頬杖をついて架空の窓を見つめている。
テーブルの上には、アイスティー。
やがて、小さな溜息
左手の薬指のリングを回す・・・
思いつめた表情
じっと架空の窓を見つめている横顔
顔の表情が変わる。
どうやら雨が降り出してきたようだ
「あ、雨・・・」
雨を眺めるとともに、突然振り出した雨に右往左往する通行人を眺めている。
五反田、スクランブル交差点傍に立つビルの階にある喫茶店
「傘なんて持ってないわよね・・・雨に打たれて・・・逃げろ逃げろ!機関銃だー(笑)
大きな溜息をひとつつく。
「雨か・・・」
「みんな濡れてしまえばいいのよ」
薬指のリングをはずす
テーブルの上に置く。
雨の音
突然、車両事故の音。
「え、やだ。ぶつかっちゃった。乗ってる人、大丈夫かしら・・・あ、降りてきた。あ、あっちも降りてきた。良かった、大丈夫かぁ」
「降り始めだもんね。滑ったのかな。どっちかが、悪いのよね。どっちかが、必ず悪いのよ。でも・・・でも・・・その悪いほうが全部悪いことにならないのよ、事故って。私、事故起こしたことあるけど、どう考えたって一旦停止を無視した相手のほうが悪いに決まっているのに、私も前方不注意ですって・・・だいたい、とっさに止まれるスピードで交差点に入らなきゃって、いったいなんなのよ。そんな速度で走行したら私の後ろは渋滞で大名行列よ・・・ったく・・・けど、本当に止まれる速度、で走ったら事故もおこさないのかもね。止まれる速度か・・・」
携帯電話が鳴る。開いては見るものの、主を見つめ閉じる
しばしの間
「いまさら遅いのよ・・・さんざんこっちを振り返ろうともしないで、自分ばっか、どんどん先に進んじゃって、話しかけたって、私のほうを見向きもしない。そんなに早く進めないわよ。考えることだって悩むことだってそりゃあるのよ。あるに決まってるじゃない。一時停止して考えたっていいじゃない。自分ばっかり勝手に目的地決めちゃって、私の気持ち考えもしないで・・・いや、考えないじゃなくて、聞きもしない。私はいったいあなたの、なんなの?・・・待ってるの、待ってるのよ。どうして気づいてくれないの?いつまで、待っていればいいのよ。ずっと我慢してたんだから・・・我慢してたんだから・・・」
顔を伏せてしまう。
携帯電話が鳴る・・・・やがて、鳴り止む。
ゆっくりと顔をあげる。
窓の外を見つめる。
架空の男女。雨にぬれた女性に、男性が傘をさして入れてあげている。
「あ・・・傘・・・上手いタイミングね。でも下心見え見え。雨が降ること予想してたのかしら、この男。知り合い同士?そうよね、そうじゃなきゃ、女のほうもひょいひょいと、傘の中はいらないわよね。」
架空の窓に、相合傘を書いている。
「・・・土砂降りの雨の中、もうずーと立ちっぱなし(苦笑)付き合い始めたころは、あんなに優しかったのにね。歩く速度だってあわせてくれたのにね。いつからかな、私の存在が必要じゃないなぁ、って感じたのは。夫婦なんてそんなもの。そんなものなの?・・・もう、心に雨が降り出してずぶ濡れよ。もうだめなのかな。待ってても私の心に傘はさしてくれないのかな・・・」
架空の窓に書いた、相合傘を消す。(手を振る感じ)
「あっ、やだ。駅のホームで待ってる人、こっちみてる。このお店、駅のホームから、丸見えなのよね」
チリリン、入店の音。
そちらに目をやる
「ははは、ずぶ濡れじゃん。男も女も。あ〜あ〜気の利かない男ね。ここに飛び込む前に駅前のコンビニで傘買えよ。デートのために新調したって見え見え小娘の服がそんなに濡れなくってすんだのに。あ、チャペルのパンフレット・・・へーそうなんだ、この二人。」
架空の男女、席についた模様
激しくなる雨の音。
「なんで浮かない顔してるんだろう、この小娘・・・マリッジブルーってか。あーやだやだ、この男。御絞りで顔拭くなよ。汗だか雨だかわかんない顔してんな、ホント。やだ、手握ったよ手。チャペルのパンフレットテーブルの上において、別れ話?(間)やだ、大きな声出してそんなこと言わないでよ。聞いてるこっちが、恥ずかしいじゃない。・・・雨に決まってるじゃない。ジューンブライドなんて。ここはヨーロッパじゃないのよ。だいたいね、結婚なんて雨の降り始めなのよ。で、ずーと、雨が降り続くのよ。ねえ、わかってる?お二人さん。」
携帯に着信音。メール
開いてみる。
「しゃもじが、どこにあるかなんて、アホ。ないんだったら、スプーンでよそれ。私がなんで家を飛び出したかわかる?私はね、あんたの家政婦じゃないのよ。妻である前に一人の女でもあるのよ。それにね・・・」
架空の二人を見て
