潜水服は蝶の夢を見る
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その奇抜なタイトルに興味を惹かれ、あらすじを知って期待を膨らませていた映画。 映画を観終わった時に心に残ったのは、人間という存在の奥深さや生命の不思議さ。 どんなに絶望的な環境にあっても希望を見いださずにはいられない、 そのギリギリの人間性こそがまさに潜水服が夢見た蝶なのだろう。 映画冒頭、スクリーンに映されるぼやけた画像に観客は状況が把握出来ない。 ピントの合わない視界の中、自分の身に起こったことが理解出来ない状態の主人公さながらだ。 徐々に画像のピントが定まってくるに連れ、 その視点が主人公のものであり、長い眠りから目覚めた場所が病院であること、 周りを見ることや音を聞くことは出来ても、 口も聞けないどころか身動きすら取れない、 ロックトイン・シンドロームという重篤な状態にあることを知らされる。 周囲の人々の動きを目で追ったり会話を聞くことが出来ても、 他人が自分を触ったことが感知出来ずまた自分から他人を触ることも出来ないという状況は、 『映像を観たり音楽を聴くことは出来てもスクリーンの向こう側を触れることが出来ない』 という点では、我々観客もそもそも同じような環境にある訳だ。 外界と自分の内面とが遮断されてしまった主人公に近い状況を図らずも追体験することとなり、 主人公がパニックに陥った心情を比較的すんなりと理解することが出来る。 この辺り、映画の特性を巧みに活かしていることに感心させられる。 場面が進むに連れ、 徐々に主人公ジャン=ドミニク・ボビーの背景が観客に伝わってくるという演出も、 ジャン=ドーの目線をトレースし続けるカメラワークと相まって、 観客が自然にジャン=ドーに溶け込むことが出来るように仕向ける巧い仕掛けだ。 殊更に説明的な描写は無くても、 ジャン=ドーが人気雑誌の編集長で社会的地位があり、 三人の子供が居るものの妻との間には確執があることや、 妻との確執の原因が恋人の存在にあることなどが見て取れる。 序盤から中盤にさしかかるに連れて分かるのは、 この映画がありがちなお涙頂戴ものとは明らかに一線を画しているということだ。 絶望的な状況に一旦は自暴自棄になりながらも、 自分の身に起きた過酷な試練をありのままに受け入れ、 「もう自分を憐れむことをやめた」とはっきり言い切るジャン=ドー。 身体の自由を奪う潜水服を脱ぎ捨てて一匹の蝶となり、 想像力と記憶力を武器に時空を超えて精神世界を自由に旅するシーンには、 必要以上に同情を煽ったり涙を誘うような演出は無く、 それどころかカラッとしたユーモアや精神の高揚すら感じさせる。 とても美しいシーンだ。 カメラがジャン=ドーの目線から離れ出す後半においては、 回想シーンが増え、ジャン=ドーの妄想もエスカレートし出すこともあり、 観客の視点がどこを拠り所として良いかが曖昧になり、 どこか散漫な印象になる。 ジャン=ドーを悲劇の主人公に仕立て上げることも無い代わりに、 その俗物さもありのままに表現しているため、 「妻子がありながら女たちの間を渡り歩く成り上がり者」であるジャン=ドーには、 正直言ってあまり共感出来ない面も多い。 身体の自由を奪われても女好きであることを隠しもしないその性格には、 男ならばニヤリとさせられるのだが。 献身的な看病を続ける妻がすぐそこに居るにも関わらず、 発作に倒れてから初めて電話をかけて来た恋人への熱い想いを隠しもせず、 あまつさえ妻を介してその想いを恋人に伝えさせるシーンには、 その残酷さに妻セリーヌに同情してしまう。 例えそれによって主人公への感情移入が妨げられようとも、 決して聖人君子などではない生身の男の姿をありのままに描き出すことは、 一人の人間の紆余曲折の人生への讃歌であり、 ギリギリの状況でこそ輝きを増す生命の不思議さを描きたかったのだと思わされる。 