シンさんの過去 前編 17
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深夜になって、ようやく虎穴荘に帰って来た。もうとっくに、皆寝静まっていたと思っていたが、意外な事に、虎穴荘の部屋の明かは点いており、しかも、お福さんはじめ、犬虎さんと卍が外に出て来て心配そうに辺りを見回していた。
「あ!嘉村さん、帰って来たで!」
初めに嘉村の姿に気付いたのは、犬虎さんだった。お福さんと卍は、犬虎さんに続くように、必死の形相で嘉村に駆け寄って来た。
「ああ、お兄ちゃん、良かったわ〜!」
卍が嘉村の肩を持ってブンブンと揺さぶりながら言った。
お福さんは、嘉村の手がまだ茶封筒を持っているのに気付き、涙をこらえるように声を絞り出した。
「まさか、万が一戻って来えへんかったらって・・・・・私覚悟したで」
「お福さん、泣いてる場合ちゃうで!ああ、もう、嘉村の兄ちゃんも、こんな時間までどこほっつき歩いてたんや!お福さん心配さして、寿命縮めたらどないするん!」
犬虎さんが怒鳴ると、嘉村は改めてお福さんの表情を見た。嘉村にホタルからの手紙を渡してくれたのは、お福さんだ。お福さんは、自分が手紙を渡したせいで嘉村が行方不明になったのではないか、と思っていたらしい。
「すいません」
嘉村はお福さんに謝った。
すると卍が、嘉村の顔にあるものを見つけ、そして嘉村の手から茶封筒を取り上げた。
「返せ」と嘉村は抵抗したが、卍はギロリと嘉村を睨むと、
「ええから、読ませろ。笑うたりせえへんわ」
と言って中の手紙を取り出し、その場で一読した。読み終わると、丁寧に手紙を封筒に戻して、嘉村の手にしっかりと返した。
「やっと、泣けたんか?」
卍は嘉村にこう聞いた。嘉村は虚をつかれたように卍を見た。そしてこの時になって初めて、嘉村は自分の顔がひどい状態になっているのに気が付いた。額に泥が付き、目は腫れて、拭いもしなかった涙の跡が、幾筋も頬を伝っている。嘉村は自分の顔を触ってギョッとした。
それでも、嘉村のひどい顔を見て笑う者は誰もいなかった。
「あんた、彼女さん、死んでしもうたんやろ?それやのに、全然泣いてへんかったもんな」
卍の後を引き継いで、犬虎さんが言った。
無論、卍と犬虎さんは、嘉村が恋人を殺した事を、お福さんから聞いて知っている。銃殺する事になったいきさつも、さっき聞いたばかりだった。恋人が死んでも、泣くに泣けない精神状態だった事を、想像していたのだ。
「そうやったっけ?」
嘉村は力無く考えながら言った。ホタルが死んでから、自分は泣いた事が無かったのか、そもそも、泣いたのか泣いていないのか、それすら覚えて無い。少し前まで精神が錯乱してたから、最近2カ月程の記憶が曖昧なのだった。
呆けたように考えていると、卍が嘉村の背中をドンと叩いた。
「シャキッとせえ!泣けるようになったんなら、大分元気になった証拠や!泣ける奴は、健康やで!自信持てや!」
こう言ってくれた卍を見て、嘉村はふと回りを見た。
お福さん、犬虎さん、卍・・・・この3人は、こんな夜遅くまで、嘉村の事を心配してずっと外で待っていたのだ。
「何で、俺の事を待ってたんや?明日もみんな、仕事やろ?はよ寝たらええに」
思わず嘉村が言うと、お福さんがぴしゃりと言いきった。
「この虎穴荘はな、阪神ファンしか住んでへんのや。同じ阪神ファンの仲間が行方不明になってる。しかも、彼女亡くしたばかりの20歳の若造や。安心して寝られるかいな」
「俺達に早う寝て欲しかったら、心配かけへんようにしてくれや」
「嫌やで〜。明日になってのたれ死んでました、とか、情報が来たら。同じ阪神ファンやのに、俺何やってんのやろう〜て、思わなあかんくなる」
お福さんに続いて、卍と犬虎さんが言った。さも面倒くさそうに言っているが、嘉村が無事に帰って来て安心した故での態度だった。
嘉村の心に、小さな電流のようなものが走った。何かが閃くように、頭の中がすっきりと整理されて行くのが分かった。
彼の心の中の電流に拍車をかけるように、お福さんがまた新しい事実を言ってくれた。
「実はな、あんたの友達も、心配して来てくれたんや」
彼女がこう言うと、嘉村の良く知っている男子が2人、目の前に現れた。
桜木と、加藤だった。
「嘉村、メールしても返事が無いし、電話も繋がらへんから、心配したで」
「俺らな、大事な用を言いに来たんや」
2人は、真正面から嘉村を見て、真剣に言った。加藤が嘉村の手に、ある紙を握らせた。見てみるとそれは、今週末にある、甲子園での、阪神VS広島戦のチケットだった。
呆然とチケットを眺める嘉村に、加藤が言った。
「嘉村、どうせ後2週間ぐらいは暇なんやろ?職場に復帰でけへんのやから。せやから、一緒に見に行かへん?チケット、3人分取れたから」
「また、3人で見ようや!高校の時みたいに!もう、なかなかこう言う機会も無いからなあ!」
2人の言葉に、嘉村の目が大きく見開かれた。
咄嗟に、この2人と一緒に最後に観戦をしたのはいつだったかを考えた。ホタルに出会って、4人で横浜戦を見たのが、最後だった。その後、嘉村は剣道のインターハイ、警察官の採用試験と忙しく、とうとう、高校時代にまた阪神戦を生観戦する事は出来なかったのだ。