「はあ?君をもう二度と泣かせない!だと!この嘘つき男!なーにが、雨降って地固まる、よ。水溜り作るだけじゃない。しかも永遠に晴れないから、いつまでたったって、乾きゃしない。やだ、洗濯物取り込むの忘れてた。あちゃーびしょびしょだわ、この雨じゃ(溜息)・・・気がついてしまってくれたかしら、あいつ・・・」
メールを打とうとするが
「家政婦じゃないんだから・・・家政婦じゃ・・・」
架空の二人を見て
「え!素敵じゃない、けっこう頑張ったのかな、そのリング・・・なに笑ってんだよこの男、ばっかじゃないの・・・お前の指なんかに入るわけないだろう。ニコニコしちゃって・・・小娘も小娘よ。さっきまで泣きそうな顔してたくせに・・・泣きそうな・・・」
激しい雨の音
アイスティーをストローで掻きまわしながら
「まさか、結婚記念日まで忘れられるとは思ってもみなかったわよ。ちんけな安月給きりつめてさ、そりゃたいして旨かないよ私の料理なんかさ。見栄えも品祖だし。ホール買うお金だって、まあ二人なんだしカットケーキでもいいかな、って思って・・・出来れば今日は早く帰ってきて・・・「出来ればってお前言ってただろ!」って、偉そうに飲んで帰ってきて、「なんだお前、また甘いものが食いたくなったのか。太るぞ!」だって。考えられる?二人の結婚記念日に・・・」
架空の二人を見て
「はあ?壊れるほど君を抱きしめたい!?だって?アホか、この男。中西圭三の「最後の雨」じゃあるまいし・・・あ、ありゃ失恋ソングか。ハッピーソングじゃないわな。・・・失恋かぁ。・・・失恋しちゃったな。もう戻れないのかな・・・あの頃には・・・」
メールの着信音
優しい雨の音
メールを見る
「突然、すごい雨が降り出してきたね。今、どこにいるの?駅まで傘持って行こうか?洗濯物、ちょっと濡れちゃったけど、さっきしまったよ。ねえ、レアチーズとモンブラン、どっちがいい?昨日はゴメン。一日送れだけどケーキ。芸がなくてさ、他に思い浮かばなくて。何時頃帰ってくる?そうそう、しゃもじだけどさ、炊飯器の裏に落ちててさ、それがゴキブリホイホイの上でさ、でさ、ホイホイの中にそりゃ、ホイホイいっぱい入っているわけよ。何年前のホイホイなんだよ。だいたいお前は片付けが」
架空の二人を見て目が点
「げ!キスしちゃったよ、二人!この公の場で」
携帯を閉じる。
少し優しい表情
「おーい、そこのお二人さん。現実の世界に戻ってこーい(笑)・・・現実かぁ。結婚記念日も忘れてしまうような男と一緒にいる現実。自分勝手で優しい言葉ひとつかけてくれない現実。もう何年もキスどころか、好きだよ、も言ってくれない現実。(携帯を開いて)メールの着信も夫からのショートメールで埋まっているのも、これまた現実。」
テーブルの上のリングで遊ぶ。
ふと窓の外を見る。
ビックリした表情の後、苦笑い(指輪が何かの拍子に床に落ちる)
「よりによって、なんで私の花柄の派手派手な傘で来るのよ。ふふ、何時に帰ってくるかもわかんないんくせに・・・ずっと待っている気かしら。いつもより帰りが遅いから、多少は心配してるのかな・・・返信、連絡もしてないし。やっぱ心配はするんだ。」
架空の二人を見て
「おい、おい、今度はケンカかよ。なんで・・・あ、小娘!チャペルのパンフ、くしゃくしゃにしちゃったよ。あちゃー・・・せっかくもらった高そうなリングも外しちゃったよ・・・(自分の薬指を触って)あ、あれ、どこやったっけ。(床に落ちてる)あ、あったあった。なんだかんだ言っても、いざ、無くなったと思ったらドキッとしたな、もう」
愛おしそうにリングを眺め
ゆっくりとはめて、手をかざし、微笑む。
「私には、一番似合っているリングかな」
優しく微笑む
「さ、行ってあげようかな。(立ち上がりながら)きっと顔見るなり怒鳴るんだろうな。連絡くらいよこせ!って。やだやだ。でも・・・でも、そうやって心配してくれるのも私には、ありかな(優しく微笑む)」
雨足、強くなる。
店員の声「お客様、もしよろしかったら、傘お使いになりますか。次回来店時に持ってきてくだされば結構ですので」
「ありがとうございます。でも花柄で派手派手な傘持って駅前に立っててくれる人がいるので、そこまで走って行こうと思ってます。多少濡れるかもしれないけど、濡れながら走ってくる私に駆けつけてくれない人だけど、でも、でも全力で走ってって、思いっきり飛び込んでみようって思います。その傘、私のなんです。雨の日、気分が落ち込んでいるとき、花柄で派手派手な傘を見上げると、ちょっとだけ、元気がでてくるんです。その傘開いて、今日は私を待っててくれてるんです。あ、ごめんなさい・・・私・・・」
店員の声「良かったですね(笑)お幸せに!」
頭をペコリとさげて笑顔。
「よーし」
と、全力疾走の構え
が、自分の体をキョロキョロと見て
「思いっきり飛び込んで倒れちゃったらどうしよう・・・」
優しい雨の音。
暗転
完