弁護士阪口徳雄の自由発言

裁判・社会活動の中で感じたことを発言します

公益通報

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公益通報者保護法が施行されてからの3年間の総括と2011年には見直しがおこなわれる。その改正の方向である
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1 公益通報者(内部告発)保護法の制定の社会的背景

(1)時代的背景(略)
本法が2004年6月国会で制定され、2006年4月から施行された。

(2) 公益通報(内部告発)は社会から期待、奨励される行為であるという価値観がこの法律を作った根本的な背景である。

内部告発を「密告」「タレコミ」などと表現する人が多い。この言葉にはプラスイメージがない。これらの言葉には、告発者が自ら属する組織を告発することへの非難が含まれている。「身内の恥を外部に出すな」という自らの共同体を守るという倫理観であった。組織を支配する側=権力を持つ者が、自己に都合の悪い事情を、外部に公表されることを防止するために作られた倫理観でもあった。

その倫理に普通の市民や労働者も毒されてきた。

組織を支配する側=権力を持つ者が社会に対して違法・不正行為を隠れて行ってきた。このような社会における内部告発は、むしろ組織を支配する側=権力を持つ者に不利な事実を告発し、多くの市民の生命、身体、健康、財産、環境等を守ろうとするものになった。これは多くの被害を受ける者からは歓迎され、奨励されこそすれ、非難される行為ではない。三菱自動車、雪印、日本ハムその他の内部告発がどれだけ多くの被害をうける国民の利益を守ることになったかはかりしれない。
その結果、本法律において、内部告発を公益通報と呼び「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」(第1条)を目的として定義された法律の所以である。

2 本法の枠組みと問題点(略)

3  本法律の効果

以上のマスコミなどへの外部通報に厳しい制限が設けられたが、検討委員会での激しい討論、国会での追及、附帯決議などもあり、従来判例基準で保護されている要件を決して狭めるものでないという確認規定などが追加されて、制定された。その結果、今までのところは、この法律は次のような効果を発揮している

(1) 国民に対して内部告発が保護されるというアナウンス効果の発揮である。

法的には保護される範囲は各国の公益通報者保護法より極めて狭い。しかし、初めての内部告発者が保護されるという一般法ができたことによって、内部告発は保護されるというアナウンス効果が広く国民に広がったことである。その結果、公益通報者などを解雇などの不利益処分をしても良いという規範が表向きは公前と発言できなくなってきた。

(2)行政機関の担当者に対する意識改革である。

本法は上記の通り、公益通報において通報対象事実を受付ける「処分又は勧告等をする権限を有する行政機関」の果たす役割を大きい法律として作られた。行政機関が、受付けた通報に適正に対処する法的義務を課したからである。この法律以前は、行政機関に対して公益通報があったにもかかわらず、当機関がそれを放置したり、その通報をたらい回しにしたり、適正に処理しなかったりしても、それほど問題にされなかった。しかし法律施行後はそれが許されない法的風土を作った。この効果はおおきい。
公益通報支援センターもこの法律が制定された2004年6月4日に、行政機関の役割の重大性及び公益通報の受付に関する要請を行った。http://www006.upp.so-net.ne.jp/pisa/2004/20040614.html

4 最近の内部告発の特徴

(1)最近、偽装表示事件などの内部告発が増えたのは労働者の意識の変化が原因。

内部告発が増えたのは、本法律効果も一部あるが、それだけに矮小化することは最近の事象を正確には見ていない。

告発が増えた一番の原因は、労働者の意識の変化=会社と従業員が一体だという意識が雇用形態の変化により喪失したことが一番であろう。

この意識変化には終身雇用制度の崩壊がある。不況になれば簡単に正規の労働者でもリストラする企業風土の変化である。終身雇用が保障されていると、違法・不正行為を目前にしていても、その告発によって、自分の勤務先が倒産してしまうとか、仮に倒産しなくても、一生その会社に勤務するとなると、他の人間との関係が不味くなる。そうすると告発する従業員にもためらいがで、告発は極端に少なくなる。

しかし、会社が一生労働者を雇用してくれないとなると、その会社の労働者も当然に会社への「愛社精神」が喪失する。

第2は労働者の雇用形態の変化である。派遣社員とか、期間雇用社員、アルバイトなどの不安定雇用労働者の増化である。企業に一生、雇用される保障がない代わりに、一生企業に拘束されない労働者達の増化が「愛社精神」が正社員ほど強くない点が公益通報の増えている要因の一つである。

(2) 内部告発は流行する傾向がある。

公益通報(内部告発)は流行する傾向がある。マスコミで報道されるとそれが拡大する。
企業・団体の中では不正・違法行為が日常的に行っている企業・団体も多い。それも相当長年継続して行われている。

一般的な従業員は、この現象をみておかしいなと日常思っている。しかし、上司や同僚もそれを見て見ぬふりをしている。そうなると、その行為の違法性や不当性に確信が持てない場合が生じている。ところが、偽装事件などが、マスコミで報道されると、これらの人に「やはり違法なのだ」と法的確信を与える場合が多い。同時に何処に通報するか、報道はそのような場合の行政機関の通報先を教えてくれる。その連鎖である。

(3) 中小企業の内部告発が多く大企業・中央省庁が少ない。

最近の内部告発による食品の偽装事件などは中小企業が圧倒的である。大企業、中央省庁などの公務員に関する内部告発は比較的少ない。大企業、中央省庁などには違法、不正行為がなくなったわけではない。
談合、カルテルなどの報道されている事件を見ると20年、30年前から会社ぐるみで行われてきた。

