だべり場

プリキュアおじさんの住処

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恋のお悩み相談の巻

 大神芽吹。それが私の名前。格闘技が好きな人はテレビとか新聞とかで聞いたことがあるかもしれないような、ちょっとした喧嘩屋、有名人だ。そんな私は今、体育館裏に呼び出されていた。呼び出してきたのは同学年の男一人。名前も知らないし、一言も喋ったことがない、つまり今初めて会った奴だ。そんな奴が私に何の用があるのか。
「お、大神さん……突然呼び出して、ご……ごめんなさい」
「おう。で、何の用だ」
 謝る暇があるなら早く用を済ませてくれ。私がそんなことを思っていたらソレを悟ったのか奴はさくっと話を始めた。
「率直に言いますね。俺、大神さんのことが好きです!どうか付き合って下さい!」
 ふーん…………ん?んん!?今私告白されたのか?ここで初めて私はちゃんと奴の顔を見た。うん、確かに世間一般で言うイケメンというやつの範囲だろう。しかし、だがしかし私は私より弱い奴に興味はない。
「そうかー。じゃあ私より強くなって来い!」
 有無を言わせず私は奴の顔面に一発右ストレートをお見舞いした。うーむ渾身とはいかずともそこそこ綺麗に決まったかな。
 
 
 という具合に先日男からの告白を思いきり最悪の形で振った私だが、私には好きな人がいたりする。私の片思い相手、その名も龍華零。なんと勇ましく気高いお名前だろうかッ!いやーなんといっても零さまはお強い。並みの成人男性なら3mくらいなら余裕で吹っ飛ばせる私のパンチを片手どころか指一本で止められるくらい強い!私はその強さと寡黙な人柄とかっこかわいい外見と、もう全てに一目ぼれしてしまったというわけサ。しかし!そんな私の初恋も悲劇に見舞われることとなる……なんと超かっこかわゆく異様に強くクールで寡黙で素敵な零さまは、男ではなく女だったのである!!なんたる悲劇!こんな悲恋がこの世にあるだろうか!大いなるショックに鬱病一歩手前まで落ち込んだ私………零さまの性別を知ってからというもの私は食事が喉を通らず、一週間で5kgも痩せてしまった………喧嘩屋の私としては致命的なことだ。しかし、だがしかし私は零さまのことが好き過ぎて、なんだか女の子でも別にいっかーと思い始めてしまった。一般的、法律的に考えて♀×♀なんて結婚は認められていないし、世間体にも響くかもしれない……第一零さまが認めてはくれないだろう……零さまは百合やGLに吐き気を催すようなお方かも知れない……そう思いだすと私はどうしようもなくなってしまう。私はこんなに想っているし愛そうと想うし愛されたいとも思っているのに……性別という果てしなく大きな壁が私と零さまの愛の旅路にどうしようもなく立ちはだかっている……しかもその壁は力ずくじゃどうにもならない壁だ。気持ち、精神で打ち破らないと意味がない……だけど私は精神的には未熟だし、よく子供っぽいとか言われるし、これではただのもじもじ悶々片思いじゃないかッ!そんなのいやだ!例え女の子だったにしても私は海より深く天より高く零さまを愛している!尽きることなく延々と燃え盛る太陽の如く情熱的に零さまと愛し合いたい!同性だからって傍から指をくわえて呆然と零さまを眺めるだけの人生なんていやだ!拒絶されることを承知でこの抑えきれない気持ちをお伝え申し上げたい!でもやっぱ拒絶はされたくない!どうすればいいの!?どうすればいいの零さまー!!零さま………うう……会いたい、零さまの家に行ってみたい………もしかして好きな人とかいたりするのかな……だったら私に勝ち目は……勝率ZERO。うぎゃああああああーーーーーッ!!いやだーーーー!!!絶対にやだ!!諦めたくない!