ジャン=ドーを支えたのは言語療法士や理学療法士や編集者や妻という女性たちなのだが、 年老いて身体の自由が利かなくなった父親や、 席を変わったがために自分の代わりにハイジャックに遭い数年間も監禁された知人などの 存在も忘れる訳にはいかない。 この辺りもドラマに深みを与えていたように思う。 束の間の希望を得たジャン=ドーだが、容態は急変。 その彼に去来したのは、発作直前に息子と共に過ごした幸せの記憶。 観終わって感動の涙にむせぶという映画では必ずしも無いが、 氷壁が海に崩れ落ちる様子を逆回転で再生し続けるエンディングを眺めながら、 何故か心が救われたかのような不思議な気持ちを味わった。 もしも違う監督が撮ったならば、いくらでも感動を煽ることは出来ただろう。 しかし、そこに同じような余韻があったとは思えない。 敢えてそうしなかったジュリアン・シュナーベル監督の凄みを感じた。 映画の至る所に挟まれていた印象的な映像は、しばらくは頭に焼き付くことだろう。 ■追記■
生きているのに、生きているとは言えないような状態。 では死んでいるかというとそうでも無い。 絶望に暮れて死にたくなっても、自分で自分の命を絶つことも許されない。 唯一与えられた選択肢は、それでも生きながらえること。 そんな状況でジャン=ドーが到達した悟りの境地が、 「左目のまばたきで本を書く」という行為だったのだろう。 そこに至ったということが素晴らしい。 常人には出来ることではない。 私に同じことが出来たとは、とても思えないのだ。 |
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これ知りませんでした…。確かに気になるタイトルですね。
2008/3/4(火) 午前 1:25
原作からも凄いパワーを感じた作品です。
映像綺麗でしたね。。そして音楽も素晴らしかったです。
こんな物語が実話だなんて・・・本当に事実は小説よりも奇なり、ですよねえ。。トラバさせて下さいませ。
2008/3/4(火) 午前 8:03
うん、なかなか面白そうだな。
気になったし、見なくちゃわかんないねww
忘れないようなタイトルだし。チェックしますv(*´∀`*)v
2008/3/4(火) 午前 8:40
すごいお話ですね。題名が何を意図しているかわかりませんでしたが、読んでて納得しました。奇抜な話をどう映像処理したか気になります・・・。
2008/3/4(火) 午後 0:45
映画を観ている間は、主人公の奔放さに驚かされたり、、一家の主婦としては必ずしも共感できないところもありましたが、仰るように、そういうありのままの姿全部ひっくるめて彼の人生だったということなのでしょうね。
キレイごとでもなく、泣かせでもない、それでいて温かな心地よさと静かな終わりを遂げる寂しさを感じる作品でした。
TBさせてくださいね。
2008/3/4(火) 午後 1:00
無理に感動させようとしたり泣かせようとしたりするところがなく、それでいて後からじわじわとくる作品でした。
ジャン・ドー本人に元から備わっていたというか、そういう生命力みたいなものが、作品に「生」を感じさせてくれたのかなぁとも思います。
素晴らしい作品でしたね^^
トラバお返しさせてくださいね♪
2008/3/4(火) 午後 1:37
確かに人間の生生しい部分もあえて入れた表現だからこそ、よりリアルな感じに受け止められましたよね。
しかし相手の言っている事が見たり聴こえたりしているのに、自分からは意思を伝える手立てがないというのはどんなに絶望的なことでしょう。それでも一分の可能性に向かってチャレンジしていくジャンの姿から、結局見ている我々が元気をもらっているんですよね。そう言った意味でも不思議な作品でした。こちらからもTBさせてくださいね♪
2008/3/4(火) 午後 3:16
そうですね、いくらでも感動を誘う内容にすることは出来たと思いますが、そうならずにじわじわと心に沁みる素敵な作品でした。
ジャン・ドーがあの状況でも前向きに生きたことが、私たちの気持ちも前向きにさせてくれた気がします。
TBお返しさせて下さいね!
