うろうろドクター

日本の医療現場は、訴訟リスクにおびえ、過重労働で疲弊しています。少しでも良くなることを願ってブログを書いています。

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その1から続きます。
(3)結論
 以上のとおり、人工心肺回路内が陽圧の状態になったことによる脱血不能の状態が、被害者に致命的な脳障害を発生させる原因になったと認定するのには疑いを抱かせる事情があり、他方で、とりわけ上大静脈からの脱血が慢性的に良くなく、被害者の頭部に鬱血を生じさせたことを窺わせる事情が多数存するのであって、これらの事情を総合すると、本件においては、被害者は、上大静脈に挿入した脱血カニューレの位置不良があり、上大静脈の脱血不良が長時間にわたって継続したことから、循環不全が起こって頭部が鬱血し、致命的な脳障害が発生した可能性が高いというべきである。すなわち、被害者は、回路内が陽圧の状態になって脱血不能の状態になった時点では、上記のような経過で既に致命的な脳障害を負っていた可能性が高いのであって、人工心肺回路内が陽圧の状態になったことによる脱血不能の状態が、被害者に致命的な脳障害を発生させて死亡させるに至ったと認定するには、なお合理的な疑いが残るとしなければならない。してみると、被害者の頭部に鬱血をもたらした脱血カニューレの位置不良は、操作担当者である被告人の人工心肺装置の操作に起因するものではないから、これと被害者の死亡との間に因果関係が存せず、検察官が本件訴因に揚げる過失の有無を論じるまでもなく、被告人について、業務上過失致死罪は成立しない。したがって、この点において、既に所論は、理由がないといわなければならない。


第4 予見可能性の有無について
 上記のとおり、本件訴因の下では、被告人に業務上過失致死罪は成立しないが、本件において、被害者に脳障害が生じた機序については、専門家として本裁判に現れた医師の間でも見解の相違があり、静脈貯血槽が陽圧化して逆流が生じた場合には、ごく短時間で脳障害が起きる可能性を示唆する見解もある。生体のメカニズムについては未解明の部分が多く、かつ、剖検もされず、そのため死因についても様々な見方があるという本件の特殊性と、当審が事実審としての最終審であることを考えると、先のような見解もある以上、念のため、原判決の認定の上に立って、予見可能性の有無についての所論に対する判断を示すこととする。
 過失犯における予見可能性は、単なる危惧感や不安感を抱かせる程度の事実関係の認識では足りないが、結果発生に至る機序のすべてについてまで認識する必要はなく、結果発生に至る因果関係の基本的部分についての認識を前提として結果の発生が予見可能であれば足りると解すべきである。これを本件に則して見れば、ガスフィルター閉塞の機序についてまで認識している必要はないが、少なくとも、静脈貯血槽内で発生した飽和水蒸気がそのままの状態で、あるいは、陰圧吸引回路のチューブ内壁で結露して水滴となり、壁吸引の吸引力によってガスフィルターに引き寄せられて付着し、ガスフィルターを閉塞させ、回路内が陽圧の状態に立ち至るという結果発生に至る一連の機序について、本件当時の臨床医学の実践における医療水準を基準として、予見可能であるといえなければならない。
 本件においては、実際に心研で人工心肺に関わったことのある被告人以外の医療関係者や心研以外の医療関係者も、陰圧吸引回路に発生する水蒸気や水滴によってガスフィルターが閉塞する危険性について認識しておらず、関連文献を精査しても、本件当時、回路内が陽圧になる危険性について指摘するものは存するが、これを回路内に発生した水蒸気や水滴がガスフィルターに付着することと結びつけて触れる論文は見当たらず、被告人においても上記の認識はなかったと認められるから、上記一連の機序について、本件当時の臨床医学の実践における医療水準を基準として、被告人に結果の予見可能性があったと認定することはできない。
 所論が援用する医師証人(注、南淵のこと)が予見可能性に関して語るところは、事故が起きた以上、物事に完全ということはないから、事故を予見すべきであったというに等しく、どのような事案についても結果責任を認めるべきであるとの論そのものであって、採用することができない。

第5 結論
 以上の次第であって、本件事故に関し被告人に過失責任を問うことはできないから、被告人に対し、無罪を言い渡した原判決は、総論において、正当であり、事実誤認をいう所論は、理由がない。

本件においては、被害者は、上大静脈に挿入した脱血カニューレの位置不良があり、上大静脈の脱血不良が長時間にわたって継続したことから、循環不全が起こって頭部が鬱血し、致命的な脳障害が発生した可能性が高いというべきである。

佐藤先生が起訴されたこと自体が間違いだったのです。

そして、こうした無益な裁判の原因となったのは、
言うまでもなく、東京女子医大の「内部調査報告書」のデタラメさによるものです。

東京女子医大は真摯に反省し、「内部調査報告書」の誤りを認め修正・謝罪すべきでしょう。

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> 所論が援用する医師証人(注、南淵のこと)が予見可能性に関して語るところは、事故が起きた以上、物事に完全ということはないから、事故を予見すべきであったというに等しく、どのような事案についても結果責任を認めるべきであるとの論そのものであって、採用することができない。

