酒器のコダワリ「最終章 形状」
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ぐい呑の良し悪しは、見た目や持った時の具合、口に付ける感触などに因る。しかし、ワイングラスの項で書いたのと同様、ぐい呑においてもその形状が酒の香味を左右する。 |
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ぐい呑の良し悪しは、見た目や持った時の具合、口に付ける感触などに因る。しかし、ワイングラスの項で書いたのと同様、ぐい呑においてもその形状が酒の香味を左右する。 |
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さて、切子という日本のガラス酒器について書いて来た。しかし、ぐい呑みからは少々外れるかもしれないが、本音を言えばガラス器はヨーロッパに一日の長があると思っている。 特に酸化鉛の含有率を多くした、「水晶のように透明なガラス」という意味の「クリスタルガラス」。ヨーロッパのものはベネチア、ボヘミアなどの永い伝統を汲んでおり、現在も素晴らしい製品を産み出している。 まず、「バカラ」。美しい。ガラスは飽くまで澄んでまさに水晶のようであり、精緻なカットは美の極みである。とりわけ、液体を入れたときの反射が素晴らしい。 ウイスキー類の琥珀色の液体で特に真価を発揮して、バーの薄暗い空間でダウンスポットが当たっている光景などは最高である。照明を反射して妖しく輝くグラスを覗き込んでいると、別の世界に入り込んでしまう錯覚を覚える。 写真はバカラのショットグラスであるが、やはりこのように琥珀色の酒が映える。バカラのマークとロゴは底面に一つだけ彫られているのだが、カットによる反射で側面にいくつも映り込む様が美しい。 一方、ワインは「リーデル」のグラスで呑みたい。かのロバート・パーカーは、「リーデル社製のソムリエシリーズこそが、機能的にもワインを楽しむためにも最適のグラスです」と言う。 バカラは高いがリーデルも高価で、しかもとても脆い。知り合いにリーデルを割った人が半ダースはいる。不用意に力を加えて拭いたら、すぐ割れる。 ある人はリーデルを拭き上げている際、家人に「これはとても脆いので、こうして力を入れてはいけない…」と、フリのつもりで軽くグラスの縁を指で挟んで見せた。すると、本当に割れてしまった、とのこと。 ただ、このような話は「ソムリエシリーズ」のことで、「ヴィノムシリーズ」が出て随分手が届きやすくなったし、丈夫になった。私自身、シャンパングラスにはヴィノムシリーズを使用しているが、今のところ何とか扱っている。 しかし、今でも脆い話が半ばトラウマとなっており、あらゆるワインへの全面的な採用にはなかなか踏み切れない。でも本心では、全てのワインをリーデルのグラスで呑みたいと願っているのである。
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ガラス器はその透明感から来る涼しげな趣が、とりわけ夏場に冷酒や冷や酒を呑むのに絶好である。また洋酒の類は当然として、焼酎をストレートやオン・ザ・ロックスでいただくのにもなくてはならない素材である。 日本の伝統的ガラス酒器と言うと、まず「切子(きりこ)」が思い浮かぶところだ。切子とは文字通り「カットガラス」のことで、ガラス器に意匠を付ける主たる技法である。そして、切子の代表格は「江戸切子」と「薩摩切子」であるということで、まず異論はなかろう。 江戸切子は江戸時代末期、江戸大伝馬町のビードロ屋、加賀屋久兵衛が手がけた切子細工が始まりと伝わる。さらに、明治に入り政府の欧米文物導入政策の模範工場として品川硝子製造所が指定され、伝習生に教えられることによって伝承され現在に至っている。 模様としては、「魚子(ななこ)」と呼ばれるダイヤ型が魚の鱗のように並んでいるものが代表的である。その他、竹篭の八角形の網目に見える「八角篭目」、線の重なりを菊の花が開いたように見せる「菊つなぎ」、「七宝」、「麻の葉」、「格子」などがある。 一方の薩摩切子は、まず薩摩藩27代藩主島津斉興(なりおき)の代にガラス器が製造され始めた。そして次の斉彬(なりあきら)が色ガラスの研究を命じ、当時の日本では薩摩藩でのみ造り得た紅ガラスを始め、藍、紫、緑、黄色などの発色に成功した。 薩摩切子の特徴は、「ボカシ」と呼ばれる色彩のグラデーションの妙にある。透明なクリスタルガラスの上に色ガラスを厚く被せて角度の浅いカットを施すと、色ガラスと透明なガラスの境目が曖昧にぼかされて、次第に色彩が薄められていく。この技法が「ボカシ」である。 これに対して江戸切子の場合は、カットは深く鮮明で、仕上がりがはっきりとして華やかである。だた薩摩切子は、幕末期の薩摩藩における20年ほどで途絶えてしまい、現在生産されるのはその技法を復元したものである。
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焼きもの、塗りもの以外の素材となると、漆を塗らない木や竹、金属器、ガラス器、石を彫り出したもの、樹脂などである。このうち、金属器には高級品の銀器などもあるが、私には錫器(すずき)が好ましい。 錫はいくつかの理由から酒器に相応しい素材である。まず融点が231.9度であり、低温で溶かすことができるのため加工しやすい金属である。また金属臭がしない、錆びたり変色しない、人体に全く無害であるなどの優れた特長を持つ。 錫の分子は不純物を吸収する性質があり、注いだ液体を浄化するとされる。そこから、錫器は酒をまろやかに美味しくすると言われている。これらは俗説の域を出ないかと思われていたが、科学的根拠があるとする向きもある。 実際、「錫器に入れた水は何日も腐らなく、美味しくさえなる」との言い伝えがあり、神社仏閣の御神酒(おみき)徳利などは錫器が基本である。そのため、清酒のことを「おすず」と呼ぶ地方もあり、この言葉は宮中でも用いられるとされる。 伝統的な錫器の造り方は、まず錫の塊を溶かして鋳型に流し込み、固まったところをロクロによって回しながら削っていく。ある程度形が整ったところで、木槌で何度もなんども打って湾曲や丸みを付け、思い描いた外形に仕上げて行く。また杉の目などの模様は、その型の付いた鉄製の道具で叩いて付けていく。 錫は熱伝導率が良く、そこからも酒器として重宝されている。その点で錫製のチロリは実用的なのであるが、アルミやステンレス製のそれに比べて遥かに風格の面でも勝っており、気の利いた居酒屋ではチロリと言えば錫である。また燗酒の杯に用いた場合は、手で持った時に温かみを感じることができる。 実用面だけでなく、風合い、色合いといった面でも私は錫を好む。光沢は銀にも匹敵し、加えて独特の渋みがある。また、外側に漆を塗ったものなどは新しい魅力が加わり、素晴らしく感じが良いものである。
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焼きもの以外のぐい呑の素材としては、やはり漆器。焼ものに対した言い方では塗もの。会津、輪島、山中、根来などあるが、やはり輪島。しかし、輪島は高価なのでなかなか買えないのが実情で、私自身は他の産地で我慢している。でも、やはり輪島。 |
開設日: 2005/2/1(火)