アナライジング・ベースボール
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汗が、滴り落ちた。 周囲からの大声援が、ここ特有のこもったような、それでいて妙に反響する音の滝にな って、頭上からも降り注いでくる。 東京ドーム。 巨人対横浜の試合は山場を迎えていた。 1-0で横浜がリード。 マウンドにはお馴染み、ハマの番長三浦大輔が上がっていた。 三浦は9回まで、巨人打線を奪三振8、無四球、被安打1の準パーフェクトに抑え込 んでいた。 マウンド上で、三浦は大いにデータの効用を見直す気になっていた。 アナライジング・ベースボール。 データを元に確率の高い方を選択する野球である。 この春、就任した尾花監督は、試合前にかなり長いミーティングを行う。 三浦は試合前に相手のデータを分析し、配球を事細かに考えたいタイプの投手ではな い。 が、監督の方針であり、三浦はチーム内で率先垂範しなければならない立場である。 まして、三浦はローテーションの中核投手でありながら、4年もの長きにわたり、巨人相 手に勝ち星を挙げていない、という不名誉な記録の持ち主でもある。 文句など言えるはずもなかったし、何かを変える必要も感じていた。 三浦は、巨人打線の各打者がどのように自分を捉えて来たのか、自分の配球と巨人の 各打者の対応を、一球一球分析してみたのである。 三浦の武器は正確なコントロールである。 特に外角低めへの制球力は、三浦の生命線と言っても決して過言ではない。 ところが分析の結果、その外角へのボールが意外と打ち込まれていることがわかったの である。 どういうことなのか。 三浦は、考えた。 考えた結果、ある結論に至った。 巨人戦になると、三浦の配球は外角低めの割合が増える。 理由の一つは、やはりこのカードが行われる球場にある。 横浜スタジアム、東京ドーム。 どちらの球場も狭く、常にホームランを警戒しなくてはならない球場である。 まして相手は長打力抜群の巨人打線である。 必然的に、外角低目への配球が増える。 どうも、そこを狙い打たれているようなのである。 打者は、三浦の内角を捨てている。 外角だけを狙い打っている。 三浦はコントロールのよい投手である。 外角を要求されて、内角に投げてしまうことなど(ないわけではないが)まずない投手で ある。 どうやら、それが仇になっている。 三浦も人間だから、外角低めギリギリを突いたつもりでも、少々甘いコースに入ってしま うことはある。 それが、外角を待っている巨人打線の餌食になってしまっているようなのである。 では、どういう投球をするべきなのだろう。 三浦大輔は巨人打線に対して、どういう投球をするべきなのか。 巨人打線が苦戦するタイプの投手がいる。 左投手である。 左投手で、緩急をつけるタイプの投手である。 代表的なのが、元横浜の土肥だ。 土肥は、コントロールと緩急を駆使し、巨人打線を抑え込んでいた。 三浦は右投げであり、左で投げることは出来ないから、このデータは参考にならないよう に思った。 が、どうなのか。 左では投げられないが、コントロールと緩急ということなら、三浦も負けてはいない。 三浦の持球は、直球、カットボール、シュート、フォークである。 それだけではないのだが、近年はこれらの球で相手を打ち取っている。 が、考えてみると、緩急を駆使しているとは言いがたい。 三浦にはスローカーブがある。 最近はほとんど投げていない球ではあるが、かつては三浦の代名詞であった。 今年の日本シリーズでは、本調子とはいえないダルビッシュが、スローカーブを駆使し て、巨人打線を抑え込んだ。 昨年の日本シリーズでは大車輪の活躍をした岸が、やはりカーブを駆使して巨人打線を 翻弄した。 二人とも右投手である。 巨人は緩急をつける投手が苦手だ!! 三浦はこの推論を元に、データを見直した。 結果は、満足のいくものだった。 巨人打線は、カーブでタイミングを狂わされ、143km/hの直球に詰まらされた。 正確に言えば、9回ツーアウトまでは。 8、9番を簡単に料理した三浦だったが、打順が1番の坂本にかえったところで綻びがで てしまった。 坂本は、初球の内角への直球を見送った後、二球目のカーブを掬い上げ、センター前に 運んだ。 続く松本には初球のカーブをセンター前に打ち返された。 打者は3番の小笠原である。 三浦は、マウンド上でしばし考えた。 これまで相手が見送ってきたスローカーブ、それをこの回には打たれた。 巨人打線は、狙いを変えてきたのではないか。 巨人打線は、三浦がカーブを投げてくることを知っている。 ここで打たれてしまっては、ここまで積み上げてきたことが全て無駄になってしまう。 カーブを狙い打たれて敗戦投手では、悔やんでも悔やみきれない。 やはり、自分らしく強気の投球でねじ伏せるしかないのではないか。 三浦は帽子を取って、汗をぬぐい、ロジンバッグに手をやった。 待てよ。 巨人打線は、俺がカーブを狙い打たれ始めていることに気づいている、と考えているの ではないか。 