2008/3/4(火) 午後 4:55
f57yさんこんばんは!
このタイトルにピンと来たあなた、ぜひお試しあれ♪
2008/3/4(火) 午後 11:09
恋さんこんばんは!
まさに事実は小説より奇なり。こういう物語に触れると、人間という存在の奥深さを感じて感慨無量です。頑張らなくちゃという気持ちにさせれらます。
TBども♪
2008/3/4(火) 午後 11:10
Syowさんこんばんは!
もし気になったなら、ぜひCheck it out!
2008/3/4(火) 午後 11:11
巴御前さんこんばんは!
この映画は、じっくり腰を据えて観て欲しいなぁなんて思いますよ。映像やカメラワークにも魅せられます。
2008/3/4(火) 午後 11:17
pu-koさんこんばんは!
必ずしも善人ではありませんでしたし、女性から見たら許せない面も数多くある主人公でしたが、ありのままの彼の生き様には何か凄みを感じました。あのカラッとしたユーモアはホントにスゴいです。普通なら悲観にくれるとこですよね。
TBども♪
2008/3/4(火) 午後 11:20
じゅりさんこんばんは!
誰にでも出来るということではないですし、彼だからこそ、彼に社会的な立場があったからこそ出来たというのが正直なところですが、彼を見習って自分の可能性を追求したくなりました。
TBども♪
2008/3/4(火) 午後 11:24
Choroさんこんばんは!
安っぽいお涙頂戴ものに仕上げずに、珠玉の人間讃歌に仕立て上げた監督の心意気が素晴らしいです。これだけ元気と勇気を貰える映画もなかなか無いでしょう。
TBども♪
2008/3/4(火) 午後 11:26
ゆきさんこんばんは!
全くその通りです。心で観る類いの映画でしたよね。重くなりがちなテーマを、印象深い映像とカメラワークで味付けした監督は、さすが芸術家だなぁと思いました。
TBども♪
2008/3/4(火) 午後 11:28
さすがは現在アートの巨匠でしたね。映像へのこだわりは見事でした。TBさせてください。ヨーロッパ女性は美しい。
2008/3/5(水) 午前 0:03
私は、どうにもジャン=ドーに共感出来ませんでした。皮肉ばっか言っとらんで、勇気を出して本音を言えや…、そんな感じでした。想像力って言ってもけっこう卑近なものばかりだったような…^^;。それでもTBお願いします(^^♪。
2008/3/5(水) 午後 7:30
ほんとそうですね。あえて愛人とのことを入れたり、女性に対する態度が編集長時代と変わっていないところなどリアル感がありました。
想像力というものがこれだけ人生を豊かにするものだ。。というのが
わかったような気がします。
映像も美しかったですね。
TBさせてください。
2008/3/5(水) 午後 9:41
もっさんこんばんは!
監督さんの映像へのこだわりがうまく映画を引き立ててたと思います。登場する女性が美人ばかりでしたよね〜。そこにばかり目がいってしまうのは男の性ですね!
TBども♪
2008/3/5(水) 午後 10:48
Shinchanこんばんは!
たぶん、ジャン=ドーは常人とは違う精神世界を持つ人物だったのではないかなと思います。ざっくばらんな人間では無かったのでしょう。あの状況では悲観にくれてしまうのが普通ですが、よくよく考えてみれば彼には自殺する自由も無いのです。生きているのに生きているとは言えない状態、死のうにも死ねない状態。そんな彼の唯一の選択肢が、自分の思いを本にすることだったのでしょう。
TBども♪
2008/3/5(水) 午後 10:57
Cartoucheさんこんばんは!
