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バイトが休みの日は、いつものように池袋のゲームセンターに通っている。
ビルが丸ごとアミューズメントセンターのようになっていて、ジムやプール、ボウリング場やアーチェリーも出来る。
おれはいつもそういう現実的な遊びのフロアをすっとばして、最上階にあるゲームセンターに直行する。
その日もお気に入りのダンジョンRPGをやりにいったのだが、もともとあまり人気がなかったらしく、いつものその場所にはガンシューティングゲームがおいてあった。
100インチくらいのスクリーンで、テロリストを殲滅せよという指令に200円ばかしつぎ込んでみたが、自分に向いていないのかあんまり面白くない。
広いフロアを何か無いかと物色していると、奥の方に壁沿いに4台ほど並んでいるゲーム機体があった。
機体自体はよくあるダンスゲームのようにステップエリアがあるもので、それ自体はなんということもないのだが、どうも若者らしくない雰囲気である。
強いて言えば公園でたまにみるゲートボールの雰囲気に近い、あれに似た独特の盛り上がり方をしている。
行ってみると、なんともゲームセンターにふさわしくなく、いるのは腰の曲がりかけた老人ばかりだ。
機体のうち、一台のところに人が集まっていて異様な盛り上がりを見せている。どうやらひとりのプレイをみんなで鑑賞しているようだ。
ゲームセンターではよくある光景、、、のハズだが、、、、
「ここ右か」
「いや、そうするとトラックにはねられるぞ、日本庭園は左にあるほそい小道を、、そうそっちだ」
「うわ。犬がきたぞ」
「体力ゲージが少し減るが、走れ、プードルなら大丈夫だ」
会話もどこかヘンだ。
あまりに気になるので、おれは老人のひとりに聞いてみた。
「ここは一体なんですか?」
「【散歩の達人】だよ。いまはバージョン2.00、これ最新のやつだよ」
画面から目を離さずに、その老人は答えてくれた。
よくみると顔がしわくちゃだ。
「散歩???どんなゲームなんですか?これ」
「散歩するんだよ、なんだいにいちゃん興味あんのかい?めずらしいね、若い人はここには寄ってこないよ」
どうやらICカードを使うゲームらしく、みんな馬券のようにカードを握っている。しかし、値段をみて驚いた、1ゲーム400円もするのだ。
おれはその人に教えを乞うことにした。
「あの、ちょっとやってみたいんですけど教えてくれませんか?
料金も高いですし。。。無駄になるのもいやなので。。」
「へえ、、めずらしい、いいぞ、教えてやる。ここは人でいっぱいだから端の方にいきますか」
機体はステップフロアに立つとちょうど目の前に画面が来るようになっていて、その画面も縦に移動させることができるようだ。
「腰、曲がったやつも多いからな、調節できるようになっているんだよ、400円、最初はICカード無しだ。カードはゲームが終わると記録されて出てくるからな」
ICカードとは記録用のカードで、例えばアクションゲームをやっていて3面までクリアしたところでゲーム中断、記録して次は4面からゲームを始められる、というもので、ハイスコアの記録も同時にされたりする。
最近は、このICカードを使ったゲームが多いのだ。
100円玉を 4枚投入すると、選択画面が出てきた。
2000
1980
1960
1945
1900
「どうすればいいんですか?」
「年代を選ぶんじゃ、若いから1980あたりがいいだろ」
次もまた選択画面
東京
神奈川
埼玉
千葉
茨城
群馬
栃木
県を選ぶようだ。
「出発する県を選ぶんだ、ここは関東だから関東エリアしか選べない。関西でやるときは、大阪とか京都とか行かなきゃならないんだよ。」
とりあえず東京を選んでみた。
画面が変わってまた選択画面が出てきた。
品川
高田馬場
池袋
新宿
渋谷
四谷
代々木
。。。。。。
池袋を選ぶ。
「〜池袋は入り組んでいるからなあ、ちょっと若いもんにはきついかもしれんよ」
「ところで、このゲームは何するんですか?」
「何って、散歩するんだよ、散歩の達人じゃないか」
画面が切り替わった。どこかの部屋の風景があらわれた。主観視点で、なぜか和室である。目の前には入れたてのお茶が。
老人の助言が飛ぶ。
「まずはお茶を飲むんだ。じゃないと体力が上がらない。低いままだとすぐ死ぬぞ。」
画面はタッチパネル方式で、指でお茶を触ると選択枠がでてきた。
飲む
投げる
荷物にいれる
「投げるってなんですか?」
「投げるんだよ、でも押しちゃいかんぞ、畳がお茶まみれになってモラルゲージが下がる。そうすると嫁がやってきて怒られて半殺しにさせられるからな。」
お茶を飲むと画面右下の体力ゲージが満タンになった。
「さっき言ってたモラルゲージってなんですか?見当たらないみたいですけど。。。」
老人はニコニコして答えた。
「隠しゲージでな、モラルに反することをすると下がっていくんじゃ。普段は見えない。」
「ゼロになるとゲームオーバーなんですか?」
「いや、死にはしないんだが、コントロール不能になって警察に捕まってしまうんじゃ。そうすると次から3ゲームはずっと刑務所の中になってしまう。外へ出て散歩が出来なくなる。そら、ドアをタッチして外へ出るんじゃ。」
外へ出ると、池袋周辺のよくある路地で、自分の家あたりの感じそのままである。風も吹くし、鳥も飛ぶ。何処かのTVの音も現実そのままだ。
最近は、池袋周辺はマンションが林立して個人宅が無くなり、路地らしい路地も無くなってしまった。ゆえにこういうゲームは老人に人気があるのか?
