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米中新時代における日本・ASEANと華人経済圏

中国の次期トップ、つまり胡錦濤国家主席の後継者に事実上内定している習近平国家副主席が、米国を訪問中です。

オバマ大統領はもちろんのこと、31歳の頃に河北省正定県のいち書記として訪米した際にホームステイしたアイオワの民家も訪れ、旧交を温めたそうです。当時は、同民家に2泊した際に、子供部屋に泊まったとか。

各メディアは、「G2時代」「米中新時代」を意識した取り上げ方が中心で、特に米国側がまだ実際には国家元首に正式にはなっていない習副主席を特別扱い的に歓迎し、大統領が85分、バイデン副大統領が2時間も会談に費やしたことに特に注目しています。

このような「次期トップの歓待」は、実は初めてではなく、現トップの胡錦濤が現在の習氏と同じ国家副主席だった2002年に「次期トップ」として訪米し、当時のブッシュ大統領が今回同様に対応しています。

しかし、2002年当時と今回の大きな違いはなんと言っても、G7だった当時から現在はG2とまで言われるほど、米国が冷戦後の圧倒的な唯一超大国であったところに中国の近年の急激な経済成長とその将来への持続的な成長確度から、世界はもはやこの米中2カ国の意思決定によって右にも左にも行く、と揶揄されるのが2012年の現在であります。

一昨年(2010年)の段階で、中国は名目GDPベースで日本を既に抜いているのはご承知のとおりですが、国際通貨基金(IMF)やゴールドマンサックスの経済見通しによれば、2026年頃には米国をも抜いて世界最大の経済大国になる、と予想されています。

この予想をどこまで信用するかは、読み手次第なのですが、慶応大学総合政策学部の神保准教授が2機関の経済見通しに各種修正値を重ねた見通しにおいては、2030年には中国の名目GDPが34.6兆ドル、そして米国のそれが28.4兆ドルと、決して小さくない、むしろ大きな経済規模の差が2国間でついているであろうとさえ予測されています。

実際の将来がどうなるかは神のみぞ知り得る訳ですが、こういう将来予測などに基づけば今回の習副主席訪米が「G2時代」の幕開けと評されても、決して大袈裟とはいえないことは間違いありません。

当研究所がここで注視したいのは、仮にこの将来予測が前提として議論された場合に、果たして東南アジアは、そして大国インドネシアはどのようなポジショニングを求められるのか、という視点です。

ちなみに、日本がどういう位置づけになるかももちろん神のみぞ知るですが、少なくとも地政学的には米中の狭間にあることは不変でありますことから、いかに米中の今後のセンシティブな関係の中でどのように重要な役割を演じられるのか、というのが論点であることも間違いないと思われます。

では、東南アジア。

2月14日付日本経済新聞朝刊国際面に掲載された、ASEAN事務局のスリン事務局長のコメントは思慮に富んでおり、現在の米中関係と東南アジアの立場を非常に慎重にとらえているものでした。

ASEANは10カ国で構成されていますが、米中の前では所詮「小国連合」であることをスリン事務局長は的確に自覚されており、その一面は上記記事でのコメント −

「(域内の貿易自由化の主導権を米国が握れば)ASEANの統合が脇道にそれる恐れがある」

「ASEANは、地域が覇権競争の舞台となることは望まない。我々は信頼感の醸成を何よりも重視する・特定の国が支配力を強めれば、不安定化につながる。域内の秩序は多国間主義の枠組みで守るべきだ」

− といった部分に色濃く現れていました。

スリン氏の生の声を聞く機会に恵まれたことが何度かありますが、世界的にも稀有な高い外交能力と優れた人格を持つ、ASEAN事務局長としては最適の人物であることは間違いありません。

しかし、そのスリン氏も「恐れて」いる、TPP(環太平洋経済連携協定)に代表される米国のアジア再進出戦略と、日本を抜いてアジアの唯一超大国となろうとしている中国の勃興の狭間で、東南アジアがどうポジションをとっていくのか、果たして10カ国は同じ方向を向いていけるのか、将来を考えるとリーダーとして悩みは尽きないようです。

東南アジアの生きる道は色々と選択肢があるでしょうが、「これまでASEANは日中の影響力の微妙な均衡の上で、経済連携の中心に座り続けることができた」(前出日経記事より)という事実から、G2時代においてどのように中国や日本と連携しつつ、米国とも折り合いをつけながら自らの繫栄を持続的に保ち続けるのか、最適解は限られつつあります。

