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先週は、日本政府が久々に国際社会で注目された週だった、といえるでしょう。それは、2つの大きな「大盤振る舞い」によるものでした。
ひとつは、4月21日に東京で開催されたミャンマーと日本の政策対話。
つい一昨年までは「世界の悪役」のひとりだった元軍人のテイン・セイン大統領(元首相)が、2010年11月の総選挙以降はガラッと「いいヒト」に変身。誰もが「そのうち、手のひら返すよ」と思っているうちに、あれよあれよと民主化が急進。アウンサンスーチー女史も自宅軟禁から解放され、つい先日の補欠選挙で彼女が率いる国民民主連盟(NLP)が大躍進したのは、すでに有名な事実ですね。
その「元悪役」テイン・セイン大統領が来日したことを機会に、日本政府は同国への延滞債務3,000億円を免除(=借金棒引き)することを発表しました。おまけに、25年ぶりに円借款供与を再開する、というオマケまで。
これだけ見れば、国際援助の世界の過去にもあった似て非なるニュースのひとつであり、一般の方からすれば「フーン」で終わってしまうのかもしれません。
しかし、何がこのニュースの大きな価値であったかと言えば、「ミャンマーの最大債権国であった日本が、ミャンマー政府に対して寛大な譲歩をして、延滞債務免除を行った」という事実は、他の債権国(欧
米各国)にとっては「かなり意外な展開」だったからです。
欧米諸国からすれば、現在の日本の財政状況は数字(債務残高の対GDP比が200%超え)だけで見れば「世界最悪」であり、常識的に考えればそんな財政状況の国が3,000億円もの債権をポンと放棄することなどできる筈がない、と考えていました。これは、数字だけで見れば、至極真っ当な考え方です。
一方で同時に、ミャンマーとの歴史的関係が最も深いといわれる日本が、ここまで(意外にも)ミャンマーの改革が加速している中で、まさか指をくわえて黙っているはずがなく、何かの「アメ」を与える用意をしていたことは周知の事実で、おそらくそれは「債務の繰り延べ」などの金融的小手先手法で借金を一度チャラに見せかけ上して、すぐにまた債務をつくるような手法をとるのであろう、との見方が大半でした。
日本政府にしてみれば、「てやんでいっ、ミャンマーと日本の関係は、お前ら欧米とは違うというところ、見せてやるぜ!」とでも言わんかのように、本当に気前よく借金棒引き、もとい延滞債務免除を断行しました。しかも、新規の優遇金利貸付までオマケにする、最高の待遇です。
これには、欧米諸国も「日本、おぬしもなかなかやるなぁ…(でも、大丈夫なの?)」という感じなのだと思います。
もうひとつは、17日に安住財務大臣が公表した国際通貨基金(IMF)への「600億ドル拠出」を表明したことです。
すでに各紙でも色々と書かれていますが、欧州債務危機がまだまだくすぶり続けている中で、IMFの最大拠出国である米国が大統領選との絡みもあり「拠出しない」と決断したことに真っ向から相反し、第2位拠出国でありながら大してIMF内ではプレゼンスも保てていない日本が、必要とされた5000億ドルのうち10%以上を単独で拠出する決断をいち早く表明したことは、結果としてBRICSなど他新興国などの判断にも大きく影響を与えたと言われています(結果的には、4300億ドル程度どまりとのことですが)。
この背景には、
1)欧州危機が止まらないと、世界全体の景気は停滞し、行き場のなくなったマネーが安定通貨といわれる日本円にどんどん流入し続け、円高が止まらなくなる、
2)IMFでは第3位拠出国にまで迫ってきた中国のプレゼンスが大きくなり続けており、今回の巨額拠出によって日本のプレゼンス(=IMF内のポスト)を高めたい思惑も取引要因としてある、
3)世界各国や市場から「日本の財政は本当に大丈夫なのか?」と言われ続けている中、巨額拠出を政府が断行することで、「財政は健全」ということを国際社会にアピールしたい
− などなど、様々な思惑があると言われています。このほかにも、色々とウラでは「思惑ネタ」も飛び交っていますが…。
いずれにしても、この2つの「大盤振る舞い」が、受け取り手であるミャンマーとIMFにとっては嬉しくなかった訳はなく、国際社会からも「日本も大胆なことするねぇ…」と久々に注目されただけでも、少なくとも財務官僚はニンマリだった1週間だった訳です。
このような「大盤振る舞い」は、前述した「世界最悪」の財政状況だけで考えれば到底有り得ない支出なのですが、そこは財務省、実は周到に原資を考えているようです。詳細にはなかなか不明ですが、簡単なキーワードで触れてみれば「外為特別会計」「外貨準備」「財政投融資借入金」そして「消費税」、ってところでしょうか。
