TPP問題の終わりに
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TPP問題に対し、そろそろ決着を付けなければならない。
その前に厄介な遺伝子作物の問題も私自身に結論を出さなければならない。
本来遺伝子組み換え技術とTPPは全く別の次元の話であって、モンサント社の世界戦略と言う小さな枠の中で議論すべきでは無いような気がする。
冒頭でも述べた様に、遺伝子組み換えは遠い過去から「品種改良」と言われ、人類の生存に非常に大きな効用を齎して来た。寒さに強い稲、旱魃に強い稲など全て遺伝子を組み換えることでしか到達できない技術だった。
野菜や果物の形状、甘み、色などが近年益々バイテイーに富み、人々の味覚を楽しませることが出来るようになった中に品種改良によるものだ。
遺伝子組み換え技術は、更に大きな効用を人類に齎すことは確実だ。
中でもアフリカなど作物の栽培に適さない乾燥地帯でも栽培可能な品種が多様に開発されれば、どんなにアフリカの人々に恩恵を齎すか測り知れない。
仮に万が一その作物によって長い間に健康を損なうことが判っても、その作物を食べなければ栄養失調で健康を損なう以前に命を落す人々が遥かに多かったら、そして、その作物を食べた方がづっと長生き出来るならば、それはやがり選択の問題と言うべきだろう。
GM作物の良し悪しの判断は、他の諸々の条件を全て勘案した上でなければ下せないと言わざるを得ない。
温暖化による旱魃、水害が世界で多発する今日、食料の世界的供給不足が現実問題になろうとしている。
旱魃によりコメ・小麦などの主要穀物が絶対的に不足したら、裕福な国が買占めて、貧乏な国は絶対的飢餓に陥ることになるだろう。
GM作物の安全性がより広範に証明され、食品として安心して食卓に上るようになる方が人類にとって幸せなことでは無いだろうか?
それが原発反対と同じ論調で、何が何でも「GM作物は危険だ」「一切のGM食品を排除しよう」とヒステリックになっていては、反って人類の幸福を損なうことになるのではないだろうか?
GM技術の更なる応用によって人類は益々豊になり、食料不足から開放され、より豊富な食材を楽しむことが出来る可能性を秘めているし、またそうならなければ低開発国の人口爆発が慢性的食料不足をもたらし、人類は絶えず飢餓に苦しむことになる。
その為には科学者たちや政府は、もっと遺伝子組み換えについて広範な啓蒙活動を行う必要があり、今解かっていること、これから解明されなければならない事など秘密にするのではなく、より透明性を持たせた議論を展開すべきであろう。
さて、TPP参加に強い危機感を抱いている学識経験者の皆様のご意見を伺い、私自身も迷いながらもTPP参加が日本にとって致命的な誤りであるかの如き主張する中野剛志氏や三橋貴明氏、そして今回の安田美絵氏の主張をあらゆる角度から検証させて頂いて感じたことは、いずれの方々も農業や医療といった既得権益を守ろうとする思いからではなく、ご自身の世界観に裏打ちされたものであることが理解出来た。
それは、日本という国のあるべき姿は何千年も昔から受継がれてきた農耕民族の伝統と文化であって、それは西洋の合理主義や効率主義とは相容れないものであるという確固たる信念である。
日本は敗戦によって西洋の合理主義的思想が日本国民にもたらされ、それが経済至上主義へと変貌を遂げ、エコノミックアニマルと嘲笑されながら戦後70年を突っ走って来た。それが一時成功を遂げ、GDP世界第二位の経済大国にのし上がった。しかし不動産バブルの崩壊と共に今まで捨て去って来た日本の伝統や文化が如何に貴重なものだったかを知る羽目になった。
その反省に立って中野氏等は今世界の潮流になっているグローバル経済に疑問を呈し、今まで捨て去って来た日本らしさ、日本人のあるべき姿を取り戻し、日本は日本として確固たる歩みをして行くべきだという思想信条に私も共感出来る。私も本来はそう云う立場だ。
日本はアメリカの真似をする必要もなく、アメリカに追随する必要も無いのは当然である。
日本には日本の国民性がある。それを如実に反映するのが制度である。
国民皆保険制度、年金制度、医療保険制度、共済制度など日本が長年かけて培ってきた日本的制度がある。勿論これらはアメリカの制度とかなり懸け離れたものだ。
日本人が長年慣れ親しんできたこれらの制度が必ずしも完全でないことは国民誰もが解かっている。
しかし根本的な思想に於いて間違っていない。
つまりこれらの制度の存在こそ、日本国が日本国たる所以だと言って良いだろう。
仮にTPPがこれらの制度を根幹から揺るがすようなものだったら、TPPに参加することは”日本らしさ”を捨てることを意味する。
TPPは国の在り方を変えるものだと言われている。
規制緩和が進まない後進国ではかなり国の制度変更を余儀なくされるかもしれない。何故なら、後進国ほど国の統制や支援なくしては経済成長が望めないからだ。かっての日本も、「護送船団方式」と揶揄されるような官民一体型の経済成長を目指していた。
しかし、平成になってアメリカとの経済摩擦が激しくなり、構造改革無しではアメリカとの交易関係を維持できない状態に陥った。その結果アメリカの強い圧力によって、遅々とした歩みであるが規制緩和と市場開放が進んだ。ただ日本国民にとって、規制緩和や市場開放が全てデメリットばかりだったとは言えない面があった。
今、車で郊外に出れば、大型スーパーや大型電気店が競い合い、消費者にとって商品選択の自由が与えられた。これは規制緩和の功の部分だろう。しかしその陰で旧商店街はシャッター通りと化した。これは規制緩和の罪の部分だ。
では、規制緩和や市場開放が進まず、買い物は相変わらず旧商店街でしか出来なかったら如何だろう?