そのひとつは、アジアの唯一大国となるであろう中国と独立的な距離を保つことを可能にするために、日本と効果的に連携を保つことでしょう。無論、日本も同じように両想いでなければなりません。

ASEAN10カ国の合計人口が約6億人、これに日本の1.2億人を足すと7億人超。小国連合とは言え、人口規模では結構なインパクトです。しかしながら、先の神保准教授試算によれば、2030年ころの名目GDPはASEAN(ただし5カ国:シンガポール+インドネシア+マレーシア+フィリピン+ベトナム)と日本を足しても、せいぜい18.5兆ドル程度にしかならず、前述した米中からは大きく見劣ります。

加えて、当研究所がもっとも重視しているASEAN各国にまたがる華人経済圏の存在により、中国はもしかすれば華人経済圏の主要財閥などを通じて「ASEAN日本連合」の形成を政治的に拒む恐れも十分あります。

逆説的には、華人経済圏をどう取り込むのかが、「ASEAN日本連合」の実現を大きく左右するキーファクターになるのでは、と考えます。

中国の共産党首脳は、周恩来政権時代から「覇権主義」を決して標榜しない、と言われています。それよりも、世界最大の人口を抱える大国をどうまとめていくか、すなわち外交よりも内政問題に優先度が高い、というのが中国をよく知る識者の理解です。

しかしながら、内政をまとめるために致し方なく資源外交に走ったり、ASEANに影響力を講じなければならない場面がある。そして、その場面が今後の20−30年でより増加するかもしれないと考えると、ASEAN事務局長の苦悩は理解できますし、日本は華人経済圏の取り込みにさえ真剣に向き合わなければならなくなるのではないでしょうか。

( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2012

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2060年の日本とインドネシア WinーWinになるためには

先日、日本の国立社会保障・人口問題研究所が、長期的な日本の人口動向予測として「将来推計人口」を公表しましたが、じっくり見てみると、本当に考えさせられる数字のオンパレードです。

2010年(実績)と、50年後の2060年(推計)を比較すると −

総人口: 1.28億人 vs 0.87億人(32%減)
65歳以上人口: 2948万人 vs 3464万人(総人口比23%→39.9%に増)
15歳未満人口: 1684万人 vs 791万人(総人口比13.1%→9.1%に減)
生産年齢人口: 8173万人 vs 4418万人(総人口比63.8%→50.9%に減)

− 上記の他にも、「生涯未婚率」が9.4%から20.1%に倍増する見込みなど、驚愕の数値ばかりです。

これだけ見ていると、改めて日本の少子高齢化社会の深刻さを考え、今次国会でも争点となっている社会保障と税の一体改革や年金問題などの国内問題に議論が進んでいくのは当然なのですが、当研究所の視点からは、国立社会保障・人口問題研究所だけでなく総務省統計局などが日本国内の推計と同時に国連が公表している世界の人口推計などを連関させて一覧可能にしている資料がとても興味深く、今後の世界情勢を占ううえで不可欠な資料になってきています。

たとえば、国連は2050年までに世界の人口推計を出していますが、これによると、世界の人口は現在の70億人から2050年には91億人へ急増。日本は少子化で激減していく一方で、世界は反比例して人口爆発の時代が続きます。

しかし、人口爆発が続くのは得てして発展途上国が中心であり、世界における途上国の比率は現在の82%から2050年には86%まで増加する、と予測されています。

これはどういうことか、というと、日本においては「今までは2人以上の生産年齢人が、1人の非生産年齢を支えてきた」という構図が2060年には「1人が1人を支える」ということが数値上予想されています。誰しも「逃げられない世の中」になるわけです。
そして世界においては、「より少なくなる高所得国/先進国が、より多くなる発展途上国を支えなければならない」と予想されているわけであり、これも日本にとっては決して無視できない厳しい予測です。

すなわち、今後少なくとも40〜50年先を見てみると、日本は、国内でも少子高齢化で労働人口が厳しい状況を突き付けられつつ、国際社会においても日本は先進国として発展途上国への貢献を益々求められ続ける、ということになると思われます。

この考え方、すなわち国内問題も国際問題も同時に考えるべき、という考え方には異論がある方もいらっしゃるかもしれませんが、それはこの場では深堀しません。

当研究所がもっと議論のタネにしたいと考えるのは、日本が仮にそのような厳しい将来を迎えるとした場合、並行的にアジアの周辺国はどのような状況に置かれるのか、その時中国は、インドは、そしてインドネシアは、という部分です。

