羊の隠れ家

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OMEGA−少女の森 春から夏【13】

少女の森 春から夏【13】

 
東京都 港区 赤坂。近代的なデザインの建築物が立ち並ぶ外堀通りの一画に、キラキラと太陽光を反射するガラス張りのビルが聳え立っている。天野建設の東京本社ビル。その20階建てビルの最上階のフロア面積のすべてが天野グループの総帥である「天野賢次郎」のオフィス・スペースとして使用されていた。
 
マット・グレーのスーツに包まれた身長175Cmの体は、すでに70を超えた老人であるにも関わらず、白髪混じりの髪をオールバックにとかしつけたヘアスタイルと相まって、その外観からは屈強な中年男性を思わせる逞しさがあった。
 
天野は重厚な本皮製のソファに身を沈め、その日の朝刊を手に取ると、その一面の見出しに視線を走らせた。
 
「昭和製薬・社長。自殺!」
 
「日本企業を脅かす敵対的買収!」
 
「買収工作の裏側にチラつくヘッジ・ファンドの影!」
 
「昭和製薬は国内有数の製薬会社であり、近年同社が開発したインフルエンザ治療薬は世界の医学界が注目するものであっただけに、今回の買収には、日本の高い技術力、開発力の獲得を狙った外資系企業によるあからさまな敵対的買収であり、その裏側には巨大な資本グループによる画策があると噂されている・・・。」
 
そこまで読むと、天野は新聞をテーブルの上に置き、ゆっくりと立ち上がった。オフィスの西側の壁は全面ガラス張りになっていて、その下に広がる大都会の全容が一望できた。
 
縦横無尽に張り巡らされた道路と鉄道のネットワーク。その複雑な回路を接続し、中継し、情報を吸い上げ、情報を変換し、そして情報を放出するために建てられている無数の建築物。
 
大都市を行き交う情報は、ある場所では製品であり、別の領域では原料であり、資源であり、はたまた契約でありサービスであり、そして知識であった。人間は電子基盤の上を這う電気信号であり、また同時に人間は電線の中を流れる直流電流であり、そして人間は変換装置の中で分解され、再構築される電子記号であり、記号は電圧となり、記号は回転数となり、記号はエネルギーとなり、記号は無数の物質となり・・・・・・そんな記号のすべてが、この巨大なシステムを支え、そして稼動させているのだ。
 
「自由なライフスタイル」も「自分らしい人生」も、そんな巨大な機械に組み込まれていればこそ成り立つ話である。人間は皆、自分が無数の部品の内の一つに過ぎないのだという事実から目を背ける必要があり、それを自覚しないままに人生を終えてしまう必要がある。換言するなら大都会のシステムとは、そんな現実から個人を遠ざけるだけのために増幅し、増殖しているのである。
 
(人間の一生など、それは100年にも満たない、一瞬の幻か・・・。)
 
アスファルトとコンクリートを組み合わせた複雑怪奇な迷路の中を、あれこれと喚き散らしながら右往左往している無数の矮小な生き物を見下ろしながら、建設業界の帝王は軽くため息をついた。
 
(そして私もまた、そんな矮小な生き物の一つに過ぎないのだ・・・。)
 
天野はスーツの内ポケットから一枚の小さな紙切れを取り出すと、そこに書かれている数人の人間の名前を順番に口にした。
 
「東原英之、柏木勇作、中田和夫、吉岡省吾・・・。」
 
そして最後に「小林智志」の名を口にすると、天野はその小さな紙切れを、応接セットのガラス製のテーブルの上に置かれた重々しい陶器の灰皿の中に落とすと、ライターで火をつけた。白い紙切れは、炎に焼かれ苦しむ生き物のように身をよじりながら、その全身を無意味な灰に変えてゆく。
 
5つの名前が完全に灰となった時、デスクの上の固定電話が鳴った。
 
「会長。お客様がお見えですが・・・?」
 
「誰だね?」
 
「新藤様でございます。」
 
「わかった。通してくれ。」
 
数分後、会長室の扉を押し開いて入室してきた女性を、天野は笑顔で出迎えた。
 
「元気そうじゃないか?」
 
「突然お邪魔してすみません。会長。」
 
「かまわんよ。ちょうど退屈していたところだ。」
 
そう言いながらソファに身を沈める天野の正面に、新藤絵里香も腰を下ろした。天野は自分の前に座っている女性の美しさを確認しながら、彼女が用件を切り出すを待っていた。
 
「昭和製薬の社長が自殺したそうですね。」
 
絵里香はテーブルに置かれた朝刊を手にしながら、その一面の記事に視線を走らせる。
 
「ああ。気の毒だったな・・・。」
 
「創業者のお孫さんだったそうですね?」
 
「そうらしいね。受け継がれてきた社名が奪われることに耐えられなかったのだろう。」
 
「気持ちはわかりますわ。ところで会長。桜井さんから報告はありましたか?」
 
「・・・5人目の件かね?」
 
「ええ・・5人目の件です。」
 
「聞いているよ。これですべて終了だな。」
 
「会長・・・お心を痛めておられますか?」
 
「まあな。これでも人の子だからな・・・。」
 
(人の子)・・・それは何気なく口にした言葉だったが、天野はその言葉を脳裏で数回復唱すると、自嘲の笑みを浮かべた。
 
「私は・・・人の子ではないのかも知れないな・・・・。」
 
そう呟いた男の顔を、絵里香はしばらくの間、見つめていた。
 
「もうすぐです。会長。もうすぐ、すべてが明かされます・・・。」
 
「そうだな・・・。そしてすべてが変わる。」
 
「ええ。世界のすべてが・・・。」
 
 
 

 

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あっ。。。。。

またさぼってる!

2012/4/10(火) 午後 1:43 [ rar*rar*do ]

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