うらくつれづれ

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ヒアリングという言葉

ヒアリングという言葉がある。例えば、政府は29日、原子力事故調査委員会は、菅元総理にヒアリングを実施した、のように使われる。

ここでのヒアリングの意味は、「関係者に対するインタビューを通じて事実関係を調べること」「聞き取り調査」という意味で使用されていると推測される。そして、会社等でも、その意味で頻繁に使用されているようだ。政府機関やニュースで使用しているのだから、これがまっとうな意味と推測されるのも無理からぬところだろう。

しかし、英語のhearingには、こういう調査といった意味は全くない。英和辞典をひくがいい。英語での意味は二つ、一つは英語の聞き取りのように音声的に聞くこと、二番目は、公聴会。

公聴会とはなにか。トヨタの社長が、ブレーキ不具合で米国議会に呼ばれて証言を行なったのが公聴会。これは、公開が前提だ。証言にたいしては、容赦のない尋問が課される。

より、明確にヒアリングの概念がわかるのは、独立規制委員会のヒアリングだ。アメリカには、証券取引規制委員会等数多くの行政委員会がある。この委員会が、決定を下す前にhearingを実施する。その形式は、裁判と同じ対審構造で裁判官にあたるhearing examinerが主催する。

なぜこんな面倒くさいことをするのか。行政委員会の決定(法律制定も同じだが)は、多かれ少なかれ国民の権利を制限することになる、そういう決定は、行政手続きとして、必ずhearingを経る必要があるのだ。これは、アメリカ憲法の根本理念で、日本国憲法にもコピーされている「適性手続き」原理だ。

逆に、right to beheard という言葉もある。これは、公の場で自分の主張を訴える権利だ。この権利を無視すれば、適正手続き違反ということで、行政決定は無効となる。

行政に公開の場で物申す権利、rightto be heardは、アメリカ民主主義を保障する基本権で、社会の隅々にまで染み込んでおり、日常的にも頻繁に耳にする。

民主主義自体、right tobe heardが、公務員(議員)の選定権に発展したものだろう。つまり、これは、民主主義そのものだ。

日本では、この言葉を、単なるインタビュー、あるいは聞き取り調査の意味として使う。しかも、密室調査の意味を含む。そのため、「公開ヒアリング」という冗談のような言葉も使われる。更なる倒錯は、日本の議会が行なう民間人に対する正式なhearingを、ニュースでは「公聴会」という語で呼び、ヒアリングとは言わないことだ。

聞き取り調査をヒアリングという人間は、民主主義を理解していないと宣言しているに等しい。記者や官僚、政治家は、自らの英語能力を恥じるべきだろう。それ以上、恥じるべきことは、日本の民主主義は、朝鮮人民民主主義共和国と同レベルだと宣伝しているに等しいことだろう。

ただ、民主党の原発事故対処がいみじくも露にしたように、この用法は、戦後民主主義者の民主主義理解と一致しているといえば、一致している。このさい、日本の卓越した原発事故処理と併せ、ジャパニーズ・イングリッシュとして、世界に用法を広めるのもいいかもしれない。


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