特にインドネシア。

2010年時点でのインドネシアの人口は2.38億人で、世界の中では中国、インド、アメリカについで第4位の規模であることはご承知の通りです。実は、第2次世界大戦終了後間もなくの1950年時点では、インドネシアの人口は7700万人で当時の日本の人口(8400万人)よりも少なかったことは、あまり知られていません。その後の60年でいかにインドネシアの人口が爆発的に増加したのかが、単純によくわかります。

国連人口推計によると、2050年のインドネシア人口予想は2.93億人で、世界では第5位(上述3国にナイジェリアが4位に浮上する)とされています。生産年齢人口の総人口比率も2025年頃がピークで70%近くまで上昇し続け、その後の2050年までは降下(高齢化)に転じますがそれでも65%程度の高比率を維持する、と予想されています。

もちろん、過去の本欄で解説したとおり、また世間一般でも著作が出てきているように、アジアは一般に少子高齢化時代が今後到来し、日本はその先頭ランナーを突っ走っている、という構図に変わりはありません。インドだけは例外、というのも通説ですが。

その前提に立てば、2050年ないし2060年に「超」のつく少子高齢化時代が予想されてしまった日本は、「高齢化」時代に突入すれどまだまだ「2人以上が1人を支える時代」を謳歌する余裕のあるインドネシアに対し、どのような関係を構築していくことが今後の日本にとって国益に資するのか、人口想定はひとつの大きなキーワードであることは間違いありません。

それは、先行利益として培われるはずの高齢化対策産業の技術移転や輸出なのか、はたまた2国間のEPA(経済連携協定)で既に開始されている介護士や看護人材の受け入れなどの加速などによる相互依存の深化なのか、いろいろな方策が考えられます。

もちろん、「少子化」の部分が是正されれば、すなわちこれから子供を生む年代にある日本人が子育て環境への不安が改善され出生率が劇的に改善することがあれば、これらの方策検討も基礎条件がかなり変容してきます。

しかしながら、日本政府の一端である厚生労働省傘下の国立社会保障・人口問題研究所が「出生率も2014年以降は再び低下に転じる」と見通している以上は、政府としてあまり根本的な改善意欲さえ見えない、と自虐的になっているとさえ思えてしまいます。

悲観的なシナリオばかり考えるのはよくないことですが、当研究所が興味を持って研究していきたい点としては、日本の将来とアジアの将来、特にインドネシアの将来がwin-winで明るく結びついていく形はどこにあるのか、という探し物です。

非常に重い話で、2050年や2060年など遠い先の話にどうしても見えてしまうかもしれませんが、自分たちの子供や孫の代がどれほど大変か、という逞しい想像力で考えると、もっと真剣に考えることが出来るのかもしれません。非常に重要な問題だと思います。

( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2012

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経常収支絶対説の中のインドネシア

3週間ぶりのアップになってしまいました。申し訳ありません。

最近の流行のキーワードに、「経常収支」があります。

流行というといささか語弊があるかもしれませんが、日本経済新聞ではここ1ヶ月間でおそらく急激に使用回数が増加している単語のひとつであることには間違いありません。

というのも、同紙にも毎日のように解説されているとおり、世界における「経常収支」赤字国は悪玉または破綻危険国であり、黒字国は善玉または破綻回避可能国であるかのごとく、素人にわかりやすくクロシロをつけたがる記事が増えてきているからです。

そもそもは、みずほ総研チーフエコノミストの高田創氏が言っているように − 

「欧州債務危機では、経常収支が市場の評価を左右した。経常黒字のドイツやオランダはほぼ無風。経常赤字のイタリアやスペインの国債利回りが急上昇したのと対照的だ。今は各国が国債の信任を争うソブリン・ワールドカップの時代。経常黒字は不可欠だ」

− というような単純明快な論理が、昨年来からの市場において蔓延しているのが事実です。

もちろん、元日銀審議委員の須田美矢子氏のように −

「財政問題の根本は海外から資金を調達できるかどうかよりも、成長期待が高まらず、税収が上がらないことにある。黒字か赤字かで一喜一憂せず、成長期待をどう高めるかという本筋の課題に取り組むことが重要だ」

