翼のない天使 第11話
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本来ならば9月1日であるはずの今日は、8月2日。テレビも新聞も9月という単語は一切出さない。
どうやら本当に時間を戻してほしいという願いが叶ったようだ。
今まで非日常を経験してルリが天使だということを実感してきたけれど、時間を戻されたのは初めてなので
なんだか妙な感じがする。 そんな今日はからっと晴れた、結構暑いけどお出かけ日和のお昼過ぎ。じめじめしてるよりよっぽどいい。
ルリとやっと特別な関係になれたことだし、どこかへ出かけようと提案してみたところ、
「優香と一緒なら何処でもいいよ」という恥ずかしくも嬉しい答えが返ってきたので、近所のカフェへ行くことにした。
この前の「賭け」で私が負けたので、今回のデート代は全て私持ちだ。
ちなみに、ルリの正体がお母さんに知られてから、ルリはお母さんから毎月お小遣いを貰うことになった。
私が願った「時間を戻す」という願いは、戻った瞬間主人(今回は私)とルリ以外の人間の記憶は消失するはずらしいが、どういうわけかお母さんは記憶がしっかりとあった。
ルリによると、天使の正体を知っていて、主人と関わりが深い人間は記憶を保有していても不思議ではないのだそうだ。
「優香はマミマギのキャラで誰が好き?」
空想に耽っていると、隣を歩くルリの声が私を現実に戻した。
ルリが言うマミマギとは「マギステル・マミ・マギ」というテレビアニメの略称だ。
私がテレビを見ている時に一緒に見て以来、どうやらはまったみたい。
「やっぱり主人公のマミかな。かっこよくて綺麗でスタイルいいし。憧れちゃうなあ」
「素敵だよね〜。わたしは穂夢かなあ……普段の姿もいいけど、メガネかけて三つ編みにしたときのエピソードは良かったな〜」
「ああ、過去回想編のあれ?」
「そうそう。おとなしくてかわいいなーと思ってたら、敵の不意打ちでマミがやられて……その次のシーンの『守られてるばっかりはもう嫌! あなたを守る私になりたい!』って言うとこ、すごくかっこよかった!」
「あれがあったから穂夢は強くなれたんだろうね。マミも回を追うごとに信頼していってるのがわかるし」
「やっぱり最終回で二人は結ばれるんだろうなぁ。楽しみっ!」
そんなことを話しているうちに目的地に着いた。
洋風のデザインでおしゃれな雰囲気が魅力の『フェアリースクエア』というカフェだ。
そういえばここ、ついこの前も来たような気がする。いつだっけ……そんなに昔ではないと思うんだけど。
店に入ると、ウェイトレスが席へと案内してくれた。
「ゆっくりしていってくださいね〜」
席は向かい合う形式となっていて、ルリと二人で向かい合って座ることになる。それを意識するとなんだか急に緊張してきた。
なんでだろう、ずっと一緒にいるはずなのにこんな些細なことで……。
そうだ、あの時だ。私とルリが出会ったあの日。
その髪は窓から差す光を受け銀色に輝いていた。昔も、今も。ここは前来たときと同じ店だ。
髪だけでなく全身が光を輝いて見える。やっぱり……天使だ。
前来たときは注文が分からなくて私がレモンティーを頼んだのだけど、それを飲む姿が清楚なお嬢様みたいで様になってたっけ。
でも私は、今のルリだから好きなんだ。絶望に苛まれ独り苦しむルリじゃなくて、とびきりの笑顔を見せてくれるルリが好き。
「優香、どうしたの? 考え事?」
「な、なんでもにゃっ……!」
うう、噛んじゃった……こんなこと考えてるときに本人が目の前にいたら仕方ないよね……っているのに空想に
トリップする私も私だけど。 「ねえ、何考えてたの?」
からかってやるという魂胆が丸見えな表情でルリは私に問い詰める。
しかも身を乗り出してきているので、必然的に私の視界はルリを映す割合が増える。
つまりそれは余計に意識してしまう要因になるわけで。
「顔赤いよー? あっ……もしかしてわたしのこととかだったり……?」
「〜っ! ルリのバカっ!」
ルリってば、何であんなに普通に言えるの……少し躊躇いはあったみたいだけど……そういう問題じゃなくて!
