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一、補虚薬 P422
補虚薬の特徴
一般的に、補虚薬は「甘」の味を具えているため、「甘、能く補ふ。」といわれるように、主に各「虚証」に対して補う作用を発揮しています。
「虚」と「実」とは
中医学の病気の診断は主に「陰」と「陽」、「虚」と「実」、「寒」と「熱」、「表」と「裏」の「八綱」と呼ばれる診察方法をもとに、相対的に注意深く観察して行っていますが、この中で「実」とは有り余っている状態で、「虚」とは本来あるべきものが不足している状態のことをいいます。
本来あるべきものが不足していることを、中医学では「気」、「血」、「陰」、「陽」の虚証といいます。このため補虚薬は主に「補気薬」「補血薬」「補陰薬」「補陽薬」の四種類に分かれています。
現在、様々な機関で研究されている報告によると、補虚薬には免疫力を高め、細菌などに対し抵抗力を強める作用があるとされ、また、脳に作用し記憶能力や学習能力を高めるたり、造血、消化機能を活性化させる作用や、老化を抑え、抗癌作用もあるとされています。
二、補気薬
気とは
中国の昔の人は、この世のすべては「気」で創られていて、世の中はこれら「気」の作用よって変化していると考えていました。このため中医学もこの思想に深く影響を受け、「気」を非常に重視しています。中医では、「気」とはカラダを構成し、生命活動を維持しているものと考え、この「気」を元気、胃気、水穀之気、正気、宗気、腎気などと分類し、様々な「気」が相互作用し生命を維持している。
気虚とはカラダの生命活動を維持する気が不足している状態で、各臓腑にそれぞれ気はありますが、治療の際には主に脾、肺、心の三種類と、カラダの気の源とされている元気、合わせて4種類に分けます。
※元気とは
元気とは腎臓にためられているカラダのすべての気の源ともいえる気ですが、三焦という道を通じて各臓腑に気を送っています。この元気が弱まると、各臓腑に虚証が現われ、元気がひどく弱まると、生命活動が維持できなくなり、非常に危険な状態になってします。
気虚証の分類
脾気虚
食欲不振、みぞおちが張り、圧すと張りがやわらぐ、便がゆるくなる、体が疲れやすくなり元気が無くなる、痩せる若しくは疲れるとむくみやすくなる、胃下垂など脱肛など臓器を支える機能が弱まる、出血しやすくなるなど。
肺気虚
呼吸が弱くなり、カラダを動かすと症状が悪化する、声に張りが無く声が低くなり、語尾が聞き取り辛くなる、汗が出やすくなるなど。
心気虚
動悸、息切れ、胸が苦しくなり、カラダを動かすと病状が悪化するなど。
元気虚
軽症:各種類の臓腑の気虚証。
重症:呼吸困難になり、脈拍も弱くなる。
三.補気薬の使用注意
補気薬は免疫力を高め弱った体を強くしますが、風邪や赤く腫れて痛む炎症などがあるとき(邪気が盛んなとき)は、逆に邪気の力を強くさせてしまい、服用するとかえって病状を悪化させてしまう恐れがあるため、基本的に服用してはいけません。ただし、抵抗力の弱っている高齢の方や、虚弱体質の人には邪気を追いだす薬をメインに適量の補気薬を処方することもあります。
また、湿邪の多い体質の患者は単独での使用は控えるようにしてください。
家庭で使える補気薬
人参
[基原] ウコギ科 オタネニンジンの根
[五味] 甘 微苦
[性質] 平
[帰経] 肺 脾 心
[効能]
元気の著しい虚した危篤患者の元気虚証に非常によく使われています。そのほか脾気虚証、肺気虚証、心気虚証など多方面にわたって不足した気を補う作用があります。
黄蓍
[基原] マメ科 キバナオウギ、或はナイモウオウギの根
[五味] 甘
[性質] 微温
[帰経] 脾 肺
[効能]
脾気虚証、肺気虚証に非常によく使われている生薬です。また気虚による汗が出やすい等の治療や、慢性的な潰瘍、脳卒中の後遺症、皮膚の麻痺等にもとてもよく使われています。
山薬
[基原] ヤマノイモ科 ナガイモの根茎
[五味] 甘
[性質] 平
[帰経] 脾 肺 腎
[効能]
補気作用のほかに、補陰作用にも優れている非常によく使われている生薬です。このため脾気虚証、肺気虚証、腎気虚証などのほかに脾陰虚証、肺陰虚証、腎陰虚証の治療にもとてもよく使われています。
甘草
[基原] マメ科 ウラルカンゾウの根
[五味] 甘
[性質] 平
[帰経] 心 肺 脾 胃
[効能]
心気虚証による動悸の治療によく使われています。そのほか脾気虚証や肺気虚証にも非常によく使われています。別名「国老」とも呼ばれ、様々な薬の作用を和らげ、解毒作用もあります。生薬の配合に非常に重要な役割をしています。そのほかに脾虚で肝が強まって起きる筋肉のけいれんを抑える作用もあり、また、清熱作用もあり、各種の熱証や咽喉の腫れなどによく使われています。
大棗
[基原] ロウメモドキ科 ナツメの果実
[五味] 甘
[性質] 温
