弁護士阪口徳雄の自由発言

裁判・社会活動の中で感じたことを発言します

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≪100条委員会と助言弁護士の仕事≫
 
大阪府吹田市議会の100条委員会の報告が2014//4の議会において全員一致で可決され、その内容は同年3/5HPに公表された。
 http://www.city.suita.osaka.jp/var/rev0/0053/8619/20143610503.pdf
 
100条委員会のその法的アドバイザーとして昨年4月から2月末まで関与することになった。 10カ月余経過し、最終報告書が可決され、率直に言ってホットしたところ。
 
事件の内容については、触れないが、今後、100条委員会に弁護士達が関与することが多いと思われるので、それらの弁護士の参考になればと思い「100条委員会と弁護士」について感じたことをこの際、述べておきたい。
 
100条委員会における弁護士の受任業務は次の通りであった。
 
ア 調査権の行使に係る法的助言
イ 委員の証人への尋問に係る法的助言
ウ 委員会の運営に係る委員長への法的助言
エ 議会に告発義務が生じた場合の告発事務に係る法的助言
オ 委員会調査報告書(中間報告を含む)作成に係る法的助言
 
どのような業務を具体的に行うかである。
 
ア 調査権の行使に係る法的助言
 
 委員会の委員は議員なので全くの素人ではなく、どのような資料が自治体や関係者が持っているか良く知っておられる。弁護士より詳しい場合も多い。
 
議員側からすると、ともすれば、あれもこれもということで資料を見たい衝動にかられる。
 
当該自治体の資料は基本的には法100条1項の記録の提出請求が許され、これを拒むのは殆ど不可能であろう。
 
事件に関係者する第3者への記録の提出要求には、「自治体の事務に無関係」「内部文書」「営業の秘密」などを楯にその提出を拒む傾向にありがちだ。これを拒む場合は「正当理由」が要求され、正当理由なく提出の応じないと100条3項で刑罰処せられる。
 
この調整は難しいが、民事訴訟法第223条の文書提出命令の要件や証言拒絶権の197条3号の解釈を参考にしながら、対立当事者間の文書提出命令より地方自治法の100条1項の記録の提出要求は公益目的がより高いケースであるので、かなり提出命令の範囲は広く解釈した。
 
最終的には委員会の合理的な裁量に帰する問題だと思って判断した。
 
イ 委員の証人への尋問に係る法的助言
 
証人尋問への法的助言というより、質問者が議員さんであるので、尋問方法、尋問内容についての議員さんからの質問に対する助言が中心である。
 
何故その尋問を行うのか。その必要性は・・・・という弁護士の一般的な尋問技術と同じやりとりをすることになる。共同事件の弁護士間での議論・討論するのとよく似たようなものである。議員さんは自分の意見を述べるのは得意だが、1問1答形式で相手から聞き出す尋問は不慣れであると率直に感じた。しかし一度1問1答形式で行うと議員さんは議会で質問慣れしているので、尋問の上達が早い。社会経験を積んでいる方が多いからであろう。
 
質問する議員さんはその担当分については非常に勉強し、調べているので最後はお任せすれば良い。
 
実際の証人尋問日時に証言会場において助言の要請があったので立ち会ったが、質問の最中にアドバイスすることは難しく(される方も困惑するし)、証人尋問当日におけるアドバイスは殆どできなかったし、しなかった。
 
弁護士も単なる尋問のアドバイスするだけではなく、事件の実態について、自ら心証形成をする必要もあるので、可能ならば出た方が最終報告書に関与する時には非常に役立つ。半分以上証人尋問に立ち会ったが1日、半日、しかもそれが何回も続いたので大変だった。必ずしも全証人尋問に立会う必要はないのが率直な感想。
 
ウ 委員会の運営に係る委員長への法的助言
 
100条委員会の委員長及び議会の事務局がしっかりしていたので、あまり助言をすることはなかった。
 
エ 議会に告発義務が生じた場合の告発事務に係る法的助言
 
告発事件は証言内容にかかる偽証、記録の提出請求にたいする拒否などの100条委員会の手続き過程中で出てくる告発事件と、調査結果による告発事件があり得る。
偽証だと思っても、それを裏付ける証拠がない以上、告発できない。記録の提出請求に関しては前記記載の通り運用したので、殆ど請求に応じてくれたし、拒否されたケースや一部拒否ケースも弁護士から見てやむを得ないと判断した。
 
本体の事件の結論に関係する問題の検討は非常に難しい。
刑法犯だけではなく、行政規正法に関する罰則規定もあるので、検討の幅は広い。刑事事件で告発するには「故意」が要件とされるので、その故意を自白したケースとか故意が合理的に推測可能ならば告発はあり得る。
 
100条委員会は記録の提出や偽証に関しては刑事罰が科されているが、それ以外の強制捜査権がないために告発は簡単ではない。
しかし、100条の調査資料をもとに捜査機関が強制捜査に入る可能性があり別の展開がありえることも念頭においておく必要があろう。
 
オ 委員会調査報告書作成に係る法的助言
 
100条委員会の報告者は最後のまとめである。
議会の調査結果、内容について市民への説明責任が求められているので、市民から見て判りやすさなどが要求される。
 
基本的には報告書の作成者は議員さんである。
弁護士の役割は法的助言であるが、具体的には、事実の整理、関連する法令、法令違反の有無、証拠の見方、分析などについて、議員さんが書かれた報告書の内容のリーガルチェックが弁護士の仕事となる。
 
