|
5月13日8時3分配信 産経新聞
政府が6月上中旬を目標に発表する「福田ビジョン」に、2050年時点での日本の温室効果ガス削減目標を60〜80%と盛りこむ方向で調整を始めていることが12日、分かった。7月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)で地球温暖化対策が主要議題となることから、事前に日本の独自の方針を掲げることで、議長国としての主導権を握り、議論をリードする狙いがある。
福田康夫首相は、週内にも町村信孝官房長官、高村正彦外相、甘利明経済産業相、鴨下一郎環境相を集め、日本の独自目標設定に向け作業と調整を本格化させるよう指示する。
町村長官は12日午後の記者会見で、「サミットに向けて日本の主張を明確にしていく必要がある。そのうちの一つとして、日本の50年の目標をどこにするのか示すことに意味がある」と述べ、長期目標を掲げる意義を強調した。
◇
中国の胡錦濤国家主席訪日を政権浮揚につなげられなかった福田首相は、北海道洞爺湖サミットで目に見える成果を出す必要に迫られており、自らの存在感を示すためにも、成功のカギを握るとされる温室効果ガスの削減目標で欧州と同じ方針を示すことになったとみられる。ただ、産業界の調整も十分できていない中で、削減目標がいきなり表に出たことは、数値が独り歩きしてしまい、逆に作業を難しくさせた側面もある。
■達成は可能か
温室効果ガス削減の長期目標については、昨年のドイツでのハイリゲンダムサミットで、安倍晋三首相(当時)が50年までに「全世界で現状から半減する」(クールアース50)と提起した。今年2月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では福田首相が「国別総量目標を掲げて取り組む」と表明した。
欧州連合(EU)は、すでに「先進国全体で1990年比60〜80%減」を打ち出している。日本の国立環境研究所なども「90年比70%削減の技術的ポテンシャルが存在する」との報告書を公表しており、外務省は「70%は一つの基準になる」(同省筋)とする。
サミット議長国として、中国やインドなどの経済成長が著しい開発途上国にも削減を求める立場になることもあり、「日本が主導権をみせないと示しがつかなくなる」(同)という事情もある。
■「抜け穴」も
一方、経済産業省は、産業界に一層の省エネルギー投資を求めることになるため、「京都議定書では何の処方箋(せん)もなく6%削減の義務を引き受けて苦労した。今回も同じ目に遭う可能性はある」(同省筋)と警戒している。
このため、日本の場合は「90年」よりも温室効果ガスの排出量が増えた「現状」を起点にして、削減目標を少しでも緩めるべきだとの意見があるほか、政府高官は、法的拘束力のない「努力目標」にすべきだとの認識も示している。
もう一つの課題が、中期目標の設定だ。EUは2020年までに1990年比で「20%以上」を決めているほか、米国も2025年までに排出量増加に歯止めをかけ、その後減少に転じさせるとの中期目標を発表しており、日本だけが取り残された形となっている。
しかし、経産省は「省エネ技術が開発できればという条件がない限り、削減は確実には進まない」(同省筋)と難色を示し、財政上の措置が必要だとする。町村官房長官も12日の記者会見で中期目標について「来年末に具体的数字をめぐる最後の交渉をする。今出すのは時期尚早だ」と強調した。
■官邸内に不協和音
「福田ビジョン」の策定方針は、町村長官が10日の講演で初めて明らかにした。
町村氏は「地球温暖化対策に関する『福田ビジョン』を発表しようと準備している。できれば福田首相から、日本としての削減目標を発表してもらいたい」と述べた。
ところが、これが首相サイドには「寝耳に水」だった。首相周辺の一人は「『福田ビジョン』の『福田』は一体誰のことか」と漏らし、早くも町村氏への不満をみせた。週内に関係閣僚に今後の対応を指示し、「首相主導」を見せようとしていたのを、町村氏が「先にばらした」(政府関係者)ためで、首相と町村氏との疎遠な関係を改めて浮き彫りにさせている。
また、経済界との調整を求められる経産省は「60〜80%削減のメニューはまだできていない。数字だけが先走ってしまい、本当に積み上げていけるのか分からない」(同省関係者)と困惑している。(今堀守通、杉本康士)
◇
【用語解説】温室効果ガス削減の長期目標
地球温暖化による大きな被害を防ぐには、2050年に少なくとも世界の温室効果ガスの排出量を現状から半減させる必要があるといわれる。現状は先進国と発展途上国が約半分ずつ排出している。途上国の排出量は今後も増加が見込まれるため、50年に半減させるには、先進国全体で60〜80%の削減が必要だとの見方が国際的に広まっている。欧州連合(EU)は1990年比で60〜80%削減という厳しい長期目標を打ち出している。
|