お年寄りは顔なじみの店主さんと世間話に花を咲かせ、品数の極端に少ない店内を隈なく回りながらの買い物を懐かしがるかも知れない。
しかし一度大型店での買い物に慣れた人々にとって、こうした対面販売は煩わしいとさえ感じるだろう。
大型店なら、気に入った商品が必ず揃っており、目の前にある商品が即持ち帰り出来ることが忙しい現代人には有りがたい。
貿易自由化の進行とは、TPPに限らずこうした功罪がはっきり分かれることになる。
功罪の功の側に属する人々にはありがたいことだが、功罪の罪の側に属したら目も当てられないと思うのは当然だろう。
功罪合い半ばするなら、長い目で見守るしか我々には如何することも出来ない。
シャツター街の商店主の行く末を案じて、郊外の大型スーパーでの買い物を止める主婦が居ないように、それも時代の流れと受け止めるしか無い。どうしても遺したい日本の文化・伝統を含んだ産業が自由化の波に流され、消えてしまうことはやはり避けなければならない。日本人にとって魂の拠り所となる産業、例えば稲作文化、は何が何でも守らなければならないものだろう。
私のような長年田舎に住み慣れた者にとって、季節の移り変わりと稲作は切っても切れない関係にある。
本当に春を感じるのは桜が咲く姿ではなく、田圃に水が湛えられ、青い苗が一面に敷き詰められた姿だ。
TPPによってコメ農家が壊滅すると言われている。しかし本当にそうであろうか?
多くの専業コメ農家は生き延び、日本人が食うコメを完全に供給してくれる方に私は賭ける。
何故なら、日本はコメを作る事を止めたら日本でなくなるからだ。
コメ作りは古来より日本人の命を育んできた尤も大切な作物であり、それは今尚宮中で天皇陛下が神事として司る最も重要な行事であることからも証明される。
このような意識に立てば、仮にTPPによってコメが自由化されようが日本人は日本人の作ったコメを食べ続けるだろう。そして決して稲作農家は消滅などしないと信じる。
コメに限らずこうした外圧に対し、日本は古来から見事なまでにある時は適応し、ある時は撥ね退けて生き延びてきた。蒙古襲来、日清・日露戦争が良い例だ。
唯一の例外が太平洋戦争だ。これは外圧ではなくて、自らが招いた自損事故と言えるが、それでもそれをバネに見事復興を遂げた。
バブル崩壊後の日本人は日本人らしさを失いつつある。
企業家は元気を失くし保守化してしまった。
敢えてリスクを取るより安全運転を心がけるようになり、その結果経済は低迷を続け、財政は悪化し、このままでは日本はタイタニック号のように国民を乗せたまま沈没するかも知れない。
このままでは、再びかっての元気を取り戻し活力のある活き活きした経済が再来するとは到底思え無いのだ。
日本財政を立て直すのに、“経済成長”が特効薬だと誰もが解かっているのに、如何すれば経済成長させられるのか解からない。誰も具体的に答えを出すことが出来ないことが今日の日本経済を低迷させている理由なのだ。 民主党政権になって成長戦略を掲げられていないことも大きな原因だ。一応「医療・介護・環境」が成長の柱だとしているが、全く見当違いだ。その理由は過去にも何度も触れているのでここでは述べるつもりは無い。
しかし増税によって内需が拡大する、などと馬鹿げたことを主張する御用学者の意見に何の疑いも無く従ってしまう現政権の下では経済成長は絶望的だ。
日本は既に高齢化社会を迎え、内需は今後更に縮小して行くことが解かっている。
そんな中で唯一希望が持てるのが外需なのだ。
そんな中、世界は完全自由貿易化の方向に走り出している。好むと好まざるとに拘わらず、自由貿易体制を受入れながら日本の生き延びる道を探って行かなくてはならないのは事実だ。
何れアメリカともFTAを結ばざるを居ない時期が来る筈だったが、アメリカはFTAに代わる脇組みとしてTPPを選択した。TPPは現在9カ国であるが将来さらにASEAN諸国を包含したより広範なFTTAPへ発展させると言う。
そうなった後では日本は嫌でも参加せざるを得ない立場に追込まれる。その場合のダメージは今想定されるものより更に大きなものになっている可能性がある。
世界第三位の経済大国日本がアメリカと対等に渡り合えない筈がない。今の民主党政権ではTPP交渉は無理だが、かっての保守政権なら守るべき制度・文化・伝統は守り、攻めるべきは攻めることが可能だと信じたい。
日本が外需を取り込まなければ一日として立ち行かなくなる体質であるなら、ここは積極的に打って出る道を選択すべきだろう。
専守防衛で国を守れたためしはない。
かって、城に篭って今川勢を迎え打つことを主張する重臣達の意見を織田信長は退け、清洲城を出て桶狭間にて奇襲攻撃をかけ今川・徳川連合軍を打ち破った。もし城に立て篭もって迎え撃ったら、信長の天下統一は無かった。
日本の農業特に穀物は此れまで守りの農業だったことは周知のことだ。その為に今や衰退の一途を辿る運命にあることも事実だ。放って置いても崩壊する穀物生産は、本気で守るなら、積極的に改革をして行かなければならない。
コメに限らず、医療、金融保険など日本が弱いとされる分野こそ、競争に耐えられる産業に育てて行かなければならない。どんな困難な環境にも日本人は耐える力があり、これまでも厳しい逆境を跳ね返して発展を遂げて来た。だからこそTPP参加をバネにして、日本経済が昔のように元気な姿を取り戻し、将来への礎にしてもらいたいと切に願う者である。
(完) |