ここで、俺がカーブをやめて直球を投げてしまったら、それこそ思う壺なのではないか。 直球に切り替える、と見せかけて、あえてカーブを投げれば混乱するのは相手ではない のか。 しかし、あれほどカーブを狙い打たれている。 三浦は一つ息をついた。 そして、セットポジションから思い切って投げ込んだ。 小笠原は、内角ストライクに入ってきたボールを、打つそぶりもなく見送った。 球種は、カーブ。 三浦は、細山田からボールを受け取ると、後ろにあるスコアボードを見て、間合いを取っ た。 カーブは、思ったとおりのところに決まったが、気になるのは小笠原の見送り方である。 全く打つそぶりが感じられなかった。 狙い球が違ったのか。 カーブを打つんじゃないのか。 何か他に意図があるのか。 三浦は様子を見ることにした。 2球目は外角低めの直球。 ギリギリのボールコースに投げ込んだ。 僅かに外れた球に小笠原のバットは出掛かったが、踏みとどまった。 ワンストライク・ワンボール。 外角直球に反応した。 やはり、直球狙いだろうか。 直球を狙っているのであれば、その誘いに乗るのは危険というものだ。 それとも外角球を狙っているのか。 外角を狙っているのなら、内角に投げればよさそうなものであるが、小笠原は内角に弱 い打者ではない。 むしろ、内角に来る球を思い切り引っ張られてしまうイメージの方が強い。 実際、データによると、小笠原はインコースの球を打ちに来る傾向が高い打者である。 うかつにインコースを攻めれば、泣きを見るのはこちらということになってしまう。 三浦は、ロジンバッグに手をやると外角一杯にフォークボールを投げた。 小笠原は強振したが、ファールとなった。 ツーストライク・ワンボール。 やはり、外角狙いだ。 三浦はマウンド上で確信した。 でなければ、あの球をわざわざ打ちに来るはずがない。 とにかく追い込んだのである。 有利なのはこちらだ。 外角を狙っているのだから、外角へボールになる変化球で打ち取ってやればいい。 データによると、小笠原は追い込まれると少々ボールの球でも振ってくる傾向がある。 が、思惑通りには行かなかった。 外角に外れるシュートは、きわどいコースだったのに、見送られてしまったからだ。 ツーストライク・ツーボール。 あれに手を出さないとは。 狙いを切り替えたのか。 三浦は再び、帽子を取って汗をぬぐった。 追い込んでいるこの状況で、外角狙いなら間違いなく、振りに来るはずなのに。 相手が狙い球を切り替えているのならば、もう少し内に、ストライク一杯の直球を投げ 込んでやる。 そう考えた三浦だったが、ロジンバッグに手を触れているうちに、迷いが出始めた。 いやいや、待てよ。 いつもそう考えてやられているのではないか。 相手はこの状況で俺が外角一杯のストレートを投げてくることを知っているはずだ。 俺がそれを打たれていることに気がついていることは知らないだろう。 ここで、相手の狙いをすっかり外した球を投げれば、勝つのは俺のはずだ。 三浦は、思い切って投げ込んだ。 内角ギリギリのスローカーブ。 球速は80km/hに達しているかどうか。 が、小笠原はトップの位置を崩すことなく、ややアウトステップ気味にその球を振りぬい た。 やられた、と三浦は打球の方向に振り返った。 打球はぐんぐん伸びたが、ギリギリのところで右に切れた。 あっぶねぇ。 三浦はどっと冷や汗をかいた。 タイミングドンピシャじゃなかったか。 小笠原はあれを待っていた。 そうとしか考えられない。 外角のストレートを待っていてああいう打球になるはずがない。 やっぱり読まれている。 俺が外角直球を狙い打たれているのを知っていて、カーブでタイミングを外してくること を知っているのだ。 もう、直球でいくしかない。 直球で押すしかないのであるよ。 外角低め一杯に渾身のストレート。 それしかないだろ!! 打てるもんなら、打ってみろ!!!! あっ!!! 三浦らしくない投球だった。 三浦の投じた直球は、当人の意思と大きく異なってしまった。 力みがあったかもしれない。 バランスが崩れたのかもしれない。 内角高めに投じられてしまったそのストレートに、小笠原はぴったりタイミングを合わせ てバットを振った。 直球待ち…だったのか。 妙にゆっくりに感じられる時間の中、三浦は敗戦を覚悟した。 が、ボールはそのまま細山田のミットに吸い込まれた。 ストライク、バッターアウト!! 球審の声が響いた…。 対巨人戦5年ぶりの白星をつかんだ三浦は、しかし、マウンド上でなんともいえない複雑 な表情を見せていた。 アナライジング・ベースボール。 データを元に確率の高い方を選択する野球である。 何が正解かは、わからない(大爆)。
本当に三浦が外角低目を狙い打たれているのかどうかも、わからない(大爆)。 ↓オーダーメイドなんて無謀かしら、と考えている私に、是非ともクリックお願いします 横浜ベイスターズブログランキング 野球ブログランキング コメント、TBもお待ちしてます。 |

