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2皿目

洗顔後の滴る水気を気にすることなく鏡の中の自分をじっと見つめるヒョヌク。
右手で顎のラインを摩りながら眉間に皺を寄せ渋い表情をする。
自分を虜にさせる女、ソ・ユギョンの事をいくら考えても考え足りないくらいに自分の様が滑稽で仕方がない。
これまで付き合って来た女の姿を思い出してみてもユギョンに勝る人物はいない。

『私に心を開いたように他の人にも心を開いてください…。』

ヒョヌクはユギョンの言葉をふと思い出す。
誰よりも高すぎるプライドは自然に周りの人間との距離を遠ざけてしまった。
ヒョヌク自身、それを良かれと思って生活もしてきたがユギョンと出会ってそれは全て一変した。
自分には一生真似できないその姿はある意味ユギョンの1番の強みであり、自分にはないものに惹かれるもの。

ヒョヌクはふっと笑いを漏らすと汗だくでコンロ前に立つユギョンの姿を思い出した。
無様で何をさせてもトロくさくて…
だけど、誰よりも料理を愛しパスタの事を考えているのは自分よりも勝っているのではないだろうか。
何よりも素直なその姿勢を前にして嘘はつけなくなるのだと。




◇◇◇◇◇




「ソ・ユギョン!!!まだか!!」
「すみません、シェフ…後3秒、いや、もう出ます!」
「遅いぞ!お前は冷めた料理を出して客から料金を貰うつもりでいるのか!!?ええ!!?」
「いいえ、シェフ!」

駆け寄って来たユギョンの右肩に菜箸の先が突き刺さるとともにヒョヌクの罵声が飛ぶ。
他のコック達もちらりとそんな姿を気にしながらも止まらない料理のオーダーを作り上げていた。
料理の最終チェックをするヒョヌクの視線が鋭くなる。
ユギョンはごくりと生唾を飲み込むと額の横を汗が流れた。

「合格だ!しかし、前菜は時間が勝負だ、忘れるな!」
「はい、シェフ。」
部下と上司の姿を崩すことなく淡々と調理場の1日1日は時の流れに逆らうことなく過ぎて行った。

日に日に何かを学びまた失敗を指摘される事で更なる腕前の向上になる。
誰もがそれを得る為に努力はするのだがその努力の途中で道を断つものが多いのが近年の現状だ。
料理の世界は特に下積み時代が長く日の目を浴びるまでにかなりの時間を要する。
不規則な生活。
絶対的な縦社会。
それに耐え忍び先を目指すものこそが真の料理人への道へと進めるのだが終着駅はどこにもないだろう。




今日も長い1日が終わりイタリア組、ヘルプコック達がロッカー室で着替えを済ませた。
「あぁ〜疲れた!先輩!ビールでも飲みに行きません?」
「ビールかぁ…」
ジフンが無愛想なドクに絡みつきながら懇願の眼差しを送る。
「行きましょうよ!ドク先輩…。」
「そうだな。」

「私達もご一緒しても?」

3人の会話に入り込むようにヘルプコックの若い衆が輪に混ざりあれよと話しは弾む。
入れ替わり立ち替わりしていた厨房もこれで落ち着くなと思うと3人の気持ちは浮足立つ。
そこへ下準備を終えたユギョンとウンスも姿を現せた。

「あ!お前達も一緒にお疲れ会しようぜ!!」
「お疲れ会ですか?」
「明日からは厳しいオンニ達の下で働く事になるからな!景気づけだ!」
ジフンの調子いい話にウンスが笑顔で答える。
ユギョンはジフンの意味ありげな言葉に苦笑いを見せるとヘルプコック達も?と指を指す。
「ああ!皆でだ!」
ジフンがその場を仕切るとコック達はいそいそと身支度を整えてロッカー室から出て行った。

こうして誘われる事もなかったのを思うとユギョンの頬が緩む。
そして、明日からは待ちに待ったオンニ達の出勤で一気に今日の疲れもお叱りの事も吹っ飛ぶ。
ロッカーを開け飾り散らばっているサボテンの写真達は変わらずそこでユギョンを優しく見守っていた。




