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2010年グラススキー練習日記ファイナル〜ヤン・ネメッツスペシャルレッスン

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ヤンとのツーショット

ちょうど2年前の秋、沼澤がDLWHに入門した年にAコーチの友人、チェコ代表選手で、世界王者のヤン・ネメッツさんが来日した。あの頃の沼澤はまだ、グラススキーでかろうじて連続ターンできるようになったばかりであった。それでも、ヤンの滑走は衝撃的で、体軸が少しもぶれることなく、まるで1本のまっすぐな電柱が、ポールとポールの間を縫うように移動しているかのように、脚部だけを巧みに動かしている。そんなふうに見えた。当時はレーシングレッスンのみ行い、当然のことながら、沼澤にとってヤンは、高嶺の花でしかなかった。

あれから2年。地道な練習の積み重ねが功を奏し、信じられないことに、沼澤はグラススキーのアシスタントインストラクターになった。この程度でイントラなのか!? と言われないように、さらに精進していかなければと、身の引き締まる思いである。そんな沼澤の前に、再びヤンが現れた。今回はチェコチームのメンバーといっしょに来日したらしく、103日の高円宮牌や1017日の全日本技術選手権(グラススキー)に出席することが目的の一つで、その中間にあたる10911日の連休は、ふじてんゲレンデでレーシングのスペシャルレッスンを開催することになった。ヤンの滑りを直接見ることができる絶好の機会である。沼澤は1011日の2連休を利用して、レッスンに参加した。当然、レーシングではなく、基礎トレーニングが目的で、今回は久々にSコーチが担当だった。Sコーチは今年、ヨーロッパで行われた世界選手権で総合2位という好成績を収めた、日本グラススキー界のエースである。

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10日、午前中、ゲレンデには小雨が降り、まずはジュニア達と合同で基礎練習からスタートした。Aコーチの指示で、頭や上体は動かさずに脚部だけ動かす意識で、山脚を開いたり閉じたりして、ターン後半、切り替え、ターン前半の脚部の動かし方を練習。その後、レーシング班と別れて、Sコーチの元、後傾防止に役立つエクササイズを繰り返した。その後、フリー滑走をヤンに見てもらうチャンスが到来。最初の1本で「膝をもっと前に出すこと。そして、次のターンの始まり部分で、お尻をもっと持ち上げること」この2点を注意された。後傾、足首が伸びてしまうという最も重大な欠点を指摘され、一つが改善されると、もう一つが駄目になるという堂々巡りに陥り、午前中のレッスンは終わった。後に、2年前の練習記録を読み直してみたところ、ビデオミーティングの際、ヤンが1本だけ沼澤の滑走映像を見て「あと3cm膝が前方に出るように」と指摘されていたことを思い出した。肝心なところで少しも進歩がない、ということである。後にこのことをAコーチに話すと、「スキー教程に記載されていますが、スキー技術の上達は‘らせん階段'を上り下りするようなもので、全体の技術が向上しても、必ず同じところで、問題は浮上してくるものです。うまくなったけれど、また後傾、後傾、後傾、・・・という具合に。みんなそんなものですよ。」

午後のトレーニングは、連続ターンの中で苦手克服していくことをテーマに、練習を続けた。切り替えで重心を谷脚に移動させる際、これまでフォールライン方向に目線や体幹を向けて、おへそを突き出す感覚で移動させていたのだが、外脚が伸びきって、十分に外脚に荷重できず、ターンマキシマムから後半にかけて内倒してしまい、重心を外脚に移すことが困難だった。Sコーチによると、切り替えで重心を谷脚に移動させる時、ほんの少し、外腰に重心を移動させるだけで十分であり、この時、上体は正対したままで良いとのこと。そして、この時、山側だけでなく谷側のお尻の筋肉にも力を加えて、お尻が落ちないことが重要。お尻に力を入れながら、谷側の腰を突き出すように重心を谷脚側に移動させ、上体の向きはこの時点ではまだ進行方向を向いたままにするが、このポジションが作れたら、すぐにターンが始まるので、素早く重心を外脚に移していく。この日は大回りを中心に練習を繰り返して終了した。

