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小麦貿易がロシア前衛芸術を運ぶ
20世紀末、ラテンアメリカではガルシア・マルケス、フリオ・コルターサル、アレッホ・カルペンティエールといったノーベル賞クラスの小説家が大量に姿を現した。
その作風は一様に、前衛芸術と言われたフランスのシュール・レアリズムとロシア・アヴンギャルド芸術を複合させたものであった。
30年間共に暮らした夫婦であっても、お互いを100%理解し合う事は不可能のようである。妻は夫に不満を言い、夫は妻に不満を言う。その意味で、人間は一生自分を100%理解してくれる人間の居ないまま、孤独で生き続ける事になる。ノーベル賞作家大江健三郎は、作品の中でアルコール中毒患者をしばしば描きながら、その登場人物を使い「100%他人に理解される事の無いその人間の孤独は地獄だ、そこから抜け出したい」等と酔っ払って語って見せる。おそらく大江の本音であろう。
フランスのシュールレアリズムは、その人間の内面を深層心理まで遡り、表に出し、表現しようとした。しかし深層心理を表現しただけでは足りない。ロシア・アヴンギャルドはその深層心理の欲求を、政治の世界で実現しようとした。人間の欲求、理想が政治の世界で100%実現する、それは確かに理想である。
人間の内面の欲求を全て政治的に実現する。芸術の政治化、政治の芸術化の課題は、現代の芸術の世界ではタブーで、誰も挑戦しなくなった。このテーマを芸術家は「怖がり」避ける。芸術家は政治とは無縁、政治家は芸術知らず・・ロシア・アヴンギャルド以降、果敢な実験から芸術家達は「逃げて」来た。芸術家達の無知と無能と臆病が原因である。
ラテン・アメリカの作家達はこれに挑戦した。そしてノーベル賞が続出する事になる。
この一群のラテン・アメリカ作家達をラプラタ派芸術と呼んだりする。南米を貫く大河ラプラタの沿岸に、この作家達が多数輩出したためである。
文学研究者達は、なぜラプラタ河沿岸に大作家達が輩出したのか、答えを見出せていない。文学者は文学の研究しか行わない。そのため問題が見えない。ノーベル文学賞の秘密は、小麦の流通ルートを知らなければ解明出来ない。
南米の産業は農業と資源開発である。世界中で、農産物と資源の輸送は河川のある所では河川を利用し、水路運搬が行われる。鉄道、トラック輸送よりはるかに安価に輸送が可能なためである。北米大陸では多くの河川が最終的にはミシシッピ河に注ぐ。カナダと米国を貫くミシシッピ河が、北米大陸の食糧輸送の大動脈となる。
世界最大の穀物輸出地帯=北米大陸には、カナダ、米国という国境は無い。カナダ、米国の農産物は、ミシシッピ河上の船舶で「混合」されて運ばれる。ミシシッピ河文明である。
南米では最北部を除き、大部分の河川は最終的にはラプラタ河に注ぐ。豊かな南米諸国の農産物は、ラプラタ河上の船舶で「混合」され一体化されて運搬される。アルゼンチン農業、ウルグアイ農業等は存在しない。ラテンアメリカ農業だけが存在する。ラプラタ河文明である。
過去に南米諸国に乱立してきた軍事独裁政権は、米国の穀物商社が背後から支えて来た。軍事独裁政権により貧しい農民を軍事力で押さえ込み、安い賃金で大規模農場で働かせる。安い賃金=安価な農産物、それが穀物商社に莫大な利益をもたらして来た。その意味で一群の南米諸国の軍事政権等は、カーギル、ADM社等の穀物商社独裁政権として「1つ」であった。この南米の穀物商社独裁政権の輸送網がラプラタ河である。南米諸国はラプラタ河独裁政権とも言える。
北米大陸では、ミシシッピ河の河口ニューオーリンズに圧倒的大部分の穀物が集まる。ここが世界最大の穀物輸出港である。ニューオーリンズのあるルイジアナ州の名前は、フランスのルイ国王の名前から取られた。ニューオーリンズの港周辺には、フレンチ・クォーターと呼ばれる古式豊かなフランスの街並みがある。世界最大の穀物輸出港ニューオーリンズは、かつてフランスが植民地として支配して来た。ニューオーリンズの最大勢力が、フランスの穀物商社ドレフュス社、アンドレ社、ブンゲ社等であった。
一方、南米の豊かな穀物農産物は、ラプラタ河周辺に集まり船舶で河を下り、ラプラタ河の河口アルゼンチンのブエノスアイレスに集積される。ここがラテンアメリカ最大の食糧集積地である。