他のコック達が帰って行くのを遠くに感じながらヒョヌクはデスクの上で資料を見つめていた。
自分がまだ助手だった頃にあれやこれやとメモをしたモノ。
今では頭ではなく身体がそれらを覚えていて目にするのも懐かしいくらい。
重なる資料の中に師匠の下でシゴかれていた時代の写真を眺めては苦笑いで机の上に投げつけた。
師匠の教育する姿と自分を脳内で重ねてまたふっと笑いを漏らす。

「似たくなくても似てしまうものなのか?」

ヒョヌクは不必要になってしまった資料を掻き集めるとパラパラと風を送りユギョンを思った。
辛い下積み時代…上に登りつめてみせると言う向上心を胸にここまで来た。
ユギョンとそんな自分が一切重なることはない。
そんなユギョンがどこまで登って行くのかと考えるのもまたヒョヌクの楽しみで仕方がないようだ。




◇◇◇◇◇




『かんぱぁぁーいッ!』

近くの居酒屋に入った8人は座敷の部屋でビールジョキを勢いよく重ね合わせた。
ウンスが嬉しそうにそれをぐぅっと口にする横でユギョンも楽しそうにビールジョキを進めていた。
ヘルプコック達がイタリア組の経歴を聞きながらあれやこれやと話しを膨らませる。
懐かしいイタリアの事を酒の肴に料理人達の話しは尽きる事を知らない。
ユギョンもそれぞれに経験した事を興味津々で話に聞き入る。

「いやぁ…それでもこうして女性コックと同じ職場で働く事はなかったから正直驚いたよ。」

1人のヘルプコックがつまみに箸を伸ばすユギョンに視線を向けて話しを続ける。

「しかもチェ・シェフの下で…よくやるね。」
「イタリアとか、他のレストランにも女性コックはいますよね?」
「いるにはいたが…辞めて行く人が多かったよ。」
少し歳の言ったヘルプコックがユギョンを見て苦笑いになる。
「女性で成功している人の話しはなかなか聞かないしね…」
「オ・セヨンは頑張った方じゃないのかな。」
ヘルプコック達がそれぞれに話しを続け、セヨンの事を口にした男がまずそうな表情に変わった。

「まあ、それでもチェ・シェフの腕は立派だが…あの調理場では持つものも持たないだろ?」
「そんな事はないです!」
「君達もよくやるね…感心するよ。」
そう言いながらイタリア組の3人を見渡してビールジョッキを飲み干した。

「他へ行きたくなったらいつでも連絡してくれ…これでも顔は広い方なんだ。
 イタリア組の君達もそうだが…
 ソ・ユギョンさん自身もコックとしての腕前をしっかり見込んでくれる店は紹介出来るから。」
「・・・・・。」
ユギョンとも3人へとも言える口ぶりで話しを締めた。




北風が吹く路地を歩きながらもその頬は程良いアルコールを冷ますには丁度よかった。
1歩1歩、路地のタイルの上に踏み出る自分の足を見つめながら居酒屋での出来事をぼんやりと思い出す。
ニューシェフ大会に出てイタリア行きかラスフェラに残るか――
その2択しか考えていなかったが、大会を機にそれだけの実力が自分にも生まれたのかと感じる。
ユギョンは自宅マンションの雲ひとつない夜空の星を見上げてはぁっと息を吐きだすと…

〜♪♪〜
ポケットに突っ込んでいた携帯がメールの着信を知らせた。

【どこにいる?】
ぶっきらぼうなメールにユギョンは笑みを漏らすとカチカチをディスプレイをタッチして行く。
【今、帰ってます。】
そう返信をした瞬間に今度は着信音が鳴り響き“礼儀知らずのシェフ”と表示された。

「今、どこだ?」
「帰ってるところです。」
返信を待ちきれずに電話をかけてきたのか、口調が少し怒っている様にも感じる。
「どこにいた?」
「先輩達と少し飲んでいました。」
「ドク達とか?」
「はい。」