[帰経] 脾 胃 心
[効能]
脾気虚証によく使われています。また更年期障害の精神的に不安定なる等といった症状にも非常によく使われています。またそのほか毒性の強い生薬に対し毒性を和らげる作用もあります。
飴糖
[基原] イネ科 イネ、コムギ、オオムギ等の種皮を除いた種子を麦芽汁で糖化し、濃縮して製したもの。
[五味] 甘
[性質] 温
[帰経] 脾 胃 肺
[効能]
脾気虚証による腹痛に使われています。また、肺を潤す作用もあり、乾燥した咳を治療する効果もあります。
三、補血薬
血とは
中医学での「血」の概念は、西洋医学の血液の概念とは異なっています。中医学での血とは、「血」には身体を潤す作用があり、「血」が充実して正常に流れていると、顔色や肌の色がよく、髪の毛や爪に艶がでて、筋肉を正常に働かせることができます。また精神活動を正常に保つ重要な作用もあります。
血の生成
この「血」の生成には食べ物や飲み物が胃腸で(胃脾)消化され造られる精微之気が腎臓の精気の作用をうけて、赤く染まり血に変わり、脈の中を流れていきます。このため血虚証の場合、補血薬のほかに、補脾気薬や補肝腎薬と合わせて処方すると効果がより一層強くなります。
血虚証
顔色が青白くなる、若しくは黄色くつやがない、唇や爪の色が淡白くなる、めまい、耳鳴り、動悸、不眠、忘れやすくなる、生理の血液量が減り、血の色が薄くなり、生理の周期が遅れる、或は閉経など。
家庭で使える補血薬
阿膠
[基原] ウマ科 ロバの皮、除毛した皮を水で煮て制したニカワ。
[五味] 甘
[性質] 平
[帰経] 肺 肝 腎
[効能]
血虚証、特に出血による血虚証に適している。このほか陰虚による不眠や痙攣、肺陰虚による慢性的な咳や咽喉の乾きなど。
[ポイント]
1)阿膠を服用する際は煎じ終わったその他のエキスに溶かして服用する。
竜眼肉
[基原] ムクロジ科 リュウガンの仮種皮(果実)
[五味] 甘
[性質] 温
[帰経] 心 脾
[効能]
悩み事や考えすぎによる不眠、動悸、物忘れなどの心、脾の気虚、血虚証に優れている。
四、補陰薬
陰虚を治せる生薬を補陰薬といいます。補陰薬は「甘」の味のほかに「寒」の性質を備えています。このため補陰薬の多くはカラダの少なくなった体液を補い乾燥を潤す作用と、体液不足によるカラダのほてりをとる清熱作用を備えています。
陰虚証の分類
心陰虚
動悸、不眠、夢をよく見る。
肺陰虚
乾燥した咳をし、痰の量が少ない、喀血、声が嗄れるなど。
脾陰虚
食欲がなくなり食事の量が減る、食後腹が張る、便秘、唇は渇き潤いがないなど。
胃陰虚
口や咽喉が乾燥し、胃が痛む、食欲はあるが食べ物を食べたがらない、或いはしゃっくりなど。
肝陰虚
めまい、耳鳴り、目が乾燥する、体が痺れ筋肉が痙攣するなど。
腎陰虚
めまい、耳鳴り、耳が聞こえなくなる、足腰がだるく痛む、夢精など。
家庭で使える補陰薬
百合
[基原] ユリ科 オニユリ或はハカタユリのりん片。
[五味] 甘
[性質] 微寒
[帰経] 肺 心 胃
[効能]
肺陰虚証の咳によく使われ、また心陰虚証の治療にも優れ精神安定作用があり、不眠治療にも使われている。そのほか胃陰虚証の胃の痛みにも使われている。
枸杞子
[基原] ナス科 セイヨウグルミの成熟果実
[五味] 甘
[性質] 平
[帰経] 肝 腎
[効能]
肝陰虚証、腎陰虚証の治療によく使われ、特に視力の低下、めまい、白内障など目の疾患によく用います。また老化を抑える作用もあるとされています。
桑椹
[基原] クワ科 クワの成熟果実
[五味] 甘 酸
[性質] 寒
[帰経] 肝 腎
[効能]
肝陰虚、腎陰虚によく使われています。また、咽喉の渇きを治す作用があり、また腸を潤し便を通す作用もあります。
黒胡麻
[基原] ゴマ科 ゴマの成熟種子
[五味] 甘
[性質] 平
[帰経] 肝 腎 大腸
[効能]
肝陰虚証、腎陰虚証によるめまいや眼がぼやける、白髪などによく使われています。また油脂が多く含まれているため、便秘にも使われます。
亀甲
[基原] イシガメ科 クサガメなどの腹甲及び背甲
[五味] 甘
[性質] 寒
[帰経] 肝 腎 心
[効能]
肝陰虚証、腎陰虚証によるめまいやけいれん、ほてりなどに使われている。また腎陰虚による子供の発育不良などにも用い、また心陰虚証にも使われています。そのほか止血作用もあり、月経過多の治療にも使われています。
鼈甲
[基原] スッポン科 スッポン或はシナスッポンの背甲
[五味] 甘 鹹
[性質] 寒
[帰経] 肝 腎
[効能]
肝陰虚証、腎陰虚証によく使われています。そのほか「鹹」の味の作用により現代医学の肝臓脾臓肥大やしこり等の治療にも使われている。
[ポイント] 補陰の作用は亀甲が強く、虚熱を取り除く清熱作用は鼈甲が強い。
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