人大酒を食らって
   他の客に財布を抜き取られていくんだ教授は」
  「そうだったんですか…」
 そんな嫌な空気が漂う中、酔っ払った客の一人がマスターを呼びつけた。
 マスターは、そういうことだからよろしく頼むよと言って、
 常連らしき客が頼んだ酒のカクテルを始めた。
 
 
 ***
 
 
 マービン教授の隣に腰をかけ、スタインは思った。
 確かに、年末から一週間程の間、教授は研究室に姿を見せなかった。
 マービン教授の奥さんが行方不明になったことは聞いてはいたが、
 その後、これといった変化もなく研究室で ё の解析に没頭されていたから
 奥さんは無事に帰宅されたんだと勝手に思い込んでいた。
 実際、私がそのことを教授に尋ねたことはあったが、
 教授は無表情にただ頷かれていたので私は安心していたのだ。
 それがまさか… 未だ宇宙空間で行方の知れない
 たった一人の行方不明者だったなんて…。
  「そんなつらい状況で研究を続けられていたとは…」
 痩せて小さくなったマービン教授の背中に
 スタインの心はチクリと痛んだ。
 そして、スタインはさらに思い返した。
 あの日、宇宙からの電波を捉え、我々研究チームによる解析を済ませた後、
 依頼された電波のコピーをマービン教授の部屋に届けた。
 私は、教授が ё の解析に没頭されていたことは知っていたし、
 2.3日の間は教授もしっかりされておられた。
 しかし、5日目あたりから教授の様子は変わっていった。
 研究所の廊下を歩かれる教授の髪は左右上下に伸び広がり、
 頬は痩せこけ、ヒゲが顔全体を覆いつくし、左右の目は、、、
 ああっ… 教授。
 そういう事情があったのですね…。
 研究所のゴミ袋の中にブランデーの瓶が見つかるようになったのは
 教授の仕業だったのですね…。
 スタインは、隣で眠るマービン教授のグラスに残ったマティーニを
 一気に飲み干した。
 
 
 ***
 
 
 マービン教授と、スタイン助手を残して
 最後の客が店を後にした。
 
 マスターは今日の売り上げを電卓に打ち込みながら、
 時々、二人のほうに視線を送った。
  「外は寒いよ」
  「でしょうね」
 そういって、スタインはマービン教授の肩にコートをかけた。
 教授は、朦朧とした意識の中で二言三言呟いたが、
 スタインはそのまま教授を椅子から立たせて
 マービン教授の腕を自分の肩に回した。
  「教授は、私が責任を持って自宅まで送り届けますから」
 スタインがいうと、マスターは手を止め頷いた。
 
 マスターが店の扉を開けると、冷たい風と雪が頬を撫でた。
  「いつ降り出したんですかね」
 スタインは片方の手でコートの襟を立てた。
 教授の赤らんでいた顔は、たちまち夜の冷気に血色を失って
 頬を伝った一筋の痕が、薄っすらと浮かび上がっていた。
 マスターはしばらく黙って街灯のほうを見ていたが、
 二人が歩き出そうとしたとき、呼び止めるように言った。
  「教授は、、
   マービン教授は言ってたよ」  
  「… え」
  「ナターシャは、奥さんのナターシャは必ず生きているんだって。
   生きているってことを、信じているんだって。
   だから、どんなに苦しくても今やらなければならないことをやり通すんだって」
 そのマスターの言葉に、
 マービン教授を支えるスタインは、小さな笑みを浮かべて、こう言った。
 
  「信じることで、人はきっと強くなれるんでしょうね」
   
 
 翌日、マービン教授は二日酔いながらも、
 なんとか遅刻せずに研究室に出勤したのであった。
   
 
 

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深夜にこんばんは^^教授の奥様は宇宙人だったのですか?文章から
教授の執念とか寡黙さが見えて取れました。「信じることで人はつよくなれるのでしょうね」の言葉も教授の幼少の頃からの憧れや夢だったりするのでしょうね。久しぶりにたたらさんの小説を読んだ気がしています。ところで、具合わるいのですか?一言の言葉が気になって
いました。睡眠は大切ですから心穏やかにお休みくださいね。
また書いてくださいね^^待っています^^ぽち

2012/1/24(火) 午前 0:13 紗江子

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こんばんは^^
信じることで人は強くなれるというのは
最近私が実践してみて睡眠不足に陥ってしまった言葉でした。
それに、私は精神的に脆い部分があるので
なかなか上手に実践するのは難しいものだと思いましたね。
教授の奥様は急遽宇宙人になっていただきました。

心配には及びません^^
眠れなかったので少し体調は落ちていましたが
だんだん眠くなってきたのでこのまま眠りにつけそうです。
また書いていくのでよければ読んでくださいね。
ありがとうございます^^

2012/1/24(火) 午前 0:49 [ たたら ]

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