自宅の向かい側のドアを見つめながら眉間に皺を寄せるヒョヌクの手にはレシピ資料が束なる。
なんだか気に入らないヒョヌクは渋い表情を見せ自宅へ帰ろうとする。
しかしエレベーターで上がって来たユギョンとタイミングよく鉢合わさりレシピ資料を背中へと回した。

「シェフ!」

その姿に携帯をポケットに押し込むとユギョンは嬉しそうに駆け寄った。

「シェフ!こんな時間に・・・何か用でした?」
「いや、もういい。」
慌てて部屋に入ろうとするヒョヌクの背中を追いユギョンが寂しそうな表情に変わる。
「何、持ってるんですか?」
「なんでもない。」
「シェフ!なんでそんな・・・ねえ何を隠してるんですか!!?」
部屋を閉めようとするヒョヌクに対してユギョンの酒の力を借りムキになりドアをこじ開けようとする。
「おいッ!ドアが壊れるだろ!」
「シェーフ!」
ヒョヌクの声にユギョンが根負けをしてドアを手放すとバタンと音を立てて扉が閉まってしまった。

「シェ・・・フ…。」

急いでレシピ資料を放り投げたヒョヌクはユギョンの寂しそうな声に扉を開け、隙間から顔を覗かせた。
ユギョンの表情はパっと明るくなりヒョヌクも釣られそうになるのを我慢すると…

「チゲ鍋よろしく。」

そう口にしてまた扉は静かに閉まる。
ユギョンは扉越しにふくれっ面を見せながらも瞳の奥の幸せそうな感情は隠しきる事は出来ない。
まだ熱さの残る頬をひんやりとする扉に寄せると今日の終わりを感じる。
辛い事も多いけど、ほんの小さな温かさに救われる事は何度となくあったのだ。
ユギョンはしかめっ面で調理場に立つヒョヌクの姿を思い出してくすくすと1人笑うのだった。

1皿目

■■■ Endding ■■■


「で、私はパスタですよね?」

くすくすと笑いながらもユギョンは真剣な眼差しでヒョヌクを見上げる。
そんなユギョンに呆れるヒョヌク。

「この状況でそんな事を気にするのか?あぁ?」
「だって…」

ヒョヌクはまだ話を続けようとするユギョンの唇を覆った。
交差点のど真ん中。
横断歩道の青信号マークが赤に変わろうとしながらも2人は悠長にキスを交わす2人。
冷たい冬空の下、風が2人の隙間を縫うようにして通りすぎて行くのも気にならない。
どれだけホナムがイタリア行きを望んでいたのかも…
そのために必死に大会に向けて練習をしてきたのも痛いくらいに理解出来るユギョンの表情。

「本当は行きたかったんだろ?」

唇を離したヒョヌクがユギョンの頬を優しく包みながら小さく呟いた。
「はい…シェフ。」
その言葉に開いていた口が更に大きく開くとヒョヌクから感嘆の息と呆れ気味の笑みが漏れる。
大人しそうな顔をしているにも関わらず料理人の頑固さを持つユギョンに複雑な思いを抱く。
「でも…シェフの側にもいたいです。」
「・・・・・。」
自分を見上げるようにして見つめるユギョンの瞳の可愛さの中に憎さが混じる。
「帰る。」
「え?あ・・・ちょっと!シェフ、ねえ・・シェーフッ!!」
自分が絶対的な存在であって欲しいヒョヌクにとってみればユギョンの言葉は失望そのもの。
しかし、同じ料理人であるが故にそれを咎める事も出来ない己が恨めしい。
ユギョンの頬を挟んでいた両手に力を込め、愛し存在の顔を潰すだけ潰すと足早に横断歩道を渡る。

「シェフ!待って下さいよ!ヤァーッ!!」

ユギョンは点滅する青信号に急かされるよう自分を置き去りにする恋人の背中を追う。
人気のない深夜の街にユギョンの靴音が響くとヒョヌクは至福の笑みを浮かべた。
木枯らし吹く中でシェフと呼ぶ声一喜一憂をしながら心に温かさを感じるのだった。




