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「ススキノ、ハーフボイルド」東直己

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「ススキノ、ハーフボイルド」東直己(2003)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、ミステリー、高校生、青春、ススキノ、札幌

東直己の新刊「後ろ傷」を図書館の新刊リストで見かけ、予約した。手元に届いてみると「後ろ傷」は本書「ススキノ、ハーフボイルド」の続刊だという。「ススキノ、ハーフボイルド」、東直己の作品であると知っていたが未読の一冊。シリーズと銘打って出版された作品以外は、単独作品で読むだけの力を持つべきであれがぼくの信条である。「後ろ傷」がシリーズ二作目を謳ってない以上、単独作品で読み評価すべきなのかもしれない。しかし時間的に余裕があるならば(ないけど)やはり順番に読んでみたい。そのほうが繋がりがわかりやすいし、おもしろい。かくしてあわてて本書を借りた次第。
何度も述べてきているが東直己は好きな作家のひとりだ。そしてまたこう割と許してしまう作家。本書も客観的には、ちょっと強引にまとめすぎている、あるいは主人公の青年がなんだか、その年齢に見えない。それはこの作品にも登場する東直己が書く別シリーズ「名無しの探偵(便利屋)」の主人公と同じ、一人称「俺」の語りと、自分の内側を覗き込むような自問の語り口に、名無しの探偵(便利屋)が思い出され、主人公松井省吾の個性がなかなか見えてこないから。「俺」、いや名無しの探偵(便利屋)を若くしただけ?
北海道では名のしれた進学校に通い、北海道の常識として、評価の高い有名大学、北海道大学を目指す高校三年生が主人公。高校生のくせに酒に強く、酒場に顔を出し、年上の客に可愛がられ、そしてまた夜のススキノで働く10歳年上の彼女と交際し、少しだけススキノという大人の街が自分の街に思えてきた。そんな青年が自問自答を繰り返し、空回りし、そして最後は主人公とまったく関係ないところで事件が解決(?)する物語(いいのか、これで?)。ハーフボイルド(=半熟)、まさに半熟、未熟な青年の物語。自宅から通う高校生。バイトをしているわけでもないので当然お金はない。酒場(東直己作品で馴染みの「ケラー」)で父親のツケにすること、あるいは恋人からもらうお金で飲むことに、ひとりの独立した大人になりえていない状況に忸怩たる思いを抱く。
しかしその高校生という半人前の状況による主人公の想いはわかるし、ケーターイを持たない主義とか、<ファースト・フード>ではなく<ファスト・フード>と言うか、その何気ないこだわりも解らなくないのだが、そういう拘りがやはり名無しの探偵(便利屋)に重なってしまう。そしてまさに本作で登場する名無しの探偵(便利屋)も、主人公省吾のそういう拘りを評価してみたりする。これがまったく別の単独の作品であるならば、こういう拘りと自問のキャラクターというものが、この作家の作るキャラクターの典型(パターン)として許せるのかもしれないが、関連作品に同じようなキャラクターを存在させてしまうのはどうなのだろう?それもどちらも主人公である。そこに作家の狙い、意図があるなら別なのだろうが、どうも最近の東直己の作品に、そうした高邁で深遠で長大な意図があるとは思えない。もちろん「若さ」はもはや名無しの探偵にはないのだけれど。
素人書評家らしく客観的に評価し、ケチをつけてみたりしてみるが、個人的には、あぁこれは東直己の作品だ、やっぱり俺は好きだ。なぜか一人称まで「ぼく」から「俺」になって好きだと言ってしまうのだ。客観的に多くの人にオススメする作品ではない。しかし、いつもの東直己の、彼の地元である北海道を舞台にした作品。そしてまたそこには、例えば「北大」の例にあるようなローカルな話題があり、ゆえにリアリティーを覚えるの。こういう東直己の世界が好きな人は、読んでみてもいいのだろう。たぶん何も生まない。もしかしたら、俺もこうだった、俺もこんなのやりたかったとかそういう想いは生まれるかもしれないが、たぶんそれが何かを生み出すエネルギーになるような作品ではない。悪く言えば、酒を飲みグダグダ、クダを巻きながら拘りを持ち、他愛ない法螺話を吹いているような作品なのかもしれない。

北海道でそこそこ名のしれた進学校に通う高校3年生の松井省吾。北海道におけるブランドである<北大>を目指し勉強する彼は、夜のススキノで働く10歳年上のとても綺麗な彼女、真麻と交際し、ときに彼女の部屋に泊まりこむ。高校生であるが、酒も好きで、強い。いくつかの酒場、あるいはススキノの街でも顔なじみができ、少しずつススキノが自分の街のように思えるようになってきた。多少の拘りと自負を持つが、それ以外はたぶん普通の青年。何か特別に誇るようなものもなく、多感に感じ、自問する日々。
夏休みのある日。真麻の部屋に泊まった翌朝、自宅に電話してみると、遊びほうける息子を心配する母親は、同級生である女の子金井が何度も電話をかけてきたと語った。金井に電話をしてみると、受験勉強一筋のただひたすら真面目なだけと思っていた同じ級友の勝呂麗奈が覚醒剤で逮捕されたという。話したいという金井と待ち合わせをした。するとそこにはやはり同級生の柏木と真喜屋の姿があった。省吾は話しがまともにできる金井は認めるが、柏木とその腰巾着の真喜屋は認めたくない。とくに柏木は生きている意味のないバカだ。
級友の逮捕に始まる、主人公のひと夏の出来事。覚醒剤で逮捕された少女は、弱小暴力団の組長と一緒にいたという。そして事件は思いもかけないことに省吾の身辺の近くに及ぶことに・・。札幌を舞台にした、ちょっと背伸びをしているように見えなくもない青年の、すこしほろ苦い物語。

ま。これも青春なのだろうな。さきに書いたとおり物語の発端となった事件は主人公の遠く及ばない世界に広がり、最後は主人公と関係なく収束され、物語は強引にまとめられてしまう。しかしこれっていわゆる物語作品としてどうなのだろう。札幌という地のローカルのなかのさらにススキノというローカルな地を舞台にした、青春期の主人公の詮無き想いを語ると小説という点で評価するのなら許されるのかもしれないのだが。
もしかしたら東直己の他の作品を知らないほうが、名無しの探偵を知らないほうが、青春小説として楽しめるのかもしれない。

蛇足:この作品は「青春ユーモアハードボイルド」と謳われているようだ、これは明らかに間違っている。この作品をユーモア小説と謳うことは無理があるし、またハードボイルドにしても、微かな匂いは嗅ぐことができるがまだまだそこまで至らない。そういう意味で「ハーフボイルド」と名づけたことは巧いかもしれない。ハードボイルドとは音やその意味するもの(煮るという語義)は似ているもの、ハーフボイルドは否なるものなのだ。
蛇足2:ネットの書評を見るとどうも「名無しの探偵(便利屋)」シリーズの一冊、「駆けてきた少女」に少し繋がる作品らしい。しかし「駆けてきた少女」の記憶がまるでない。いや、確か邪悪ないまどきの女子高校生の話だったような・・。さらに探偵畝原の「熾火」まで繋がるとか。再読しなきゃ。あれ?そうすると単独の青春小説として読むことは難しい?

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