「そうか。あれ以来・・・・・お前らと観てへんのか」
嘉村はチケットを持った手を震わせて言った。嘉村の言った「あれ以来」がいつの事なのか、桜木と加藤も、ちゃんと分かった。
「そうやで。あれ以来なんやで」
「また、観ようや。新しく、タイガース戦の思い出、作ったらええやんか」
加藤と桜木の言葉に顔を上げると、2人は涙を流していた。嘉村は、どうにも形容の出来ない心情になった。2人の泣き顔を見て、自然に自分も、涙を流していた。
突然、そうか、と嘉村は心の中で気が付いた。さっき、電流が走ったように閃いた心の動きを、はっきりと感じる事が出来たのだ。
自分は、こんな人達を守る為に、警察官になったのだ。
阪神ファンは、いい奴らだと、幼い頃から知っていた。だから、悪質応援団や暴力団などの悪い者達から守ろうと、警察官を志したのではないか。
今、安心して涙を拭いているお福さんも、元気づける為に嘉村を叱ってくれた犬虎さんと卍も、チケットを取ってくれた桜木と加藤も、みんな、自分と同じ阪神ファンではないか。
嘉村は、ようやく回りが見えるようになった子供のように皆を見回しながら、自分の原点を、しっかりとその心の中に確認した。
息を吸って、嘉村は桜木と加藤、2人の親友に、答えた。
「ああ。もう一度、観に行きたい。またお前らと一緒に、観に行きたいわ!!」
言葉を吐き出すと同時に、嘉村はドバッと涙を流した。さっきホタルの墓の前で大泣きしたばかりなのに、どこにまだそんなに残っていたんだと言うくらい、大量の涙が出て来た。
桜木と加藤は、自分達も泣きながら、嘉村の肩を叩いて言った。
「観に行こう。また大声で応援しようや!」
「嘉村。元気出せや!」
3人の20歳の男子達のやり取りを見て、犬虎さんも卍も、もらい泣きしていた。お福さんも、また泣いた。
泣きながら、嘉村は改めて心に誓った。
阪神ファンを守って行こう。どんな手を使ってでも。
二度と、恋愛なんかで苦しまない。
世の中にいる、悪い巨人ファンにも、悪い阪神ファンにも、絶対に負けない。
純粋な野球ファンとしての人生を送れなかったホタルの分まで、多くの人を守って行こう。
その為に、何が何でも、強くなってやる!
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泣くも泣かないも、人によりけりよ。
オイラは、泣かない。ってか、本当は、上手く泣けない。
女の人みたいに、わんわん泣けたら、どんなにいいかと、何度も思ったことあるよ。
嘘でなら泣けるかもしれないけどねぇ。
悲しい気持ちも、いっぺんに来てくれるといいんだろうけど、ずっと、心の部屋の床の上にうすーく敷かれている状態が続いくような感じ。
悲しみ方も、人それぞれで、オイラは、冷たい人やと思われるんやないかと、心配になったりもします(^^ゞ
2012/2/8(水) 午後 2:30
虎穴荘の人たちみんないい人!
一緒にタイガースの試合観に行く友達がいるのもいいこと
シンさんやっぱりみんなに慕われていい人だよ。
思いっきり泣いて、それだけで吹っ切れないかもしれないけど、前に進めるね!
2012/2/8(水) 午後 5:44
そうなんです。阪神ファンの良いところは人情味がある事です。
シンさんが警察官として立ち直れる切っ掛けを高校時代の友達はいいねぇ〜。大きな声を出してスカッとして欲しいですね。しかし蛍が痛々しいね・・・。
2012/2/9(木) 午後 1:11
かじらさん>泣きたくなったら、我慢せずに泣きましょう、て事だったんです(^^ゞ
泣くのを我慢して、泣かずにいたら、不健康ですね(>_<)
泣きたい気持ちなのに、涙が出て来ないのも、同じように良くない事ですね(T_T)
かじらさんは、上手く泣けないんですか?
心配です・・・・・。
2012/2/9(木) 午後 7:47
が〜ねっとさん>こんないい隣人なんて、そうそういないですよね(^^ゞ
シンさんはこうして見ると、何かと恵まれている人みたいですね♪
前に進めるきっかけが、これだったんでしょうかね。
そうだったら、いいですよね♪
2012/2/9(木) 午後 7:50
TODOさん>さすが、TODOさんはよくご存じなんですね♪
大きな声で、高校の時みたいに、思いっきり応援して来たらいいでしょうね。
シンさん、元気出せ〜!
2012/2/9(木) 午後 7:51
いや、あの、、、心配されるほど、泣く事多くないし。。。
ま、最近で言えば、りりーが亡くなって、「まだ涙は枯れてなかったんだ」って思ったぐらいで。。。
それがぁ、5年ぶりぐらい?
ってか、ごるわ!阪神!歓喜の涙を流させんかい!(笑)
2012/2/10(金) 午後 2:15
かじらさん>りりーくんが無くなった時は、やっぱり泣いたんですね(T_T)
それならかじらさんも、健康ですよ♪
そうですね・・・出来る事なら、阪神に涙を流させてもらいたい(>_<)
2012/2/12(日) 午前 0:47