どうかこの私に零さまと添い寝できる権利をくれッ!くそー!ちくしょーーーー!!なんで私女なんだッ!?ええ!?私が女で得する奴なんてだーれもいねぇぜ!!おいこら!!性別間違えて生まれてきてんじゃねーぞ私!この阿呆が!うわーーー!!性転換手術でも受けた方がいいかな。いや、そんなことじゃあない。女の子同士で恋愛するのはどうしてダメなのだろう。いや、私は別に特別GLが好きな人種じゃなく、ただ単に好きになった人が女の子だったというだけのロリコンなんかがよく使う言い訳的なアレなんだけれどもそりゃ冷静に零さまのことを抜きにして考えれば同性愛というのは気持ち悪いのかもしれないし、零さまに出会う前の私はもしかすると毛嫌いしていたかもしれない、そこら辺のことはもう覚えてない、けどもやっぱり好きになってしまったからにはどうしようもないわけでなんといっても私の中の煮え滾るこの愛の衝動にはどんな理屈もかなわないし、愛することは恋しい気持ちはなにがあろうと不変なものだし、零さまに思いっきり一般人なら内臓が潰れるくらいにきつく抱き着き(抱き締め)たいっていう夢は私の小学生のころの将来の夢よりも全然大事なものだし、まわりからどんな非難を浴びようと世界中が敵にまわろうと零さま一人を愛し抜く自信と情熱は有り余るほどあるし、零さまから蔑まれなければ今後一切飲まず食わずで生きていけそうな気がしてくるし、なんだかんだ言って言い訳しまくったけど私は私として間違いなく『男だろうが女だろうが人間でなかろうが〝零〟という存在自体をそれ以外がどうでもよくなってしまうほどに愛している』んだ。狂った愛とか言われちゃうかもしれない。でも、零さまに一言「嫌い」って宣言されるのと零さま以外の生きとし生ける者たちから「気持ち悪いんだよクソ百合暴力女が。死ね、生きてる価値まじでねーよ」と完膚なきまでに罵られ叩かれるのだったら前者の方が死ぬほどつらい。後者の事件が実際に起きたとしてもきっと私は周りにいる馬鹿をボコるだけでニヤニヤしつつ生きていけるだろうが前者の場合は本当に鬱病になりかねないほどつらい、と思う。まあ、結局言葉で言うのは限界がないし、嘘もつき放題だからこんな口先だけで愛を語ったところで何一つ意味は成さないけど、それでもこの気持ちに嘘偽りはない。単純に、零さまを心の底から阿呆みたいに愛している。溺愛している。恋に落ちている。踊らされている。ああ、片思いってつらいのな……。せめて相談相手がいれば……愚痴れるやつがいてくれればなぁ……。
「ふん。貴女!どうやら百合的なお悩みをずっしり抱え込んでいるようね!いいわ!私たちが相談に乗ってあげる!」
「な、なに!?誰だお前ら!いつから私の心を読んでた!?」
「最初からよ。ふふふ……私たちに今の悩み、全部打ち明けてみなさい。ぶちまけてみなさい!」
 
―――突如出現した謎の女子たち
―――果たして彼女らは恋する乙女大神芽吹の敵か否か
―――そもそもコレはなんなんだ
 
―――なにはともあれ続くか続かないかは作者の気分次第である
「そうだよ、これどうしようかな。流石にこのまま放っておいたら死ぬだろうし、ここ宿屋だし、仲間帰ってくるし、まずいよなぁ……」
「はーん、考えなしにこうゆーことしたんだ」
「ぐぐ……ま、まあそうだ……」
 残念だが反論の余地はなかった。彼は完全にその後のことは考えずに拷問を楽しんでいた。拷問マニアと成り果てていた。彼の元来有していたSっ気がいかんなく発揮され、とんでもない事態を招いていた。これはいったい、いったいも何も狂気に飲まれていただけだが、リョウは今更自分がしたことを悔いた。
「なにがどうしてこんなことに……」