◇◇◇◇◇




準備中の札がかかったラスフェラ。
着替えを済ませたユギョンがイタリアへ出発した4人のロッカーを見つめる。
小さく溜息を吐き出すと自分のロッカーに貼りつけてあるサボテンの写真に目を向けた。
先輩達と過ごした3年間を振り返りながら気持ちを切り替えるとロッカーを勢いよく閉めると同時にウンスがあくび顔で姿を見せた。

「おはようございます…早いですね。」
「おはよう!!今日も頑張ろうね!」
「は、はい…。」

寝ボケ眼のウンスの肩を元気いっぱいにユギョンは数回叩くとロッカー室を後にする。
ウンスは何がなんだかわからないと言った表情で首を傾げた。
拳に力を込めるユギョン。
イタリアへ行った先輩達以上に自分も頑張らなくてはいけないのだと今一度心に言い聞かせるのだった。




ユギョンとウンスは下準備であちこちを駆け巡っていた。
イタリア組の3人も遅れて手を貸す様に2人をサポートしながら仕入れの荷物運びをしていく。
女先輩3人が来るまでの1週間はヘルプコックが入れ替わり立ち替わりとなっている。
それ以外のほとんどを常在している5人でこなさなければならない状況。
焦りと不安、そして疲れが何倍にもなって襲いかかってくるのだが…

「おはようございます。」
『おはようございますッ!』

社長であるサンの声に朝礼に立つ従業員の声がやまびこする。
その隣に立つヒョヌクの姿を視野に入れると朝の準備の疲れがスタートラインに戻るユギョン。
一瞬目を合わせたものの昨晩の事を思い出し、腹立たしくなるユギョンは目線をサンへと戻した。
それを不愉快な表情でヒョヌクはユギョンを見つめる。

「常在コックの方々が来るまでヘルプの方が来ます。
 ホールの皆さんもよろしくお願いします。
 昼の予約で満席ですが、慌てずミスのないように1人1人が心がけてください。」

サンが挨拶を済ますとヒョヌクに視線を向けながら中央から1歩ずれると台本があるかのようにヒョヌクが腰に手を当てながら中央へ立つ。

「皆さんおはよう。
 コックが変わろうともシェフである私が調理場を一任されているので心配無用。
 それぞれが自分の仕事に責任を持つ事を忘れることなく。
 それはコックもホールも同じな事に変わりはないことだ。」

目線が合う2人。

「では、本日もよろしく。」
「・・・・・。」

そう言葉を残すとヒョヌクはその場から立ち去ってしまった。
ラスフェラの雰囲気が変われどもいつものヒョヌクで有る事をコック、ホールの面々は再確認をした。
元社長であるソルは口を捻じ曲げて恨めしそうにヒョヌクの背中を見つめているのだった。




「さぁ、今日も始まるぞ。準備はいいだろうな?」
『はい、シェフ!』

常在コック5人とヘルプコック4人の声が調理場に響く。
パスタコンロに並ぶドク・フィリップ・ジフンとヘルプコック1人と助手にウンス。
反対側のメインコンロに年配の男性コック3人と前菜コンロ前にはいつものユギョンの姿があった。
頼めばパスタコンロに立てると思ってはいなかったが、なんだかそれでも腹立たしい。
返事をしたユギョンの声は小さかった。
それを察してか普段通りな態度なのかヒョヌクはふてぶてしく長い菜箸を掌に打ちつける。
その姿にユギョン以外のコックに緊張が走るもタイミングよく本日1番のオーダーが流れた。

「オーダーテーブル7番!
 水牛のモッツァレラ2!野菜スープ3!トマトクリームパスタ3!ローストビーフ2!
 オーダーテーブル19番!ミートソースのラザーニャ2!」
『はい、シェフ!』

各持ち場のコックはフライパンに手を伸ばしコンロに火を付けると一気に調理場の熱も上がった。
ヒョヌクは前菜の準備を始めるユギョンを横目にオーダー票を定位置に置くとふぅっと息を吐きだす。
フライパンとコンロ、そして様々な調理器具の打ちつけ合う音が響く中…
ヘルプコック達はその場凌ぎなだけにまだラスフェラのシェフの本性を知らずにいたのだった。