さて、少し話を変えますが、20日のG20会合でIMFへの4300億ドル拠出が固まった翌日、IMF本部では「IMF・世界銀行総会」のサイドイベントとして「Asia’s Rebalancing – Regional and Global Implications」と題した、大物エコノミスト達によるパネルディスカッションが開催されました。
パネラー達は、Ilan Goldfajn (ブラジルItau Unibanco チーフエコノミスト)、Vincent Reinhart(米国モルガンスタンレー証券チーフエコノミスト)、Yi Gang(中国人民銀行副総裁)、篠原尚之(IMF副専務理事)、Pamela Cox(世界銀行東アジア大洋州地域担当副総裁) − という、錚々たる顔ぶれでした。
そして何より、これらの大物パネラーをとりまとめるモデレーター役に、日本テレビの「NewsZERO」でアンカーを務められている村尾信尚さん(関西学院大教授)が、堂々と登壇されました。
実際に会場で聞いてみると、村尾さん、とても流暢とは思えない「日本人英語」なのですが、それでも「アー、ウー」という突っかかりもなく的確な単語の使いまわしで、しっかりとモデレーター役を務めてられていて、正直申し上げてなかなか見直しました。
隣に座った篠原副専務理事は、村尾さんの財務省時代の先輩にあたる方ですが(村井さんは旧大蔵省主計官)、割と冷めた目で村尾さんを見下す感じで受け答えしていたのが、印象的でした(良い印象ではありませんが)。
さて、そのパネルディスカッションですが、内容的にはやはり「中国」が中心になりました。しかし、当事者の人民銀副総裁がいたこともあり、なかなか面白いやりとりでした。
概要的には、『世界全体の経済が低迷する中、アジアも影響を受けているが、再び成長軌道に回帰することは可能であるのか(Rebalancing)』という大きなテーマの中で、以下のようなコメントが各パネラーから出ました −
● 代表的に注目すべきは、やはり中国経済の先行き。中国はGDPに占める投資の比率が相変わらず高く、特にリーマンショック以降は急増しているが、持続成長に必要な自国内消費の比率はまだ低いままである(篠原)。
● 中国の成長率が低下傾向にあるのは、長期的な構造要因によるものであると言える。それは、人件費の上昇に生産性上昇が追いついていないこと(競争性の低下)、人民元為替交換比率の調整、高齢化社会の到来、などなどが重なり合っている。
GDPに対する消費が低いという指摘は多々あるが、統計の問題は指摘したい。中国の都市部を見れば消費はどこも盛んだ。もちろん、都市部以外は低いかもしれないが、統計に出てきていない消費の上昇は見られている。長期的には、消費を伸ばして投資比率を抑えることは政策として優先的にある(Yi Gang)。
● 中国の成長低下が、基本的に構造的な要因であることに疑いはない。しかし、中国は今後の政策次第では、新しい成長モデルとして他新興国に対する競争的な地位を確立できるチャンスも持っている(Pamela Cox)。
● 中国だけでなく、ほかBRICS諸国も対GDPの消費を指摘されるが、実態的には伸びている(Ilan Goldfajn)。
● アジア地域を見てみると、中国よりも安い人件費で生産される加工品、おいしい果物、伝統工芸品、文化など、魅力的なモノが豊富だ。ただし、中国以外の国の課題は、中国へこれらの魅力的なモノを輸出するためのインフラが不足している。これを強化しないと、地域の持続的な成長は確保できない(Pamela)。
● アジアでは、自国外との金融のつながりは深い一方で、自国内での金融網の発展が弱い。Financial Integrationは重要なトピックだ(篠原)。
● ブラジルの主要輸出先は中国だ。南米には、アジアの6倍もの水や土地がある。アジアと南米は補完関係になれる(Ilan Goldfajn)。
● 一定の経済規模になるとそこから先に進めない「中進国の罠」の理論をよく言われるが、中国の現在の一人当たりGDPは約5,000USDで、「中進国の罠」に嵌らないためにも研究開発(R&D)、教育、大学の研究と企業活動のリンク、所得分配の不均衡改善、などを強力に進めていく(Yi Gang)。
● 先進諸国はどこも公的債務の膨張に四苦八苦している。これに対峙していくためには、密度の濃い財政計画が必要だ。アジアにおいて、以前に日本が先頭を走って他アジア諸国がそれに追随していた「雁行形態経済成長モデル」が、これからは中国が先頭になって新しいモデルを創り出すことは可能だと思う(Vincent Reinhart)。
● これらは発言のごく一部ですが、上記のような興味深い見解が、それぞれ相手の立場も見ながら腹の探りあいをしつつ、主に中国を中心に議論されました。
日本について議論が盛り上がらなかったのが、ちと残念でしたが。。。
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