「いやさ、全部君がやったことだよね。覗き穴から見てた私が言うのだから間違いない。間違いなく君がやってたよ。なに?片づければいいの?このお嬢ちゃんはどうしたいの?」
「片づけたいな。早急に元通り綺麗な部屋に戻したいところだ。あー、この女は、できれば記憶を消して生かしておきたい」
「わがままはダメよーん。私の能力に記憶を消すことなんてできないわ。ていうか記憶を消す能力なんて知らないわ。ま、片づけとこの状態から綺麗な体に戻すことは私にお任せねー☆」
 それだけ言うと狂子は懐からナイフを取り出し彼女の右手首をバッサリ斬り落とした。弾ける血液。余計に部屋が汚れたという事実にと意味不明な突飛にもほどがある行動に怪訝な顔をするリョウ。しかしそんなのはお構いなしに自分の流れ続ける血液を部屋中にふりまく狂子。このままでは失血死でもしてしまいそうで、事実彼女の顔色はどんどん青ざめて行っているわけだが、それでも雑巾から水を絞るように血液をまき散らす。
「おい、おい!お前なにやってんだ!片づけるのとかアリスを戻すとか、出来るんじゃなかったのかよ!?」
「出来るからちゃんと見てなさいな。下準備が必要なの、したじゅんび」
「そ、そうかよ……」
「そうなの。お、ほーら始まったよ。部屋中に飛び散った私の血がそこの……アリスちゃん、だっけ?の肉体に調子を合わせて綺麗サッパリ元通りにする作業がさー」
「は?どうゆうことだ?」
 リョウが言われて辺りを見回すと部屋に滅茶苦茶にちりばめられた赤い液体はまだら模様を描きつつ点々として浄化されているように見えた。それは数分もすると完全に部屋は全体が浄化され、なんとアリスも元通りの綺麗な肉体に還っていた。
「なん……だと……?」
 何が起こったのかよく分からないリョウは目をぱちくりさせるのが精いっぱいであったとか。
 リョウが笑い転げていると背後の扉がコンコンとノックされる音が聞こえた。恐らく月影たちが帰ってきたのだろう、途端に焦り、この惨状を今からどうやって誤魔化そうかと思考を巡らせる。実のところ策は幾つかあった。一つ、アリスを殺し、もう人間なのか否か、理解不能なほどにぐっちゃぐちゃにしてしまって誤魔化すというもの。一つ、アリスをタンスに押し込む。などなど、だがタンスに押し込もうがぐちゃぐちゃにしようが部屋にこびりついた血糊と異臭は瞬時に消すなど不可能で、なんだかんだやっぱり誤魔化すなど不可能なのであった。「あーもうだめだ」と頭を抱えて月影たちに幻滅どころか絶交されそうなこの状況にどう言い訳をしようかと必死に考えていたところ、リョウが開ける前に扉は開かれた。
「あああああ!!違うんだ月影、ガロン!違うんだよー!!これはちょっと違うんだ!」
 果たして何が違うというのだろうか、駄々をこねる子供のような下らない言い訳を叫ぶリョウだった。だがその言い訳は良い意味で無意味だったといえる。
「違うんだって、な?ちが………あれ?お、お前は」
「こんばんはー☆これで三度目の遭遇だねっ」
 無意味だった理由は、そもそも扉を開けて入ってきたのが月影でもガロンでもなく六芒星狂子という名の痛みに快感を覚え、嬲られることが至上の悦びであるというマゾで体が構成されている変態だったからである。第五支部に突撃し、そこの平戦闘員と思われる男女にぼこぼこにされて大ピンチなところをこの変態に庇われてなんとか生き延びたリョウたちであるが、何故、あのビームをもろに喰らったというのに無傷で今ここでニコニコしているのだろうか、リョウは疑問に首を傾げる。が、それを言うならば支部で出会った時もそうだ。リョウは以前この変態女の額に弾丸を零距離でぶち込んだ記憶がある。そしてそれは脳味噌に食い込み即死という結果をもたらしたはずである。だのに彼女はピンピンと元気そうに支部内部で四苦八苦していたリョウたちのもとに現れたのだ。確実に異常だと、リョウは理解した。この女、能力者か何かだと、今更思い至った。それしか考えられないし可能性はそこしかない。間違いない。どのような能力をその身に宿しているのかはまだ不明瞭だが、おおよそ生き返るとか不死身とか、または強い幻覚症状を司る能力だろう。