この日の夕食後、T会長達は帰ってしまい、大人はAコーチ、Sコーチ、ヤン、沼澤の4人だけだった。ヤンが缶ビールをふるまってくれたのであるが、アルコールが飲めない沼澤は断った。ヤンはビールが大好きである。2年前に来日した時、瓶ビールをラッパ飲みしていた姿を思い出す。そこにMちゃんのお父さん(Nさん)が缶ビールを1ダース持参して、合流。ヤン「ビールは健康に良い」と言いながら、幸せそうにビールを飲む。ヤンは日本食も嫌がらずに完食していた。納豆も味噌汁もなんでもOKなのだ。見事な食べっぷりで、日本人より日本人らしい。Aコーチ「基本的に日本食が好きなんです。刺身は大好物で、寿司を買うと、2人分は軽く平らげてしまいます。安い寿司や刺身でも喜んで食べます。わがままじゃないんですよ。」どこにいても、どんな環境でも、何でもこうして食べられるのは強みである。ファッションには興味がないらしく、いつも洗濯を繰り返して薄っぺらになったTシャツを着ているらしい。今年ジュニアの世界選手権で総合優勝したHくんが、ヨーロッパにいる2週間、ヤンにはお世話になったそうで、ヤンがHくんに「大切な話がある」と切り出した。

ヤンが15歳でジュニアの代表選手になった頃、両親が貧しくて、ヤンは25㎞離れた電車乗り場まで、スキー・ブーツ・ストックを積んで自転車で往復し、電車からゲレンデに向かった。ゲレンデにはここのようにリフトがなくて、スキーを担いで山頂まで登り、一人で滑走した。効率が悪いため、スーパーG(大回転)のようなターン数の少ない練習はできず、SL(スラローム)ばかり練習してきた。暗くなるまで続けて、また電車に乗り、自転車で25㎞走り、帰宅する。次の日も、その次の日も、毎日こうした生活を続けてきた。それでも、大会では成績が揮わず、優勝できるまでに8年間かかった。ヤン「しかし、君はそうした環境とは違う。その分、しっかりと自分のやるべきことに集中できるはずだ。」持って生まれた才能は確かに必要だけれど、天性の才能だけで成功するわけではなく、長い年月をかけて繰り返し、繰り返し、努力を続けてきたからこそ、今の地位を築くことができたのだろう。どれだけ頑張っても報われなかった日々の中で、絶望を感じたことだってあるはず。こんな話をしながら、ヤンはもう1本缶ビールのふたを開けて、幸せそうな顔で飲み干す。ヤン「今夜は楽しい。チェコでもこうして、仲間とビールを飲みながら語り合う日が多く、そんな時が一番楽しい。」

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11日、快晴。まずはヤンとAコーチが全員の滑走をチェック。数本滑った後にレーシング班とわかれたが、Nさん(名古屋から来ているTくんのお父さんで、スキー指導員である)が「沼澤さん、第12バックルが緩いんちゃうか。指先がしびれるぐらいきつくしてみ。沼澤さんは、外脚で捉えようとしているのに、バックルが緩いからここが浮いてしまうように見えるんや。」とアドバイス。この日はHさんと沼澤が基礎班で、Sコーチの元でレッスンが始まった。ヤンに指示された「膝をもっと前に出すポジションをキープすること」をテーマに、まずは、斜滑降しながら膝を常に前に出し、いつでも足首がお尻の下に来るように、足首で体を引き寄せる感覚をキープさせることに意識を集中させた。そこへ、レーシング担当と思っていたヤンが途中で合流し、基礎班のレッスンを担当してくれるというサプライズ。足首を曲げて、膝を前に出すのは、連続ターンの中でやるしか習得できないとのこと。まずは、足首を曲げやすくするため、第34バックルを全開し、第12バックルをできる限りきつく締めるよう指示。足の指先がしびれる位に締めてみる。ヤン「膝を常に前に出し、特にターンの始まり部分でお尻を持ち上げるポジションをキープさせながら、ロングターンをすること」足首を曲げ続けると、腰を上げたり下げたりする上下動は使えない。無駄に上半身を動かすと、足首が伸びる時間が増えてしまう。いつもより動きが少ないけれど、ひたすら脚部を動かし、ターンを続けた。徐々に後傾が改善されてくるが、足首を曲げることに集中すると、再び後傾になる、という堂々巡りであった。ある程度であるが、後傾も改善してきたところで、今度はミドルターンの練習。やることは同じだが、リズムが早くなることで、横への動きが不十分となり、深回りできず、暴走してしまう。これを見て、ヤンがもう一度ロングに戻って、深回りで行うよう指示。そして「外脚のインエッジを使うことに意識を集中させて」。ミドルでも徐々に膝を前に出して滑れるようになってくる。