「あ、定員さん、注文お願いします〜」
え、この流れで注文するの!? たまにルリの考えていることが分からなくなる。そもそも私まだメニュー決めてないのに。
「レモンティーとヴィーナスパフェ一つ。優香はどうする?」
「えっと……ミルクティーで」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
とりあえず思いついたものを言っておく。
そしてルリってばさりげなく豪華そうなの注文してるし。後で分けてもらおう。
「優香、変わったね」
「え? いきなりどうしたの?」
なんという脈絡のなさだろう。でも真剣な表情をしてるから真面目な話なのかな。
「出合った頃は思ったことを素直に口に出す感じだったけど、今はそうじゃないよね。さっきでも私のこと考えてくれてたなら、そう言ってくれればいいのに」
「そんな、だって……」
前はルリを恋愛対象として意識してなかったから普通に話せたけど、今は照れが先立って素直に好意を表せない……なんて言えるわけないじゃない!
「ありがと、優香。それだけ私のことを想ってくれてるってことだよね?」
「っ……私、そんなに顔に出やすい?」
「まあ、それだけ顔赤くされたらね。わたしまで恥ずかしくなっちゃうよ……」
瞬間、私の心臓は大きく跳ねた。
想いが見透かされたもあるけれど、赤く染まった頬に両手を当て照れの表情を見せるルリはとてもかわいいから。
「お待たせいたしました、レモンティーとミルクティーです」
ウェイトレスが告げた二つがそれぞれ私たちの目の前に置かれる。パフェは時間がかかるのかな。
ルリは早速レモンティーを優雅に飲み始めた。
その姿は先ほど考えていた、出合った頃の清楚な雰囲気を想起させる。
しかしそれは本当のルリじゃないという思いが湧き上がる。
ルリは分かっているのだろうか。自分が縛られていたときのことを再現しているということを。
言わなきゃ。照れている場合じゃない。私は今のルリが好きだって。
「ルリ、その注文とポーズは分かっててやってるの? 私は、今の……」
駄目だ、肝心な最後の言葉が出てこない。けれどルリは、優しい笑みを浮かべていた。
「……そっか、優香は覚えててくれたんだ。この店のこの席で優香は言ってくれたよね、わたしを自由にするって。その時本当に嬉しかったの。だから、こうやって思い出してたの」
「そっか、そういう理由で……」
ルリにとっては最高の思い出。それが分かって、安心感と幸福感に包まれる。
「お待たせしました〜。ふふっ、ごゆっくり〜」
しばらくしてウィトレスが運んできたパフェの大きさは、なんと通常のそれの2倍はある。
意味ありげな笑みも気になったが、その大きさに私は圧倒された。
「もしかしてそれ全部一人で食べるの?」
「ううん、二人の共同作業だよ?」
「ま、まさか……」
「はい優香、あーん」
屈託の無い笑みでパフェを載せたスプーンを差し出された。
「あ、あーん……」
気付けばそれを受け入れていた。こんな表情で迫られて断れる人がいるだろうか。
直後、顔が熱くなるのを感じずにはいられなかった。
「こ、これって恋人限定メニューの……どうしてルリ一人で注文できたの?」
「ウェイトレスさん、私たちが入店したときのこと見てたから。理解のあるウェイトレスさんで助かったよ」
理解があるというか、なんというか。当然ないより何倍もいいけれども。
「それじゃあもう一口〜」
「は、恥ずかしいよ……」
ルリには人目を気にしたりとかいう感情はないのかな。
クーラーの効いた室内にいるはずなのに、外にいるときよりも暑く感じる。
そんなときだった、ルリが一言を放ったのは。
「優香……大好きだよっ!」
躊躇った直後勢いよく言われたその言葉を聞いた瞬間、心が溶けた。
姿が、声が、あまりにも可憐すぎて。
予想をしていなかった場所とタイミングで。
そして、大好きというシンプルだけど嬉しい言葉は私の心にダイレクトに響いた。
「あ、う……」
「やっぱり優香はかわいいなあ。耳まで真っ赤にしちゃって。はい、あーん」
「ん、あむ……」
恥ずかしさが限界点を突破して、私は抵抗する術を失っていた。
繰り返し私の口にパフェが運ばれ、その間ずっと心臓は早鐘を打ち続け、身体は熱を帯びたままだった。
「ぅー……」
「かわいかったよ、優香」
「っ!」
この子は私を恥死させる気に違いない。きっとそうだ。
パフェは現在半分になり(自分の食べる分を残しているのだろう)私への奉仕という名の恥辱は終了した。
食べさせられている間中ずっとかわいいと言われたり、おいしいかと聞かれたりで私の精神力はもうほぼ残っていない。
いつからルリはこんなSになったんだろう。それとも私が弄られ気質なだけ?