「ちっ……何しに来た」
「命の恩人に出会って数秒で舌打ちって……はぁー沈むわー☆」
「沈んでないということはよく分かったから。んで、何しに来たんだよ。そもそもどうやってここがわかった」
「へへ、私の能力は無敵の能力よ」
「やっぱ能力者か……で?無敵だか知らんがどうやってここを突き止めた。探知能力か何かか?」
「いやーん、私の能力がそんなしょっぱい物だと思われっちゃってるー☆ぜーんぜん違うよドSくん。探知なんてしょぼい能力じゃないわー」
 こいつ……そう思って拳を強く握り苛立ちを押し殺すリョウ。だが狂子の素性がよく分からない上に謎の能力持ち、少なくとも普通ではないと来たのでは下手に手も出せないのでここは冷静に狂子の能力を聞き出すのが先決だ。というか狂子の場合力任せに殴っても喜ぶだけである。
「そうかそうか、じゃあどんな凄い能力なんだ。俺は無能力者だからな、能力ってのは珍しくて、どんなのか気になるんだ」
「うふふ、そうでしょうそうでしょう☆」
 発言が一々癪に障るのだが、殴っても無意味だ。恐らく撃っても無意味だろう。その事実がよりリョウを苛つかせるわけだが。
「では教えてあげましょう、この六芒星狂子が直々にね!あ、教えてあげる代わりに私にも拷問してよーん、そこの可哀想なお嬢ちゃんみたいに肉達磨にしてちょーだいっ」
「げ………」
 狂子のあまりのうざさにアリスのことをすっかり忘れていた。リョウは改めて己の所業と、その結果無残な肉塊に女性のお面でもくっつけたかのような容姿と成り果てているアリスを目の当たりにし息が詰まる。先ほどまでの自分はまるで何かに憑かれているようですらあった。自分であって自分でない。多重人格……とはいかないが、なにか暴走するスイッチでも誰かに押されてしまったような感覚に襲われた。だが不思議と吐き気などは訪れない。リョウが青くなっている理由はあくまで己の見せた残虐性への驚きであり、死体同然の女性を見たからではないから。
 場所は再び宿屋の一室。リョウとアリスが血濡れの遊戯に興じている部屋に戻る。拷問開始から丁度一時間ほどが経過した。今や部屋は血塗れにして異臭がたちこめる如何わしい部屋へと変化していた。これをどう掃除するつもりかは定かではない。今現在、アリスは何一つとして〝組織〟の情報は口にしていない。というか既に彼女は嗚咽以外の何物も発声出来ないと思われる。リョウによる拷問は熾烈を極め、最初は鞭で叩いたりするというオーソドックスなものだったのだが、今の痛々しいという言葉では貧弱すぎて申し訳なくなるようなアリスの体を見るに結構激しいことを施した。
「ふー、お前も強情だな。さっさと話せばここまで痛い目には遭わなかったのに、馬鹿な奴だ」
 この台詞、絶対に主人公が発する類のものではない。寧ろ敵キャラクターの死亡フラグ的台詞である。が、流石に虫の息かそれ以下、満身創痍の女性一人を前にこの台詞が死亡フラグとして機能することはない。ただの恐ろしい奴の一台詞として成り立った。
 ちなみに現在のアリス、一般人から見ればもはや人には見えないほどに肉の塊と化していた。最初に手足の爪を剥ぎ取り、次に脇腹の肉を削ぎ落とし、脹脛の皮膚を剥ぎ、指を一関節ごと細切れにし………それでも情報を漏らす素振りすら見せないので首から上を除く全身の皮膚を大根の皮を剥くようにしてはがし、右目に火のついたマッチを押し込む。ここまで来るとリョウの精神も今までないほどに高揚しており、もはや情報などそっちのけで拷問を楽しみ始めていた。死なないギリギリを、神経の敏感な部分を、様々な方法で弄り倒す。ドSらしかったリョウは抵抗できない一人の見目麗しい女性を殴ることに快感を覚えていた。
