SOLDIER 56
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【SOLDIER 56】 -Farewell in the moonlight- 変わり果てた姿の男は、両手を握り締めながら暫く満月をみつめると、ゆっくり手の力を解いていった。 「普通はさ、己にしかない可能性を見つけるなり磨くなりして、好きな道を進んでいくよね。この身体にだって、その一つになる事がなんら可笑しくなんて無い筈なんだ」 男は、俺が手に持っている銃や黒いコート、スニーカーとかをじっと睨みつけるようにして見ている。 俺は男の目を見たまま、数秒数分の時間の上に座るように黙りこくっていた。 「細かろうと、短かろうと、善かろうと、悪かろうと、結局は僕なりの生き方として息を引き取るんだ、誰かがどうしろと人に言うような権利も義務も、元々あっちゃならないんだよ。君はヒーローに憧れていて、僕も似たようなものだと言ったけど、ヒーローそのものになんか絶対になりたくはないよ。神になりたいやつだっているくらいだ、神だぜ? 笑えないよ。最も悪名高い人殺しのことだぞ」 宗教間で繰り広げられた無秩序ともいえる運動と闘争、強制された思想、一冊の本の為に未来を食い潰される民衆。イスラム、ユダヤ、カトリック、プロテスタント、そういった人間が綴ったモノの中には光り輝く神々のパレード風景が広がっている。 生き甲斐がなくとも、友人が少なくとも、尊敬する人がいなくとも構わない。俺はなにかに踊らされ、なにかを信じて生きることを拒み続けた。この男のように、今の姿を保っていたかったのだから。 「結局、どんな奴として死んでいきたいんだよ」 そう言うと、男はにやりと笑みを浮かべる。狼面だとしても、そういう表情だというのは直ぐに判った。 「苦しんでるやつはそのまま悶絶させておけばいい、救われないやつはそのまま救われなくていい、歪み曲がったやつはそのまま曲げておけばいい、死にたいやつはそのまま楽にさせてやればいい。僕が逝く前に是非したいことはだね、”みんなをひとりに”させる手段を見つけて、個人の価値を証明することだよ」 こいつは、俺と同じ個別主義者であった。左翼にも右翼にも属さない、”個々の在り方を主張する、そうしたがっているやつらの一人”だったんだ。 矛盾していることは互いに理解しながら話しているつもりだよ、だけど、この世は明らかに間違いを犯している。それを知らない奴が多すぎたんだ。言わずにはいられなかったんだろう。 群衆を嫌う数少ないホモサピエンスの馴れ合いに過ぎないかもしれない、それでも俺は、この思想を持った数少ない人間に出会えたことに、生きる喜びすら感じたんだ。 もしかすると、神はこうやって生み出されてきたんだろうか。 「ああだこうだぶち撒けたけど、僕、実はもう満足しているんだ。こんな夜、君のような奴と、どんな話をして、どんな終わらせ方をするか、考えていたよ。この後も、僕の好きなようにやらせてもらうよ、手伝ってくれるね?」 俺は、エナジーショットガンを構え、男を照準に合わせ、ロックオンを仕掛け、エナジーを最大チャージさせた。 銃身に刻まれた数本の細いモールドラインと大きな銃口が徐々に青光りしていく。 「あんたの自由だ、なんも手伝わねぇよ」 男は、その場に小さく強い風圧を残し、瞬時にして姿を消したかと思えば、今度は突然俺のすぐ目前に姿を現し、鋭利な爪を振りかざしてきた。 間違いなく瞬間移動だ、上下左右どこにもいなかったんだから。 辛うじてその爪をバックステップで避けながら、ショットガンのトリガーを引いた。今の瞬間移動によってロックオン機能が解除されたおかげで、照準の正確性が一気に落ちた。 それだけでなく、やつは弾の軌道すら見破ってみせたんだ、再び瞬間移動を披露して、瞬きをした頃には、俺の胸の真ん中に人差し指の先端を当てていた。 「君、そんなに鈍くはないだろう? つまらない真似は止してくれないか、もっとだ、滾らせておくれよ」 腰に装着させておいたブラックブレイドを密かに後ろ手で握り締め、前触れなく男の目の前に突き出しすぐさまボタンを押して刀身を放ち突き刺しにかかる。 男はそれを軽やかにかわして、右手のすべての指を突き立て、俺の腹を抉るように刺し込んだ。 この男の全ての動作に残像が現れ、そのアホみたいな俊敏性に追いつけないでいた。 筋肉のみならず、小腸大腸や胃を見事にやられ、これでもかというくらいの血を吐き出す。 あまりの痛みに、腹から吹き出てきた血と脂肪や腸を、もう片方の手で押さえるのがその時は精一杯だった。 しかし驚くことに、数秒経っただけで動くだけの余力を取り戻してみせたんだ。片手で握り締めるブラックブレイドの刃を男に向け、思い切り薙ぎ振るった。 すると男は10m程大きなジャンプをかまし、空中で縦に一回転して踵落としを図る。俺は解放された一瞬の間にエナジーマシンガンを撃つが、発射される秒間数十発の弾を見た瞬間に男は体勢を変えて単純なパンチを繰り出した。10mの上空から、下へ真っ直ぐ。 なるべく、遠くへ走った。フローラさんの形見でもあるこの杖を持って詠唱し、腹部を癒しながら、奴から距離を取ろうとした。 男が繰り出した直下パンチは、そこを震源地とし、俺が走っている周辺の森林までをその衝撃と風圧で崩壊させた。木々が折れ曲がったり根っ子から抉り取られ吹き飛んだり、地面の草や土が暴れまわり、俺自身の体も宙に舞った。 俺は身体でもがいてもがいて、ようやく男の姿をとらえた、男は既に俺のすぐ目の前にまで飛んできていた。 周りは、無数に舞い散る土、雑草、木屑、木の葉、石っころに塗れる。 一人の黒コートの男と、月夜に別れを告げようとする一匹の狼が、互いに宙に浮かびながら、互いに爪、銃を突きつけ合う。 正直、男の願いを叶えられそうにない。 【SOLDIER 56】 -END-
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