弁護士阪口徳雄の自由発言

裁判・社会活動の中で感じたことを発言します

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NHKと受信契約者との間の判決があると言われていた。
その判決が異議事件の裁判でNHKが証拠として提出してきた。

横浜地裁の平成11年(ワ)第4450号受信料義務不存在確認判決である。

この裁判は元契約者がNHKに対して
1 受信料支払義務のないことの確認
2 NHKは原告に1000円を払え
という趣旨の訴訟であった。

結論は原告が敗訴した。

第 1 主文
1 原告の請求を棄却する
2 訴訟費用は原告の負担とする

第2 原告の主張は次の通り。

1 (受信料支払義務不存在)

(1) 平成2年当時、原告が受信契約を締結していたが、平成2年3月8日東京地裁に受信料支払義務不存在確認請求事件(平成2年(ワ)第2266号事件)で、本件受信契約を解除する旨の意志を表示した。

(2) 平成12年1月19日のこの裁判において、本件受信契約を解除した。
よって、NHKへの受信料の支払義務がないという主張である。

2 (1000円の慰謝料請求)
原告のNHKへの1000万円の請求の根拠として、判決が整理した事実によると
原告は次のような主張した。

(1) NHKが平成11年12月1日午後7時のニュースで、「アトモ」は英語で「アトモスフイャ」の略である云々と放送した。しかし右の放送は正しいけれども誤りである。正しくは「英語では」云々と放送すべきである。何故なら「アトモ」の語源は、ギリシャ語であって、Atmos(気体)+Sphira(天体)であるからである。

(2) 原告はNHKに直ちに電話をかけ、右の誤りを指摘したところ、被告の担当者が「検討する」と返事をしたので、「必ず検討して下さい」と頼み、原告の姓名、職業、電話番号を告げて電話を切った。

(3) ところが、同日の「9時のニュース」においても「アトモ」について再び同じ内容の放送をした。そこで原告は再び電話し、別の担当者が電話に出て、「その話は聞いている。それを繰り返し放送したのは、当方が正しいと判断した結果だ。お前は酔っぱらっているだろう」と言って電話を切った

(4)原告は、被告の担当者の各行為により、多大な精神的苦痛を被ったがこの行為は不法行為にあたるというべきであり、右精神的苦痛に対する慰謝料の額は、1000円が相当である。

これに対して裁判所は次の通り判決した。

第3   理由

1  (受信料支払義務不存在について)

(1) 原告と被告との間において、平成2年当時、受信契約が締結されていたことは当事者間に争いがない

原告は被告に対し、平成2年3月8日(別事件の訴状送達の日)又は平成12年1月19日に右受信契約を解除する旨の意思表示をしたと主張する。

しかしながら、放送法、同施行規則及び受信規約の各規定によれば、被告の行う放送について、被告との間で、受信契約を締結した者は受信料を支払う義務があり(放送法32条等)、受信契約を終了するには、受信機(家庭用受信機、携帯用受信機、自動車用受信機、共同受信機等で、NHKのテレビジョン放送を受信することができる受信設備を言う。受信規約1条2項)を廃止することにより受信契約を要しないこととなったときに、放送受信章を添えてその旨被告放送局に届けることと定められている(放送法施行規則6条5号及び受信規約9条)。

即ち受信契約者は、受信機を設置したままで、受信契約を終了させることはできないこととされている。

 本件受信契約について、原告は単に、解除の意思表示をした旨の主張するのみであり、右の受信機を廃止したことなどについて、何ら主張、立証をしない。従って、原告の解除の意思表示は、受信契約終了の要件を具備しておらず、その効力を生じないというべきである。

(2) 仮に原告の解除の意思表示が受信規約による前記の廃止の届出と解する余地があるとしても、次の通りその効力がない

 すなわち、受信規約2条1項によれば、受信契約は世帯(住居および生計を共にする者の集まりをいう)ごとに行なうものと定められており、これによれば、世帯の構成員が受信機を設置した場合、それが同一住居内におけるものである限り、世帯の構成員の設置者や受信機の数に関わらず、世帯の構成員のいずれか一名が一つの受信契約を締結すれば足りることになる。

又一つの世帯においてはこれに属する同一住居内で受信機が交換されたり、廃棄されたりしても、当該住居内になおかつ別の受信機が設置されている限り、その所有関係に関わらず、既存の受信契約は存続することになる。換言すると、受信機が廃棄されるなどしても、同一世帯に属する一つの住居内に別の受信機が設置されている限り、受信機を廃止したとは言えず、受信契約終了の要件を欠くことになる。