「うわーリアルですね。この前の→を足で踏むと。。ああ、前進するんですね、連打すると、走る。はいはい」
「あんまりやると体力ゲージが減るぞ。まずは歩くだけにしときなさい」
歩いていると路地の三叉路に来た。右へ行くと並木道を抜けて公園へ。左へ行くと線路があって踏切の方へ。
「公園だな。」
老人は頷いた。
「公園の方がいいですか」
「踏切あたりは車が多くてなあ。。。たまにひかれて殺される。」
「わーいわーい」
公園に行くと子供達が遊んでいる。
そういえば子供、最近あんまりみかけないなあ。
公園に入ると子供お母さんが話しかけてきた。
「どうも〜最近はおひがらもよくもごもごもごもご」
「うわ。どうすりゃいいんですか??」
「母親をタッチじゃ」
「お、若いひとがやっている。めずらしいねえ、感心感心」
別の老人がゲーム機体のところにやってきた。
「んあんだい、長サン、このわかいもんに教えているのかい。」
「ああ、いま公園だ」
「その母親はきをつけろ、デリケートだからな。すぐ怒る」
あいさつ
無視
笑顔
さわる
さわる?
気になったので選んでみた。
「エエッツ!!きゃああ」
バチーン
「あー、選んだな!!」
うれしそうな顔で長サンが声を上げた。
「男ゲージは上がるが、モラルゲージが下がるから、もうやめとけ」
「男ゲージ?」
「ああ、隠しパラメーターじゃ。上げると、体力ゲージのMAX値があがるんじゃ、よし、こうなったらそこで遊んでいるこどものお菓子があるだろう、ベンチの上じゃ、それを盗め!!」
おれは長サンの元気な変わりように驚いていたが、おもしろそうなので乗ってみることにした。
ベンチのおやつをタッチして「盗む」を選択した。
子供の母親が怒りだした。
「にげろにげろー」
ホントに長サン、やっているおれより楽しそうだ。
おれは足下を連打して公園から逃げ出した。
「わはははいつやってもおもしろいなあ」
「モラルゲージは下がんないのですか?」
「ああ、連続したモラルハザードは二度目から老人のぼけ行動になって下がらないんだよ、いやー社会は寛大だ。あ、言っとくの忘れたが、今歩いている君は75の男性老人だからね」
すごいゲームだ。
画面の左下に赤く「ぼけ状態」と表示されている。
並木道を抜けて線路沿いに来たところで、体力ゲージが黄色くなってきた。
「あ、なんですかこれ。」
「あー尿意だ。やばいぞここいらへんトイレが無い」
「尿意?」
「年だから尿意と便意は早いんだ、どうするか、もらすと死んじまうし」
別の老人が答えた。
「しょうがない、そこでするんだな。散歩する者にとってトイレの位置は宇宙の真理だ」
おれは仕方なくモラルゲージが下がること覚悟で線路際に立ち小便をした。悔しかったので、ぼけ状態が赤く点滅している間、線路際に生えているススキを抜いてはばらまき、抜いてはばらまきしていった。
歩いていると一戸建ての庭には実にいろいろなものがあって、梅の木や子供のおもちゃやレンガで出来たテラスなど、みていて飽きない。
たしかにこういうものはマンション建設でいまやすっかり姿を消してしまっていた。
体力ゲージもそろそろというところに来ていた。
「回復とかはどうすれば」
「うーん、店を探して入るか。モラルゲージがあれば人の家に入って冷蔵庫の中身を食べることも出来るが、それはまた今度だ」
老人になるとそんなに退屈ばかりなのか、長サンの毒づいたような感じをみて俺はそんなふうに思った。
「店ですか。」
「うん、それでセーブだ。あ、トンカツ屋があるな。入ろう」
「ここのトンカツはうまいからな、体力ゲージも大幅に回復するよ」
おれはカツ丼を選んだ。
「七味をかけるとよりいいぞ。あと沢庵、あわせて食うと良い効果だ」
カツ丼を食べておれはセーブした。ICカードが出てきた。
「ありがとうです、すごいゲームですね。。」
「古地図、使ってるんだっけ?実際の風景らしいんだよ」
「1945年はきついけども1960あたりはいいよなあ、長サン駄菓子屋のじいさん知ってるか?」
「あーメンコで遊んでくれるんだろ、俺は最近あのあたりで遊んでいるんだよ」
「俺は最近四国まで足を伸ばしているよ、行けるもんだね。」
「おやおや。。」
「早めに国道でてヒッチハイクすれば行けるんだよな、いまうどん屋のところだよ」
「村さんとかロンドン行ったってな、飛行機ハイジャックして。。。」
会話がわからなくなってきたので、おれはそこを立ち去った。
ビルを出てちょうど昼過ぎだったので、飯を食おうとブラブラしていると、さっきのトンカツ屋はあるのかどうかと気になってきた。実際の風景だというので、線路沿いに彷徨っていながら風景を追って行くとマンションの影にゲームと変わらない看板があった。
驚きながらも俺は店に入って、ゲーム同様、カツ丼をたのんだ。
そのカツ丼は旨かった。
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