◇◇◇◇◇



慌ただしい昼のランチが終わり従業員達はそれぞれに食事を済ませると各々に休憩を取っていた。
ヘルプコックはヒョヌクの変貌に今にも帰り出しそうな雰囲気。
それをイタリア組がなんとかフォローして夜の為にアドバイスをしている。
ユギョンも夜の下準備の手伝いをしようと調理場へ向かう階段。
階段を下りて行くユギョンに対して、階段を登ってくるヒョヌクの姿に足が止まった。
顔を見上げたヒョヌクは脚を止めるユギョンに迷わずに向かってくる。

「怒ってるのか?」
「いいえ、シェフ。」
「・・・・・。」

ユギョンの表情を確認するようにヒョヌクは目を細めながら顔を近付ける。
その動きに合わせるようにしてユギョンはヒョヌクから目を逸らせた。

「本当か?」
「本当です、シェフ。」
「パスタ担当になりたいお前の気持ちはわかっているが今の経験はいつかお前の糧になる。
 ・・・・それに…自分からパスタ担当に戻ってみせるんだろ?」
「は…はい、シェフ!」

意地悪なそのヒョヌクの表情にユギョンは頬を膨らませて声を張った。
こうして白衣を着たシェフを前にすると自分が弟子でありコックなのだと思い知らされる瞬間。
女だからと言う言い訳で甘えたくはないのだと気持ちが強くなる。
ヒョヌクはユギョンの気持ちを察すると笑みを浮かべてユギョンの頭を撫でた。
流石と言えばいいのか。
これがユギョンだからと言えばいいのか、言葉以上に頬が緩む。

「いい返事だ。」
「はい、シェフ!」

「・・・・・ヘルプコック達にもバレますよ?」

「ウ、ウンス!!?」

甘い雰囲気の2人を眺めながらウンスが下から思わず声をかけるとユギョンが不意打ちに驚く。
ヒョヌクの側を急いで離れるように階段を駆け下りて行くとウンスと肩をぶつからせた。
よろけながらヒョヌクを見上げると余計な事をと言わんばかりの形相を見せその場を去って行った。
良かれと思って声をかけたウンスは不服そうな表情で肩を摩りながら階段を登り始めるのだった。



◇◇◇◇◇



あっという間に1日が終わりラスフェラの入り口の看板が閉店を知らせていた。
力が入りすぎたのか午後から何度かヒョヌクに怒られて肩を落とすユギョン。
怒られるのは今さらの事ながら出来の悪い自分が情けなくて仕方がない。
それでもいちいち落ち込んでもいられずに明日の準備の為にその脚を止めることはなかった。

一通りの仕事を終えたユギョンはカウンターの椅子に凭れかかるように身体を伸ばす。
このまま眠りたい気持ちを押さえこみながらぐるりと回転椅子の反動で遊ぶ。
そんなユギョンの姿を目にするサンが口元に笑みを見せ進行方向を変えユギョンに近づいた。

「コックさん!」
「あ、社長さん…お疲れ様です。」
「今日も調理場は戦場だったね。」
「戦場じゃないと社長が困るでしょ?」
「まあね…。」

話しながらユギョンの隣に腰を下ろすとサンは疲れも吹き飛びそうなくらいに優しい笑顔を向ける。

「セヨンさんは・・・どうしてますか?」
「実家で元気にしているよ。・・・・・気になる?」
「いつも同じ部屋で顔を合わせていたから…。」
「・・・・・。」

サンは曇ったユギョンの横顔を見つめながら複雑な思いを抱く。
何がセヨンの為になるのか、いくら考えても答えは出てこない。
1から始めると言ったセヨンをどう応援すべきか、自分に出来ることは何なのかと考えるサン。

