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私はどうも運が悪い。
私の住む町は、市内断トツ変質者発生地区らしい。
中学でも、「変質者に気をつけましょう」というポスターが貼られている。
友達の中に、追いかけられたとか、急に性器を見せ付けられたとか、そんな子はゴロゴロいる。
でも、人生通算30回以上も変質者にあった子はなかなかお目にかかれない。
これだけ、変質者に合うともういちいち落ち込めない。
ちょっとでも、先生や親に報告しようものなら、○○町の□□ちゃんは、昨日▽▽で変質者にあったらしい。という話は音速くらいはやく広まる。
可哀想
変なことされたのかしら?
誘ったの?
特別かわいいわけではないのにねー
なんか引き寄せちゃうのかしら。うちの子を近づけないで置こう。
そんな後付みたいな話がどんどんくっついて広がるんだから、たまらない。
いつも俯いて歩いていたら、自分でそうですって言ってるみたいなもんでしょう!?
だから、もう笑い飛ばすしかない。
「昨日変なおじさんに声かけられて。靴下売ってくださいだってーきもいよね。あはははは」
本当に怖かったんた。
見通しの悪い道で、物陰からいきなり飛び出してきて腕をつかまれた。
大人の男の人にぐいぐいひっぱられたら、その手を振り払って逃げることなんて出来ない。
まして大声でさけぶなんて!!
でも、私が笑うことで、みんな安心したみたいに、きもいきもいと笑ってもらえる。
そこから、お互いであった変質者トークをして「バカだよねー」と笑いあう。
「でもよかったね。変なことされなくて」
そう。本当によかったんだ。
「ねぇ、靴下売ってくれない?」
突然飛び出してきて、人の腕をつかむとすごく顔を近づけてニヤニヤと囁くおじさんに心底ぞっとした。
それから、血が一気に降りていくような恐怖がはしった。
「え・・・」
「いいでしょ。お小遣いになるよ」
靴下なんてどうするんだ!?
キモイ 怖い キモイ 怖い キモイ 怖い
なんの遠慮もなく性の対象として、自分をなめまわるようにじろじろ見られる。
父親くらい離れていそうな男であることが、よけい恐怖をあおる。
「緊張してるの?かわいいねぇ」
けして父親は出さない、ネットリとした声に頭が真っ白になる。
「デートしようか」
私の心とは反対に、変質者はどんどんエスカレートして息を荒くする。
ダメ、逃げなきゃ。逃げなきゃ。
足に逃げろと命令を下しても、なかなか動かない。
こんなに積極的な変質者ってあったことがない。
よく、叫べっていうけどこんな密着しちゃってるのに叫んだら何かされない?
防犯ブザーなんて、さらに無意味!
「何してるの?」
変質者ではない、男の人の声がして私がびくんとした。
すがるように、男の人をみると間違いなく私達に声をかけたらしい。
でも、声がうまくでなくてすがるように男の人をみる。
ぱしゃっ
変質者も振り向いたところで、男の人がスマホで写真をとった。
そしてにっこり笑った。
「警察行きます?」
その質問に私も変質者もぽかんとしてたけど、変質者が私を捨てるように腕を放すと
一目散に走っていった。
一気に力が抜けて、よろけたところで男の人が駆け寄って私を遠慮がちに支えてくれた。
「怖かったね」
声が優しくて、ほっとして、わんわん泣いた。
男の人は遠慮がちになだめながら、泣き止まない私に代わって私の携帯電話からお母さんに電話をかけてくれた。
お母さんは慌ててかけつけてくれて、男の人にすごくお礼をいった。
その人の名前は礼二さんと言って、大学生だった。
礼二さんは、スマホでとった写真をお母さんの携帯に送って、
「デリケートな問題だとは思いますが、もし交番に届けて証人が必要なら連絡ください」
そう言った。
お母さんは後から、礼二さんのファンになってしまうくらい褒めちぎっていた。
私は安堵感から、お母さんにへばりついて子供みたいに泣きながら礼二さんとお母さんのやりとりをきいていたんだけど、その日は、結局お礼を言う余裕なんてなかった。
でも、あの時礼二さんが王子さまみたいに思えた。
仕方ないじゃない。あんな助けられ方したら、だれだってきっとそう思う。
「あれ?美和ちゃん聞いてる?」
友達が変質者トークの途中で、私にきいた。
おっと、礼二さんのことは内緒、内緒。
なんせ、この手の話も変質者トークと同様、音速で広がるんだから。
大人の男の人はいやらしくて、大嫌いだったけど、
礼二さんは好きだなと思う、中学2年の秋口。
私は恋をはじめました。
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