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毎日新聞 8月10日(金)21時50分配信
 消費税を14年4月に8%、15年10月に10%へ引き上げる内容の消費増税法が成立した。ただ、実際に増税するには「経済状況の好転」が必要で、景気が腰折れすれば財政再建が遠のくリスクも抱える。低所得者対策の具体的な制度作りなど課題山積だ。政治の先行きが見通せない中、改革の推進力をどう保つかが問われる。【柳原美砂子、清水憲司】

 「山また山、谷また谷。本当に苦しい日々だった」。安住淳財務相は10日夕、消費増税法成立後の記者会見で、衆参200時間超の国会審議を振り返った。

 ただ、実際の増税には多くのハードルがある。一つが景気悪化時に増税を停止できる「景気条項」だ。政府は来年秋ごろ、経済成長率や物価動向などをチェックするが、経済状況の好転が増税の条件。政府・民主党は名目3%、実質2%の経済成長を「努力目標」に掲げるが、92年度以降は達成できていない高いハードルだ。実際の成長率との開きが大きいと、増税先送りの口実に使われかねない。

 このため政府は、成長戦略の実行に加え、成長てこ入れの経済対策も検討する。当面は東日本大震災の復興需要も景気を下支えするが、欧州債務危機やエコカー補助金打ち切りなど不安要因は多い。しかも、増税後は消費の手控えなどが懸念される。ニッセイ基礎研究所は、14年度の実質国内総生産(GDP)は1.4%押し下げられると試算。産業界では「受注急減が怖い」との声も漏れる。

 消費増税法は、成長や防災分野に重点を置いた経済対策の検討も掲げるなど、歳出圧力も強まっている。増税で社会保障費の財源を確保しても、新たな借金を続けて公共事業などを増やせば、財政再建は果たせない。

 悲願の消費増税法成立に、財務省では「廃案の危機もあっただけに感慨深い」(中堅幹部)とひとまず安堵(あんど)感が広がったが、税率10%でも国の借金は増え続ける。安住財務相は「さらに国民にどういう負担を求めていくか考えないといけない」と再増税に言及した。

 しかし、来秋の景気判断を前に、解散・総選挙があるのは確実。増税反対の政党が政権に参加すれば、増税方針そのものが白紙に戻る事態さえ現実味を帯びる。

 ◇低所得者対策 軽減税率も有力

 消費税には、所得が低いほど負担感が重くなる「逆進性」の問題がある。このため、14年4月の税率8%への引き上げ時に、一定の収入を下回る人に現金を配る「簡素な給付措置」を実施する方向だが、対象者や給付額は、14年度予算編成などの議論に先送りした。

 政府は89年の消費税導入時や97年の税率3%から5%への引き上げ時にも、低所得の高齢者らに原則1万円を支給した。今回は、所得減税などを伴わない純粋な負担増になるため、対象を広げるなどして配慮する方向だが、「行き過ぎれば『ばらまき』になる」(アナリスト)との指摘もある。

 15年10月の税率10%への引き上げに向けた本格的な対策の議論も難航しそうだ。所得税を減税したり現金を配ったりする「給付付き税額控除」か、食料品など生活必需品の税率を下げる「軽減税率」のどちらを導入するかで意見が分かれている。

 給付付き税額控除の導入は、国民1人ずつに番号を割り振って納税や社会保障の情報を一元管理する「共通番号(マイナンバー)制」の稼働が前提。それでも、株式や不動産など資産の運用による所得は把握できず、「不正受給の温床になる」との批判が根強い。

 軽減税率は対象の線引きが難しいうえ、税収が大幅に減る懸念があり、財務省は「増税による財政再建の効果が薄れる」(幹部)と導入に難色を示している。ただ、生活必需品の購入負担を抑えるために導入すべきだとの意見も根強く、税率8%段階で軽減税率を導入する可能性もある。

 ◇高所得者課税 強化を議論

 政府は年末の税制改正論議で、所得税や相続税の最高税率引き上げなど高所得層の課税強化を議論する方針だ。所得の低い人にもかかる消費増税への不満を和らげるとともに、高所得層から低所得層にお金を還流する「所得再分配」の機能を高め、消費増税に理解を得る狙いもある。ただ、「経済の活力をそぐ」との批判もあり、議論は難航しそうだ。

 消費増税法の政府案では、所得税の最高税率を40%から45%へ引き上げるほか、相続税も15年以降、課税対象の相続額6億円を超す分にかかる最高税率を、現行50%から55%に引き上げ、遺産のうち課税の対象外となる「基礎控除」も縮小する方針だった。しかし、自民、公明党との修正協議で、公明が高所得層へのさらなる課税強化を求める一方、自民党内では意見が二分し、結論を先送りした。政府は12年度中に結論を出す考えだ。

 自動車への課税や住宅購入時の負担軽減策も検討課題だ。自動車を買う際は、価格に応じて自動車取得税と消費税がかかる。保有している間も排気量や重量に応じて自動車税と自動車重量税がかかり、業界には「多重課税で、海外に比べて負担が重い」と見直しを求める声が多い。住宅は消費増税の影響が大きく買い控えが懸念されており、住宅ローン減税など購入時の負担軽減策を検討する。

 ◇税率引き上げ欧州で相次ぐ

 債務危機に見舞われている欧州では、財政再建のために、日本の消費税にあたる付加価値税の税率引き上げが相次いでいる。危機の震源地のギリシャは10年に税率を19%から23%に2段階で引き上げたほか、スペインも今年9月から18%を21%に増税する計画。イタリアも増税時期は来年7月に先送りしたものの、21%から23%へ引き上げる方針だ。

 軽減税率が整備されていることなどから、増税への抵抗が日本に比べて少ないとの見方もある。ただ、国内では税率10%への引き上げを巡り、与党の民主党が大きく混乱した。政府は財政健全化に向け、10%への税率引き上げ後の「再増税」も視野に入れるが、道筋がついたとは言えない状況だ。


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