ブエノスアイレスからは、さらに船舶で南米を支配する穀物商社の本拠地ニューオーリンズに向かう。ブエノスアイレスとニューオーリンズを結ぶ航路が、南北アメリカ大陸という世界最大の農産物輸出地帯の大動脈であり、南北アメリカを事実上「一体化」して来た。
ニューオーリンズに集まるフランスの穀物商社は、元々はベルギー、スイス等の出身企業であり、ロシア、ルーマニア等の豊かな農産物を西欧に輸出して来た。
フランス語の古語ロマン語を話す人間達をロマン人と呼び、それを英語読みでルーマン、ルーマンの作った国をルーマニアと呼んで来た。またロマン人をラテン語読みでア・ルマン、ア・ルマンの作った国をアルメニアと呼んで来た。共にフランスの植民地であり、古来フランスが穀物を求め、東欧ロシアの一部を植民地支配して来た歴史が見える。
ロシア最大の油田アゼルバイジャンのバクー油田の利権を巡り、戦争を繰り返すイスラム教アゼルバイジャンとキリスト教アルメニア。ア・ルマンの国アルメニアの背後には、フランスの石油企業エルフ・アキテーヌ社、トタル社が居る。
フランスの穀物商社もルーマニア、ロシア=ウクライナの穀物の輸出入を専門とし、アムステルダム、アントワープの港を使用して来た。フランスの穀物商社は、ウクライナ、アントワープからニューオーリンズ、ブエノスアイレスへと穀物貿易の手を拡げて行った。アントワープとブエノスアイレス、ニューオーリンズを結ぶ航路が世界の穀物の大動脈である。
1917年、ロシアの共産主義革命で逃げ出したロシアの富裕層は、このルートで北米、南米に亡命した。
一方、第二次世界大戦後ウクライナ独立運動がソ連(ロシア)に弾圧されると、独立運動家達はカナダのアルバータ州に逃亡した。カナダ最大の穀物地帯アルバータ州と、ロシア最大の穀物地帯ウクライナはこれで連結された。アルバータ州等の穀物は、5大湖の水路からミシシッピ河=ニューオーリンズへと運搬される。
そして穀物商社ドレフュス、ノーベル平和賞受賞者アルバート・ゴアが、ソ連から密輸した天然ガス、原油から化学肥料、農薬がアルバータ州で生産され、それはミシシッピ河を下降しながら全米の農家へ運搬されて来た。さらに農薬、化学肥料は、ミシシッピ河口のニューオーリンズからブエノスアイレスへ運ばれ、ラプラタ河を北上し南米全域の大規模農場に配布されて来た。船舶の行路には農薬、化学肥料、帰路には農産物。高価な農薬、化学肥料の代金を安価な農産物で支払わせる、事実上の南米農産物の「買い叩き」である。
世界最大の食糧輸出大国アメリカ=カナダ、世界2位の食糧輸出大国フランス(の穀物商社)、ロシア最大の穀物輸出地帯ウクライナ、大豆小麦輸出で常に世界トップを争うアルゼンチン等の南米諸国が、こうして連結される。これがカーギル、ADM(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド社=フランスの穀物商社アンドレ社、ドレフュス社と合併)の活動ルートである。
1930年代、ソ連(ロシア)に独裁者スターリンが現れ、自由な芸術活動が弾圧されると、ロシア・アヴンギャルド芸術家達はこの穀物商社の貿易ルートでニューオーリンズ、ブエノスアイレスに逃れた。
1968年、哲学者サルトル等の活躍したフランス5月革命が挫折すると、シュールレアリズム芸術に革命の理念を「溶かし込んだ」前衛芸術家達が、フランスの古い植民地ニューオーリンズへ傷心の旅に出、ニューオーリンズからブエノスアイレスに漂着した。ブエノスアイレスで、独裁者スターリンに追放された老成したロシア革命の闘志達とフランス5月革命の闘志達は、南米の軍事独裁政権を打倒するラテン・アメリカの革命家達と合流し、ラプラタ河を北上、南米に散らばった。
ロシア・アヴンギャルド芸術とフランス・シュール・レアリズムが、ブエノスアイレスで合流しラプラタ河を北上、ラプラタ派芸術を生んだのである。
※・・シュール・レアリズム芸術については
全集「小説のシュール・レアリズム」白水社 全巻を参照。
ラテン・アメリカ作家については
全集「ラテンアメリカの文学」集英社 全巻
全集「ラテンアメリカ文学叢書」国書刊行会 全巻
を参照。
ロシア・アヴンギャルド芸術については
花田清輝「アヴンギャルド芸術」新潮社
シクロフスキー「ロシア・フォルマリズム論集」岩波書店
また、桑野隆氏の全著作を参照。
ラテンアメリカ諸国の軍事独裁政権については
ウィリアム・ブルム「アメリカ国家犯罪全書」作品社を参照。
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