− という至極全うなマクロ経済学者としての御意見もあり、これが本来であれば民主党政権の目指すべきスローガンになるべきなのでしょう。

ちなみに、「経常収支」とは、簡単に言えば『国の間で、貿易やサービスをやり取りした結果、それぞれの国がどれだけ儲かったのか、どれだけ損をしたか』を示したもので、「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の4つに分解されます(それぞれの言葉の定義について詳しく知りたい方は、wikipediaなどで調べてみてください)。

須田氏の全うな議論はさておいといて、我々が簡単に議論するには、高田氏の指摘している「経常収支」が黒字か赤字かで国債の信を問う「ソブリン・ワールドカップ」を考えると、「どこの国が信用できるのか、危ないのか」という簡単な判断基準には、とりあえずなり得ます。

日本経済新聞が「経常収支」絶対説(?)にこだわり始めているのには、日本が経常赤字に転落する恐れが現実味を増してきているからです。

経常収支が赤字に転じれば、イタリヤやスペインのように国債利回りは急騰し、国債償還の実現懸念、イコール債務不履行(デフォルト)の懸念が急上昇し、ギリシャ問題と同じ話になって日本も国際通貨基金(IMF)管理下に陥ってしまい、一度デフォルトを起こした国はそう簡単に先進国として信任を再び得ることは容易ではない、というのが日本経済新聞など主要経済紙が盛んに報じる「風が吹けば桶屋が儲かる」説です。

上記の論法自体は非常にシンプルなものなので決して間違いではないのですが、「経常収支」絶対説と今後の世界経済の見通しのリンクについては、慎重に考える必要があると思います。

確かに、我々は過去にも「経常収支」絶対説を目の当たりにしたことがありました。それは、1997-1998年のアジア通貨・経済危機です。

当時世界を震撼させ、ASEAN各国を繁栄から凋落へ一気に落としこんだアジア通貨・経済危機は、ASEAN各国が1980年代から続いていた外資の積極導入による急激な経済発展において、経常収支の赤字拡大に依存していたことが最大の問題だったことは、既に有名な定説です。

当時の危機の構図は、以下のようなものでした −

1)高い成長を見込んだ外資の流入を背景に、経常赤字を拡大させながらの経済成長
2)何らかのショック
3)外資が資本逃避、更にはヘッジファンド等による売り仕掛け
4)外貨準備の払底懸念
5)経常赤字縮小の為の財政赤字削減、資本逃避防止の為の金利引き上げ
6)景気収縮・株価下落・通貨暴落、さらには他国へ伝播

− 上記の構図によって、ASEAN各国は、外国資本依存の経済成長からIMF管理下へ一気に下野していきました。幸いにもIMF管理を逃れることが出来たベトナムやフィリピンも、周辺のASEAN諸国との貿易依存が強かったために、周囲が浮上するまで暫くは一緒に羽を休めることを強いられてしまいました。

この危機の連鎖は、ポール・クルーグマン教授がアジア諸国の経済成長に関して、大きな議論を呼んだクルーグマン論文(Krugman、Paul.1994 "The Myth of Asia's Miracle" Foreign Affairs 73(6) 邦訳「まぼろしのアジア経済」『中央公論』95年1月号)があります。アジア通貨危機が発生する以前に発表されたこの論文を簡単に要約すると「アジア諸国(ここで実証分析されているのは韓国、台湾、香港、シンガポールのNIEs)の経済成長は資本と労働の投入の増大によるものであり、技術進歩等の生産効率の改善が経済成長に貢献した度合いは小さい。資本と労働の投入量の増加には限界があることからアジア諸国の高い経済成長率は持続不可能である」というものでした。

ここで、今回の欧州債務危機と、今後の世界経済、特にASEAN地域への影響について、過去のアジア通貨・経済危機で経験した「経常収支」絶対説が何を教えてくれているのか、そして現在はどれほどの耐性を持ち得るのか、少し検証してみたいと思います。

まず、現在のASEAN諸国における「経常収支」について。

ASEAN諸国(統計不明のカンボジア、ミャンマー、ラオス、ブルネイ除く)の経常収支は、2010年値ベースで、ベトナム以外は全て黒字になっています。ちなみに、中国、韓国、台湾、香港は黒字で、インドは大幅な赤字です。

これらより、経常赤字が引き金になったアジア通貨・経済危機が発生した当時とは、少なくともまず初めの前提条件が大きく異なっていることで、同種の危機が発生する条件にあるとは考え難いと明言できます。