 リョウは辛うじて人を保っているアリスの顔を、生気の欠如した涙に濡れる美しい顔を眺めて愉悦に浸る。強情な女を自分一人でここまで堕としたという事実に誇りらしきものすら湧き上がってくる。不意にリョウの口から悦びの声が漏れ出る。それは酷く下卑た物で、悪人のボスが死にかけの正義を目の当たりにして吐き出すような、反吐の出る笑い声であった。奇妙な虫の鳴き声のようなそれは、一度口をつくとそのあとは決壊したダムから放出する水の如く一気に、勢いを殺されることなく無限に湧いて出た。
 一つ、全身の毛がよだつような光景が見事に出来上がった。顔以外がすでに肉としか形容不可能になり、瀕死以上の苦痛に涙と嗚咽を以てしか答えることのできない女性とそれを見下ろし笑いが堪えられない男。肉から噴き出す血液が部屋中に飛び散り、異臭と紅で彩ってみせるソレは地獄かなにか、否地獄ではあり得ない。これは事実。これは現実。リアルなのだ。地獄絵図などと使い古された陳腐極まりない比喩では全く以て残虐性が足らない。正義のためにと始めた拷問に食われてド畜生と化した男は鬼なんかよりもずっとおぞましい。たった一人の人間がたった一人の人間をここまで的確に甚振れるものだろうか。
「さあ、まだ痛くない場所はあるか?」
「あっ……あっあっあぁっ…………」
 この期に及んでこれ以上、まだアリスのことを壊そうとしているリョウにはもはや恐れよりも畏れるという方が適格かもわからない。アリスの方は蠅の羽音のようなか細い声を発するのみでもはや意識を手放しているように見える。その方が楽だろうことは明白だ。こんな生きながら死んでいるような状態で意識があったならばそれこそまさに生き地獄か。まともな返事をよこさないアリスを我に返そうと、その肉を鷲掴みにする。柔らかい筋肉に指がうずまる感覚と同時に、その指には毛細血管がびっしり絡まって来、またアリスの神経はその異常事態を痛みとしてアリスの脳味噌に送り付けて、生命の危機を知らせる。それにより気絶していたアリスは目が覚めたように激しく痙攣し、絶叫、昇天。口から泡を吹いて上の歯と下の歯をガチガチやって怯えている、震えている。
 生きながら捌かれて人間に食われる鯛の気持ちをアリスは今まさに味わっているのだ。
「うわー、泡吹いて白目剥いてる人間なんて初めて見たぜ。こりゃあ笑える。醜態ってやつだな」
 この以上極まりなく常人ならば即座に失神でも失禁でもしてしまいそうな状況で当事者であり犯人であるリョウは怖いほどに冷静で無邪気な子供のように笑い転げていた。
 リョウとアリスが楽しい拷問に血を吐き吐かせしている一方、ガロンと月影は本当の意味で楽しいショッピングを繰り広げている。ガロンは常にパーカーを着こんでいるのでいつでも変わり映えしない容姿だが、月影は任務中以外は私服に身を包むので普段の忍者装束姿とは全く違う外見となる。今現在は薄桃色のチュニックにクリーム色のスカートというなんだかお菓子のようなしかし色の濃さ的には控えめなコーディネートとなっていた。また、普段は後ろで束ねてポニーテールとしている長い黒髪も今は左右で赤いリボンで結びツインテールとなっていた。ポニーテールのときは太かった束だが、二本に分かれた今では太さも二分の一で大分すらりとした尾っぽとなっていた。
「はー。この月影をパシリに使うとはリョウめ……いつか顎で使ってやる……」
