聖なる百合と四季の希望

百合を中心に趣味や日常をのんびりと。

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2012年2月4日

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翼のない天使 番外編(後編)

 再び静穂の部屋に私たちは戻ってきた。
 
「ルリ、最後のお願い、いいですか?」
 
「……うん」
 
 正直、叶えたくない。
 
 これを叶えてしまうと静歩とはもう2度と会えないから。
 
 「じゃあ言いますね。私の願いは……ルリを自由にすることです」
 
 「……え?」
 
 わたしは耳を疑った。今まで他人のために願いをする人なんていなかったから。
けれど、そんなことって……!
 
「ねえ、今のホント!? そりゃあこれ以上ないくらいに嬉しいけど、本当にいいの?」
 
「はい。だって私もルリと一緒にいたいですし、ルリも自由になりたいと思っていたのでしょう?」
 
「静穂……うん。ずっと、そう、思ってたっ……!」
 
 嬉しくて涙が溢れてくる。自由になれる! 静穂とずっと一緒にいられる!
 
「泣かないでください……とは流石にいえませんね。ずっと一人で苦しんでたんでしょう?」
 
「っ……! うんっ……!」
 
 静穂は私をそっと抱きしめてくれた。私の涙で着物が濡れることも気にせずに。
 
 その姿と声は、地上に降りてから感じたことのない慈愛に満ちていた。
 
「落ち着きましたか?」
 
 わたしが泣き止んだ頃合を見て、静穂は優しく声を掛けてくれた。
 
 「……ごめんね。着物、汚しちゃった」
 
 「いいんですよ、気にしなくて。それより願い事、叶えてください」
 
 「うん、ありがとう、静穂」
 
 これで最後だ、人間の願いを叶えるのは。最後が静穂で、本当によかった。
 
 意識を願いに集中させる。
 
(天使ルリアを課せられた使命から開放せよ!)
 