一方、「経常収支」が赤字になり得る要因を考えると、「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」という4つのバランスがどこかで赤字に大きく振れるということなので、ASEAN諸国の状況とその可能性を考えてみます。

「貿易収支」が赤字化(輸入超過)しそうな国といえば、旧ASEAN6カ国の中では2010年値で既に103億US$の赤字になっているフィリピンくらいで、インドネシアやマレーシア、そしてシンガポール、タイなどはいずれも安定的な黒字基調です。

「経常移転収支」(援助などを受けるとマイナス)については、順調な経済成長を背景にどの国も減少傾向を保っており、「サービス収支」も観光経済などで急速に改善しています。問題は「所得収支」(投資のプラスマイナス)なのですが、これは一定の中進国以上の経済レベルにならないとなかなか安定した黒字にはなり得なませんが、ASEAN諸国が今後大きなマイナスに陥る可能性も大きいとは思えません。

これらの簡単な見通しを根拠にするだけでも、ASEAN諸国(特に旧ASEAN6カ国)の「経常収支」には、少なくとも短期的には大きな心配はなさそうであることがわかります。

そうであれば、欧州債務危機によって激動の時代に入った世界経済の中でも、やはりASEANの突出した安定性と市場規模による将来性を考えると、世界のマネーがここ暫くは消去法的にもASEANに、特にその中でも政治経済が安定期入りしたインドネシアに集まることは容易に想像できます。

ただし、先週のような賃上げデモが常態化することが大きな不安定化リスクであることは間違いなく、過去のインドネシアにおいて、権利を主張するデモが常に時代を動かしてきたことを考えると、安定した経済成長と急速な市場発展に賃金問題がどのように収束していくのかは、インドネシア経済の今後を占う上では最重要課題のひとつであることは間違いなさそうです。

( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2012

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「アジアの世紀」に潜むリスクを教える賢人達

みなさま、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2012年は、世界経済にとって、そしてアジア経済にとって、どのような年になるのでしょうか。

この質問に対しては、年末年始に様々な識者が様々な角度から新聞などで見解コメントを出しているので、この時期は1年を通じても本当に勉強になる時期です。

色々な見解が述べられている中でも、考え方は十人十色の部分もあるのですが、私の見立てでは特に、1月4日付の日本経済新聞「経済教室」に寄せられた青木昌彦氏(スタンフォード大学名誉教授)と1月6日付同紙国際面に寄せられたハッサン・ウィラユダ氏(元インドネシア外相)の2件が、その内容と切り口から秀逸だったと思います。

青木氏は、「分岐化(bifurcation)」というキーワードを用いて、グローバル化が進んだ昨今の世界情勢において労働分業の国際的再編の加速化が生み出した政治経済の「分岐化」現象が、それぞれの経済圏に起きている。この現象を理解して、積極的に向き合えば、日本も米国も低迷する経済を打開できる糸口を見出せるのではないか、と問うています。非常に興味深いし、説得力溢れる論法に圧倒されます。

一方のハッサン氏は、「民主化の課題」というテーマのもと、「アラブの春」で起こった民主化運動を1998年のインドネシアにおけるアジア通貨危機と民主化の波に比較して、今後のアラブ社会における民政移管の政治課題や留意点を鋭く指摘しています。

何よりも、ハッサン氏が優れた外交官であり政治家であることを実感させるコメントとして −

「アジアは世界で最も民主化が遅れている地域で、膨大な『民主主義の赤字』を抱える」
「21世紀はアジアの世紀といわれるが、経済力を蓄えるだけでは不十分だと中東の混乱に学んだ」
「経済の勢いがあるからこそ人権や民主化など政治の発展とのバランスが問われる」

− と述べている部分です。

このコメントはある意味、アジア経済をウォッチする者にとって、とても衝撃的でした。
なぜなら、昨今の世界経済情勢を知れば知るほど、報道で伝えられているとおり、相対比較としてアジア、特に東アジアの力強さばかりが再認識され、あたかも東アジアは1998年のアジア通貨危機を経験し、2008年のリーマンショックにも耐え、もはや非の付け所のない持続可能な地域になりつつあるのではないかとさえ、幻想的に感じられていたからところに、「アジアには膨大な『民主主義の赤字』がある」というリスク要因を改めて思い出させられたからです。