 本件受信契約については、弁論の全趣旨(訴状の記載及び主張等)によれば、原告と生計を共にすると解される者の所有する受信機が原告の住居内に設置されていることが覗われるから、その廃止は前記の要件を欠き効力を生じない

2(不法行為について)
原告の主張する各事実についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
又仮に原告主張の各事実が認められるとしても、これをもって、直ちに不法行為が成立するとまでは言えない

3 よって、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文の通り判決する
    横浜地方裁判所第2民事部
     裁判官  市川 頼明
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この原告は奇妙な人だ。

平成2年に一度東京地裁に、受信料支払義務不存在確認請求事件(平成2年(ワ)第2266号事件)を提訴していた。その裁判がどうなったか不明だが、おそらく取り下げしたのであろう。それから、受信料を払っていなかったと思われる。

ところが、平成11年12月1日、午後の「7時のニュース」を見ていたのである。
だから、上記第1の「アトモ」は英語で「アトモスフイャ」の略である云々ということでNHKに電話をする。

平成2年に一度NHK相手に訴訟をしながら、その10年後に、NHKの放送内容にクレームをつけた上に、更にNHKに受信料支払義務不存在確認訴訟をしているのである。

裁判官から見ると、この原告は何故裁判をしてくるのか?
理解に苦しんだことだろう。原告に同情すべき理由は全くない。

法的にも全く主張・立証していない

どのような契約でも一度契約したら、それを解除するには『正当な理由』が要求される。ところが、この原告は、何故NHKとの受信契約を解除したのか、その解除理由を何ら主張していない。
これでは、最初から負けるつもりで裁判をしたとしか思われない。

その上、前記 第2 1 平成2年に契約を解除している=テレビは廃棄したと、言いながら、平成11年12月1日の夜の「7時のニュース」を見て、抗議しているのだから矛盾もはなはだしい。

おそらく、提訴段階でこれに気がついていたのかどうか知らないが、この矛盾をNHKに突かれ、苦しくなり、家族の世帯の者のテレビを見ていたなどと主張したのであろう。

これに対する裁判官の理由は、上記第3 1(2)の同一世帯の中でテレビがあれば、廃棄したことにならないという認定になったと思われる。

更に、「アトモ」は英語で「アトモスフイャ」の問題もあまり、NHKに慰謝料を請求する
正当な理由になるとも思われない。判決は、仮にこの事実があっても、不法行為に該当しないという論理も当然。

その結果、NHKの主張する内容を100%認めて、原告の請求を棄却した。

NHKが勝利した判決があるあるということを、受信料未払者、未契約者に言って受信料の支払いを請求していたらしい。

判決があれば、当然に出してくると思ったのに、出して来ないところから、本当に判決があるかどうか、弁護士間では、疑問だった。この判決では、恥ずかしくて出せなかったのだ。

しかし、この判決を軽く扱うことは出来ない。
NHKの受信契約を解除する場合は、テレビを廃棄することが要件とされているからだ。

NHKの受信契約を解除しようとすれば、テレビを廃棄するしか道がないというNHK受信規約は、民放テレビを見る権利・自由・楽しみを奪うことになる。

民放テレビを見る権利・自由・楽しみはNHKに付随して付与されている権利・自由ではない。
民放テレビを見る権利、自由・楽しみはNHKとの受信契約の「おかげ」「おまけ」ではないからだ。
ある一つの債務を免れるために、それと無関係の権利・自由・楽しみを奪うというNHK受信規約は
消費者にとって著しく不合理な約款ではないのか。

この点、この判例は全く考慮していない(というより原告が何も主張していない)
異議裁判では、このような受信者に一方的な不利益な条項、約款が有効かどうかが争点となろう。

同時に、この原告のように、NHKの受信料を払わないで、NHKのテレビを見て、その上、NHKに抗議するというやり方では、裁判官にはもちろん社会的にも支持されない。

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この判決を証拠としてNHKが提出せざるを得ないほど、受信料の支払い義務を巡る判例がないということは、これから、まっとうな論拠で争えば裁判所も門前払いで逃げ切ることはいつまでも許されない。債務不存在の提訴では、受信機の所有・占有がある限り裁判官は次々とNHK側に軍配を上げるでしょう。放送法及びその特別法・規則を法源とすると、受信機を持てば契約すべしの論拠を崩すことはできません。

2007/3/31(土) 午前 9:25 [ 豊橋の輪隣人 ]

