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そのホテルは決して豪華でもなく、普通のビジネスホテルだ
茅場町と言うことは当然ビジネス街であるから当たり前のことではあるが
それでも、先ほどまでいたラブホテルと比べれば雲泥の差だろう
二人は、玄関の自動ドアをあけフロントに向かった
入ってわずか10メートルほどしかないが、そこには宿泊客と思える、若者達が大勢いた
フロントで前払いの料金を支払い、エレベーターで8階まで上がった
部屋の鍵をあけて、中にはいると大きくはないが清潔にメイクされたベッドと
正面には、デスクトップのパソコンが設置されていた
小さなテーブルが置いてあり、今日一晩過ごすには十分であった
「やっぱり、違うね・・・全然」と美穂は言った
「そうだね、やっと落ち着けそうだ」とオレは答えた
とりあえず荷物を置き、ベッドに座った
すると、美穂が
「お酒が飲みたい」と言いだした
「この時間から飲むの?」と聞くと
「お酒でも飲まないと居られないよ」と答えた
「そうか、じゃー下の自動販売機で買ってくるから待ってて」というと
「いや、私も一緒に行く・・・・寂しいから」と美穂は言った
何の変哲もない美穂の言葉であったが、今の彼女の気持ちは感じ取れた
不安でどうしようもなく、まるで、初めての場所に降り立った、震える小鳥のような状態なのだ
部屋を出ると、美穂はオレの右腕を持ち
寄りかかるようにしながら、エレベーターに乗った
1階に降りると、先ほどまでいた大勢の人たちの姿はなく、数人の客だけになっていた
フロントで両替をしてもらい、自動販売機の缶酎ハイを買った
その、自動販売機は正面がガラスばりになっていて、飲みものやおつまみ、カップめんなどもあった
そのためか、商品の選択ボタンを押して、出てくるまでが以上に長かった
わずか、6本ほどの缶酎ハイを買うのに、3,4分もかかってしまう
その時間を、それよりも長く感じていたのはオレだけではなかったと思う
買い終わって、再びエレベーターに乗り部屋に戻った
部屋に入るなり、美穂は缶酎ハイのプルトップを開け、グレープ味のそれを一気に飲み干した
それに、つられるようにオレも一気飲みした
アルコールなんて入っていない気がした
もう一本、酎ハイを飲んでいると、美穂が急にむせるように泣き出した
「どうして、別れないといけないの・・・」
「あんなに愛していたのに、あれだけ尽くしてきたのに・・」
まるで、子供が泣くような泣き方だった
オレは、美穂を胸元に抱き寄せ、子供の頭を撫でるようにしながら
こんな言葉しか、かけることができなかった
「わかってるよ、オレはわかってるよ」と
オレも目頭が熱くなった・・・・
もう泣くまいと決めていたのに
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