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2月12日17時20分配信 ウォール・ストリート・ジャーナル
米アップルと文書・画像処理ソフト大手の米アドビ・システムズは、かつては親しいパートナーだった。だが、アップルが多機能端末「iPad(アイパッド)」を発表して以来、両社の溝は急激に深まりつつある。
アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)は、アイパッドはネット閲覧環境を根本的に変える製品だと豪語した。だが、アイパッドはアドビの動画処理規格「Flash(フラッシュ)」に対応していない。このことが公になった後、アドビの株価は3%下落した。
フラッシュは最も広く普及したウェブ向けの動画処理技術であるため、それに対応していないということは主流から外れることを意味する。
アドビによると、ネット接続されたパソコンの約98%に、フラッシュ技術対応のコンテンツの再生に必要な「フラッシュプレイヤー」がインストールされており、ネット上の全動画の75%以上および対話式広告の90%以上にフラッシュ技術が使用されている。
だが、ジョブズCEOは先月下旬に行われた社内ミーティングで、フラッシュは「バグが多い」と述べ、同社のパソコン「Macintosh(マッキントッシュ、通称マック)」がダウンする問題の原因の大半はフラッシュプレイヤーにあると批判した。
一方アドビは、フラッシュプレイヤーなしで快適なネット閲覧が可能かどうかは疑わしいと、ブログでアップルに反撃した。
またアドビによると、同社はアイパッドで実行可能なフラッシュプレイヤーを開発したという。アドビのケビン・リンチ最高技術責任者(CTO)は、唯一残る障害は「アイパッドに搭載できるようにするにはアップルの協力が必要なこと」だとし、「われわれの準備はできている」と述べた。
アイパッドをめぐる論争は、アップルとアドビの間に一触即発の緊張を生み出している。アドビはアップルのマックパソコン向けにネット上にデータを公開するためのパブリッシングソフトを提供するなど、両社は長年パートナー関係にある。だが、アップルは近年フラッシュを締め出す動きを強めている。
アップルは数年前、同社のスマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」ではフラッシュを使用できないようにすると述べた。ジョブズCEOはその方針の理由を、パソコンよりも処理能力の低い端末ではフラッシュを効率よく実行できないためだと述べた。アドビはその批判を認め、その後1 年以上にわたってその問題の解決に努めていると述べていた。
やがてアドビはスマートフォンで実行可能なフラッシュを開発し、全主要メーカーがその技術を採用したにもかかわらず、アップルだけはそうしなかった。
アイフォーンやアイパッドでフラッシュが採用されなければ、アドビにとっては成長機会を失うことになりかねない。また、アドビの顧客がフラッシュの代わりにアップルが支持する「HTML5」と呼ばれる規格を採用するようになれば、アドビにとって痛手となる可能性がある。アドビはフラッシュの売上高データを公表していないが、フラッシュは同社にとって最も重要な資産の1つだと述べている。
だがアナリストの一部は市場は大げさに騒ぎすぎだとし、アイパッドでフラッシュが使用できないことは、アドビにとって現在はそれほど財政的な打撃を与えているわけではなく、HTML5が脅威となるのもまだ先のことだと指摘する。
アップルが同社イベントでアイパッドを披露したとき、アイパッドを試用した報道関係者はフラッシュが使用できないことにすぐに気が付いた。ウェブサイト上の、通常フラッシュ技術を使用した動画や画像が表示される部分には、何も表示されていなかったからだ。
さらに、アイパッドは、ウォール・ストリート・ジャーナルの親会社ニューズ・コーポレーションが一部保有する「Hulu(フールー)」などの動画配信サイトで、動画を再生することもできないことになる。
アップルは、フラッシュは時代遅れの技術で、ネット閲覧ソフトはいずれフラッシュのような別のソフトウエアを使用しなくても動画を再生できるようになるとみている。
ジョブズCEOは、アップルはHTML5を使用したウェブサイトをサポートすると述べた。HTML5は、アップルや米インターネット検索大手グーグルが加盟するコンソーシアムが開発している新しい規格だ。
だがウェブ開発者によると、HTML5はまだ開発中であり、広く使用されている技術ではない。ゲームやウェブサイトの開発を行う米スマッシング・アイデアズのスティーブ・ジャクソンCEOは「アイパッドの普及が進めば、アイパッド向けにHTML5を使用した製品を開発するが、今現在はまだそうした市場規模がない」と述べる。
ジャクソンCEOは、フラッシュは仮想世界に入り込んだかのような効果を創造できる没入型ウェブデザイン向けの標準規格であり、すぐに別の規格に取って代わられる可能性は低いと述べる。
また同氏は、ウェブサイトやゲームをアイパッド上で利用できるようにするには、アップルの端末に特化した別のバージョンを開発する必要があるが、それには余分な時間と費用がかかると述べる。
業界観測筋は、アップルはフラッシュをサポートしないという決断をすることによって、開発者がアップルの端末向けにウェブベースのアプリケーションを開発できないようにすることを目論んでいると述べる。
そうなれば、少なくとも当面は、アイパッドやアイフォーン向けのアプリケーションの開発をコントロールし、それらを同社のアプリケーションソフト配信サービス「App Store(アップストア)」に囲い込むことができると指摘する。
だが、アナリストは、フラッシュをサポートしないという同社の決断は、同社が画像やメディアを売りにした製品をプロモートしようとしている同社にとって、予想以上の論争を巻き起こしていると指摘する。
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