だべり場

プリキュアおじさんの住処

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 逃げるように部屋から去って行った黒の背中を見つめ嘆くリョウだったが、しかし個人の感情よりも任務が大事だ。先まで個人の感情に飲まれアリスを酷い拷問にかけていた男とは思えないほど、リョウは感情の切り替えが素早かった。何故アリス相手にはあんな有様になったのか不思議なほどだ。
「あまりモタモタしているとさすがの重装備の鈍重野郎も遠くへ行っちまう。説明は追々する!月影、ガロン、ついてこい!鎧を探すぞ」
「お、おう」
 走り出すリョウを追いかける月影はどこか釈然としない表情だが、それがリョウに対してなのか狂子に対してなのか、或いは両名に対してなのか、それともまたもっと別のことに対してなのかは不明である。恐らくはリョウと狂子に対してだろうとは思う。しかし人の気持ちは読めない。
 特に女は。
 まだまだ青臭いとはいえ、月影も立派な女性である。ガキっぽいだけではとどまらないだろう。
「了解であります」
 更に月影を追いかける形で発進したのはガロンだ。先までまるで存在を忘れられたかのように空気と一体化を果たしていたガロンであったが、勿論彼の存在は消えてはいない。きちんとそこに質量を持って存在していた。
 軍人のリョウ、くノ一の月影は並の人間よりは足が速い。ガロンはと言えば機械人間なだけあり、やはり速かった。しかも他二名と違い機械特有の無尽蔵のスタミナを持つので、この三人パーティの中で最も移動能力が高いのはガロンであると言えた。故に、リョウは彼にこそ件の鎧を追跡する役が相応しいと考え、ひとつの命令を下した。内容は簡単、至極単純。「鎧を追跡しろ。見つけ次第俺に連絡」これだけだ。無論リョウと月影も手分けして探すのであるが、しかし最も鎧に追いつけそうな人材はこの三名の中ではガロンだろう。機械人間なだけあり、精密な観察力も持つ。ことストーキング能力において、彼はこの世界でも有数の実力を持つと言って過言ではないだろう。
 世界有数のストーカーサイボーグガロン。不名誉極まる肩書だが、これは言い方が露骨に悪意に塗れているだけで彼が優秀なことに相違はない。
 言われるや否や人の限界に迫りそうな速度で走り出すガロン。任務はあくまで追跡と位置の特定だ。どうやらガロンは「隠密行動」は不必要と考えたらしい。本当にその判断で良いのかはわからない。が、今更止めることもできないので後は任せるしかない。
「ふぅ、ガロンに任せとけば多分大丈夫だろうけど……月影、俺らも行くぞ」
 小走りしつつ並走するリョウと月影。特に息が上がることもなく落ち着いた声色で話しかけるリョウ。
「うるさいぞ。走りながら話すと早く疲れるから話しかけるな。あと、我とリョウを『俺ら』などとひとくくりにするな。不快だぞ」
「へいへい……」
 月影の細かい注文に呆れ顔になるリョウ。俺ら、の件については特に今後気を付けるつもりもない。
 だが今ので月影に話しかける気が失せたらしく、リョウは無言のままに徐々にペースをあげて、見る見るうちに月影を置き去りに鎧が逃げたと、リョウが思った方向へと走り出していた。置き去りにされた月影は正直その鎧にもアリスにもそんな思い入れはなく、興味もなかったためリョウとは対照的にペースを落として、その内立ち止まった。立ち止まってしまった。