「部屋も早く見つけないといけないんだけど…なかなかいい部屋がなくて。
 来週までには・・・」
「ソ・ユギョンさん?」
「はい。」

サンの真剣な表情にユギョンは小さく胸に緊張感を走らせた。

「あの部屋・・・・・セヨンが帰ってくるまで使っていてくれないかな?」
「使う?」
「あ、いや…僕がセヨンの賃貸分を受け持つから今迄通りあの部屋にいる事は可能かな?」
「でも…不動産屋さんがきっと大家さんに連絡をしていると思うから…」
「ああ〜そうか。・・・・・オーケー!
 不動屋には僕から連絡を入れてみるから大丈夫だ。コックさんさえ良ければだ…」

困惑するユギョンの表情を余所にサンは満面の笑みを見せる。
ユギョンにすれば願ったり叶ったりな話しで有り難いが1から始めたいというセヨンの言葉を思い出す。
ユギョンの困惑した横顔を見ながら自分が大家なのだと言うことを知らない事を思い出すサン。

「セヨンが帰れる場所を残してあげたいんだ…。
 誰にでも過ちはあるものだと思う…それでも帰る場所って大事だと思うんだよ。」

サンの言葉にユギョンは優しく頬笑みかけた。
それ以上の答えはないものだとサンをユギョンの笑顔を受け止めた。


コンコンッ!


柱を叩く音の方向へ2人は視線を向ける。

「どれだけ待たせれば気が済むと?」

着替えを済ませたヒョヌクが腕を組み不機嫌そのものの態度で2人を睨みつける。

「私は待ってなんて言ってませんよ。」
「うるさい!早く着替えて来いっ!」
「は…はい、シェフ。」
「じゃあ…僕はこれでお先に失礼するよ。」

ユギョンが席を立ちあがり急いでロッカー室へと向かい、くすくすと笑みを見せながらサンも席を立つ。
ヒョヌクが眉間に皺を寄せながらイライラと2人の背中に視線を送る。
会話の内容を耳にしつつ見守っていたが、頬笑み合う2人に我慢は出来るはずもなく…
ヒョヌクは小さく舌打ちをすると理解しているようで理解していないユギョンを心に思うのだた。

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韓国ドラマを中心としたイケメン!
NiceGuyをああだこうだと呟くブログです♪

BY:うじこ  2012.05

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はじめまして!当ブログを管理しております、たらこと申します。
韓国ドラマ「美男(イケメン)ですね」をチングに教えてもらいハマってしまったアホです^^

その罠ゆえに2次創作を書こう!などと安易に始めたブログでございます。


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完全なる個人の妄想・つぶやき・趣向が偏っていますのでほとんどの記事がファン公開となっております。
バッシングやいじめ等々にはめっぽう弱いので誹謗中傷・ノークレームノーリターンでお願い致します。
ひっそりと地味に、地べたをはいずりながら創作をしようと思っておるしだいです。

それでもいいよ〜と言って下さる心の広き方のご登録をお願い致します(笑)

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更新はかなり不定期で・・・ここ数カ月ログインすらしておりませんでした。(申し訳ございません)
自分でもIDとパスを忘れかけでしたが。
まあ〜こちらも生活の隙を見て更新をしたいと毎日、1分ごとに想いを募らせてます。

のんびり〜ゆっくり〜な更新ですがよろしくお願い致します。


※登録した際にゲスブにご挨拶下さい。挨拶のない方は削除致します。

☆-11話

メンバーを乗せた移動車がつくとホテル従業員達に緊張が走り目の色を変え、ホテルマネージャーは移動車へと小走りで迎えに出る。テギョンが不機嫌な表情を浮かべながら車を降りると辺りをくるりと見渡す。マの車が駐車場に止まっていることを確認するとミニョも来ているのだと連想させた。
「急に顔つきが変わったんだな。」
「シヌさんだって・・・声の調子が上がってる。」
ジェルミとシヌはお互いにミニョの再会を静かに噛み締める。ジェルミのこんな満面の笑みを見たのはいつぶりだろうか、シヌは自分の口元に手を当てながら自分の声の調子を元に戻そうとした。そんな2人の会話を背中で聞きながら口を捻らせて更に機嫌を悪化させて行く。

