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産経新聞 12月17日(土)7時55分配信
年金支給開始年齢引き上げに合わせ、65歳まで希望者全員の再雇用を義務付ける厚生労働省の方針について、企業から戸惑いや反発の声が上がっている。強制的な雇用延長が企業の活力を奪いかねないからだ。
「一律義務化ではなく、話をしながら働く場を作ることが大事だ」(経団連の米倉弘昌会長)、「柔軟に対応すべき問題で、義務化する必要はない」(日本商工会議所の岡村正会頭)。
再雇用義務化の方針が伝えられて以来、反発を強める経済界。その根拠は企業のコスト負担増だ。関西経済連合会の試算では、再雇用義務化により、企業の人件費の負担増は平成29年に計3兆6千億円まで膨らみ、企業全体の利益を21%押し下げるという。関経連は「企業の海外流出を加速させ、日本経済の活力が失われる」と警鐘を鳴らす。
反発の背景には、すでに再雇用制度を導入しているとの自負もある。空調機器大手のダイキン工業は13年に希望者全員を65歳まで再雇用する制度を導入。熟練工の技能伝承の狙いもあり、導入以来、毎年100人以上を再雇用。再雇用率は9割を超えている。
トヨタ自動車も65歳までの再雇用制度を設け、必要だと認めれば再雇用の対象となる。60歳定年後も約半数が再雇用の対象になっているもようだが、義務化に関しては「経団連がどう判断するか見極めたい」と戸惑いを隠せない。
一方でベテラン重視の反動も出ている。日本マクドナルドは18年に能力主義に基づいて60歳定年制を廃止したが「若手社員を育てる文化が育たなくなった」(担当者)と弊害を生んだ。このため、来年1月から定年制復活を決めた。
再雇用の一律義務化について経済界では「個人の能力や企業の事情を勘案すべきだ」(電子情報技術産業協会の矢野薫会長)との意見が支配的だ。関西大学大学院の宮本勝浩教授(数理経済学)も「少子高齢化や年金制度の見直しなど政策の失敗の責任を民間企業と労働市場に押し付けることになる」と行き当たりばったりの政策を指弾している。
■賛成 連合副事務局長・安永貴夫氏「最長でも5年間」
年金支給開始年齢が遅くなる中で、収入に空白ができてはいけない。全ての希望者が65歳まで働ける環境整備が必要だ。現行の高齢者雇用安定法の9条1項には「雇用確保措置を講じなくてはならない」とあり、もともと法的に義務づけられている。
若年雇用には影響もないわけではないだろう。しかし高齢者をあと20年雇えと言っているわけではなく最長でも5年間だ。これから40年にわたり企業を支えていく成長の基幹人材を同じ土俵で比べていいのか。
高齢者の再雇用と若年雇用とはまったく別の問題だ。
■反対 経団連労働政策本部長・高橋弘行氏 「採用権を脅かす」
意欲ある高齢者の雇用に異論はない。ただ加齢にともない体力や健康状況など個人差が大きくなる。企業には安全配慮義務があり、職務遂行能力を見極めずには雇用できない。
現行法の「労使協定によって対象者の基準を定めることができる」という規定は理にかなっている。基準も企業が組合と話し合って設定していて企業が勝手に定めているわけではない。働く側の希望だけの雇用では、企業の採用権を脅かす。
高齢者雇用の義務化で人件費が増えれば雇用調整を迫られよう。企業に全てを求めるのは厳しすぎる。
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