無論、地域内での各国でそれぞれの差異はあるものの、リーマンショックや欧州債務危機を経験しつつも底堅い経済成長をほとんどの国が維持し続けており、特に「取り残されたASEAN」と揶揄されていたミャンマーがやっと国を開き始めた2011年は象徴的な年であり、世界中の国と地域が我先にとミャンマーに再進出し始めたことからも、2012年は東アジアはどこまで成長しどこまで地域は恩恵を受けるのか、楽観論以外に聞こえてくるものはないのが現状です。

ハッサン氏の指摘を深く読み込めば、ミャンマーの民主化はまだ何ら確定的なものではなく、今年の補選でアウンサン・スーチー女史が政界に返り咲けばそれでミャンマーは完全に民主国家になったと世界は誤解する恐れもあり、実際には人権問題や民主的な選挙の履行など注意深く監視し続ける必要がまだまだあることを、暗に教えてくれています。

シンガポールでも、昨年の総選挙が暗示したとおり、強すぎる与党が議席を大幅に減らした事実が、実はまだ本当の民主国家ではないことを示唆しています。国内での貧富の格差が広がっていることなどにも配慮し、政治家や高級官僚の高額な給与を減額することを発表したのはつい最近の出来事ですが、政府の焦りの表れでもあります。

ベトナムはいまだに共産主義国家です。貧富の格差は拡大し続けています。カンボジアも然り。ラオスもまだまだ、民主化を加速させなければなりません。フィリピンも汚職がいまだ蔓延り、元大統領のアロヨ女史はいまだにその罪を追求されています。マレーシアもマレー人優遇政策(ブミプトラ政策)が行き詰りつつあり、転換期を迎えています。タイではインラック首相の背後にタクシン氏が居続け、赤と黄色の戦いはまだ決着がついていません。ブルネイは王政なので、ちょっと例外ですが、民主的とはいえません。

そうこう考えると、1998年にアジア通貨危機と同時に独裁者だったスハルト元大統領が民主化の波によって国を追われ、その後の混乱を経て2004年に世界で初の1億人超による直接選挙で現大統領を選出し、その後は治安も安定し経済も好調を維持しているインドネシアは、東南アジアの中でももしかして唯一、民主化に成功しつつ人権や政治経済のバランスを保つことに成功している、稀有な国と見ることが出来ます。

これが、当研究所がインドネシアの成長を信じ続ける理由のひとつでもあり、この事実が仮に後退することがあればその信頼は危うくなる、とも考えているところです。

シンガポールの国営投資機関(Sovereign Wealth Fund)であるTemasek Holdingsは最近、スイスの投資銀行UBSの前CFO (Chief Financial Officer) だったJohn Cryon氏を、欧州事業担当プレジデントとしてヘッドハントしました。これは、Temasekが欧州債務危機を「買い時」と判断しているからであり、欧州事情に詳しいCryon氏を通じて欧州への投資案件を増やしながらポートフォリオを強固にする狙いがあるようです。また最近、中国の中小企業育成向けファンドとしてPavilion Capitalという名称で25億シンガポールドル(19億米ドル)のファンドを新設しました。「中国に不足している最後のもの、それはマネーだ」という掛け声のもと、中国の成長を下支えしつつしたたかに成長分野への投資を進める模様です。

この事実は、シンガポールが国として、欧州向けの輸出が大打撃を受けた中で新たな収益機会を創出しなければならなくなったことを象徴しています。換言すれば、シンガポールの焦りかもしれません。政府はまだマネーゲームに注力しています。これが国民にどう映っているのか、声を聞いてみたいです。

ミャンマーは今年、「投資ラッシュ元年」を迎えます。注意深くウォッチしたいと思います。

ASEAN各国、そして東アジア全体が「分岐化」しないことを、切に願う2012年です。

( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2012

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金正日死去がアジア主要国に与える影響

今日は12月25日、今更言う必要もありませんが、イエス・キリスト生誕日であり、いわゆるMerry Christmasの日でした。皆様、いかがお過ごしになられていましたか?