「直接お会いすることは無理です。」
「でも・・・本当なんです!」
ホテルカウンターで大きな声が耳に入ったテギョンは何気に視線をその方向へと向ける。
「だから責任を持って私がお預かりしますから。」
「はあ・・・。」
バーンはなんだか納得がいかずに困った表情で小さくため息をついた。ホテルの人間を信頼していないわけではないが、自分で手渡さないことにはなんだか無責任なような気がしてならない。バーンは譲りそうもないホテルマンに渋々パソコンを手渡した。

テギョンの後を追うようにジェルミとシヌがバーンの背後を通りかかり、テギョン同様にカウンターへと視線を向ける。手にミネラルウォーターを持ちながらそこに視線を向けるジェルミ。そして、ゆっくりと振り返ったバーンが偶然にも目を合わせるとその手からペットボトルが重力に逆らわずに綺麗に落下をする。


バシャ――ン!


その水しぶきがバーンの足元に勢いよく飛びかかりバーンは何事かとジェルミとペットボトルを交互に見つめる。
「どうした?」
その異変に先に歩いていたシヌが歩みを止めてジェルミの元へと近付く。ホテルマンも数人が駆け付け、そのペットボトルから零れた水の後片付けに手助けをする。
「ジェルミ?」
全く反応もなく黙ったまま、ただまっすぐ前を見つめているジェルミを不思議に思いシヌが視線をその方へと向けた。
「ケンチャナ?」
ミニョから教わった韓国語を話すバーンにシヌが固まる。一瞬、シヌでさえもテギョンが目の前にいるのだと錯覚を起こすが、シヌは冷静に自分の先に歩いて行ったことを思い出す。何よりも持っている雰囲気が全くの別人であるだけにテギョンではないのだと、自分自身に言い聞かせた。

「何やってるんだ、あいつらは。」

後に続かない2人の姿に気付いたテギョンも歩みを止めると、シヌ達が固まる受付周辺を眉間に皺を寄せ見つめる。
「・・・・?地元の人間?」
見つめ合うシヌ達の姿に目を細めるテギョン。その先にいるのが自分とそっくりの人間だとは思いもよらない。

「「・・・・・。」」
「あれ?間違ってたかな?…大丈夫ですか?」
黙ったまま自分を見つめるシヌとジェルミに笑顔を向けて話しかけるバーン。そんなバーンを見つめたまま固まって2人に軽く頭を下げると出口の方へと向かう。バーンの1つ1つの仕草を静かに見つめる2人は言葉を失いバーンの背中を見送る。
「こんなことってあるのか?」
小さくシヌが呟きジェルミは開いた口を閉じるとごくりと生唾を飲み込んだ。
「おいっ…!!何してるんだ。」
テギョンが茫然と立ち尽くす2人の元へと歩み寄り、ジェルミの零したペットボトルを片づけるホテルマンに視線を向ける。また、ジェルミが何かしでかしたのかと小さくため息を付き2人の見つめる先にあるバーンの背中を睨みつけた。
「ケンカでも売られたか?」
「ツェ…ギョンさん!!!」
バーンの背中から隣にいるテギョンの声にジェルミが驚くような反応を見せ、声を裏返らせる。
「ははっ…」
どう話せばいいのか迷うシヌは渇いた笑いを見せるだけ。テギョンはそんな2人を見つめながらふんと鼻で息をすると部屋へと戻るエレベーターへ向かうのだった。


「遅いな〜あいつら…。」
吹き抜けになっているホテルの廊下に出て、ロビー付近にテギョン達の姿を探すマとミニョ。ミニョはテギョン達の姿より先にホテルから去って行くバーンの後ろ姿が目に入り目を細めてじっと見つめる。
「バーン…?」
出て行くバーンの横顔がはっきりとわかったミニョはきっとパソコンを届けに来たのだとバーンを引き止めるべく急いでその場を離れる。
「あ!いたいた…あんな所で何してんだ、あいつら…。」
テギョン達を見つけマが呟くが、その呟きもミニョの耳には入らない。
「おい!ミニョ!どこに行くんだ…!?」
「バーンが来てます!パソコンもらってきますね。」
「ああ〜パソコンか…助か・・・・バーン!!!!?おい!!ミニョ!」
1回はミニョの言葉にパソコンの安心をしたにも関わらず、固まるテギョン達と走り去るミニョを交互に見渡すマ。まさか、テギョンとバーンがもう出会ってしまったのではないだろうかとマに緊張が走る。こんなことになるなら先に作戦を立てておくべきだった、とマも急いでその後を追った。


