弁護士阪口徳雄の自由発言

裁判・社会活動の中で感じたことを発言します

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≪35年目の証言「平賀書簡・長沼事件」≫

この平賀・長沼事件とは

【日本で唯一「自衛隊憲法違反」の判決(73年9月)を下した札幌地裁の福島重雄裁判長に、1969年、同地裁の平賀健太所長が憲法判断に触れないよう事前に手紙(平賀書簡)を出し裁判内容に干渉した事件である。

これは憲法76条2項の「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法と法律のみに拘束される」と身分保障された「裁判官の独立」を侵した事件だった】

平賀書簡事件は1969年9月に報道された。私などは地方の裁判所で、のんびりと司法修習生生活を楽しんでいた。

裁判官の独立が憲法で保障されていることが明白なのに、馬鹿な所長=「変わり者所長」という位の認識しかなかった。

このような牧歌的な時代的背景の中で、司法修習生として平賀書簡問題を見ていた者にとっては今回、この事件の当事者であった、福島裁判長がその日記を基にその真実を語ったことは極めて衝撃的だった。

*平賀所長が福島裁判長に日頃から、自宅に呼び、長沼事件を「慎重に審理されたい」と要請していた事実

*平賀書簡を巡る札幌地裁の裁判官会議の模様

*そのあとの飯守の反撃などを巡る当時の青年法律家所属の裁判官の中の意識など

*佐藤総理が石田和外長官を選んだ経緯など・・・

*当時、朝日新聞、毎日新聞社説が最高裁に迎合し、裁判官の公平らしさ論がどれだけ
現場の裁判官を苦しめたか・・・・

平賀所長は変わり者ではなかった。

平賀所長は、当時の佐藤内閣、自民党治安・対策族議員、石田和外最高裁長官、右翼などの「どす黒い動き」と連動していたのだった。

「どす黒い動き」を、司法研修所で知るのは、1970年4月に我々の1年先輩の司法修習生(22期)が「青年法律家協会」に加盟していたことを理由に、裁判官の採用を拒否された事件が起こったときだった。「これはただ事ではない」、どす黒い動きが裁判所の中で始まったと「危機感」抱いた。当時の22期の裁判官教官はこの背景には「自民党が選挙で300議席とったからだ」と語ったと伝えられた。

我々23期生も、この司法の危機の中の、「どす黒い動き」に巻き込まれた。

今回の「平賀書簡・長沼事件」は、現場で当時、解らなかった衝撃的事実の「証言」には驚いた。

 この札幌地裁の裁判は結果として二審の札幌高裁は保安林解除はダムの代替え施設で補填され、自衛隊の違憲判断には高度な政治判断を要する国家行為は極めて明白でない限り司法の範囲外と、所謂「統治行為論」で判断を避けた。

更に最高裁では住民側に訴えの利益無しと門前払いで棄却し、自衛隊の憲法判断には触れなかった。その後、各裁判所はこの「統治行為論」を楯に憲法判断を避け「憲法の番人」を放棄してきた。

 当時、この「平賀書簡」は裁判官の独立を侵した違憲行為であると批判を浴びたが、弾劾裁判は裁判官の独立を侵した平賀所長の「不訴追」に対し、事実を公表し守秘義務違反と福島判事の方が「訴追猶予」と罪が重いと判断された。

福島裁判官は、当時は優秀な裁判官であったが、最高裁は、この判決後、福島裁判官を、東京地裁の手形部、家庭裁判所、福井家庭裁判所などに「左遷」し「そこまで露骨に差別するか」と思わせるほどの差別人事を行った。

福島さんだけでなく、他の青年法律家協会に加盟していた裁判官達に最高裁は「任地差別」「昇格差別」「給料差別」など不公平人事を行い、裁判所に自由がなくなった。

日本の司法はこの事件を契機に冬の時代に入り、四半世紀が失われた。

この冬の時代への反撃は長沼事件の10年後になってやっと、これらの裁判官の不公平人事、判決統制の動きを体系的に批判活動を開始した。

官僚司法の打破は簡単ではなかった。

失われた25年がやっと戻るのは、今から約10年ほど前であった。

司法に国民の参加などの日弁連の司法改革の運動の結果、やっと差別されていた裁判官達が正当に評価され、地裁、高裁に復帰し始めた。

裁判員が裁判に関与する時代に、裁判官を露骨に差別していては、裁判所の暗部を見られては困るからだ。

しかし、この後遺症は未だ裁判所内では、完全に治癒していない。

当時を知る人も、又知らない人も是非読む価値がある本である。
日本の司法を歪めた歴史的事件を。

しかし、その中で、良心を貫いた裁判官がいたことも。

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