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9月4日7時56分配信 産経新聞
裁判員裁判のもとでの初めての性犯罪の審理が結審した。2日間の審理を通じて、被害者を匿名にするなどプライバシーに配慮があった。一方で、犯罪になじみのない裁判員にも分かりやすく立証するため、強盗強姦事件の詳細が法廷で明らかにされ、匿名にしていても被害者が特定される危険性が出てきた。プライバシー保護と分かりやすい立証のはざまで、どのようにバランスを取るべきか。裁判員裁判の約2割を占めるといわれる性犯罪で、新たな課題が浮かんだ。
2日間の審理と裁判員の選任手続きでは、被害者の情報が過度に漏れないよう工夫がされた。性犯罪という事件の特殊性から、被害者の特定を恐れたためだ。
通常の選任手続きでは、裁判員候補者に対し、被害者の実名を示して、被害者や被告の関係者がいないかを調べる。しかし、今回は被害者を匿名にし、事件現場も市町村名を示すのみにした。
同様の配慮は法廷でもとられた。強盗強姦事件の2人の被害者は匿名。年齢や住所も伏せられた。また、事件現場周辺の見取り図や事件現場を再現した写真などは、裁判官と裁判員の手元のモニターに示されたが、傍聴席から見ることのできる大型モニターの電源は切られた。また、被害者の意見陳述もビデオリンク方式が採用され、傍聴席からは被害者の声のみで、表情を見ることはできなかった。
一方で、犯行状況の立証は詳細に渡った。「目で見て耳で聞いて分かる」を目指す裁判員裁判では、弁論や証拠調べを口頭で行い、法廷でのやりとりを中心に判決に至る「口頭主義」が徹底される。集中審理のため負担の大きい法廷でのやりとりに加え、大量の書面が提出されることで、裁判員が検討しなければならない要素が増えることを避けるためだ。
しかし、口頭主義を貫くと、法廷でのやりとりは被害者にとってつらいものになる。今回の法廷では、犯行状況を語った被告や被害者の供述調書を検察官が朗読し、冒頭陳述や論告弁論でも触れられた。このため、事件の詳細は繰り返し傍聴席に伝えられた。
被害者の1人はこうした状況に対し、意見陳述で「(事件が)報道されてつらい」などと、法廷で事件の詳細が伝えられることによって、事件の概要が世の中に広まり、自身が再び事件の内容を目にすることの精神的負担を訴えた。
性犯罪に詳しい常磐大学国際被害者学研究所准教授の守屋典子弁護士は、「被害者が被害届を出しやすい環境をつくることが大切だ。裁判員裁判で詳細が明らかにされるのは、『出しやすい環境』への流れに逆行する可能性がある」と指摘。「いくら傍聴人には顔や名前が知られないといっても、被害者にはどこで漏れるか分からない恐怖がある。性犯罪については書面でやり取りをしたり、法廷での犯行内容の表現を抽象化するといった配慮があってもいい」と訴える。(大泉晋之助)
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