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明けましておめでとうございます。今年は書きます!

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マーラー:交響曲第5番
パーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送響


 何とか時間が取れたので6月6日のヤルヴィ/フランクフルト放送響のマラ5を聴いてきた。この組み合わせは4年前にも来日し、その時は9番を演奏したそうだ。できれば2番か3番、もし合唱が準備できなければ6番か7番あたりを聴きたかった。5番や1番は「さま」になりやすい曲なので、インバル時代からマーラーを熟知しているオケをヤルヴィほどの実力者が振れば良い演奏にならないはずがないのだ。なので、生ヤルヴィをサントリーホールで一度聴いておくのもいいだろうというぐらいの気持ちで聞きに行ったのだが、3楽章で思わぬ驚きがあって大変満足した。

 メンゲルベルクが使っていた楽譜の書き込みによると、3楽章のホルンのオブリガートをソリスト扱いにして指揮者脇(コンサートマスターの前)で演奏させたそうだ。この情報は2002年にペータースが出版した新校訂版に注釈されたため広く知られることになった。約400カ所の誤りを訂正したというラインホルド・クビーク校訂のペータース新版については下記サイトに詳しいので参照されたい。
http://www.musicking.co.jp/mt/trb_cla/archives/04_sheetmusic/mahler5_kritische.php

 2002年のラトル/ベルリンフィルの演奏はこの新校訂版を採用しているようで、第一ホルンのシュテファン・ドールを第3楽章だけ指揮者脇に移動させている。DVDや放送でその映像をご覧になった方も多いだろう。(ちなみにラトルは同年にウィーンフィルとベーレンライター新校訂版のベートーヴェン全集も完成させている。ラトルは新校訂版が好きなようだ。)

 私はここだけソロで扱うのはちょっと大げさではないかと思ったが、アバドの2004年の演奏では第一ホルンを(その場で)起立させており、このオブリガートの演奏方法がにわかに争点になってきたことは間違いない。ユーチューブではラトルの映像は見つけられなかったが、アバドの映像は見つかった。第一ホルンが起立していることが確認できる。(全くの余談だが、90年代以降のアバドの指揮はニコニコしながら友達感覚で振っている感じで違和感がある。オケに迎合しているというか、予定調和的というか。昨日紹介した70年代の映像がストレートに音楽に切り込んでいるのとはだいぶ違うと思う。)
http://www.youtube.com/watch?v=vOvXhyldUko

 楽譜(現在普通に使用されている出版譜)自体にはホルンオブリガートを指揮者脇で演奏するとか、起立するといった指定は特にされていない。
http://imslp.org/wiki/Category:Mahler,_Gustav

 しかし下記情報によると、このオブリガートは当時の名手でウィーン・フィルの主席奏者だったカール・シュティーグラーのために書いたもので、マーラー自身はアバドの演奏のようにホルンを起立させて吹かせていたらしい。オブリガートの演奏方法に工夫の余地があるのは間違いなさそうだ。
http://kcpo.jp/legacy/32nd/Wienetal/horn.html

 さて、この点に関するヤルヴィの解決方法は、第二楽章の後で第一ホルンを舞台左手奥から右手奥(チェロの後ろあたり)に移動させて起立させて演奏させるというものだった。左手のホルン軍団と右手のオブリガートソロが素晴らしいステレオ効果を挙げて非常に効果的だった。ラトルのように1人だけソリストにしてしまうとオブリガートだけが目立ってしまうが、このやり方であればオブリガートソロとホルン軍団との掛け合いが強調されるのだ。これはうまいことを考えたものだ。聞き手は第3楽章でこのように華やかなホルンの掛け合いを聞いた後、有名なアダージェットで、ああこれは確かに弦楽とハープだけの音楽なのだ(管楽器と打楽器は全休止。上記楽譜の178ページを参照)、ということを改めて確認するのだ。実に効果的だ。やはりヤルヴィはただ者ではない。

 この曲は両翼配置(対向配置)の弦楽を想定して書かれているので、ホルンでステレオ効果を出すならばヴァイオリンも両翼にして良さそうなものだが、弦の配置はインバル時代のこのオケと変わらないストコフスキー型(アメリカ型)だった。この点はちょっと残念。クレンペラーやクーベリック、あるいはシノーポリ(実演ではなくCDのみ)のマーラーのような古典的両翼配置、もしくはギーレンのようなハイブリッド両翼配置で聴きたかった。ヤルヴィはドイツ・カンマーフィルとピリオドアプローチによる素晴らしいベートーヴェンを演奏しているだけに、彼なら両翼配置でマーラーを振れるだろう。