究極の人生讃歌とも言える映画だったと思います。せっかく備わっている想像力を活かし切れないことが多い中、ジャン=ドーは見事に蝶になって羽ばたいていました。
TBども♪
2008/3/5(水) 午後 10:59
魅せ方が上品なのと斬新ですごく引き込まれました!
2008/3/7(金) 午後 7:43
かずさんこんばんは!
映像が独特の印象でした。カメラワークも他には無いものでしたね。
TBども♪
2008/3/8(土) 午前 0:08
自由に動けなくても「男」であることを忘れてはいませんでしたね。私でもニヤリしちゃいましたよ(笑)偶然にも、周りに美しい女性に囲まれていましたが、あれが男性の言語療法士だったら、こういう形で映画は成り立っていませんしね〜。色々な人が彼のために祈り、そして生きることの意味を見つけた彼。静かな感動がありました。。。TBさせてくださいね。
2008/3/9(日) 午後 8:22
SHIMAさんこんばんは!
男は死ぬまで男なんですよね(笑)。周りの女性が美人揃いなのは、あくまで主人公視点だからなのかもしれません。周りの男性が醜男で気が利かない描写が多かったのも、実に正直です。人間の奥深さ、感じましたね〜。
TBども♪
2008/3/9(日) 午後 9:49
絶望的な状況下にあるジャン=ドミニクが主人公なのに暗さを感じさせない作品でしたね。最後まで男であった彼には悲しい思いをさせられた人が多いのかもしれませんが、そんな彼だからこそあの状況下で自伝を書き残す事ができたのかもしれません。
TBさせてくださいね。
2008/4/8(火) 午前 11:46
つららさんこんばんは!
人間の奥深さ、素晴らしさを感じるとともに、業の深さも感じた映画でした。映像も素晴らしかったですね。
TBども♪
2008/4/9(水) 午前 0:19
YKさんのレビュー、よく書けてました!(学校の先生みたいな褒め方ですがw)レビューにも感動しました。
私はこういう映画を観る時、同情をしないこと、を鉄則にしてます。
だから同情を煽る映画は苦手なんですが、
YKさんのおっしゃる通り、同情を煽ったりしてない作り方に好感が持てました。
素晴らしい映像でしたねwTBお返ししますね〜
2008/5/5(月) 午後 10:03
ラルフさんこんばんは!
褒められたら嬉しいですよ。私もお涙頂戴の湿っぽい映画は嫌いなので、苦境に陥りつつもそこから這い上がろうとする主人公の姿をドライに映し出す姿勢に共感できました。
TBども♪
2008/5/5(月) 午後 10:18
劇場公開されず、念願のDVD鑑賞です!
監督の芸術的センスとマチューの演技の素晴らしさで
重たいテーマながらユーモアもあり、前向きな主人公の姿に感動でした。トラバお願いします!
2008/7/30(水) 午後 8:10
くるみさんこんばんは。
まさしくその通り、時折きらめくように描かれるイメージの氾濫が素晴らしかったですね。
TBども♪
2008/7/30(水) 午後 10:16
タイトルが詩的ですね
脳梗塞になった主人公の視界の映像は、観客に追体験させ、引き込まれますね、特に前半部です
監督がアート畑(現代美術)の方だったこともあり、ファーストシーンのレントゲン写真や、崩れ落ちる氷山の逆回しのエンドロールの映像などはなかなかよかったです。
この深刻な題材を、「お涙頂戴」のよくある“感動ドキュメント”にしなかったところも、迎合していなくて、よかったですね
後半が「散漫な印象」を受けましたか、、、なるほど同感です
TBさせてくださいませ
2009/6/23(火) 午後 7:07
8 1/2さんこんばんは。
詩的なタイトルと裏腹のヘビーな状況ですが、主人公がへこたれて無いどころか、エロい目線丸出しなのがフランスらしいというか。エンドロールの画像は、寓意と捉えることも出来るし、単なる映像美と捉えることも出来るし、意味深でした。またいつか観てみたい映画です。
TBども♪
2009/6/25(木) 午前 0:20