 心の中で念じる。しかし、直後わたしは絶望を感じた。
 
 願いを叶える際には一瞬辺りが眩しく光る。その瞬間に願いが叶えられるのだ。
 
 けれど今は何も起こらなかった。つまり願いは叶っていないということになる。
 
 おかしい。これは絶対におかしい。こんなことは今までに一度もない……いや、ある。わたしの技量不足か。
 
『そうではありません。ルリア、あなたが自由になるにはまだ早い』
 
 心の中に直接声が響く。心も読まれた。こんなことが出来るのはただ一人、女神様のみだ。
 
「……!」
 
 わたしと向かい合う位置にいる静穂が幽霊でも見たような驚いた表情でわたしの後ろを指差す。
 
するとそこには、やはり女神様がいた。
 
 波打つようなシルバーへアを靡かせ、背中には立派な翼が生えている。
 
 豪奢な白いドレスを装着し、その腰の部分と頭には花のアクセサリを着けている。
 
「女神様!? どうしてここに!?」
 
「珍しい願いをするものがいたので降りてきました。それにしてもそこの娘はわたしの姿が見えるのですか?」
 
「……! ……っ!?」
 
「なるほど、見ることは出来ても声は出せぬ、と」
 
女神様の存在を人間が認識するなんて普通はありえない。
 
ましてや会話など不可能に近い。
 
「声も聞こえてるようですし……本当に珍しいですね」
 
 確かに珍しい。しかしそんなことはこの際どうでもいい。
 
「女神様、まだ静穂……この者の願いを叶えてません!」
 
「先ほども言ったように、あなたが自由になるのにはまだ早いのです。もっと地上で修行を積みなさい」
 
「そんな……」
 
 折角静穂と出会えたのに。こんなのってない、あんまりだ。酷すぎる。
 
「私はあなたの為を思って言っているのです。この国は近々大きな戦いをします。そんな中であなたを自由にするわけにはいきません」
 
 嘘だと抗議したかったが、できない。女神様は現在も過去も未来も、全てのことが見えているのだから。
 
「……私としたことがうっかりしましたね」
 
 女神様がそう言った瞬間、静穂に雷のような光が落ちた。
 
「女神様! 静穂に何を!?」
 
「記憶を消しただけです。勿論この国が近々大きな戦いをする、という部分だけですけどね」
 
「あ、そうか……」
 
 人間が未来を知ることがあってはいけない。歴史が変わるかもしれないから、当然のことだ。
 
 静穂がやられたというのは心が痛いけれど、こればかりは仕方が無い。
 
 「それでは私は天界に帰ります。願いは私が許可できるものしか口に出せないようにしますので」
 
 そう言い残して女神様はすうっと消えた。
 
 「静穂! 大丈夫?」
 
 「う、んっ……あれ、私……」
 
 「ちょっと気絶してただけだよ」
 
 「そうでしたか……ルリ、今の方は……」
 
 「うん、分かったと思うけど女神様。まあ、さっき言われた通りだよ。私の自由以外で願って?」
 
 「そんなっ……!」
 
 悔しそうに両手を握り締める静穂を見てると、わたしも辛くなってくる。もう会えないんだから。
 
「どうしても、駄目なんですか?」
 
 その問いにわたしは涙を見られないよう俯き、小さく頷いた。
 
 そして、言っておかないと。わたしの正直な気持ちを。
 
「静穂、今まで本当にありがとう。静穂みたいな素敵な人に出会えただけでも嬉しいよ。これからずっと静穂のことは忘れないから」
 
 静穂は数秒動きを止め、突然彼女の両手がわたしの両手を包み、ぎゅっと握って離さない。
 
 驚いて顔を上げた拍子に、わたしの涙ぐんだ瞳と、彼女の泣きそうな、けれども決意を込めた瞳が合った。
 
「……最後の願いです。もしルリを自由にしたいという人がランプを手に入れたら、その願いが叶うようにしてください」
 
 その願いはとても嬉しいが、無理だ。願いを叶えるかどうかは女神様が決めるのだから。
 
 打つ手がない。万策尽きた。そう思った瞬間、脳内に女神様の声が響く。静穂を見ると聞こえている様子はない。
 
(その願い、許可します。ただしあなたが生きていけると確信できる環境と、あなたのことを一番に考えるくらいの心優しき者が現れたそのときは考えましょう)
 
 声が途絶えた瞬間、辺りが眩しい光に包まれた。願いが叶った証だ。
 
 これで願いは3つ叶えた。それはつまり、わたしがランプに戻ることを、表す。
 
「ルリ……! いつかきっと、幸せになってください! ルリに出会えたことは一生忘れません!」
 
 涙を流し、告げる。それを見て、聞いて、私の涙腺は決壊した。
 
 もう時間が無い。声を振り絞り、最後の想いを伝える。
 
 「静穂、わたし、静穂と出会えてよかった! 天使なのに人が嫌いで、いい人なんていないって思ってたけど、そうじゃないって思えた! 本当に、ありがとう!」
 
 意識が、身体が、段々と薄くなってゆく。もう静穂とはこの世では会えないだろう。
 
 けれど、だからこそ心に刻み付けたい。あなたと出会えたことを。
 
 
 もう何度繰り返したことだろう。
 ランプの中で眠り、それを擦られ起こされる。
 主人の視線や主人の言葉。それらは欲望。
 奇跡を求めて願われる。
 けれどわたしは今日、初めて奇跡を受ける側に立った。
 綺麗な心を持った人に出会えた。
 だからわたしはまだ頑張れる。
 これからも願いを叶え続けよう。
 あなたのような人の為に。
 
 
 
 
 
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〜あとがき〜
 
どうも、タイキです。ここまで見てくださって本当にありがとうございます。
 
今回の話は翼のない天使の少し前の話です。
 
なのでまだ本編を見ていないという方は、時間に余裕があるときにでも1話から読んでくださると嬉しいです。
 
この話を書くのに苦労したのが、何と言っても時代背景。歴史苦手なんですよ……! 
 