さて、日本は今上(きんじょう)天皇のお誕生日が12月23日であることからラッキーな3連休となり、政治も経済も国際情勢も、日本人の頭の中からはほとんど忘れ去られたかのような一週間でしたね。それはそれで、精神衛生上は悪くないことだと個人的には思います。

その「幸せウィーク」の週初めに、北朝鮮の金正日総書記が死去したあとの情勢にかかる報道も、この3連休中はほとんど新聞でもテレビでも触れられることなく、何かミサイル騒ぎでもない限りは日本人の思考回路に於いては「あー、そういえば。。。」という位置づけに既になりつつあります。

米国でもクリスマス・ホリデーが既に本格化しており、オバマ大統領が生まれ故郷のハワイで家族休暇に入っているなど、企業も役所もすっかりお休みモードです。

しかし、話を戻しますが、金正日の死去について、日本も米国も、そして東南アジア諸国も、遅くならないうちに情勢の分析と対策の熟度を上げていく必要があります。

それでは、今後の北朝鮮問題とアジア主要国との間において、金正日の死去はどのような影響を及ぼし得るのか、概観してみましょう。

まず、はじめに、既に各マスコミでも金太郎飴的に報道されている、中国と北朝鮮の関係について。

中国は北朝鮮との関係において、改革・開放路線を推進する中国にとって、外部要因としての周辺国や地域の平和と安定が必要とされることは当然であり、それは中国の「朝鮮半島政策」の主軸を成しています。

中国は、北朝鮮と韓国の両国、いわゆる「朝鮮半島」と良好な関係を維持し、朝鮮半島の両政権が国際社会との協調関係を維持して、その関係に対して中国が自らの影響力が最も優位にある状態を作り出し保っていく、というのが「朝鮮半島政策」の根幹です。

したがって、今回の金正日の死去によって中国共産党幹部が最も恐れているのが、いくつかの報道でも書かれている「金正日の死去によって軍部の統制が弱くなり、北朝鮮国内が一時的に二分して混乱する」というシナリオです。なぜなら、混乱は「平和と安定」の対岸にあるものであり、北朝鮮と1300kmもの隣接する境界をかかえる中国にとって、内紛は新たな脱北者が数万人、数十万人単位で中国に難民として流れ込む可能性が中国国内の「平和と安定」に小さくない影響を与えかねず、ようやくソフトランディングが見えてきたリーマンショック後の最近においても、北朝鮮からの「難民リスク」は常に中国国内の政治経済を脅かす要因なのです。

その意味からも、また同じ社会主義国家としても、そしてアジア地域全体をめぐる米国との覇権争いにおいても、中国は北朝鮮に対して日々刻々と緊張感とフレキシビリティーをもって「衛星国」化を進めていく必要性を引き続き維持するものを思われます。

中国の他に、北朝鮮と具体的な関係を直接的に持っているアジアの主要国と言えば、それはインドネシアが代表国と言えるでしょう。

インドネシアが日本から一時的に占領されていたのは、太平洋戦争によって日本軍が南進してきた結果のひとつでした。それが終戦によって解放されましたが、すぐに旧宗主国であるオランダとの従属関係がまた始まり、そこから真に独立しようとして成し得たのが、インドネシア建国の父であるスカルノ元大統領でした。

その流れを公式にも私的にも汲んでいるのが、スカルノの実娘であり前大統領でもあるメガワティであり、今年の9月にも自らが代表を務めている闘争委民主党の幹部を引き連れて北朝鮮への(議員としての)公式訪問を行っています。ただし、その時は異例にも「金総書記の体調不良」を理由に総書記とメガワティの会談はキャンセルされました。時事通信によれば、予定された会談がこうした形で取り消しになるのは「異例なことだ」ということで、思えばその頃から相当悪化していたことが推し測れます。

インドネシアを北朝鮮は、スカルノが大統領だった1950年代に共産主義を標榜したことから接近したと考えられていますが、その後のカネと権力にまみれたスハルト政権から「民主化」を声高に掲げて実際に民主的な国への変容をリードしたメガワティが、今も共産主義国家の代表格である北朝鮮を重要視しているのはいささか「過去のVIP友人」としてのセンチメンタルな部分が多い気もします。

貿易の面でも、北朝鮮から見た「対インドネシア貿易」は完全な輸入超過であるらしく(数値は公表されていません)、インドネシアからは木材、紙、タバコなどが輸入されていますが、その貿易量はインドネシア・韓国の二国間貿易量(153億ドル、2009年)の比ではありません。したがって、経済面でのインドネシアと北朝鮮の結びつきは殆ど国際情勢的には影響はなく、やはりメガワティを中心としてセンチメントな歴史的関係が主であり、逆説的にはその「古き良き関係」は政治的に何かの時のカードとして残しておくべき、と誰しも考えているはずです。

