|
産経新聞 9月7日(水)7時55分配信
東日本大震災の犠牲者の遺族に支払われる「災害弔慰金」。その支給対象をどう認定したらいいか自治体が頭を悩ませている。避難生活による持病の悪化などで亡くなる「震災関連死」に関する法の定義がないからだ。3月11日から間もなく半年。同じような死亡事例であっても、自治体間で判断に差が生まれつつある。(長谷川陽子)
◆遺族と争い怖い
宮城県内で5月初旬、60代の男性がくも膜下出血で死亡した。津波で自宅を流され、同居していた母親と妻が行方不明。毎日2人を捜し続けるなか、突然倒れて帰らぬ人となった。
離れて暮らす息子が、男性の住んでいた町で災害弔慰金を申請した。しかし、申請書を受け取った町の職員は「震災から2カ月もの時間がたっており、関連死と認められるだろうか…」と気をもんでいる。
町では判断できる専門家がいないことを理由に、認定は県に委託することにした。職員は「遺族の生活を考えると、できるだけ幅広く認定してあげたい」と話す一方、「金額も大きく、不認定となった場合などは遺族とトラブルになる怖さがある」と打ち明ける。申請は被災地全体で今後、数千件規模になる可能性もある。
◆揺れる司法判断
関連死の認定では、過去の災害でも各自治体が頭を悩ませてきた。阪神大震災(平成7年)では、神戸市で1236人が関連死の審査対象となったが、認定されたのは約半数の663人で、遺族らに複雑な感情を生じさせた。
兵庫県芦屋市では、震災の停電で人工呼吸器が止まり死亡した事例で、関連死の認定を求め遺族が提訴。1審は「危篤状態で震災がなくても死亡は確実」とした一方、2審は「震災がなければ延命の可能性があった」と異なる判断がされた末に、最高裁で市側の敗訴が確定したケースもある。
国による認定基準作りを求める声も少なくない。しかし、厚生労働省は「各地域の実情や、個々の家族の事情などを考慮する必要があり、各市町村の柔軟な判断が求められる」と説明。統一基準を作ることには消極的だ。
◆抜本見直し必要
国から突き放された格好の自治体が、頼ろうとしているのが平成16年の新潟県中越地震の際に、長岡市が作った認定基準だ。長岡市は、死亡までの期間が1カ月以内なら関連死の可能性が高く、それ以降なら低いと大まかな原則を定めた。
しかし、この原則を当てはめると、冒頭に紹介した60代男性は、震災で人生が大きく変わったにもかかわらず、認定の可能性が低いことになってしまう。
すでに、関連死の認定をめぐり、自治体間格差ともみられる結果もでている。
宮城県によると、7月中旬までに県内各市町村で審査対象となったのは約400件。名取市では申請のあった20件すべてが関連死と認定された。市は長岡市の認定基準を参考にしたうえで「死亡までの経過期間は災害の規模が大きかったことも考慮して長めに設定した」と説明する。
一方、亘理、女川、柴田の各町でも長岡市基準を参考に審査を実施。亘理では18件中10件、女川は12件中10件、柴田は6件中2件が認定される結果となった。事案に差があるとはいえ、認定率の差は明らかだ。
関西学院大災害復興制度研究所の室崎益輝所長は「平等を考えると国が統一基準を作るのがわかりやすいが、関連死は個別に判断せざるを得ず、作れないジレンマがある」と指摘。「現在の法律には震災関連死という概念すらない。抜本的に制度の見直しが必要だ」と話している。
【用語解説】災害弔慰金
自然災害で亡くなった人の遺族に対し、「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づき生計維持者が死亡した場合は500万円、その他は250万円が市町村から支給される制度。地震による津波や家屋の倒壊など直接的な死亡のほか、避難生活で持病が悪化するなどして亡くなる「震災関連死」も支給対象となる。原則、市町村が設置する審査会が震災との因果関係を判断する。
|