 アンコールはブラームスのハンガリー舞曲第5番と第6番だった。緩急をかなりオーバーにつけた演奏で、真面目な顔でおどけている感じが面白かった(確かにブラームスの音楽にはそういう要素があると思う)。ちなみに前プロはアリス=紗良・オットのリストだった。生で聴くのは初めてだが、まあまあというところか。

(追記)
 私はリストを非常に熱心に聞いているとは言いにくいので単なるステレオタイプ(固定概念)かもしれないが、私のリスト弾きのイメージはベルマン、ホロヴィッツ、ギレリス、それにアルゲリッチと言ったところだ。タイプは異なるが、いずれもある種の大見得を切るようなヴィルトーゾシティを持ったピアニストという点では共通すると思う。

 アリス=紗良・オットはリストが好きなようで演奏会や録音で良く弾いているが、意外に柔らかい音で私がリスト弾きにイメージするようなスケールの大きさはまだなかった。良く弾けてはいたので批判するつもりは決してないのだが、リストを良く弾けているというレベルのピアニストは今では日本人でも結構いる。まだ若い人なので今後に期待しよう。

 むしろ印象に残ったのは裸足でステージに登場したことの方だ。初めは見間違いかと思ったが、アンコールで何度も出てきた時もそうだったので間違いない。16列目の私の席でもはっきり確認できたので、もっとステージに近い席の人にはかなりサプライズだったのではないだろうか。ステージの上はチェロやコントラバスがピンを刺した跡などがそこらへんにたくさんあるので結構危ないと思うのだが、生足では怪我をしないかちょっと心配してしまう。

 アンコールはリストのラ・カンパネラとブラームスのワルツ第3番を弾いてくれた。ユーチューブでラ・カンパネラの演奏を3つ見つけた。3つ目の映像は今年のもので生足のようだ(笑)。
http://www.youtube.com/watch?v=7slRnziludY
http://www.youtube.com/watch?v=SVjTdMCi6tM
http://www.youtube.com/watch?v=-lmFh_jVX0A

 インタビューの映像と記事も見つけた。今は日本語でインタビューを受けられるくらい上達したようだ。3つ目の映像はリストについて英語で語っている。 
http://www.youtube.com/watch?v=sATEI35U_Fg
http://www.youtube.com/watch?v=tSryLoB2uJY
http://www.youtube.com/watch?v=5_yO9ZsPJgo
http://ja-orchestra.seesaa.net/article/256200595.html

 ヤルヴィが2011年に同じオケを指揮したマラ5も見つけてしまった。何とここではホルンを指揮台横のソリスト扱いにするというラトル式の処理をしている! ホルンソロは今回の来日と同じ奏者だ。この位置だと譜面台を自分で舞台袖にしまわなければならないのが何だか気の毒なような、おかしいような。
http://www.youtube.com/watch?v=MBDpb3l6O9c

 今回の来日公演は彼なりの試行錯誤の結果だったのだ。私は今回のやり方を支持する。聴いておいて良かった。マイクが入っていたようなのでいずれFMで放送されるのかもしれない。ホルンが左右で掛け合う第3楽章は必聴だろう。

(さらに追記)
 日本公演と同時期の韓国公演の映像をユーチューブで見つけた。第三楽章のホルンソロが右手に移動する様子ははっきりとは映っていないが他のホルン軍団と別の場所で吹いていることは確認できる。
http://www.youtube.com/watch?v=0AdHsa1mXx4

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今年のヒラリー・ハーンの来日はパーヴォ・ヤルヴィと
フランクフルト放送響の演奏会ぐらいしかないので楽しみにしていましたが、
残念ながら仕事でことごとく行けませんでした。
また来年に期待しないといけません。
それにしても、アリス=沙良・オットの感想はあっさりしていますね(笑)。

2012/6/9(土) 午前 1:47 鉄平ちゃん 返信する

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鉄平さんこんにちは

私も行けるかどうか分からなかったので当日券でしたが期待通りの良い演奏会でしたよ。アリス=紗良・オットの演奏も悪くなかったですが、どちらかというと生足の方が印象に残ってしまいました(笑)。彼女のDVDを作るときはぜひ生足のペダリングをたっぷり撮影してほしいものです。

2012/6/9(土) 午前 10:53 [ たか ] 返信する

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たかさん、はじめまして。拙ブログへコメントを頂きましてありがとうございました。