午後の始まりに、再びヤンがレッスンしてくれて、今度はショートターンを行う。ヤンのスラロームは見たことがあるけれど、フリーでショートターンをするのを初めて見た。信じられないくらいリズムが早くて、腰の高さは変わらず、足首が伸びる瞬間がない。トップが恐ろしいくらいに素早く動き、深回りで、すべてのターン運動が正確である。こんな早いリズムで沼澤が動けるわけがない。どうすればいい??? リズムを早くしようと焦れば、ターンが終わらないうちに次のターンに入り、深回りできず、次第に動けなくなり、ストレートにフォールラインに向かって暴走していく。ビデオで見ると、気持ち悪いほど、左右差が目立ち、右外足ターンでは外腰がスキーしっかり乗せることができるのに、左外足ターンでは、外腰がスキーに乗っておらず、いつでも右の外腰に乗り続けているように見えて、あまりにも不自然である。ロングやミドルターンでもこの傾向はあるが、リズムがゆっくりな分だけ多少ごまかせる。でもショートではごまかしがきかない。足首は伸びるし、上体がフラフラ動き、体幹の固定感がない。ヤン「もっとも重要なのは、ロングと同様、膝を前に出すポジションをキープすること。お尻が下がらないように意識すること。早いリズムでも、これだけは忘れないように。そして、深回りするために、外脚のインエッジに意識を集中させること。」外脚のインエッジで捉えることに集中すると、いくらかまともになるが、よほど注意していても、足首が伸びたり、後傾になる。ここでヤンと別れ、Sコーチより、上体を動かさず、脚部だけ動かすよう指示。徐々に滑りが安定してくる。リズムを早くしようと焦ってもうまくいかず、目に焼き付いて離れないヤンの滑走リズムはなるべく考えないようにして、自分にできる限りの早いリズムにとどめて、ターンを仕上げてから、次のターンに入るように注意した。最初のプレターンが大事で、ここで、胸を張って、お尻を落とさないよう注意してから滑走開始する。後傾ではあるが、徐々にポジションに変化がみられる。最後の1本。上体は固定し、脚部だけ動かす。外脚でしっかり捉えることに意識を集中。プレターンでのポジションに注意。お尻を下げない、背中を丸めない。そして、滑走開始。途中で後傾になったことに気づき、ターン弧が大きくなってしまったが、お尻を持ち上げなおした。この滑走をたまたま見ていたNさんが「沼澤さん、うまくなったなあ。名コーチと名生徒や。」

最後に、ヤンに挨拶した。「レッスンしてくれて、ありがとうございました。3年後にまた、日本に来るのですよね。また会えるのを楽しみにしています。」英語では、これだけ伝えるのがやっとである。ヤンは3年後に、日本で開催されるグラススキー世界選手権に、大きなモチベーションを持って臨むと言っていた。大好きなビールも大会の数か月前はお預けらしい。スキー(グラススキー)に一途に取り組んでいる、この素朴な世界王者と2日間共に練習ができたことは、かけがえのない宝となった。3年後に再会した時、また同じことを言われないように、頑張らなければ。そしていよいよ、待ちに待ったスキーシーズン到来である!!

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