そんなわけなので、おかしい点があれば容赦なく指摘お願いします。
 
 
静穂女神様のイラストをルイナさんに描いていただきました。本当にありがとうございます!
 
上のリンクから是非ご覧になってくださいね〜
 
 
次回は翼のない天使11話を2月19日までに投稿します。
 
4月に入るまでに本編の最終回を迎えることを目標に頑張ります。
 
というか今までの更新ペースが遅すぎましたね。受験終わってから怠けすぎた・・・
 
なのでこれからは更新ペースを上げていきます!
 
感想・アドバイス等あればものすごく嬉しいです。
 
それではこの辺で〜

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翼のない天使 番外編(前編)

 明治維新が起こり暫く経った今は大正時代。
 天使が存在すると信じる人などいただろうか。
 目の前に現れるなど、誰が予想できるだろうか。
 

 もう何度繰り返したことだろう。
 ランプの中で眠り、それを擦られ起こされる。
 主人の視線や主人の言葉。それらは欲望。
 奇跡を求めて願われる。
 わたしの力の限度を知ると、わたしの身体を傷つけようとする人もいる。汚そうとする人もいる。
 けれどわたしは天使。女神様の加護がわたしを護ってくれる。
 でも、もう嫌。願いの大半は富と名声、あるいは命。
 前者を願う穢れた瞳を見るのが嫌。
 後者を願うも叶えられないと知り絶望する姿を見るのが嫌。
 一体いつまで繰り返すのだろう。

 
 
 
「あなたは……?」
 
 眠りから覚めたと思えば、木造の家の部屋の中にわたしは居た。
 
 屋内で目覚めるなんて今までなかったのにどうしたんだろう。
 
 目の前には10代後半くらいの少女がわたしを見ていた。
 
 艶のある長い黒髪が、後ろ髪は腰まで伸び、サイドの髪は顎にあたる長さで切り揃えられている。
 
 顔や身体は雪のように白く、花のように細く可憐だ。
 
 今回のご主人様はまだ今までに比べたらマシかな。安全に終わりそうだ。
 
「あの……あなたは誰ですか?」
 
「わたしは天使。あなたの願いを三つ叶えてあげる。限度はあるけどね」
 
 必要最低限のことは話した。さて、どんな反応をするか。
 
「うちは仏教徒なので、キリストの方は……ごめんなさい」
 
 今までに無い反応だ。まさか願いを叶えるってところをスルーするとは思わなかった。でもわたしはこの子の願いを叶えないといけないんだ。何とかしないと。
 
「ねえ、何か願いはないの?」
 
「えっと……考えておきます。それより気になったんですが」
 
「うん?」
 
「あなたはどうして願いを叶えようとするんですか? あなたの瞳には意思と覇気がない。まるで重労働を課せられている人みたいです」
 
「なっ……」
 
 こんなことを言われたのは初めてだ。わたし自身を気遣う人なんて、初めて見た。
 
「教えてください、あなたのこと。願いを叶えてもらうだけじゃ悪いです。あなたの力になりたいんです!」
 
 わたしを見る彼女の瞳を見つめ返す。その奥にあるのは、強い意志と深い優しさ。 さっきまでひ弱な印象だった彼女がとても大きな存在に思える。
 
「……ありがと。えっと……」
 
「あ、私は佐倉静穂です。静穂って呼んでください」
 
「わたしはルリア。好きに呼んで」
 
「じゃあ、ルリって呼んでいいですか?」
 
「えっ、っと……」
 
 ニックネーム、というものだろうか。馴染みがないからか、それはとても特別なことのように感じた。
 
「よろしくお願いしますね、ルリ!」
 
 彼女……静穂は、花が咲くような笑顔でわたしの名前を呼んでくれた。とっても不思議な、特別な人。
 
 静穂に出会って、わたしは変われるような気がしてきた。
 
 
 