調査対象にどのような法令が適用され、その違反の有無、関係者の証言が矛盾する場合のまとめ方が難しく、この報告書のリーガルチェックは弁護士が一番気を使う点であろう。
 
イメージとしては共同事件の他の弁護士が書いた最終準備書面のチェック、点検と似ている。但し共同事件であれば自分が訂正、補充すれば良いが、100条委員会は議員さんが作る報告書であるので、○○の部分××の個所は判りにくいとか、説明が不十分などでないかと指摘するだけで、議員さんがそれを受けてどう訂正、補充するかは議員さんの判断となる。
 
時には面談の上で意見交換をしたが、私は、大半はメールでやりとりをした。お互いに時間が省略できるからであった。
 
議員さんの思考方法、文書の書き方と弁護士の思考方法、文書の書き方が違うことによりお互いに苦労した点もあったが、執筆にあたる吹田市の議員さんは優秀な議員であったので、弁護士の意向もそれなりに理解した上で、自らの文書で仕上げる点はさすが吹田市の100条議員さんと感心した。
 
≪最後に≫
 
上記業務のア、イ、ウ、エは一般的な弁護士業務と関連しているのでそれほど困難ではないが、最後のオの調査報告書の作成に至る実態の把握及び法令の適用、解釈は簡単ではない。
 
100条委員会の調査対象は地方自治事務の関する事項であるので、民法、刑法などの司法試験科目では役にたたない。地方自治法は当然であるが、地方自治の事務は、全て自治法には記載されていない。自治体を規律する法律は非常に多岐にわたる。その上で、自治体の自治事務の流れ、対象事項に関する法令、実態等に関しての経験が要求される。
 
経験が無くでも出来ない仕事ではないが、その場合は関係議員や職員達に謙虚に聞き、文献などを勉強し、調べた文書や証言記録などを読みこなさないと、議員さん達のニーズに答えることができない結果となろう。
 
100条委員会における弁護士の仕事は上記ア、イ、ウ、エ、オであるが、基本業務は「調査対象事務に関する関係法令及びその関係法令の適用に関する法的助言」となろう。本来なら弁護士との委任契約書にもこの業務を記載すべきであろうと思うが、どこかの自治体が「モデル的」にア、イ、ウ、エ、オの業務とした為にそれが踏襲されているように思う
 
その点では100条委員会設置と同時に助言弁護士を早期に選任し、対象事務に関する法令を検討し、それを頭に入れながら委員会が調査した方が効率的な運営になるのではないかと感じた。
 
当初に対象事務に関して適用されると考えていた法令が、調査が進むにつれて、当初の予想した法令がそれほど重要でなくなり、別の法令が重要な争点になるなど争点が移動することは複雑な事件ではよくある話であるが、最終的に報告書作成時点おける関係法令及びその適用について法的助言することになる。
 
≪議会にも顧問弁護士を≫
 
自治体の執行機関は一つの法律事務所か2つ以上の法律事務所の弁護士と顧問契約し、必要な時は、随時顧問弁護士と相談している。これがどこの自治体でも定着している。
 
議会は執行機関でなく、チェック機関の為であるので100条委員会のような議会として意見をまとめるような場合などの例外的案件を除き、議会独自に意思を統一して自治体のように行動することが少ないために、弁護士との顧問契約はない。
 
議会単独で意思を形成しない場合でも、議員が公人として質問、調査するなど議員の行動に関して法的な視点が要求される場合に議員にアドバイスする弁護士がいると非常に便利なことは便利。これは当該市の議会、議員の調査、質問に関してレベルアップにも貢献し、ひいては当該市及び当該市民の為にも有益。
 
議会に「公益通報の窓口」の常設機関として弁護士を窓口にすることも
議会の監視機能を強めるためや職員が自治体内部の通報機関に通報するより、ある意味情報を提供しやすいこともあり得るのではないかと思った。
 
吹田市の100条委員会が職員にアンケートを実施した。イロイロな障害があったようだが、アンケートの内容を見ると職場内の生の意見が多数あり、非常に興味深かった。
 
このような議会の臨時のアンケートだけでなく、議会に公益通報の窓口を作り、守秘義務を持つ弁護士がヒヤリングするなどすれば、もっと多くの職員が情報の提供をしてくれるのではないかと思った。
 
議会が100条委員会のように統一方針で臨む場合は弁護士なども必要であるが、議会に恒常的に顧問弁護士制度などでの一致は会派の中に与党、野党があり、又会派のカラーの違いなどがある中で、議会の活動における日常的なリーガルチェックが必要だと思うが、それほど簡単ではなさそうだ。
 
(注1)吹田市の100条委員会の議員さんは本当にねばり強く調査し、それをまとめあげた。この苦労は本当に大変だったと思う。100条の議員さんは各会派から推薦されているためか優秀な議員さんが多かった。他の自治体の100条委員会ができた時にその講師となれるほど経験を積まれたと思う。本当にご苦労さんでした。
 
(注2)参考文献に「地方議会100条調査の実務」の単行本が古くから権威のある本として言われるが100条委員会の権限を狭く解する傾向があり、私は読んだが、あまり参考にしなかった。
 
注3)地方自治法関連条文
第百条  普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
 第一項後段の規定により出頭又は記録の提出の請求を受けた選挙人その他の関係人が、正当の理由がないのに、議会に出頭せず若しくは記録を提出しないとき又は証言を拒んだときは、六箇月以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する。
 第二項において準用する民事訴訟に関する法令の規定により宣誓した選挙人その他の関係人が虚偽の陳述をしたときは、これを三箇月以上五年以下の禁錮に処する。
 前項の罪を犯した者が議会において調査が終了した旨の議決がある前に自白したときは、その刑を減軽し又は免除することができる。
 議会は、選挙人その他の関係人が、第三項又は第七項の罪を犯したものと認めるときは、告発しなければならない。但し、虚偽の陳述をした選挙人その他の関係人が、議会の調査が終了した旨の議決がある前に自白したときは、告発しないことができる。

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