弁護士阪口徳雄の自由発言

裁判・社会活動の中で感じたことを発言します

司法・裁判

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イメージ 1最高裁の暗闘―少数意見が時代を切り開く
(山口進/宮地ゆう著)朝日新聞出版780円
 
最高裁判決は合議の秘密というベールに包まれ、裁判官は判決に至る過程を殆ど語らない。その結果、最高裁の判決は一般的には事件の関係者、学者、関連事件の弁護士以外は殆ど読んでも無味乾燥である。
 
著者らは、この厚い合議の秘密のベールをこじ開け、最高裁判決に至る過程を取材し、どの裁判官がどのような意見を述べ、時には調査官との意見の違いを克服するなどして、少数意見が多数意見に変わったかを明らかにした、初めての著書である。
 
私の知る限り日本の最高裁判決についてこれほど合議の秘密を取材して最高裁判決を解明した著書は知らない。
 
私も最高裁の判決の変わり様には関心を持っていた。
最高裁の方が柔軟か?(司法・裁判3)
最高裁で高裁の判決が破棄されるのが多いことにビックリした。
今年1月から3月10日までに民事・行政事件で合計17件も破棄されていたとして判決内容を解説した。
 
 判決も人次第(司法・裁判15)
最高裁の判決も誰が担当するかにより変わるものだ。
1/24の朝日新聞の31面に最高裁裁判官だった滝井繁男さんのインタビューが掲載されていた。取材は東京の司法記者クラブの山口進記者。一読の価値あり。
 
しかし無原則に評価もできないことも指摘した
 最高裁の無慈悲な判決とその裁判官の横顔(司法・裁判22)
 
最高裁の暗闘―少数意見が時代を切り開く」の一読をお勧めする。
 
目次に沿って説明する。 
第1章      最後の砦 揺れる死刑  
 
第3小法廷が山口県光市の母子殺害事件の広島高裁の無期懲役を検察官が上告したが当初は、2対2で意見が分かれた。
 
退官前の濱田邦夫(弁護士出身)が裁判長であった。この第3小法廷が調査官に両方(高裁の無期懲役判決を上告棄却するか破棄差戻)かの判決文を作成させ、どちらが世間に説得力があるかと議論した。  
 
最終的には「特にくむべき事情が無い限り、死刑の選択をするほかない」とし破棄差し戻した。永山事件では「極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものと言わなければならない」から「死刑の選択をするほかなし」の要件に変わったという。
 
 
その他の法廷の裁判官の死刑を巡る判決と比べて取材しており非常に興味深い。
 
第2章      地殻変動 選挙権が認められるまで
 
2005年9月外国に居住する日本国民の選挙権を認めた最高裁大法廷判決が生まれる過程を取材した内容を記載している。
 
私はこの最高裁判決を見て、「最高裁は変わってきた」という印象を強く持った。
第一に立法の不作為を認めたことだ。今までの判例は立法裁量という国会のサボタジューを合法化する理屈が裁判所を支配しでいたからだ。
 
第二に、行政事件訴訟法上の「確認訴訟」も認めたことだ。最高裁は以前に確認訴訟は認められる場合を意識的に狭く解する判決を出した。その結果、「行政事件における確認訴訟」は有名無実化していた。
 この二重の厚い厚い壁をひっくり返してしまったことに当時、非常な驚きを覚えた。  
 
ところでこの事件の山口記者らの取材結果を読み再度驚いた。  
 
当初はこの事件は第2小法廷に係属した。最高裁調査官の報告は「上告棄却相当」であった。しかしこの事件の主任は福田博(外交官出身)で、海外経験から「日本は一流の民主主義国家でない」という批判を受け、「選挙権の不平等は2世、3世議員を生み出す」土壌となっているという原体験から調査官に「知恵をもっと出せ」と迫った。第2小法廷の福田、滝井、北川裁判官も同じ意見であったのか、大法廷に回付することを決定した。
 
当時の町田長官も違憲説に賛成し、しかも司法改革の流れとも合致し、画期的な最高裁大法廷判決になった。
民事裁判官の上田豊三と社会保険長の長官だった横尾和子は国会の裁量権を侵害するとして反対意見になったという。
 