Pヤルヴィのマーラー、素晴らしかったですね。
3楽章の第1ホルンの扱いについてですが、僕はP席で聴いたために、ホルンのステレオ効果はよく分かったものの、第1ホルンの音量が近くで大きく聞こえ過ぎてバランスを損ねていました。ステージの正面客席で聴けば完璧でしょうね。いずれにしてもパーヴォのアイディアには拍手です。

パーヴォはアイディアと表現力、オケの統率力が抜群です。今回のコンサートを聴いて彼の実力が途方もないことが理解できました。それはカルロス・クライバー以上だと思えるほどです。 削除

2012/6/9(土) 午後 7:22 [ ハルくん ] 返信する

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ハルくんさんこんばんは!

私は指揮が見たい人間なので実はP席があったらP席を買うつもりだったのですが、サントリーホールは当日券はS席A席しか売らないのですね。こんな仕掛けが待っているとは夢にも思いませんでした。怪我の功名ですが差額分の価値はあったかもしれません。

2012/6/9(土) 午後 8:25 [ たか ] 返信する

たかさん、こんばんは 先程は千里のブログに訪問&コメントありがとうございました。
やっぱりヤルヴィさんは凄かったです。オケも観客も盛り上がって興奮気味なのに、彼自身は最後まで冷静に指揮をする…
ハルくんさんのコメントにもありますが、表現力・統率力は本当に素晴らしかった
C.クライバーより凄い

2012/6/9(土) 午後 9:55 ☆senri☆ 返信する

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千里さんこんばんは。
C.クライバーはコンサートでもオペラでも素晴らしい業績を残したので、ヤルヴィをクライバーと比較するのはまだどうなんでしょう
(^^;

クライバーのボエームとばらの騎士を聴いた人間としては、あれを超える体験が今後そうそうあるとは思えないですが、何はともあれ近年まれな素晴らしいコンサートであったことは間違いありません。

指揮振りが何となくクライバーばりになってきた気は確かにします。4年前の9番はこれほど良くなかったらしいので、成長著しいのでしょうね。

2012/6/9(土) 午後 10:23 [ たか ] 返信する

私はカルロス・クライバー氏の実演は聴いたことがありません… 子供だったし…
たかさん、クライバーのオペラまで観たとは… 何とも羨ましい…

2012/6/9(土) 午後 10:37 ☆senri☆ 返信する

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国内外を問わずオケの性能(アンサンブル能力)は昔より上がっています(合わせるのが難しいはずの両翼配置が近年急速に見直されている理由の一つはそこにあります)。

ですので良い指揮者が出てくれば今回のコンサートのような良い演奏が聴けるチャンスはあるのですが、歌手のレベルは昔(といってもフレー二やドミンゴ、パヴァロッティ達が全盛期だった80年代ぐらいの話でそんなに大昔ではありません)よりも大幅に下がってしまったままなので、オペラに関しては若い人は本当に気の毒としか言いようがありません。

歌手の非力を目先でごまかすかのように演出の方に焦点がいってしまった公演が多いようにも思います....

2012/6/9(土) 午後 10:49 [ たか ] 返信する

たかさん、こんばんは

気ままなブログ、そして記事ですが、どうぞTBしてくださいませ。
私も左右のホルン配置に賛成です。いずれにしても、あのホルン奏者は‘バケモノ’でした

2012/6/9(土) 午後 11:36 ぐらごるみさ 返信する

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ぐらごるさん、こんばんは

このホルンオブリガート、ぜひ映像にとってDVDにしてほしかったですね。逆に言えばそれを目撃できた我々は幸運ということでもありますが。

映像の影響って結構強くて、ヤルヴィが昨年の演奏ではソリスト脇に立たせているのはラトルの映像が盛んに放送されたせいだと思います。マラ1のフィナーレで楽譜の指定にあるホルンの起立が復活したのもテンシュテットの映像のせいだと思います。