 北方の森。鬱蒼と茂る木々に視界を遮られ、昼間でも微かな陽光しか差し込まない森。魔物や魔族、凶暴な野生生物や逃走者が潜むにはぴったりの森。そこに続く足跡を発見し、ガロンは躊躇なくそこへ突っ込んだ。
 機械人間ガロンは順調に鎧を追跡していた。人間が歩くのならば絶対に残してしまう痕跡が足跡だ。ガロンは機械特有の繊細かつ精密さで鎧の足跡と思われる大きな足跡を確認し、それに沿って追いかける。だが、奇妙に思うことが一つ、あった。それは足跡が浅すぎるということだ。普通の人間ならば気付かないような、極々薄い、浅い足跡。リョウ曰く鈍重で重厚な鎧をまとった人間だという話。そんなに重たい人間がこのような薄く存在感のない足跡だけしか残さないというのは道理に合わない。普通、もっと深くなってしかるべきだ。しかも、鎧は加えてアリスを抱えているはずなのだ。この足跡は何か不自然だ、ガロンは思う。
 しかしこれ以外には特に痕跡も見当たらない。幾ら不自然だろうが、そこしかないのならばそこを往くべき。ガロンは瞬時に判断し追い駆ける。
 数十kmほど離れたところまで来たところで、ガロンは人の気配を探知することに成功した。彼には近くに存在する人間の体温などを感じておおよその距離感を把握できる能力が備わっていた。しかしあまり褒められた性能ではないので、使う機会はほぼない。今回も、使っては見たもののその数値を信頼はしていない。保険程度に考えている。
(数値によればここからわずか数十mのところで出くわすはずでありますが……)
 茂みに身を潜め、自身の体に埋め込まれたあらゆる機能をセーブする。セーブする理由はいたってシンプル。様々な機能が動いた状態では、その装置が発する微量の音で相手に存在を知らせてしまうということもありうるからだ。街中では気にならぬ微かな音でも、こうも静まった森の中では目立つこと請け合いである。
 使い物になるか怪しい人間探知機能は勿論、現在必要性が薄そうな機能の殆どをオフに。
 低燃費低機能モードのガロンは忍び足で人間感知器の数値の示す地点を目指す。数歩進み、彼は確かに座り込む人間の姿を見た。
 何かいる、そう確信したガロンは状態を低く、地を這うような体勢になり、じっくりゆっくり進む。草木の隙間から先の座り込んだ人物を視認することに成功した。そこに座り込んでいたのは鎧、だ。そして鎧に抱かれている人間も確認できた。
 そこでガロンは切っていた機能の内通信機能をオンにし、リョウへの連絡を試みる。数コール鳴って、リョウは通信に出た。
『リョウ、北方の森深くに鎧ともう一人の人間を発見であります』
「でかした」
 出来るだけわかりやすく且つ少ない言葉数で通信を済ませ、通信機能も再びオフへ移行、しようとしたその時。ガロンの身体を酷く巨大な衝撃が貫いた。
 機械人間のガロンですら驚嘆するような大きな衝撃、自らの身体の損傷、甚大。多くの機能停止。背部に最初に感じた衝撃はそのまま腹を貫き、視線を落とせば彼の腹には太い棒が突き刺さっていた。否、機械人間らしく正確かつ冷静な分析で語るならば『半径4cmもの太さの鋼鉄の釘』が刺さっていた。
 ガロンは溢れ出るエネルギー、その残りわずかな分を振り絞り、首を180°ぐりんと回し自分へ危害を加えた人物を見た。それはアリス、その人。恐怖と残虐さの同居する奇妙な笑みを浮かべた彼女がガロンを破壊した。ガロンは彼女の顔をメモリに焼き付け、自分の位置情報をメモリに刻み、リョウへと緊急救助信号を発して、その全機能を停止した。
 首を真後ろに向けたガロンはうなだれ、その姿を気味悪げに見つめるアリスは彼の身体から乱雑に釘を抜き、顔面を蹴り飛ばし、吹き飛んだ彼の背中を踏み潰し、徹底的に破壊した。粉微塵、鉄の塊としか形容できなくなるほど破壊し、彼女はそれでも何かに怯えるように半ば狂気に取りつかれた様に破壊を繰り返した。
 ガロンは半分機械のサイボーグだ。鉄と肉で出来ていた。血は鉄の味、鉄の匂いがするというが、実際破壊され尽くし、血と肉と鉄のオブジェとなったガロンはどんな味がしたのか、どんな匂いを放っていたのか。錯乱した彼女は何を感じていたのか。
 半狂乱のアリスを取り押さえる者がいた。鎧だ。白く美しい芸術品の様な鎧の彼は力づくにアリスを抱え上げ、再び森のより奥へと走り出す。
「離せ!あの程度じゃ足りないぜトランプ!」
 トランプ、と呼ばれた鎧の腕の中で赤子のように暴れるアリス。しかし微動だにしないトランプ。鎧以外の外見が一切不明な彼は暴れる彼女をしてようやく口を開いた。
「足りなくとも、もう第2の追手が来ているはずだ。もたもたしている暇はない。それとアリス、貴様なんだか臆病風に吹かれているな。なにがあった」
 男か女か判断の難しい声色で語るトランプ。しかしその厚い音圧から、子どもの声とは考えにくい。
「……こわい………」
 トランプに問われ、少し前の自分の状態とかの悪魔のような男を思い出し、身震いするアリス。
 あの男が、その猟奇的な表情が、そして自分の肉や血の色が目に焼き付いて、こびりついて離れない。脳味噌がそれを忘れることを拒否しているかのような、恐ろしい光景が常に彼女の脳裏に張り付いている。目を閉じれば今でもあの常軌を逸した拷問の傷が開くようだ。
 お化けに怯える少女のように小刻みに震える彼女を抱え、そうか、とだけ優しく呟き出来る限り遠くへ、走り続ける鎧のトランプ。
「殺さなきゃ……逃げなきゃ……あの男を……あの男から……」
 アリスは震える声で呟き続ける。頭を抱え目を固く瞑り、言葉を吐き出す。
「あの男が……こわい……」



 北方の森へたどり着いたリョウが見たのは木端微塵に破壊され尽くした元々ガロンだったスクラップ。ただそれだけであった。

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