外交官出身最高裁判事などは国家政策を擁護するばかりの御用判事かと思っていた。しかしこの判決の原動力に、福田博裁判官の役割が評価されている。レヤーケースもあることにも驚いた。
 
この最高裁判決を引用する
 
第3章      正統と異端 「藤山判決」を追って
 
この章では2000年から2004年まで東京地裁の行政部の藤山雅行裁判長の「司法積極主義」が最高裁にどのような影響を与えたかを検証している興味深い内容である。
この内容は以下の私のブログに触れたので省略する。
最高裁、変化の兆しか(司法・裁判7)
 
第4章      伏流水 国籍法違憲判決の舞台裏
 
国籍法違憲の最高裁大法廷に至る判決を内側から取材した内容で興味深い。
 
才口裁判官が主導したようであるが、彼は最高裁時代にまともな判決を書いていない弁護士出身の判事の一人と思っていた。
前記外交官出身の最高裁判事と同様、隠れた一面もあったのだ。
 
1 国籍法3条1項が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正のあった)場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていることによって,認知されたにとどまる子と準正のあった子との間に日本国籍の取得に関する区別を生じさせていることは,遅くとも上告人らが国籍取得届を提出した平成17年当時において,憲法14条1項に違反していたものである。
2 日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子は,国籍法3条1項所定の国籍取得の要件のうち,日本国籍の取得に関して憲法14条1項に違反する区別を生じさせている部分,すなわち父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分(準正要件)を除いた要件が満たされるときは,国籍法3条1項に基づいて日本国籍を取得する。

(1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。)
 
米国編 リリーの訴え、判事の怒り。そしてオバマが署名した
 
アメリカアラバマ州の、りりーという女性労働者が賃金差別を受けていることが判明したので連邦地方裁判所に訴えた。地裁は原告りりーの主張を一部認めた。しかし連邦最高裁は公民権法に「最初の差別があってから180日以内に提訴しなくてはならない」という条文に違反するので訴えが遅すぎたとして5対4の僅少差で原告を敗訴させた。
 
ところが、反対意見のルース・ギンズバーク女性判事は「賃金差別を180日以内に知ることは不可能。差別は長年の蓄積で現れることもある。最高裁はこれまで公民権法に対して歪曲した法解釈をしてきた。今回の最高裁の決定も本来法が目指職場の差別撤廃とは相いれない」「連邦議会はこの状態を変える権限を持っている」として自らの小数意見を法廷で読み上げた。
 
オババはこの小数意見を早速取り入れ法案の準備に着手し、2009年1月大統領に就任9日目にこの法案に署名した。
小数意見であっても社会、法律を変える感動的なドラマというより現実の一例である。
 
終章 最高裁はどこへ  
この章では最高裁裁判官がどう選ばれるかを問題提起している。 
15人のうち6人は裁判官出身、うち事務総局経験者が殆ど。これからの時代には裁判実務を経験した裁判官より、広く多様な立法、行政経験もした裁判官も有用と述べている。
 
弁護士会推薦が4名。弁護士会推薦は東京弁護士会、第2東京弁護士会、第1東京弁護士会、大阪弁護士会の『株』となっている実態が述べられている。
大阪弁護士会では最高裁の判事推薦方法は17年ほど前は、大阪弁護士会の会長経験者らが「あの人は良いか」程度で推薦していた。時には義理と人情で選ばれる傾向が大いにあり、多数意見に組する判事ばかりを大阪弁護士会が推薦するとよく揶揄された。
 
そのような中で、最高裁判事の推薦に疑問を持つ当時の司法問題対策委員会で、「最高裁判事推薦検討PT」を作った。私もこのPTの責任者に入り、最高裁の元判事、日弁連会長、大阪弁護士会の会長経験者からヒヤリングをして1994年に次のような推薦制度に提言した。
 