 私は静穂に打ち明けた。女神様の修行でここにいることや、今までろくな人間にあったことがないことを。
 
「そんな……ひどいです! そんなの絶対おかしいですよ!」
 
 静穂は悔しそうに唇を噛みしめ、手を握りしめる。
 
 天使は人間を幸せにしないといけない。しかし自分を傷つける人々を幸せにしたいなんて誰が思うだろうか。
 
 気付けば私の心は荒んでいた。
 
 でも目の前の少女はわたしのために怒り悲しんでいる。わたしのことを思ってくれている。こんなわたしだからこそ、そんな彼女をわたしの力で幸せにしたいと思った。
 
「ありがと、静穂みたいに優しい人に出会えて本当に嬉しいよ。だからわたしは静穂の願いを叶えてあげたい。静穂には幸せになってほしいの」
 
「ルリ……ありがとうございます。それじゃあいいですか?」
 
「うん、私に出来ることなら何でもどうぞ」
 
 静穂は若干躊躇ったあと、話し始めた。
 
「……私の家はどちらかといえば貧しいんです。だから、贅沢はできないにしても最低限家族が健康に過ごせてできれば毎日三食を満足に食べたいって思ってました」
 
「そっか……じゃあ願い事は『お金がほしい』でいい?」
 
「そう、ですね。なんか後ろめたいですけれど、生きていくためですから……」
 
 今までこの願いは散々叶えてきたが、この願いは真剣に叶えてあげたい。
 
 出せる額は天子の力量によって決まるから、たいした金額は出せないだろうけど、静穂とその家族が生きていくには十分だろう。
 
「分かった。ちょっと待ってね」
 
 意識を集中させる。願いを思い浮かべ、空間座標を合わせる……!
 
 辺りが一瞬光る。目の前にはお金が出ていた。
「わあ……本当に出た! しかも200円も!」
 
 200円はこの国の時代では結構な大金のはずだ。
 
 顔を綻ばせて喜ぶ静穂を見てると、役に立てたことが分かって嬉しい。
 
 しかし何かを思い出したように真剣な表情に戻った。
 
「じゃあこのお願いは安心して出来ます。その……私の母の病気を治してください!」
 
 目をつむり、手を合わせ、懇願する。
 
 なんということだ、家族が病気にかかっていたなんて。
 
「願いが一つなら迷わずこっちを言ってました。あ、信用してなかったわけじゃないんですよ? ただ、目の前で起こったことしか信じられない性格なもので……」
 
「わたしの言うことが嘘かもしれないし、無理だったときの現実を見たくないから?」
 
「はい、そうです……でもルリのおかげで助かるかも……来てください!」
 
 そういって連れてこられたのは近くの小屋。
 
「病院に行けるほどのお金は今の今まで無かったから、病院には行けなかったんです……」
 
 重苦しそうに静穂が言う。
 
 でも、この表情を笑顔へと変えてみせる。
 
「お母さん、入りますね」
 
 目に映った女性は布団の中で横になっていた。顔色が悪く苦しそうで、明らかに具合が悪そうだ。
 
 「お母さんは風邪をこじらせちゃったの……でもルリなら治せますよね?」
 
 「うん、任せて」
 
 治るように意志を持ち、静穂の母へと手をかざす。
 
 一瞬辺りが光った。成功した証拠だ。
 
 「お母さん! 具合はどう?」
 
 「……身体が軽いわ。こんな感覚久しぶり……」
 
 「治った……! ルリ、本当にありがとう!」
 
 「あなたが治してくれたの? 不思議な人……ありがとうございます」
 
 「いえ、そんな……」
 
 願いを叶えてこんなに感謝されるなんて今までなかった。
 
 なんだろう、暖かい何かで包まれるような感じ。
 
 こんな気持ちになるのは初めてで、出来ることならばずっと静穂といたいと思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後半に続きます。

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開設日: 2007/11/29(木)


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