「ねえ優香、嬉しい?」
目を細め、優しげな瞳での問いかけ。こんなの、卑怯だ。
嬉しくないなんて言えるわけない。
好きな人に食べさせてもらって、好きだといわれて、嬉しくないわけがない。
悔しいけれど、俯き無言で首を縦に振る。
「よかった、優香が喜んでくれるとわたしも嬉しいよ。それにしてもホントに優香って反応がかわいいよね、つい弄りたくなっちゃう。さて、わたしもパフェ食べよっかな。いただきまーす!」
「……すー、はー」
まずは深呼吸。熱の篭った心と身体を静めよう。2、3回繰り返して何とか落ち着いた。
そして幸せそうにパフェを食べているルリからすばやくスプーンを奪い取る。
「あ、何するの!」
「仕返し、だよ?」
不意を突かれて硬直している隙に続いてパフェを奪う。
「じゃあルリ、あー……」
あーん、と言おうとしたけれど、そこで途切れてしまった。というのも、まああれだ……正直、ものすごく恥ずかしい。
よくルリは躊躇わずにできたと思う。まあルリが素直で私が恥ずかしがりというのはさっき思い知らされたけれど。ああ、また顔が熱くなる。
でも私だってルリに食べさせてあげたい。あーんってしたい。私だけ食べさせてもらうのは納得いかない。
覚悟を決めて、少しのパフェをスプーンに乗せてルリの口元へと運ぶ。
「……はい、あーんっ!」
緊張しているせいか予想以上に声も動作も勢いづいてしまった。
「……ん、美味しいよ、優香」
けれど、なぜだろう。
花が開くように微笑む彼女を見ると、恥ずかしさよりも嬉しいという気持ちが勝るのは。
恥ずかしかったけれどルリに食べさせてもらった。恥ずかしいけれどルリに食べさせている。
それはきっとルリのことが大好きだから。
彼女が幸せになってくれるのは、彼女の笑顔を見ることは、私の1番の願いだから。
「はい。もう一口どうぞ」
器が空っぽになった頃、私の時間と感情は甘くて優しいもので満たされた。
〜あとがき〜
どうも、タイキです。ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は特に何も起こらない日常シーンです。ただ二人のイチャラブが書きたかったんです。
いいですよね、女の子同士のイチャラブ。一人でも多くこの話に萌えてくれる人がいれば嬉しいです。
挿絵はこのシリーズでおなじみのルイナさんに描いていただきました。本当にありがとうございます!
恋人つなぎとか最高すぎる・・・!
だからこそ、もっと早く投稿するべきだった・・・後悔先に立たず、ですね。
日常シーンは個人的に書いていて最も楽しいシーンです。
理由は日常シーンだとイチャラブが書けるからですw
でも今回は少しシリアス入った(入れざるを得なかった)から、いつか二人のものすごく甘々な話を書きたいですね。
まあ、書くとすれば最終回の後になるでしょうね。
次回はおそらく最終回です。もしかすると残り2話や3話になるかもですが。
そんな次回は2月下旬に投稿予定です。
感想、意見などあれば遠慮なくお願いします。
それではこの辺で〜 |