  最高裁判事推薦委員会を設置する。委員の数は30名とする。
  その委員会に最高裁の候補者をよび意見を述べて貰い質問をする
*最高裁判事になって何をするのか
*今までの最高裁判決の問題点はどこにあると考えるか
  などを聞き質問する。候補者はそれに答える。委員30名であるが、い  わば公聴会である。
  最後に無記名投票をして30名中20名以上の賛成がないと推薦しない。
大阪弁護士会ではこの制度のあと河合伸一、滝井繁男、田原睦夫が順次推薦され最高裁判事になっている。大阪弁護士会のよしみで評価するわけではないが、かなり最高裁で頑張っている。
 
日弁連の推薦方法も相当改善されているが、順番があり単位会の「株」制度があり、単位会で推薦されてきた人物を日弁連でNOとは言いにくいようだ。
 
 わずか2件しか個別意見を書かなかった中川了滋(第1東京弁護士会元会長)も日弁連の最高裁判事の推薦のあり方の一例として問題とされているが、第1弁護士会などは旧態同然の推薦方法をしているためであろうか。
 
裁判所から選ぶ6名の判事、検察庁からの2名、弁護会の4名、行政官からの2名、学者1名の「株」制度を改め、公平、中立な30名から50名前後の学者などから構成される「最高裁判事推薦委員会」を作りそこで推薦された人から内閣が選ぶべきだと思うがこの改革は、全くさぼられている。
 
最後にこの著者らにお願いしたい。
 
最高裁判事や関係者は自分達が関与した判決について「話さない」ということを「美徳」と考えている人種達によくぞここまで取材し明らかにできたと驚いている。おそらく最高裁判決を内部から取材して書いた歴史的な著作となろう。
 
 アメリカの最高裁のこれこそ本当の「暗闘」を書いた「ブレザレンーアメリカの最高裁の男たち」ボブ・ウッドワード&スコット・アームストロング中村保男訳がある。(1981年3月発行。株式会社テイビーエス・ブリタニカ出版)
 
1969年から1976年の7年間のアメリカ最高裁判決の内幕を詳細に取材して書いた本であり、この本を読んだ時はアメリカの最高裁判事の積極性には驚かされた。というよりショックを受けた。日本の顔の見えない最高裁判事とあまりにも違うからだった。
 
この著者らは、「最高裁裁判官同士が部内でやり取りした書簡、会議で取ったメモ、未発表の意見草稿など数千頁に及ぶ資料」を入手し詳細にこの7年間の最高裁判決を取材して書いている。
 
山口進/宮地ゆう記者さん
 
次は「ボブ・ウッドワード/スコット・アームストロング」に負けないような日本の最高裁の暗闘を書いて貰いたいものだ。
 

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阪口徳雄先生,こんばんは。

なかなか興味深い内容です。

藤山雅行裁判長は,東京地裁民事3部にいらっしゃって,画期的な判決を出していらっしゃいます。お会いしたことはありませんが,非常に尊敬できる裁判官のお一人です。

2011/1/27(木) 午後 6:22 [ - ]

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「無職のくずの瓦版屋」さん
そうです。藤山雅行裁判長のような方が各地裁の行政事件を担当すれば、日本の司法も「尊敬」されるようになるのですがね。しかし残念ながらかなりの多くの裁判官は現状追随傾向が強いです。弁護士もその責任の一端がありますが。

2011/1/29(土) 午後 0:34 [ abc*de*6 ]

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裁判官評価ネットMLから来ました。
是非読みたいです。
ご紹介ありがとうございます。
ところで、最近、ブログでの反応はどうですか?
最近は、Twitterからブログの更新を紹介する、というのがはやっているようですよ。
阪口先生、Twitterはされないですか?
弁護士菊元成典

2011/1/29(土) 午後 2:34 [ kik*r*ge*011 ]

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弁護士さんでも裁判所は理解不能な面があるんですね。
裁判所から登記関係訴訟は穏便にと訴状に書く訴訟費用は被告負担から原告負担にして直してほしいと言われました。
趣旨を理解しかね、個人的には被告からの問い合わせというか苦情があった時の裁判所の自己保身ではないかと感じました。

2011/4/21(木) 午前 9:18 [ war*ga*i75* ]


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