「黒と白の殺意」水原秀策
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「黒と白の殺意」水原秀策(2006)☆☆☆★★ ※[913]、国内、現代、ミステリー、囲碁、このミス大賞 第3回このミス大賞受賞作「サウスポー・キラー」[http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/4911758.html ]の作家、水原秀策のデビュー二作目。作品の舞台を野球界から囲碁界に移したものの、基本的な物語の構図は同じか。洒脱で口の減らない主人公の一人語りで物語が進む。個性的な脇役を配し、きちんと魅力的な女性との気持ちのよいロマンスも忘れない。本作品の強力な脇役は、幼い頃両親を亡くした主人公を引き取り棋士として育ててくれた、囲碁界の大家である老棋士、蒲生。普段は気のいい明るい酔っ払い爺で、ありがちではあるが陽気で魅力的な人物。しかも棋士して、しっかりとした実力に裏打ちされている。そういう意味ではありがちなキャラクターを揃え、並べたステレオタイプの作品と言えなくもないが、気軽にミステリーを楽しむという意味では及第作。本作品の事件の真相にある、残る後味の悪さは少々気になるところだが、二作目の作品にして既に安心して読める雰囲気を作り出したということは、素人書評家がいうべき言葉ではないかもしれないが、新人作家として今後の持ち味として生かしてもよいのではないだろうか。それとも逆に素人書評家としては、二作目にして既にこじんまりとまとまってしまったように思えることを言及し、もっと冒険者たれというべきなのかもしれない。しかしミステリーという舞台で、職業作家を目指すならば、こういう持ち味もいいものだと思う。うまくすれば、魅力的なキャラクターを生かした連作をものにしそうな雰囲気を感じる。デビュー作(前作)のレビューでも、魅力ある脇役を評価したが、本作品も同様。もっとも先にあげた最大の脇役を、仮に本作品に連なる次回作があるとしても、そこに登場させるのを難しくしてしまっていることはもったいない。そんな観点で本作品の事件の真相をもっとうまく後味のよい話にしてくれたらと思うのは、まさにないものねだり。しかし、本当に勿体ない。(しつこい)。 「殺し屋」の異名を持つ椎名弓彦は天才的なプロ囲碁棋士。ふだんはTシャツにデニム、対戦のときだけ量販店でまとめ買いした安物のスーツを着るが、世間のひとが考えるような棋士としての風格にはほど遠い31歳。若手の気鋭七尾プロとの対戦中の夜、ホテルの庭園をひとり散策しているところを、ひとりの少年に声をかけられた。少年は対局の立会いに来ていた大村義雄九段の息子、大村啓太だった。彼の言葉に従い庭園の木の裏を見ると、そこにはなぜか局部を露出し、死んでいた大村九段の姿があった。 翌朝、対局に赴いた弓彦は取材をしたいという記者から、大村が股間を刺され、さらに胸を刺され死んでいたことを知った。股間を刺されていた、そのことに弓彦は気づいていなかった。 殺された大村の葬儀が執り行われた。その葬儀で弓彦は仁美と久しぶりに出会った。早田仁美、旧姓蒲生。弓彦の囲碁の師匠蒲生謙吾の娘、出会った当初は通いの弟子と、師匠の娘という関係であったが、子供の頃両親を亡くした弓彦と弟の直人が蒲生の家に引き取られてからは少しずつ変化していき、言葉では説明しきれない親密な関係であった。しかし彼女は別の男性と結婚してしまった。彼女がお酒の匂いを漂わせていることに気づく弓彦。前夜、父親と飲んだという。蒲生がある時期アルコール依存症であったことから、家中の酒を叩き割るという実力行使をした彼女が翌日に残るほど酒を飲むようになるとは。そして仁美の運転してきた車のなかでは、蒲生と大村の10歳の息子啓太が囲碁を打っていた。啓太の囲碁の腕は、10歳とは思えない才能のキラメキを見せていた。 葬儀の席で弓彦は、協会の職員から弟の直人が警察に逮捕されたことを聞いた。死んだ大村の家に忍び込んだところを捕まったという。直人が拘留された警察署に接見を求めて赴いた弓彦は、そこで直人が勤めている会社の経営者である桐山千穂という、気の強そうな女性と知り合う。もともとは直人も弓彦と同じように棋士を目指しておりその才能は認められていた。しかしプロ棋士試験の試合でのある出来事をきっかけに囲碁を辞め、コンピューターのセキュリティーソフトの会社に勤めていたのである。 直人がなぜ大村の家に?事件の夜、直人も弓彦の対局のネット配信の仕事のため現場となったホテルにいた。そして当初啓太は、現場から逃げた者の姿を直人に似ていると言っていた。 そんななか直人は大村の家で啓太と囲碁を打っている最中に、碁石を入れる碁笥のなかにメモリースティックを発見した。直人が探していたのはこれだ。啓太の諒解を得て預かったメモリースティックには簡単に外せないブロックがかかっていた。千穂にメモリースティックを託す弓彦。 一方、兄弟子である鹿島に依頼された弓彦は、日本囲碁協会の不正経理を正そうとする改革委員会のメンバーになることになった。協会の財政は破綻目前であり、そのなかで副理事にまつわるお金の動きが不鮮明であるという。そしてまた殺された大村が協会の理事として財務と渉外を担当していたという。果たして大村の死は協会の不正経理と関係があるのか? 様様な思いの交差するなかで、千穂とともに調査にあたる弓彦。果たして事件の真相は?そして犯人は誰か? 囲碁の世界を舞台にさくさく読み進められる軽妙な物語。各章立てのタイトルが囲碁の言葉を用いており、囲碁ファンには堪らないところか。もっとも囲碁をよく知らないぼく(といってもマンガ「ヒカルの碁」は全巻読んだが(笑))であっても、立ち止まることなく読み進めることができた。そう意味では、もう少し「囲碁」を伝える部分が欲しかったとも言えよう。 冒頭に述べたとおり、魅力的なキャラクターによる読みやすい物語。これはこれで、ありなのだと思う。読んでいきたい作家のひとりとして名前を覚えておきたい。ただし、あくまでも気軽に読む作家として。 蛇足:前作でネオハードボイルドの観点で作品を評していたが、本作品には残念ながらハードボイルドの匂いを感じることができなかった。どうしてだろう?実はその部分を少し突き詰めて考えみたのだが、「読みやすい」作品の本質が少しわかったような気がする。その部分が評価を上げきれない要因のひとつなのかもしれない。
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水原さんの描く人物は私にとって魅力的な人が多いようで、それだけで点数をあげてしまいそうです(←単純な私^^;)。囲碁の方はこれくらいでないとついていけませんよー(^^;トラバさせてくださいね。
2007/5/8(火) 午後 11:27
>紅子さん すみません、なかなかお返事もできず、相変わらずくそ忙しいです。朝6時の電車、終電生活です。TBはどうぞ、どうぞ、どんどんお願いしますね。ぼくもこの作家の書く人物はとても好ましく思います。囲碁、もう少し囲碁を知らない一般人にも魅力を感じさせるように書いてほしいと思うのですが・・。
2007/5/9(水) 午前 8:33