2012/6/10(日) 午前 0:07 [ たか ] 返信する

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私は残念ながらオブリガート・ホルンをソリスト仕立てにした上演にはまだぶつかったことがありません。貴重な経験でしたね。
何せ体験したことがないので確信は持てませんが、個人的にはオブリガート・ホルンの扱いは中々微妙な問題ではという印象を持ってます。
大体「オブリガート」という言葉は元々「不可欠な本質的ソロ」を指したのが、19世紀以降は「助奏・伴奏」に転化したいきさつかあり、「オブリガート」と記したマーラーが「主役的ソロ」を考えていたのか、「助奏的ソロ」をイメージしてたのかも色々な意見がありうると思います。
スケルツォ主題は最初オブリガート・ホルンが出しますけど、その後主題は目まぐるしく他の楽器に受け継がれていきますから、ホルンがモティーフ展開上の軸とは言い難い。
それに元々マーラーのオケ論理は、すべての楽器が次々と主役を交代したり並行させたり分割したりして行くとこに特徴があり、加えて彼の異質な要素を並置するオーケストレーションでは楽器の物理空間的配置をいじらなくても各楽器が強烈な意味的方向感をもって立ち上がることに顕著な個性があると思います。 削除

2012/6/11(月) 午前 7:27 [ 助六 ] 返信する

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そうするとホルン1本を特別扱いして空間的に孤立させるのはマーラー様式と矛盾するような気がして。
このスケルツォは郵便馬車を吟じたゲーテの詩「御者クロノスに」(シューベルトも曲を付けてる)を念頭に置いているというワルターに由来する指摘がありますが、詩の最終節にに「御者よ、角笛を吹き鳴らせ、 Töne,Schwager,ins Horn,」と言う句があり、オブリガート・ホルンは郵便馬車の御者が吹き鳴らす時に可愛いらしく時に荒々しく不気味なラッパのイメージかもしれません。そうならオブリガート・ホルンは楽章を通じてアクセントを与える比喩的な意味での通奏低音みたいなもので主役的ソロではなさそうな。
それなら後方で起立させるのは妥当な選択のような気がします。指揮者の脇に立たせたら視覚的にはまるでコンチェルトの体裁になってしまいますから、これは誤読っぽい。 削除

2012/6/11(月) 午前 7:29 [ 助六 ] 返信する

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3番の3楽章スケルツォのトリオにはポストホルンのソロ(トランペットで代用されることもある)がありますが、この部分はマーラー自身がレーナウの詩「郵便馬車の御者」に触発されたことを認めています。こちらは墓地の前で馬車を止めた御者のノスタルジックな夢想で森の中から聞こえてくる神秘的な音曲のイメージですから、背後から一時浮き上がる主役的ソロというとでしょうかね。ヤンソンスとか舞台裏で吹かせたりしてますね。 削除

2012/6/11(月) 午前 7:29 [ 助六 ] 返信する

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助六さんこんばんは!

>ホルン1本を特別扱いして空間的に孤立させるのはマーラー様式と矛盾するような気がして。

私もそう思います。指揮者脇に置いてしまうとオブリガートが完全に主になってホルン軍団が従になってしまいます。ここはそういう音楽ではないと思います。おまけに譜面台を出したりしまったりすると音楽的な緊張がそこで途切れてしまうのも気になります。

今回のヤルヴィのように左右に配置すればオブリガートとホルン軍団はバランス的には対等であり、なおかつオブリガートの旋律をはっきり伝えることができます。楽譜台も初めから立ててあったので楽章間が特に間延びした感じはありませんでした。私は非常に賢明な方法だと思います。

>ヤンソンスとか舞台裏で吹かせたりしてますね

ヤンソンスってここのポストホルンを舞台裏で吹かせているのですか。私はコンセルトヘボウでヤンソンスのマラ5を聞いたことがありますが気がつきませんでした。ホルンのオブリガートが指揮者脇でなかったことは間違いありません。

2012/6/12(火) 午前 0:10 [ たか ] 返信する

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注目のP・ヤルヴィだけに、多くのブログ仲間が聴きに行き、大きなものを手に入れて会場を後にしたようで、何ともうらやましく思っています。
3楽章のホルンについてはラトルの演奏は知ってはいたものの、知らぬことが多く、そうだったのか!といまさら思う次第。ありがとうございました。

せめてFMで放送されるといいのですが。

2012/6/17(日) 午後 1:33 [ ] 返信する

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恵さんこんばんは

>注目のP・ヤルヴィだけに、多くのブログ仲間が聴きに行き、大きなものを手に入れて会場を後にしたようで


私もオブリガートホルンをこれだけ意識して聴いたのは初めてでしたのでとても発見がありました。何とか行けて本当に良かったと思います。

それにたかだか2000人少しの聴衆の中でブログに書いている人がこれだけいるということは、それだけ書きたくなるような良いコンサートだったのでしょうね。

2012/6/17(日) 午後 9:29 [ たか ] 返信する

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