中央省庁の税金の無駄使いなども、この1年とか2年前に発生したものではない。

大企業、中央省庁などでの従業員や職員の意識改革が「遅れている」ことを証明している。先に述べた終身雇用の反映であろう。これらの組織の公益通報者保護は特別に検討すべき課題である。

5 公益通報者保護法の改正の方向

公益通報者保護法は施行後5年後=2011年4月までには見なおすことになっている。
あと2年余があるが、この3年間の間に見えた公益通報について、若干の提言をする。

(1)公益通報は社会全体にとって大いにプラスであるということをまず確認すべきである。

法案の制定過程で、財界人や政治家達は「密告社会を作る」という時代錯誤の発言をし、この立法に制限を加えようとした。それがマスコミへの通報の制限となった。しかし、この3年間に明らかになった公益通報は社会にとって大いに役立ったことは明白である。公益通報者の保護は社会的に有用なシステムであり、これをもっと拡大、充実すべきことであることが確認できる。
その点で、公益通報者保護法の条文の冒頭に「公益通報(内部告発)は社会から期待、奨励される行為である」と位置づけることが必要である。

(2) 法3条3号のマスコミへの公益通報の制限を全文撤廃すべきである。

この間、マスコミへの公益通報は行政機関への通報と同じように重要な役割を果たしてきた。何らマスコミへの通報を制限すべき理由はない。マスコミへの通報によって、事業者が損害を受けた事例もないからでる。
最低限3条3号ニを次の通り修正すべきである(以下略)

(3) 公益通報をした者を不利益取扱した事業者や公益通報を妨害した者への刑事罰や行政罰の導入を新設すべきである。

現行法は事業者と労働者の「民事ルール」を決めただけであり、仮に事業者が公益通報した労働者を不利益取扱いしても「原状に回復」すれば足り、何らの不利益を受けない。もちろん公益通報をしようとする者を妨害しても何ら処分されない。

愛媛県警は、警察の裏金を内部告発した現職警官を「不利益配転」をした。この配転は公平委員会の勧告により「撤回」された。このような不利益処置に対して現職警官が県を相手に損害賠償の請求をした。一審も二審も原告が勝訴し100万円の慰謝料請求が認められた。しかしこのような不利益配転をした県警の幹部連中は何ら処分も受けていない。しかもこの公益通報を妨害しようとした県警の幹部も何ら処分されていない。法を守るべき県警の幹部が公益通報者保護法に違反した場合には、懲役何年とか罰金を科す法律にする必要があろう。そうでなければ、悪質な者はやりたい放題である。刑事罰や事業者への行政罰などの条文の導入が望まれる。

(4) 税の無駄使いに関する公益通報者には報酬を与えるべきである。

公益通報は自己の利益の為ではなく、多くの消費者や国民の為にするものである。特に税金の無駄使いに関する内部告発は国家、社会、納税者の為である。
アメリカに面白い法律がある。税金の無駄使いを内部告発した人に対して、その人が裁判で提訴でき、勝訴して税金の返還できた分の10%から30%をその個人に報酬を払うという法律である。

1863年にリンカーンが武器の不正請求に関して制定した不正請求禁止法の1986年の改正法。連邦法である。カリフォルニヤ、フロリダ、ハワイ、テキサス、ワシントンDCなど多くの州法にも同じ内容の法律があると報告されている。
朝日新聞の奥山記者の『内部告発の力』の164Pに『キイタム訴訟』という制度で解説もされている。その本には回復した金額の15%から30%とある。

大阪の弁護士有志が、公益通報支援センターで、内部告発の支援活動に取り組んだ。その中の約3分の1は、公金の無駄使いに関する通報だった。
○ 政府の省庁の役人が公金の無駄使いをしているケース。(官製談合、裏金など)
○ 国の補助金、助成金の交付先(企業、団体など)が、虚偽の申告をして交付を受けているケースなどである。
税金の無駄使いに関する公益通報に限って、告発者に何らかの報酬を与える条文を新設すべきであろう。

(5) その他、公益通報者保護法に関する改正
通報対象事実には、政治とカネが関係する、国会議員らの「公職選挙法」「政治資金規正法」「脱税」などが除外されている。
当初の法案にこれらの法律まで入れると国会議員が反対するからであった。5年後の見なおしには、政治とカネ問題を除外すべきき理由はなくなった。

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内部告発者の実名を会社側に通知した弁護士は戒告処分になったそうです。処分が軽いような気がするのは私だけでしょうか。
実名を会社へ通知された社員はこれから先、針のむしろのような状態になるだろう。それを考えると軽いような。
http://www.so-net.ne.jp/news/cgi-bin/article.cgi?gid=soc&aid=20090311-570-OYT1T00696

2009/3/12(木) 午前 0:27 [ tok*o*ya*ou ]

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「 tok*o*ya*ou ]さん
私もそのように思います。懲戒委員会の事実認定が、実名の通報について本人が明らかに抗議をしなかったから同意があったような報道です。本人に十分説明をしなかったという点で懲戒になっていると報道されていますから、事実認定に弁護士の主張と本人の主張とが食い違い、どうやら、弁護士の言い分が認めたられた結果のようですね。
新聞記事ですから、どこまで正確か分かりませんが。

2009/3/12(木) 午後 8:35 [ abc*de*6 ]

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