ここはしっかりマスコミが報道して欲しいところですね。

2009/3/28(土) 午後 3:02 Wagon the 3rd 返信する

佐藤医師は公権力や医学界によって作られた『第二の犠牲者』(本田宏医師が使われている言葉)ではないでしょうか?マスコミという敵に加えて、院内や医学界にも真の敵が潜んでいるような気がします。
この冤罪によって、彼の経歴や未来が踏み潰されたことを、どう償えるのか、またその責任は誰が負うのか、再発を防ぐには何をすべきか、考えるべきだと思います。この判決をみて、私達一人ひとりは、事故の糾明をしているに過ぎないと感じます。本当にすべきは究明ではないでしょうか?うろうろ先生はどうお考えですか?

2009/3/28(土) 午後 3:30 KIDNEY 返信する

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Wagonさん、そこはサクッとスルーでしょうね…
マスコミにとっては『都合のいい』方ですからね。

判決言い渡しの場では、もっと南淵の批判をしていたのですが、
判決文自体には少しだけですから…

2009/3/28(土) 午後 3:41 さすらい泌尿器科医 返信する

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KIDNEYさん、まったくその通りです。
いい加減な大学の保身のための「内部調査報告書」によって、
6年半もの長い間、被告人という立場に置かれていたのです。

女子医大の対応は決して許すべきではありません。

佐藤先生自身も女子医大と闘っていますが、
われわれも何とかしなければいけません。

私も出来る限り応援していきますし、
とりあえず、全国医師連盟として声明を出す予定です。

2009/3/28(土) 午後 3:48 さすらい泌尿器科医 返信する

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本当に良かったですよね。
本当に恐ろしいのは「調査報告書」ですよね。ここをいかに公平中立、透明にやれるかが問題で、福島や本件のように、調査委員会が真摯な原因究明もせず、不公正かつ不純に働くと、いかにとんでもないことになるかを良く物語っています。
比較的狭い範囲の調査委員会でもこのありさまですから、厚生省主導の事故調査委員会がこのままいったら、どれだけ冤罪が生まれ、医師が簡単に世間から抹殺されることになるやら、そら恐ろしいです。

2009/3/28(土) 午後 5:04 [ sap*oro*p ] 返信する

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内部調査報告書で、東京女子医大の名を貶めてしまわったわけです。

紫色の顔の友達を助けたい先生もカルテ改ざんにかかわっていると、思って誤解をしている人もいるかもしれません。

事故調より怖いかも知れないものが。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/hourei/keiji.html
第四十一条の七
第四十一条の九

2009年5月27日までに施行

2009/3/30(月) 午前 10:14 [ おみぞ ] 返信する

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sapporo4p先生、その通りですね。
院内の調査委員会は医者のかばいあいと見られがちですが、
病院が自らの保身に走るとこうなるのでしょうね。
恐ろしい話です。
そう考えると、『厚生省主導』となったらどうなってしまうのか…

少なくとも、原因究明(+再発防止)と責任追及は分離した組織を
作らないといけませんね。

2009/3/30(月) 午前 11:14 さすらい泌尿器科医 返信する

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おみぞさん、コメント有難うございます。
>紫色の顔の友達を助けたい先生もカルテ改ざんにかかわっていると、
>思って誤解をしている人もいるかもしれません。
そうでしょうね。

マスコミ報道は解ってないのか、意図的にか
そう誤解されかねない報道をしています。
[解説]東京女子医大事件2審も無罪、医療ミスの立証困難
読売新聞 2009年03月28日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090328-OYT8T00410.htm

女児死亡事故判決 改ざん足かせ 苦渋8年
中日新聞 2009年03月28日
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2009032890070818.html
など酷い見出しです。

検察審査会は嫌ですが、仕方ないでしょうね。
無駄な裁判は止めて欲しいものですが…

2009/3/30(月) 午前 11:23 さすらい泌尿器科医 返信する

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東京女子医大は最前線でがんばっている医師を大切にしないんですね。検察審査会までいくんですか?信じられません。 削除

2009/3/30(月) 午後 3:27 [ 通りすがり ] 返信する

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通りすがりさん、この件で検察審査会が出てくるとは思っていませんが…

東京女子医大の今はどうなっていますかね?

2009/3/30(月) 午後 6:56 さすらい泌尿器科医 返信する

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今頃突然コメントして申し訳御座いません。
私は、瞳孔挙動について研究しているものです。
この判決文の中に、「瞳孔散大等の機序によると」云々という部分が御座いますが、何を根拠に5分から10分瞳孔散大まで時間が掛かると裁判長は言ってるのでしょうか?何か文献でも証拠に出されていて、その文献を根拠にされているのでしょうか?それとも、医学的に前提となっている事実なのでしょうか?もし宜しければご教授頂けますでしょうか。 削除

2009/8/24(月) 午前 3:59 [ 研究者 ] 返信する

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