 二人が現在買い出し中。必要最低限のお金を詰め込んだ財布と各々のポケットマネーだけが資金であり、遊ぶ前に食料品を買いにいかなければならない。リョウが二人に買い物を頼んだ理由は二つ。一つはいい加減旅に慣れてもらうために自力で買い出し位出来なくては話にならないから、もう一つはアリスと二人きりになるためだ。流石に激しい拷問シーンをガロンは兎も角月影に見せるべきではないと判断したリョウは買い物をしてもらうついでに月影を追いだしたのである。
「まあまあ、ツキカゲさん。リョウさんは女性として今までのツキカゲさんでは問題が幾分か見受けられるので女性的な感性を養う為というのもあってこの買い物をツキカゲさんに頼まれたのであります。決してパシリというわけではないのであります」
「チッ!でありますありますうるさい」
「了解であります。これより声のボリュームを下げるであります」
「そういうことではない!くはー、もうよい。我はさっさと買い物とやらを終わらせて稽古に戻りたいのだ」
 これでもかというほど箱入りで育てられた月影は里に引き籠っていたということも相まって何かを自分で買ったことがない。つまり今回初買い物というわけである。月影はリョウが律儀にも用意してくれた今回買う食品のリストが書かれたメモ帳を眺める。メモ帳に書かれているのは「卵」「牛乳」「鶏肉」それから「適当な野菜」の四つ。この食材で何を作る気なのかは計り知れないが、料理もしたことがない月影に言わせれば「どうでもいい」らしい。
 宿屋から数分歩いたところにスーパーがあるのでそこで買うことにしたガロンと月影は無言で通じあい、同時にスーパーへと踏み入った。スーパーの中はというと一般の客の入りはそこそこで、丸々一年は安泰で行けそうなほどの食糧がずらりと棚に並べられていた。月影は食いしん坊というわけではないが何人いても食べきれなさそうな量の食品たちを目の当たりにして呆気にとられつつも目を輝かせていた。わなわなと体を震わせているところを見るに感動しているらしい。「す、すごい……すごい量の食べ物だぞ、ガロン」ととても嬉しそうに無邪気な笑顔で口にする月影。守りたいその笑顔。普通にしている月影は何を隠そう可愛かった。笑顔が素敵な少女、無邪気で愛玩動物か何かのような気がしてくる。無論容姿も整っていた。可愛い月影はメモ帳片手に卵と牛乳と鶏肉と何かしらの野菜を棚から手に取り、かごに入れた。初めてにしては手際がいい、かと思われたが月影は最後のお題である野菜、なんと林檎を手に取ったのだ。残念ながら林檎は野菜ではなく果物である。非常に惜しいが間違いは間違い。横から見ていたガロンは優しく教えてあげることにした。
「ツキカゲさん。林檎は野菜ではなく果物であります。野菜というのはこっちのフロアにあるあれらのことであります」
 言いつつ月影の手にしていた林檎を棚に戻し野菜の置いてあるフロアを指差すガロン。彼も買い物初体験であったが、半分機械である彼の中にはあらゆる常識的情報が詰め込まれているので野菜と果物が別のものであるということくらいはわかるのである。ちなみに木になるのが果物で地面から生えてくるのが野菜である。つまりスイカは野菜で栗は果物なのである。林檎を取られてちょっと不服そうな顔をする月影であったが、次の瞬間には何事もなかったかのように野菜フロアへ行き勝ち誇るようにして人参を手にしていた。
「ふはははは!我にかかれば買い物など赤子の首を捻るよりも簡単なことだ!」
 完全に買い物を終えた気でいる月影。だが、本当の試練はここからである。何せこの後、レジへかごをもって行き、店員と会話し、財布から金を取り出して支払わなければならないのだから……果たして箱入り月影ちゃんはそれらの試練を無事に終えることができるのであろうか……?

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