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ではどうするか、総務大臣と争って不利益にならないマスコミ、例えば出版社がテレビを買って、ビルの玄関にテレビと次の言葉をディスプレイする。『無駄な買い物をしてしまった。「いいとも」を見たいだけなのに、NHKにお金を払わなければテレビを見てはいけないなんて!』お呼びでなかった。これまた失礼しました。

2007/3/31(土) 午前 9:50 [ 豊橋の輪隣人 ]

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続きです。この出版社は一般放送を一切受信せずに、自社の出版物のビデオをビルの入口で流し続ける。そこへ、NHKの地域スタッフが会社の総務へ受信契約を迫りに来る。さあ、チャンス到来だ。やりとりを全部記録して自社の出版物で記事にする。次に、放送法の違法性を争点に提訴する。「単に、自社の商品を宣伝するために受信機を利用してビデオを映しただけなのに、契約をする必要があるとは民放の契約の自由・私的自治の原則と違うやんか?」「なんで、ビデオの映像を流すだけ利用しとるのにNHKはんと契約せんとあかんねん?」

2007/3/31(土) 午前 10:08 [ 豊橋の輪隣人 ]

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aiukeirin45 さん。おもしろいアイデアですね。 督促手続きの第1弾の事件で異議事件が継続している。第2弾が行なわれるという。ここでも誰かが異議を言い、訴訟が継続する。大阪でも督促手続きが行なわれれば、大阪地裁でも異議事件がかかる。裁判官によっては、民放テレビを見る権利自由を奪い得ないという判決をする人もでるだろう。そのような判決が1件でもでると、これは大変。だから受信料義務化法案と結びつく。義務化になれば、異議事件は争う価値なし

2007/3/31(土) 午前 10:21 [ abc*de*6 ]

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とにもかくにも我が国には、現実とはかけ離れた・・陳腐化した法律が多すぎます.本件の放送法はその代表的なものといえるでしょう.そんな古びたカビの生えた法律を基に裁かれる国民は被害者そのものです.日本は本当に自由主義国家なのでしょうか?

2007/3/31(土) 午前 10:32 [ kes*r*sera2* ]

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keserasera22 さん。貴方のコメントの通りですね。放送法は戦後(1950年)に出来た法律。当時はラジオに対する契約義務だけ。それから、テレビが出来、ラジオは無料になった。これほど民放テレビが拡大する時代の法律ではないことはたしか。

2007/3/31(土) 午前 10:48 [ abc*de*6 ]

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[ c_debeso ]さん。私は、NHKに関する問題であれば何でも批判する立場でもありません。NHKのトップが、安倍らの番組介入問題に不誠実な態度をとっていることに我慢がならずNHK問題に関心を持ち初めました。ところが、NHKが反省せず、督促手続きに入るので、このブログを開始した次第。そのために、個人情報消去に関する問題は専門外。何が妥当、何が不当か直ちに判断が出来かねます。貴方の個人情報消去問題をこのブログに引用するとすれば、勉強しなければなりません。もうしわけありませんが、お許し下さい。

2007/3/31(土) 午後 0:14 [ abc*de*6 ]

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abc5def6さん、NHKに関して生の資料を提示いただきありがとうございます。いよいよ督促手続きの舞台は大阪に広がってきました。これからも、勇気ある、大組織と法廷で戦う個人へ知的支援をお願いします。

2007/3/31(土) 午後 0:26 [ 豊橋の輪隣人 ]

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リンクの許可をいただきました「NHK受信料制度と裏事情」の管理人です。 訴訟の記録でしたらこの件以外にあと3件存在しております。 いずれもNHKの情報公開制度を使って開示されたものです。 何かの参考になれば。 http://www.geocities.jp/tokkouyarou/sosyou.html

2007/4/1(日) 午前 2:09 [ tok*o*ya*ou ]

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tokkouyarou さん。情報の提供ありがとう。 合計4件もあったのですね。あとの3件も時間のあるときに解説します。

2007/4/1(日) 午後 7:45 [ abc*de*6 ]

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坂口様へ 無理なお願いを致しまして申し訳ありませんでした。もう少し一人で戦って見ます。

2007/4/2(月) 午前 9:47 [ c_d*b*so ]

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やはり裁判官ですら間違えるのですね。
「受信機」の定義を法律用語でなくNHK用語を使うから間違えるのです。
受信機は廃止できません。
受信設備の運用は廃止できます。
通信設備の設置とは、「電気通信を行う主体が継続的に支配・管理すること」by総務省

2016/4/24(日) 午前 9:00 [ CorteManDera ]


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