やっと現実に戻った2人はテギョンを挟んで隣を歩きながらまじまじとテギョンの顔を見る。よくよく見れば肌の色だったり、愛嬌のある笑顔はテギョンと全く別物であることを確認する。その視線が痛いほどテギョンの肌に突き刺さる。
「なんだよ、お前ら…。」
「いや、テギョンさんって…どこにでもある顔なのかな〜って思っちゃって。」
「はあ?」
ジェルミの意味不明な言葉を聞き眉間に皺を寄せるテギョン。
「世の中には自分と3人似た人を見ると死ぬって言いますけど…まだ2人だ!」
「何の話だよ。」
ジェルミが自分自身に言い聞かせながらうんうんと大きく頷く。
「いや、ジェルミ…死なないから。」
冷静にジェルミの話に突っ込むシヌはくすくすと小さく笑った。
上階から下がってくるエレベーターが止まり、チンと音を立てるとテギョンは扉を開くのを待たずして1歩を踏み出す。エレベーターから出てきたミニョと乗り込もうとするテギョンの肩がぶつかった。

「あっ!すみません!」
ミニョは膝に額がつきそうなくらいに頭を下げ、ぶつかった相手が誰かもわからず深く謝罪をする。
「どこ見ているんだよ!」
「ヒョンニム…っ!すみません!ちょっと…ちょっと先を急ぎます!」
「おいっ…!」
ミニョはまたテギョンに深く頭を下げると入り口へと小走りで向かう。すっかり自分のことが目に入っていないことが更にテギョンを不機嫌にさせていく。せっかく、アフリカの撮影を選んでやったのに…。せっかく久しぶりに会いに来てやったのに…。そう思えば思うほど苛立つテギョン。
ジェルミとシヌがエレベーターに乗り込みテギョンもエレベーターに乗ろうとしたが、ミニョの慌てようが気になってしまうテギョン。迷惑をかけさせたら天下一品なミニョのことだから何かしでかしたに違いないとしか思えずにテギョンはエレベーターの【Close】のボタンを押す。

「先に行っててくれ。」
「テギョンさん!!!」
そう一言を言い残すと扉が静かにしまる。ジェルミがシヌへとゆっくり視線を向ける。
「あれ…ミニョと知り合い、とかじゃないよね?」
「・・・・・・。」
ジェルミの問いかけにシヌは何も言わずに黙ったまま困惑の表情を浮かべるのだった。


「バーンっっ!!!!」
ホテルの外に出て大きな声でバーンの名前を呼ぶミニョ。辺りを見渡し、自分を見つめる視線と目を合わすがバーンの姿が見当たらないが、駐車場の方へと歩みを進めて行くとバーンの後ろ姿をみつけた。
「バーン!」
「ミニョ…!」
「パソコン…持ってきてくれたんでしょ?きっとそうだと思って。」
ミニョが息を切らせながらバーンへと笑顔を見せる。
「ああ。
でも身分証明だとかなんだとかで会わせてもらえないからフロントに預けてきたんだ。
やっぱり俺には都会の肌は合ってないな…どうも肩が凝って仕方ない。
仲間には会えたようだな、こっちに来て1番いい表情をしてる…。」
「へへ…。」
ミニョはバーンの話を聞きながら、髪の毛を撫で照れくさそうに笑った。自分の中では自然にしているつもりでもやっぱり嬉しくないはずはない。顔を上げたミニョがバーンの視線の先が自分の後方にあることに気付き後ろを振り返る。

「ヒョンニムッッッ!」

同じ顔をした2人に挟まれたミニョ。そして、自分そっくりな顔をしている人物にどう気持ちの整理をつけていいのかわからないテギョンとバーンは黙ったまま互いを見つめるのだった。



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