そういう意味では、インドネシアは北朝鮮に対して強硬な態度をとるポジションにはいないでしょうし、今回の金正日死去でもそのポジションは変わらないと思われます。

換言すれば、もしも北朝鮮が「揺れて」、米国や日本が何か政治的な取引を必要とする場合には、小泉政権時に日本人拉致問題でジャカルタのインターコンチネンタルホテルが舞台に使用されたように、インドネシアはその「仲介役」としての存在感をまた発揮することが要請されることも十分有り得ます。それが、今後のインドネシアにとってプラスと考えられる場合、インドネシアはやはり「センチメントな歴史的関係」をカードの一枚として保有し続けるのでしょう。北朝鮮側は、それを逆手にとる場合もあるかもしれませんが。

もうひとつ、東南アジアの中で異色的に北朝鮮と経済関係を保っている国があります。タイです。北朝鮮の対外貿易相手国としては、中国、韓国、ブラジル(これも少し意外ですが)に続いて、タイは第4位に位置する「友好国」です。

少し古い数字ですが、いまから5年ほど前の時点、すなわち2006年の北朝鮮の対タイ貿易規模は4億ドルに上り、内訳的には「対タイ輸出」は1.7億ドル(2005年比27.7%増) 、「対タイ輸入」は2.3億ドル(同10.3%増)で、北の貿易収支は6千万ドルの赤字でした。

「対タイ輸出」 の主な品目は、金、銀など貴金属輸出が35百万ドルと、対タイ輸出では圧倒的な比重を占めていました(対タイ輸出総額の21.2%)。 金に続く輸出品としては、機械類29百万ドル、有機化学製品22百万ドル、魚介類21百万ドル、銅製品が1千万ドル、といった具合でした。

「対タイ輸入」 の主な品目は、電気機器輸入が39百万ドルと最も多く、全体のタイからの輸入額の17.2%を占めていました。 続いて、ゴム製品が39百万ドル、機械類26百万ドル、銅製品13百万ドル、石材製品13百万ドル。

一方、タイと北朝鮮の間では、近年では北朝鮮によるタイ人拉致の事件が明るみに出たことから、国交は続いていても日本と同様に拉致問題で微妙な関係になっているのが実態です。タイは現在、中国を除けば脱北者の最大の脱出先となっているのです。

【最近のタイ脱北者流入数】
2007年 約1,000名(タイ入管公表数)
2008年 約1,500名(NGO推計)

上記の数値がどれだけ大きいかと考える場合、一般に知られている脱北者の韓国への流入数との比較で、その絶対数がどれほど大きいか、分かると思います

【最近の韓国政府脱北者受入数(韓国統一省公表数)】
2007年 2,544名
2008年 2,709名

つまり、タイにとって北朝鮮は「拉致問題、脱北者流入問題を抱えつつも、貿易相手として数少ない東南アジアの中で頼られてしまっている厄介な存在」という位置づけになっているのが実態です。したがって、今回の金正日死去は、タイにとっては中国と同様に脱北者の増加が最も懸念される材料であり、そういう意味では今後の情勢をタイ政府も注意深く見ていることは間違いありませんが、国境が接しているわけではなく、また拉致問題や脱北者問題に対してタイ政府が積極的に対応をしているとも言い難い現状を見る限りでは、あくまで受け身なのかもしれません。

ちなみに、タイから北朝鮮へ輸出している物品の調達代金については、「踏み倒されている」といった話さえよく出てきますが、実態は定かではありません。

今までに、新聞や報道各紙で取り上げられている北朝鮮と韓国、中国、日本、米国などとの関係以外に、特にアジアで北朝鮮との今後の関係上ウォッチしておくべき主要国についてインドネシアとタイの現状を見てみましたが、結論的には両国とも現在のポジション、すなわちインドネシアは「経済的な結びつきは薄れつつも、歴史的なセンチメントな関係は外交カードとして引き続き保有」という立場、そしてタイは「受け身ではあるが、アジアの中で稀有な国交保有国であり、貿易相手国」という立場を保ちつつ、日本、中国、韓国、米国が今後の北朝鮮と対峙していく際に巻き込まれていくのは必至だと思われます。

その際にどのように振る舞うことができるかが、今後のアジアの中でのインドネシアやタイに対する国際世論の方向に影響を与えるとも考えられます。尊敬を集めるチャンス、とも言えるでしょう。


さて、もう来週は2012年ですね。
皆様、今年は大変お世話になりました。良いお年をお迎えください!
2012年も、引き続き宜しくお願い致します!

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