弁護士阪口徳雄の自由発言

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≪蓮池透さんの手記「拉致」≫

総務大臣がNHKに命令、要請放送を毎年している。その命令・要請が憲法違反であるとする裁判が今、大阪高裁に係属している。この裁判の過程で、蓮池透さんの「拉致」(かもがわ出版、1050円)があることを弁護団の一人が探してきてくれた。 拉致被害者の兄であり、かつて「家族会」の事務局長を務めた蓮池透さんの衝撃的な手記である。

拉致問題を元事務局長の立場からその原因と問題点を分かりやすく、書いている。

蓮池さんの主張によると、行き詰まった原因の一つに「拉致問題というのを単なる国交正常化の障害物のようにだけ見なして、手っ取り早くさっさと終わらせてしまおうとする当時の政府、外務省のスタンスにあったこと」を厳しく批判している。

同時に、北朝鮮との交渉の行き詰まりは、「拉致被害者の救出の運動を、北朝鮮の体制打倒につなげたりする運動」にもあったとして、その支援運動にも批判している。

蓮池さんの手記の一部を引用する。

≪ 「小泉首相の最初の訪朝から七年近くがたとうとしています。この間、北朝鮮が拉致を認め、5人の被害者と家族が帰国できたことは、大きな成果です。けれども、「8人死亡」とされた方及びそれ以外にもいる政府認定の被害者の問題は、解決のめどがたたないままです。このままいたずらに時間が過ぎるのを待つことはできません。膠着した事態を、何とかして動かさなければなりません。」51頁≫
  
と問題認識から出発して 政府が「拉致問題の解決」ということに対し、何らの具体的方針を持っていないことを批判している。

≪「拉致問題の解決」というけれど、何をもって解決というのか、その点がはっきりしていないのです。アメリカが北朝鮮に対するテロ支援国家の指定を解除する直前、ヒル国務次官補(当時)が日本に来て、政府に尋ねました。「拉致問題の解決とは何か。進展とは何か」と。政府はまともに答えられませんでした。
 
よく、「全員を取り戻すのだ」という決意が聞かれます。では、その全員とは何人なのか。政府が拉致と認定した12人なのでしょうか。政府は、それ以外にも、北朝鮮に拉致された可能性を排除できない人(特定失踪者)がいるという立場ですから、 31人には限らないのでしょう。

けれども、ではそれが何人なのか、誰もわからない。政府がわからないだけでなく、「家族会」も「救う会」も、もちろん私もわからない。そこで、全員を取り戻すのだと言っても、終わりがないのです。日本の中に行方不明者がいる限り終わりようがありません。

・・・・・ したがって、何をもって解決というのか、きちんと政府が見解を出さないといけないと思うのです。もうその時期になっていると思います。」≫38頁以下

 そして安倍総理の「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」という命題に対しても次のごとく批判している。

≪私は段階的にやらなければならないという立場です。あえて言わせていただければ、北朝鮮に拉致されたと政府に認定されている人たちの問題と、それ以外の人たちというのは、言葉が適切かどうかわかりませんが、少し性格が違うと思います。

まず、拉致されたと政府が認定している人の問題を解決するというのが、当然のことだと思います。そうして、その次の段階に進むべきです。」

「安倍氏も、総理になる以前は、段階論をとっていたのです。「まず五人の家族を返せ。それをクリアしたら国交正常化交渉に入り、その交渉の中で残りの方々の問題を扱っていく」と言っていました。ところがその後、「拉致問題の解決なくして、国交正常化なし」に変わってしまいました。安倍氏が言った「全員生存を前提にする」「平壌宣言にのっとり国交正常化をめざす」という意味が、私にはよくわかりません。矛盾しています。

・ また、仮に北朝鮮が新たな調査結果を出してきて、「このように亡くなったんだ」と説明してきたとして、それが100%事実であっても、日本の世論は「そんなはずはない。けしからん」という風になるでしょう。北朝鮮当局もそれがわかっているから、思考停止に陥っています。事態の膠着が世論の過激化を促し、過激になった世論が目的を見失って、さらに過激化するという悪循環です。」≫40頁以下

・あるテレビ放送局についての批判である。

≪政府が、拉致被害者の顔色ばかり見て、外交上のイニシアチブをとらないことは、すでに指摘しました。被害者を気にしすぎるという点では、マスコミも同じでしょう。被害者家族が怒るようなことを報道したら、世論を敵に回してしまうので、タブーにしているような感じがします。つまり、被害者家族の言動は、サンクチュアリになってしまっているのです。

ある放送局も、結局は、家族の言っていることを、ただ延々とたれ流しするだけです。テロ支援国家指定解除になったときも、特集番組を組み、家族の意見を前面に出して、これで一つのカードがなくなったのだ、解決は遠のいたのだと言うだけです。結局、制裁で強硬にやっていれば解決するのだという報道を、マスコミは続けてきたわけです。制裁すれば何とかなるのだと、視聴者にも家族にも、見果てぬ夢を与えてきたのです。

・・・・その後、政府が家族の顔色をうかがうようになったからといって、何のポリシーもなく、「家族会」や、「救う会」がやっていることやその主張を、何の論評もなしに延々と流すというのは、言論機関としてはどうなのでしょうか。少なくとも現在、そういう時期ではないと思うのです。」88頁以下
・ その結果、「政府は家族会の言うとおりしているのだから被害者が帰ってこなくても文句を言われる筋合いではないと開き直っている」と批判している。

「もっと経済制裁を強めてほしいというのは、もともと「家族会」や「救う会」が要求してきたことです。したがって、政府が制裁路線でやってきたのは、良く言えば、政府が「家族会」や「救う会」を大切にしてきたということです。 一方、悪く言えば、家族の言うことだけをやっていればいいのだと、安易に考えてきたのではないかとも思うのです。政府の方々と話していると、家族の意向と違った言動をとると、世論からバッシングがくるのではないか、それはまずいぞという雰囲気を感じます。しかし、「家族会」の意向が、そのまま日本の世論ではありません。

・・・ところが、いまの政府のスタンスは、家族の言う通りにしているのだから、批判してもらっては困るという程度のように感じます。求めに応じて制栽をしているのだから、被害者が帰ってこなくても、文旬を言われる筋合いはありませんと思っているのではないでしょうか。それは、自分たちの無為無策を、家族を口実にして棚上げしているようなものです。≫55頁以下

  この手記は2002年の小泉訪朝からやや時系列的に書いている。しかしそれは単なる回想や記録のためではない。この経過を叙述するなかで、日本側(政府も被害者家族の団体もふくめて)の対応のどこにまずさがあったのかをえぐり出している。

マスコミには報道されていない事実が非常に多く記載され、一読する価値のある本である。

早速、NHKの上記裁判にも証拠として提出した。    

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